BRAVE TO CHANGING FUTURE
今週もよろしくお願いします。
* * *
「随分と無粋な攻め口だなあ…。貴様らは城の落とし方を知らんのか」
玉座に腰を下ろしてこちらを見下ろす悪魔マルファスが、退屈そうにぼやく。
「へえ、そりゃ悪かったなあ!」
エスターライヒは斧を振りかざし、一直線にマルファスに襲い掛かる。
「まったく…少しは頭で考えたらどうだ?この脳筋ゴリラが」
マルファスがわずかに手を振ると、壁の一部が変形して岩の柱を形成した。それが信じられない速さでエスターライヒを左右からすりつぶそうとぶつかってきたが、彼はなんとか斧を振って柱を砕いた。
「私の魔法は築城。この城も私が建てた。つまりこの城の中にいる者は全員私の術式の範囲内、格好の獲物ってことだ」
次の瞬間そこらじゅうの壁から柱が伸び、ジブリルたちに迫る。だがこの程度でやられるジブリルではない。
『ブローク』
呪文を唱えた直後、オーストラリアンブロークの大木が彼らを囲むように生い茂り、柱を完全に受け止めた。
「イスラフェルのありがたいご講義、様様だな」
ジブリルは大木の幹をさすりながら、心の中でイスラフェルに感謝の言葉を述べた。今回の遠征の前に彼がイスラフェルに「強くなりたいからもっと使えそうな植物を教えてくれ」といったところ、そのまま4時間半ぶっ続けでイスラフェルの植物学の講義に突入してしまったのだ。同世代の魔術師最強格と言われるジブリルでさえも恋人に「助けてくれ」と縋り付いてしまうほどだった。
「地上で最も硬い木だったっけか」
イスラフェルの言葉を抜粋すると「木材の硬さを表すジャンカ硬度で最も高い5060lbf、楽器などにも使われるオーストラリア原産の広葉樹」らしい。
「すごいなルシフェル殿、なんじゃこの木は」
エスターライヒは興味津々に気を見つめている
「イスラフェルに聞いてください。さあ、僕たちのターンですよ」
「押忍!」
ペルリンガーが気合を入れるように答える。
ジブリルが木の分かれ目を広げて複数出口をつくり、皆それぞれ外に出て敵に向かっていく。
『散弾矢・30!!』
上の出口から大きく跳躍して飛び出たペルリンガーの牽制射撃に乗じて、エスターライヒが斧を回転させ盾の代わりにしながら猛スピードでマルファスに接近する。
「美しさのかけらもない」
マルファスはまたけだるそうに手を振った。するとエスターライヒの足元が急に盛り上がり、柱となって盛り上がった。天井から伸びてきた柱とともにエスターライヒをつぶそうとしたが、エスターライヒは斧を間に突っかえさせて一瞬衝突までの隙を作り、身をよじって斧ごと柱の間から脱出した。
『ミクロカルパ』
ガジュマルの幹でマルファスの体を拘束し、ジブリルが弱点の心臓を狙って片手剣で突きを繰り出す。しかしマルファスのすぐ後ろに壁が表れてジブリルの剣をからめとってしまう。
「!」
ジブリルは不意を衝かれたもののすぐに次の攻撃に備えて距離をとり、地面に手を当てた。
「まだわからんのか。私はこの城の城主。この城の中で城主は絶対だ」
「ならば、僕らはお前を倒す!」
クリスティーンの顔を脳裏に浮かべながら、ジブリルはひたすらに手印を切って植物を生やす。マルファスに切りかかるエスターライヒとそれを援護するペルリンガーの動きを追い、彼らを押しつぶそうとする柱の生えそうな壁に木の根を張り続ける。さっきからマルファスは一度も大きく動いていない。上級の魔物ですら絞め殺してしまうガジュマルの拘束を振り払おうとすらしない。それをする必要がないほどジブリルたちとの差が開いているということなのだ。
「こんな連中と何度もやりあってたのか、イスラフェル」
ジブリルは改めてイスラフェルの強さに感嘆するが、今はそんな暇はない。とにかくマルファスのあの防御力を打ち壊すすべを考えなければ。
『散弾矢・30×1!!』
ペルリンガーはそう唱えて、30本に分身させた矢を再び一つに集約し、30発分の威力をまとめてマルファスに放った。その矢はマルファスの壁を貫通し、心臓に迫った。マルファスはついに左手の拘束を解いてその指で直接矢を止めた。
「一応、僕の撃てる一番威力の高い矢なんだけどなあ…!」
ペルリンガーはそう言って迫りくる柱をよける。
「いや、よくやった!」
いつの間にかマルファスの背後に潜り込んだエスターライヒが斧を勢い良く振りぬき、左下から心臓を狙って斬り上げる。マルファスの注意が矢に向かったほんの一瞬の隙を突いたのだ。これにはマルファスもたじろぎ、全身の拘束を解いて斧を避けた。しかしその自由になった脚でエスターライヒの背中を上から蹴り落として床に叩きつけてしまった。
「まあ、人間にしてはよくやる方であった」
エスターライヒが気を失ったのを見届け、ペルリンガーの方へ向き直った。
「貴様もかなり鬱陶しかったぞ。いい意味でな」
数え切れぬ量の柱がペルリンガーに殺到し、彼の体を挟んで押しつぶした。体に力が入らなくなったペルリンガーは枯れ葉のように床に落ち、大きな血溜まりの中で動かなくなった。
「嘘…だろ…」
ジブリルは恐怖で後退りした。マルファスはその気になればいつでもこちらを全滅させられるほどの力を持っていたのだ。
「さて…あとは魔法使い、貴様だけだ」
マルファスの目線がジブリルに向く。
「私が今まで戦った魔術師たちの中では1、2を争う強さだった。名は何と申す」
「…ジブリル・フォン・ルシフェル」
恐る恐る受け答える。
「そうか、覚えておこう。では魔法使いジブリル、敬意を評して私の最強の力で消してやろう」
マルファスが一息ついて手印をきる。
『ギガント・フォートレス』
城全体が地震のように揺れ出し、左右の塔が変形して本丸に合体する。城壁が本丸に吸収されて本丸が変形し、全高60メートルはあろうかという巨大な巨人の上半身の形になった。本丸の壁がマルファスを中心にして結集して巨人の胸部に取り込まれ、その目に紅い光が宿った。
ジブリルは意識のない2人を抱えてその場から飛び出し、全力で走り出す。だが巨人の巨大な拳が彼らに向かって幾度も振り下ろされ、そのたびにジブリルは大木を生やして防ぎそのたびに巨人はそれを破壊した。
程なくジブリルは力尽き、大木の営業が追いつかずもろに拳を食らって吹き飛ばされてしまった。
「に…逃げないと…」
エスターライヒとペルリンガーに手を伸ばす。
___待て。なぜ僕は今逃げようとしているんだ?
消えかかる意識の中でジブリルは自問する。
___ここで僕が逃げ出したら、後ろには誰がいる?
彼の脳裏には親しい人たちの顔が浮かぶ。イスラフェル、アズラエル、クラスメートたち、両親と幼い2人の弟、そしてクリスティーン。
___ここで僕が逃げ出したら、彼らはどうなる?
目に浮かんだのは、焼け落ちたアル=イスカンダリーヤの光景。
___起きろ、立ち上がるんだジブリル。イスラフェルも言っていただろう。僕が皆を護るんだ。
震える手を地面に突き立て、上体を起こす。
___僕が、今、ここであいつを倒すんだ。
痛みを堪えながら立ち上がり、まっすぐに巨人を見据えた。その目からはもう恐怖は消え去っていた。
途端にジブリルの瞳と髪の毛に深緑色の魔力がまとわりつく。
『神稀…解放』
ジブリルの顔に花の形の魔法陣が浮かんだ。
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