ALL READY
今回もよろしくお願いします。
ナハト・クリーフェン城周辺の海は、アスターテの南岸ではトップクラスに豊富な漁場だ。一年中様々な魚が取れる。冬は特に回遊魚に脂が乗って美味しい。しかし、この世界の漁は生半可な覚悟ではできない。
「で、出ました!」
「落ち着いてくれ、何があったんだ」
漁業ギルドのマスターが血相を変えて城に乗り込んできた。とりあえず気を落ち着かせて話を聞く。
「ここ10年くらいは全く顔を出さなかったもんで安心してたんですが、ついに魔物の群れが近くに出てきちゃって…!とにかく、早く王都に援軍を要請してくだされ!このままじゃすぐに港まで来ちまう!」
この世界では、サメは生態系のトップではない。森の頂点がヴェンタス・ライガーであるように、海にも強力な魔物がうじゃうじゃいる。マスターが噛みしめるようにその名を口にする。
「ウィールプール・ヴェロニードの大群です!!」
ウィールプール・ヴェロニード、つまる所は全長8メートルのダツだ。魔法で水流を操って魚を集め高速で獲物に突進し、その針のような口吻で大型魚を串刺しにして捉える。こいつが大型魚だけでなく中型や小型の魚も一緒に集めてくれるのがこのあたりの海域で漁がしやすい理由の一つでもあるのだが、稀に大きな群れをつくって海岸近くまで姿を現し人を襲うことがある。
そういう場合は王都から水軍を送ってもらって対処するらしいが、今回のように港からそれほど離れていない海域に出現した場合援軍は間に合わないだろう。
「僕がやろう。正確な海域を教えてくれ。夜一人で出るよ」
「そんな、危険です!援軍を待ったほうがいい!」
「いや、多分みんな巻き込まれるよ」
「…?」
ちょうどいい機会だ。新装備の実戦テストと行こう。
その後僕は「僕は魔法学院の武術大会の歴代最年少優勝者だぞ」と言って皆の反対を押し切り、今夜一人で出ることにした。多分皆から見たら相当めんどいキャラだったかも知れないが、この勝負、僕にとっては負ける気がしない。魔物は皆魔法を使うとはいえ、その性質は原型となっているであろう生物とあまり変わらないからだ。
よし、今夜は月もない。ダツ狩りにはもってこいだ。夜7時、浜辺でスーツを装着する。指定された海域にたどり着くまでは、移動に時間をかけるのがめんどくさいのでラディウスパックだ。ブースターを起動し、空を飛んで行けばあっという間に当該海域にたどり着く。しかし、もうそこに群れの姿はなかった。
「市街地に向けて移動中か、早いな」
僕は周辺を円形に飛び、群れを探した。そして案の定報告された場所と市街地との間の直線上に居た。
「人里の位置を覚えてるのか。じゃあ、今まで来てた群れも皆同じ群れだったってわけか」
『換装開始』
ストレイフパックを転送して付け替え、ガトリングを展開してニトログリセリンを充填する。システムがニトログリセリンを検知し、燃料の流路をブースターからランチャーに変更する。ヘッドアップディスプレイに「SYSTEM READY」「WEPONS READY」「ALL READY」と順に緑色で表示され、ターゲットサイトが起動する。
『物質創造』
生成する物質はマグネシウム。マグネシウムは強い光を発しながら、それでいて一定の光量で燃えるのだ。ダツの持つ「光るものに引き寄せられる」という性質を利用して、僕に気を引きつける。すべての準備を整え、マグネシウムに火をつけた。
次の瞬間海面が大きく盛り上がり、そこからまるで白銀の槍のようなヴェロニードが大量に跳び出してきた。ターゲットサイトが自動でそれらの目標を追尾し始め、視界を埋め尽くすかのようなヴェロニードを一匹残らず睨みつける。
『全発射』
音声コマンドを送り、すべての火器を開放する。途端にランチャーの上下左右の装甲が分割されて展開し、青い魔力光弾が放たれてそれぞれが軌道を変えながら目標に迫り、触れた瞬間内側のニトログリセリンが爆発してヴェロニードの肉体を粉々に粉砕する。ヴェロニードたちはすぐに僕に標的を変え、総攻撃を仕掛けてきた。旋回機関光弾も火を吹き、ミサイルをかいくぐって近づこうとしたヴェロニードを貫いて息の根を止めた。
ものの数分で群れは半分以下にまで数を減らしたが、まだ引き下がらない。まるで僕のことなどまだ余裕で倒せると思っているかのようだ。
しかしその違和感の根源はすぐに姿を表した。水面下に見える、20メートルほどの巨大な魚影が3つ。ヴェロニードであることは間違いないが、明らかにヤバそうな雰囲気だ。
すぐにその巨大な影は水上にジャンプし、僕に迫ってきた。ミサイルは表面をチクチク削り取るだけだし、ガトリングも敵のサイズのあまり効果的な一撃を見いだせない。しかしこの一瞬にも巨大なヴェロニードは僕に迫りつつある。猶予はない。僕は右手に追加装備を呼び出した。しかし、ただの獄炎魔力砲ではない。出力を変えられるように改造した、新型の獄炎魔力砲だ。右腕の三叉の槍が展開されるとともにランチャーが左右に割れて砲口が露出し、こちらでも三叉の槍が伸びてくる。
『三軸獄炎魔力砲』
3つの砲口から魔力の渦が放出され、ヴェロニードの巨躯をつらぬいた。出力を落として余裕を作り、3発同時発射できるようにしたのだ。ヴェロニードは動かなくなり、そのまま海中に没していった。僕はそのうち身が多く残っているものを選び、引き上げた。可食部が少ないとはいえ流石に20m級のを2匹持って帰れば近所の住人も全員食べられるだろう。こいつはすぐ食べても無味無臭なだけだが、1日ほど熟成させると鯛にも勝るとも劣らない絶妙な風味と食感を呈すのだ。生でも塩焼きでもフライでもいける。魔物は免疫力が異常に高いので寄生虫や病原菌の心配は全くないし、生食にはもってこいだ。
「やあ、ただいま。一通り倒してきたよ。こいつの下処理と熟成任せてもいいかな」
浜辺で待っていてくれた使用人たちにヴェロニードを託した。料理に関してはプロに任せよう。みんなあまりのサイズに空いた口が塞がらない。
「これ、どこに置けばいいかな?さばく間は魔法で持ち上げておいてもいいんだけど」
「あ、じゃあそれでお願いします…!ちょっと調理人を読んできますので!」
未だに事態を飲み込めていない使用人が慌てて走り出す。
十数分後、近隣に住んでいる魚屋と料理人に緊急招集がかけられた。
2日後、城下町はちょっとしたお祭り騒ぎだった。フライや串焼き、刺し身など様々な料理が城で提供され、ビール樽がいくつも空になった。そうして色々あった休日も過ぎ去り、僕らはまた日常に戻っていった。
あれほど大きな脅威となっていた悪魔関連の事件も一旦は息を潜め、人々はつかの間の休息を楽しんでいた。
* * *
そして、1年半が過ぎた。
読んでくださり、ありがとうございました。
最近TTFCで仮面ライダービルドを見返しています。やっぱ最高に面白いですね、ビルド。
もともと当時小5の私もリアタイで見ていましたが、やっぱり今大人になって見てみてもこのストーリーは唯一無二ですね。私の推しライダーも放送当時から変わらずグリスブリザードです。あの1回きりの変身と「Are you ready?!」→「できてるよ」の掛け声、いつ見てもあまりのカッコよさと悲しさで号泣してしまいますね。いつかこんなかっこいい物語をつくってみたいものです。
プライベートが忙しいのであまりガッツリあとがきは書けませんでしたが、次回もよろしくお願いします。




