LOVE BEGETS LOVE
今週もよろしくお願いします。
目を覚ますと、そこはテントの中だった。ベッドの上に包帯でぐるぐるまきになって寝かされていた。起き上がろうと左手を動かすと、鋭い激痛が走った。よく見てみると添え木がしてある。いつの間にか折れていたのか。
しばらく休んでいると、メイドが包帯を持ってやってきた。
「すみません、ここは何処なんでしょうか…」
「…!!しょ、少々お待ちください…!」
なんとか声を絞り出すと、そのメイドは目を見開き手に持っていた包帯を取り落としそうになりながら慌てて何処かに行ってしまった。
やがてアズラエルが息を切らせながら駆け込んできた。
「イズ、目を覚ましたって本当か?!」
「ええ、なんとか…」
そう答えて僕は無理やり起き上がろうとした。
「いや、そのままでいい。そんな怪我で起き上がったらそれこそ君の命に関わる」
アズラエルは自分の息を整えながら僕をベッドに寝かせ直した。
「すみません、何があったか教えていただけますか?」
とりあえず現状を知りたい。
「ああ、もちろんだ」
アズラエルはメイドが持ってきた椅子に座って話し始めた。
「君が要塞を跡形もなく吹っ飛ばしたあと、意識を失って空中から落ちてきたんだ。そこに偶然居合わせたサヴォイアという兵士が落ちてきた君を受け止めてくれてね。幸い落下で怪我はしなかったらしいが、そもそもかなりの重症だったからすぐに治療にかかったんだ。あれからイズは3日間も寝てたんだぞ。物資は要塞の外で保管してたのもあってほとんど無傷だったから、荷車にかけてた幌でテントを急造したんだ」
サヴォイアが居たのか。脱出しろと言ったはずなんだが、あいつわざわざ僕を助けるために戻ってきたということか? それより…
「私、3日間も寝てたんですか…」
「とんでもない。今回のイズの働きを見れば、一週間休んでもらったって足りないぐらいだよ」
「勢い余って要塞を消し飛ばしてしまった気が…」
「いや、僕もあれくらいはしないと悪魔は倒せなかったと思うよ」
アズラエルが、僕が愚痴るたびにフォローを入れてくれる。本当に良いやつだなあ。
「とりあえず今後の予定なんだが、残った物資の整理が終わり次第護衛の軍を再編して王都に向けて出立する。大体3〜4日後と見積もってるよ。ダゴン側との話もつけてあるが、2日後の解散式も兼ねた会議には君も出席してもらうよ。イズのその体じゃ、一週間とはいえその後の長旅は堪えるだろう。すまないが耐えてくれ」
アズラエルはそう言って、仕事に戻っていった。しかし、一年に爵位2つ分昇進かあ…。あんまり喜ばれたことじゃない。今回を含めると、僕はこの一年で「低級貴族の次男」から「伯爵家の宗主」まで駆け上がることになる。周りの貴族たちから変な目で見られて、めんどくさい妨害を受けないと良いが。
〘サイエンティストだ。今意識を取り戻した。誰か居るか?〙
〘カタリア・ベルクナー三等魔術兵、応答できます〙
〘我が小隊の最終的な被害を教えてくれるか?〙
〘ハッ、我が方の被害は死者0名、重症者1名、軽症者9名です〙
〘OK、ありがとう〙
〘ハッ、失礼いたします〙
* * *
「さて、皆様おそろいになられましたので会議を始めたいと思います」
マルクスが会議を取り仕切る。
「今回は大きなアクシデントがありましたが、ダゴンの皆様、どうかこれからもアスターテとの和平協定を前向きに考えていただければ幸いです」
クリスタが応答する。
「こちらこそそのつもりです。アズラエル殿下、私を救助してくださりありがとうございました。被害は決して軽くはありませんが、アスターテの騎士の皆様の技量と精神を改めて確かめることができました。特にイスラフェル殿はダゴン王室お抱えの騎士としてお迎えしたいくらいですわ」
その軽くない被害を起こした原因の大部分は、悪魔じゃなくて僕なんだけどね。
「先ほどアスターテの王都から護衛のための増援の兵士が到着しました。あんな事があった矢先、ダゴンの皆様も道中ご心配でしょう。アスターテの兵士を500ほど護衛におつけいたします」
「では、私達ダゴンの使節団は明日王都に向けて旅立ちますわ。護衛の件、感謝いたします。1週間ほどの短い間でしたが、お世話になりました」
その後物資の残量の確認や配分などを確認し、会議は終わった。正直左の脇腹がめちゃくちゃ痛くて、早く横になりたかった。鎮痛剤を生成するという手もある。でも、これからはそう遠くないうちにもっときつい戦いもあるだろう。この程度の痛みで苦しんでたらこの先やっていけない。なんとか気合で会釈をして、会議用に建てられた大きなテントをあとにする。
「イズ、ちょっといいかい?」
「はい、もちろんです」
夕食を済ませたあと、アズラエルが僕のテントを訪ねてきた。
「申し訳ありません、なにか用事がございましたら私から伺います」
「いや、そうじゃないんだ。ただ君を見舞いに来ただけだよ」
アズラエルは、喜びと悲しみを水で溶かし合わせたような少し複雑な表情だった。
「つかぬことをお聞きします」
「ああ、なんでも聞いてくれ」
「クリスタ王女殿下となにかありましたか?」
「!」
アズラエルは少し面食らったかのようだった。
「…顔に出ていたかい?君に隠し事はできないね」
「いえ、昨日の夜のことなんですが…」
僕は昨日あったことをアズラエルに話した。
* * *
「イスラフェル・フォン・レラティビティ子爵のお部屋で間違いないでしょうか」
「はい、ただいま」
女性の声だ。それもまだ子どもの。もしかして…。僕はなんとなく事情を察して、部屋の扉を開けた。そこに経っていたのはクリスタだった。従者は伴っていないようだ。
「少しお話をしたいのですが、お時間よろしいでしょうか」
「ええ」
僕は彼女を部屋に迎え入れ、紅茶をもう一人分用意した。クリスタはどうやら落ち着かない様子で、しばらく体を震わせながらソファに腰掛けていた。
「あ、あの…!」
「はい、何でしょう」
「アズラエル殿ってどなたか想い人はいらっしゃるんでしょうか!」
やっぱりな。昔の外交の記録を遡ったことがあるが、アスターテとダゴンは幾度も外交官クラスの会合を開いている。そこにはほぼ毎回と言っていいほどの頻度でアズラエルとクリスタの名があった。おそらく、今までも幼馴染以上恋人未満ってとこだったんだろう。若い子の恋愛は見てて面白いなあ。
「私が見ている限りでは、特に親しいと言ったご関係の女性は居ないと思いますね。殿下はどんな女性にも平等に接されています」
「そうですか…」
クリスタは安堵したようなため息を付いた。
「わ、私アズラエル殿が好きなんです!!」
突然、唐突な告白だった。
「そ、それでどんなことをして差し上げたらアズラエル殿は喜ぶのかなあ…と。私はその手のことに疎いので、アズラエル殿と親しいイスラフェル殿なら何ご存知なのではと思って来たのですが…」
それを聞くためにわざわざ部屋を抜け出してきたのか。この娘、おしとやかに見えて意外と突撃娘的なところがあるのでは無いだろうか?
少し僕は考えた。結局のところ、アズラエルの本心については推測するしか無い。ただ出発前はちょっと浮かれた様子だった。遠出をするからってのもあっただろうが、ひょっとすればひょっとするかもな。
「もっと物理的な距離を縮めてみるのはどうでしょうか。例えば、お食事の席で隣りに座ってみるとか…」
「距離ですね!ありがとうございます!」
僕の話を聞くやいなや、クリスタはものすごいスピードでアズラエルの部屋に向かって駆け出してしまった。常に冷静で大人っぽく見えるが、彼女もまた中身は年相応の恋する少女なんだなあと思うと少し可笑しかった。
* * *
「あのあとクリスタ殿下からは内緒にと頼まれたのですが…」
「そんな事があったのか。あのときもやけに強く抱きしめてくるなあとは思ったが…」
おっと?これはまさか…
「ご返事をなさってないのなら、早めにするべきですよ。なさっているのなら今夜が勝負です。今からでもクリスタ殿下の王女に急いでください!」
「あ、ああ、わかった!相談に乗ってくれてありがとう!」
アズラエルの背中を押したら、僕にできることは今日のところは全て無くなった。
きっと、彼らの夜は長い。
今週もありがとうございした。
さて、早速ですが世界観解説第3回です。
今回は「デカラヴィア戦でなぜデカラヴィアはアンドロマリウスの地底潜伏能力を使わなかったの?」という本当に痛い所を突く友人Bの質問があったので、全力で言いわk…おっと、理由を説明いたします。
まず、アンドロマリウスの地底潜伏能力は地中では地上より早く動けるというわけではありません。地上でも地底でも同じ全力疾走の速度しか出せないのです。なので、地下に潜るメリットは地上での姿を隠すことだけ。イスラフェルの場合魔力探知の他にもより正確な探索能力を持っていたので、ミラージュ・オーラくらい完璧に隠せなきゃ彼にはバレてしまいます。
加えて、中盤からイスラフェルは空中戦に持ち込みました。いくら悪魔とはいえ念力の射程には限界があります。イスラフェルがそこそこな高度にいる場合、地中からは念力が届きません。不意打ちも狙ってもうまく決められる確率がかなり低かったので、それなら地中に分身を隠すよりも空中で攻撃に回したほうが良いよね、という理屈です。
(ヨシ、言い訳完了(๑•̀ㅂ•́)و✧)




