BATTLEFIELD OF DESPAIR
更新サボっててすみません。週末ずっと寝てました。今週もよろしくお願いします。
* * *
アズラエルとレイヴンのメンバーがダンダリオンを追いかけてから数分、僕は未だにセーレに対する決定打を見いだせずにいた。念力という能力、シンプルだが応用性が高くて本当に厄介だ。
「おいおい、もう息切れしてきたのか?♪」
セーレの言葉には耳を貸さず、対策を考える。相手の認識よりも早く動けば僕自身が念力の対象になることはないが、このまま加速を使い続ければ僕の足が文字通りちぎれてしまう。怖いのは万が一セーレを仕留めきれなくて、イスラフェル=サイエンティストだと召喚者にバレてしまうことだ。その召喚者が破壊の眷属であるという可能性もある。一応こんなこともあろうかとアズラエルにはダンダリオンを追わせたが、やはりやるしか無いか。
「まだまだだろイスラフェル♪」
『転送開始』
両手の腕輪に魔力を通す。ここまで来たらもう何が何でもこいつを倒すしか無い。
僕の周りに青い魔法陣が何十にも展開され、吹雪のパーツが送られてくる。着ていた衣服がアンダースーツに置き換えられ、その上からパーツが装着されて、内側に格納されていた装甲が展開し全身を覆う。
「何だ、魔道具の類か?」
セーレの表情が変わる。この鎧の持つ力を無意識に感じ取っているということだろうか。最後に全身に張り巡らされた魔力鉱の帯に青い魔力が行き渡り、スーツの全機能がオンラインになった。
「使いづらいし疲れるけど、やるしか無いよなあ…」
僕はそうぼやいて、背中のX字型の羽のような装備を展開する。炎魔法と複雑な防御魔法が刻まれた羽の付け根の部分で2つ、過塩素酸アンモニウムとアルミニウムの混合物を創造神で生成する。右側の羽と左側の羽から一つずつ燃焼室とノズルが合わさったような形の防御魔法を起動する。推進剤が燃焼室にすっぽり収まる感覚だ。両手首、胸、かかとに付いたスラスターのカバーが開き、背中で作られている推進剤が充填される。それまで加速に回していた身体強化を全て耐久力向上と認識機能向上に向けたら、これでもう準備完了だ。
「お前の得物は剣だけ、なら俺に近づけなきゃ攻撃できねえよなあ♪」
セーレは笑いながら念力の照準を僕に合わせ、今にも掴まんとしていた。
『極超音速加速』
その瞬間燃焼室内の推進剤が最高効率で点火され、一瞬で音速を超えた。それでも尚減速することを知らないかのように加速し続け、最高速度は瞬間的にマッハ5に達した。人間はもちろん、中位の悪魔の認識すら凌駕するスピードだ。セーレは何も反応できずに右腕を斬り落とされた。加速の過程で巻き起こった熱とソニックブームで会議室のある要塞の天守が完全に吹き飛ばされてしまった。
「な、何が起こったんだ…?!」
セーレが慌てふためいているが、原理は簡単だ。過塩素酸アンモニウムとアルミニウムを合成ゴムに混ぜて固めた推進剤を燃やし、液体ロケットエンジンを上回る強大な推進力を得る。常に最大効率で燃焼できるなら、人一人分の質量を動かす場合1秒でマッハ10に到達する。日本のイプシロンロケットに代表される個体ロケットエンジンだ。
「これだけじゃないぞ…!」
僕はそう呟いて再び加速し、変則的な軌道を描きながら縦横無尽に空中を駆け回った。防御魔法でノズルを形作ることで一瞬でノズルを変形させて力の軸線を変え、全身のスラスターと合わせて瞬時に方向転換できるようにしているのだ。あまりにも加速が良すぎるせいで、およそ347Gという人間の肉体の限界を遥かに超えた負荷がかかる。そのために身体強化で無理やり速度についていく。
セーレの脇を通り過ぎる時に幾度も斬撃を浴びせる。しかし、これでも形を保っていられるのはさすが悪魔といったところだ。いくら強化しててもこんな千日手を続けていたら確実にこっちが先に倒れる。もうそろそろとどめを刺そう。
「このまま終われるか…ッ!」
セーレが痛みにうめきながら反撃の一手を放とうとする。しかし、宙に浮いた瓦礫は僕に向かって動き出す前に粉々になっていた。
僕はセーレのコアである心臓を破壊するため、STVSの切っ先の一点に魔力を集中する。生半可な圧縮じゃすぐ再生されてしまう。今持ちうる限りの魔力を集中させるのだ。
セーレの表面をなぞるようにSTVSを滑らせ、その切っ先の軌道を魔力でできた糸のような直線として空中にとどまらせた。
『/』
魔力を一方向にだけ解放する。その糸に秘められた膨大な魔力が一斉に発散し、斬撃としてセーレに襲いかかる。あまりの密度で液体のようになった魔力を放ちながら、斬撃は加減を知らないかのように城そのものをも切り裂いてしまった。
斬撃を浴びたセーレはコアごと真っ二つにされ、そのまま倒れて動かなくなった。
「ふう…」
決着はついた。スーツを送り返すのを忘れるほどの疲労感が僕を襲う。肉体的にも精神的にも、超絶疲れた。僕はそのまま床で横になった。
ふと、目を閉じて今までのことを振り返った。世界に、そして人間に絶望し、科学で世界を修復して人々を救うと決めた。その矢先、何者かに殺害された。僕自身も訳の分からぬうちに、女神様に言いくるめられて剣と魔法の異世界に転生した。命がけの戦いを経験することもあるが、なんやかんやで充実した第2の人生を送れている。
魔法か…。魔法には、僕は最初から踊らされっぱなしだったなあ。いくら研究しても、その正体の尻尾すら掴めない。こんなに魅力的な研究対象、他にはないと思う。これを元の世界にそのまま持ち込めたら…。
そうか。僕は全てが終わったら元の世界に戻るのか。父さんも母さんも、学院のクラスメートも、部下も、アズラエルも、ラミィさんも、この世界でのすべてを捨てて。そんなこと、僕にはできるのか…?
ふと、目を開けた。黄金に輝く雷の槍が空に向かって伸び、雲を吹き飛ばした。おそらくアズラエルだろう。ダンダリオンにとどめを刺したのだ。
ああ、空がきれいだ。救援が来るまで少し休もう。そう思って僕はスーツを送り返そうとした。
空のど真ん中に真っ赤な魔法陣が浮かび上がる。魔法陣から禍々しい魔力が溢れ出し、五芒星のような形をした物体が姿を現す。
「何だアレ…」
僕はそう呟いていた。それもそのはず、さきほど僕らが倒した悪魔たちよりも魔力量が段違いに多かったのだ。あれは、ヤバい。すぐに僕は立ち上がり、STVSを手にとって起動した。
その五芒星は二筋の光線を発した。一本は僕の眼の前、セーレの死体を狙っていた。もう一本は屋根が吹き飛んだ大広間、おそらくダンダリオンの死体へ浴びせられていた。そしてセーレとダンダリオンの死体が赤い粒子に分解され、光線を辿って五芒星に吸い込まれていった。
五芒星はゆっくりと僕の前に降りてきて、やがて形を変え始めた。四肢が生え、瞳に光が灯り、その肌の赤い少年のような姿になったそれは、まるで獲物を狩る猛獣かのような眼差しで僕を見つめていた。
「貴様がイスラフェルか?」
「貴様は誰だ?」
マジでこれはヤバい。生きて帰れないかもしれない。
「私は悪魔、デカラヴィア。貴様を殺すために来た」
僕は極超音速加速システムを起動し、もう一度STVSを構え、攻撃に備えた。
今週もありがとうございした。
あとがきに書くことがもうそろそろ尽きてきました。なので、なんとなく世界観の解説でもしようかなと。ということで、第1回は時代設定についてです。
大きな城があったり馬車で移動してたり割と中世っぽいですが、私的には産業革命直前か直後のドイツを想定しています。なので都会には石造りの二階建ての建物が集まってたり、公共交通機関として街中を巡回してる馬車があると考えています。学生たちはこれに乗ってるんだと思います。
照明については、庶民の家や街道は松明が良いと思ってます。貴族の家や学園の寮はお金があるので、天然の魔力鉱に発光の術式を刻んだものを天井に取り付ける感じでしょうか。この世界でも割と夜を克服しつつあります。
主食は小麦なのでパンやパスタが多いですが、南の地方に行けば稲作もしている感じです。アスターテ王国の緯度は北海道〜関東あたりと同じくらいです。なので全体的に冬は寒いですが、主に雪が降るのは季節風が吹き込む海岸沿いでしょう。
魔法が便利なので、蒸気機関はありません。
次回もよろしくお願いします。




