DEMON
3話目です。面白かったら感想などを書き込んでいただけると嬉しいです
こうして僕の人生2度め学校生活は始まった。入学から1ヶ月経ってアズラエルとは打ち解けることができたが、ほとんどクラスメートとはまともに話すことができていない。
しかし、女神様がこの世界での僕の体を無駄にイケメンにしてしまったため、クラスの女子が僕を堕とそうと事あるごとにドサクサに紛れて胸タッチさせたり異様に顔を近づけたりしてきて、なんとも暮らしづらい。学校の方は静かに過ごしたいのにどうもそうは行かない。
魔法も結構練習して、物質だけでなく更に色々なものを作れるようになった。
生物にはおよそ100個体に1つほどの割合で「固有魔法」というものを持つ個体が発生する(頻繁に起こる突然変異のようなものだ)。固有術式は魔法陣として図形に書き表すことはできないが、一般的な火魔法などの元素型、それに肉体強化魔法などは術式を魔法陣にして可視化できる。
僕の固有術式創造神は「認識したものを操って何かを作り出す」という魔法なので、見えるものならば何でも操ることができる。ということで、自然の摂理の一部となっていて、もういじったり新しく作り出したりできないそれらの術式でも、僕なら作ったり改造したりできるということがわかった。
魔法陣については学校で教わった。ローズ先生によると
「人間は、魔力の流れを操作することで魔法を使っています。その流れを図形や文字に落とし込んだのが魔法陣で、そこに魔力を流すことで術式を発動することができます」
ということらしい。プログラミングに似ているところがあるので、魔法陣をいじるのは簡単だった。まず身体強化の魔法陣を展開して、より構造をシンプルにして魔力のロスがなくなるようにした。更に同じものを100個ほど作ってすべて僕の体に刻印し、既存のものよりも数割性能が良い運動能力強化魔法を通常の100倍の強さで常時使えるようにした。
自分の体のことなので、力の調整は簡単である。試しにフルパワーを出したら一瞬で全身が筋肉痛になったので、肉体の耐久力を上げる術式も100個ほど自分の体に刻印し、任意のタイミングで開放して岩を余裕で砕けるくらいのパワーと素でマッハ0.5を出せる素早さを手に入れた。
特に速さが目立ったので、僕の固有術式は「高速移動」ということにしておいた。なるべく能力は隠したい。
しかしそうなると、いざというときに僕の攻撃に耐えられる武器がなくなってしまった。なので、魔法で自分専用の武器を作ることにした。理想は銃なのだが、僕には狙撃のセンスがいまいちなので、刀でいくことにした。この世界の両刃剣よりも切ることに特化した日本刀なら、スピードを活かしつつパワーも最大限攻撃力として引き出すことができる。しかし突くという攻撃手段もほしいので、刀のシルエットをした両刃剣にする。
肝心の素材だが、前に本で読んだ「魔力鉱」というものにしようと思う。強力な魔物などの巣の近くに生成される鉱物で、様々な属性の術式を付与できるが、人類では魔法を使ったとしても傷をつけることすらできないらしい。
組成自体は単純な魔力の塊なので、作り出すのは簡単だ。切れ味だって、刃の部分を原子一個分まで鋭くできる。あとは鍔に「加熱」「超振動」の術式(ちゃっかり作っておいた)を付与して、めちゃくちゃ切れるようにした(超振動の弊害で刃が青白く光るようになってしまった)。デザインは僕自身の好みのSF風にしたので、中二病患者の方(僕)への配慮も完璧である。
構築を始めると、魔法陣がいくつか展開されて円柱状になり、その内側に層を横向きに重ねるように刀ができ始めた。長めに設定したので、横に大きくなっている。
アインシュタインが言ったようにエネルギーと物質は等価交換なので、物質を作るのは魔力を相当食う。魔力の絶対量は女神様がほぼ無限に近いような値にしていたが、それでも物質を作るのがきつい。一気に魔力を消費すると命に関わるが、作り終わっても軽い風邪を引いたくらいの倦怠感で済んだ。常人なら50回は死んでいるだろう。
出来上がった刀を使ってみたら、かなりいい性能だった。身体強化を30%ほど発動した状態でも、びくともしなかった。その後魔力の回復を待って鞘も作り、僕の剣が完成した。まあ、名前をつけるとしたら超熱振動式長刀だ。長いので、略してSTVS(Super Thermal Vibration Sword)とする。剣術の授業で使うので、手のひらに刻んだ収納術式にしまった。
「アズラエル・フォン・アスターテ…お前は邪魔だ…」
暗い部屋の中で、人の死体がいくつかと魔法が流された魔法陣の隣に、黒いマントを羽織った男が立っている。顔は暗がりでよく見えない。男は懐からナイフを取り出し、手首を切って自分の血を魔法陣に垂らした。魔法陣が紫色に光り、毒蛇のような悪魔が出現した。
「第1王子アズラエルを殺せ、下位悪魔アンドロマリウスよ」
「あなたの意のままに…」
息を吐くような声でアンドロマリウスが答えた。
翌日、剣術の授業である。
それっぽいガタイがいい先生が生徒に素振りをするように指導している。
「ん?なにこれ?」
生徒の一人が地面の不自然な影に気づいた。その影は一瞬で地面から「浮かび上がり」、地上に姿を表した。それは、召喚された巨大な蛇だった。
「い、嫌・・・たすけて・・・」
すぐに近くの生徒が近寄ってきたが、皆同様に恐怖で固まってしまった。
「ああ、久しぶりだ・・・恐怖に歪んだ顔。やはりいいものだな」
すぐに僕も気づいて、アズラエルの方に顔を向けた。アズラエルは恐怖に襲われながらも、剣で悪魔に立ち向かおうとしていたが、今の彼の技量では刃が立たないのはほぼ確実だった。
僕がやるしかない。本当はめちゃくちゃ怖いけど、元の世界に帰るためにやらなくてはいけない。
収納術式を起動し、昨日の夜作ったばかりのSTVSを取り出し、前に構えた。しかし、アンドロマリウスは素早い動きで距離を詰めてきているため、うまく捉えられない。僕には剣術の才能があったらしく剣はかなりうまいほうだが、さすがに追いきれなかった。
待てよ。変温動物の蛇なら、気温を下げれば動きが鈍るはずだ。すべての属性の魔法を使えるようにしてくれた女神様に感謝だ。
「氷魔法・吹雪」
そう呟いて手のひらを上に掲げて空中に魔法陣を展開し、近辺に吹雪を降らせる。すぐに気温は下がり始め、おおよそ氷点下2度ほどまで下がった。
「な、何じゃ?!体がうまく動かん!!」
巨大な蛇は暴れ回っているが、あまりスピードが出ていない。想像通り、変温動物だった。これなら行ける。
「さ、寒い!」
僕は身体強化を50%ほど起動した。体中に青いイナズマをまとったまま、時速300キロほどの速さで、のたうち回るアンドロマリウスの胴体を突いた。しかし硬い鱗には全く刃が通らなかった。少しずつダメージは入るがとどめを刺しにくい。
いや、一つ柔らかいところがある。眼球だ。迫りくる直径1メートルのムチのような胴体をSTVSでいなしつつ頭部に迫る。吹雪のお陰で視界が悪くなっているのも味方した。頭部の直前にあった胴体で踏ん張りをきかせて、STVSの切っ先を構える。
攻撃力が高い火魔法をSTVSに付与した状態で頭部に急接近し、眼球にSTVSを突き刺した。切っ先が脳を貫いて反対側の目からも突き出た。アンドロマリウスは即死だった。
読んでくださりありがとうございました。次回も楽しみにしてください。