PREMONITION
今週もよろしくお願いします。
幾度かの大使団での会議を経て、ついに出発の日になった。
「繰り返しになりますが、行程は片道3日です。馬車もありますし舗装された街道を通りますので辛い道ではありませんが、頑張りましょう」
外交官のマルクス・フォン・ノルトハイムが最後の打ち合わせをする。今回の会議で主な議論を担当する、初老の男性だ。見た目に違わず、功績も十分にあるエリートらしい。
〘こちらサイエンティスト、聞こえているな?〙
〘こちらブルクハルト二等兵、3名とも配置につきました〙
護衛の近衛兵に混ざっている兵士もちゃんといるようだ。
〘よし、そのまま頼む。私は殿下の馬車に乗るから何かあったらすぐ言ってくれ〙
〘と、いいますと…?〙
〘君たちの眼の前にいるイスラフェル・フォン・レラティビティが私だ〙
〘?!?!?〙
そういえば、言ってなかったな。
〘お若いんですね…〙
〘今年16になるよ〙
ちょっとした雑談をしながら出発式が終わるのを待つ。それにしても、潜入に関してはさすがレイヴンというところだな。皆、全く違和感がない。
やがて式が終わり、カーペットが敷かれた先に豪華な馬車がやってきた。アズラエルがカーペットの真ん中を歩き、僕はその右斜め後ろからついていく。その後ろには、マルクスが続く。
アズラエルが馬車に乗り込み、僕とマルクスも続く。扉が閉められ、親衛隊長の号令とともに馬車が動き出す。
「出発!!」
車窓にゆったりと郊外の風景が流れてゆく。
「悪かったね、突然付いてこいなんて言って」
アズラエルがふと話し出した。
「いえ、滅相もございません。殿下のご公務の補佐をこの年齢でさせていただけるなんて、光栄です」
「僕はね、イズ。どうしても君を連れてきたかったんだ」
「と、いいますと…」
「10年後か20年後かはわからないが僕が国王に即位した時、君にアスターテ王国軍の大将軍を任せたいと思ってる」
「…は?」
大将軍は、レイヴンも含めたアスターテのあらゆる軍事組織の最高司令官だ。アスターテの軍事における最終決定権を持ち、その権力は国王に次ぐと言われている。ただし大将軍は今は国王が兼任しており、実質空席となっている。なぜなら…。
「大将軍は代々、序列一位のアルフェラッツ家の方が就任されると聞きましたが…」
「ああ、15年前の事件でアルフェラッツ家は壊滅。唯一生き残ったとされる末の息子アルビレオも、0歳で真冬の外に放り出されたら生きてはいけないだろう。そんな全滅とほぼ同じような状態の家の人間を探すより、確実に有能な人間を新しく登用したほうがいいと思うんだ」
「…時が巡ってきましたら、是非ともお受けしたいですね」
オウル要塞は、ダゴン王国との国境付近を維持・監視する目的で70年ほど前に造られた。平原のど真ん中で少しだけ盛り上がった小山の上に造られた、いわゆる平山城だ。堅牢な造りなのは間違いないが、アスターテとダゴンという対立関係にあった2つの大国の国境の城ということで、歴史を変える大戦も幾度か経験した名城である。
いまも両国の関係は良好とは言えず小競り合いが多発しているが、今回、この資源を無駄に食いつぶすだけの対立を止めようとダゴンから停戦協定の打診があったというわけだ。
「アズラエル皇太子殿下、オウル要塞をあげて歓迎いたします。城司のヘルマン・ツェンガーと申します」
「急な会議にも関わらず完璧な準備、感謝するぞツェンガー」
「ハッ、ありがたき幸せです。報せの早馬が届いたときから心待ちにしておりました。皆さんをお部屋の方へ御案内いたします」
「ああ、たのむ」
普段はチャラいが、こうして見るとやはりアズラエルは王族なんだなあ、と思う。
ダゴン王国側の使節団が到着するのは明日の午前の予定だ。会議が始まるのが明後日の午前で、明日の午後からは要塞内に一切の武器の持ち込みができなくなる。そこからが、僕らの仕事だ。気を引き締めていこう。
* * *
薄暗いレンガ造りの室内。昼か夜かもわからないこの広い空間で紫色の魔方陣が3つ、煌々と怪しい光を放っている。その傍らには、幾つかの小さな山。数百、あるいは千にも及ぶ人の死体が積み重なり、巨大な山を作り出している。それらの死体には何一つ傷がついていない。皆、眠るように死んでいるのだ。
気がおかしくなりそうな死臭の中で、フードを深くかぶった集団に見守られながら一人の人物が魔法陣に一滴ずつの血を垂らす。
魔法陣が起動し、周囲に積まれている死体の山から紫の靄を吸収し始める。無数の意識や魂と呼ばれるものが、魔法陣に喰われていく。彼らは生まれ変わることも叶わず、完全にこの世から存在が消されてしまうのだ。
やがて、左右の魔法陣の中心からそれぞれ一人ずつ人影が現れた。中心の魔法陣では宙に浮いた五芒星が土星の輪に囲まれているような物体が現れた。
「召喚者よ、あなたはこれほどの同族を殺して何を望むのだ?」
物体から発せられる歪んだような声が、魔法陣に血を垂らした人物に問いかけた。
「人間を2人殺せ。名はアズラエル・フォン・アスターテとイスラフェル・フォン・レラティビティ。特にイスラフェルに気をつけろ」
「これだけ殺しといてまだ殺すのか。おもしれぇ奴だな」
右側の人影が死体の山を指し、不気味に笑いながら言い放った。
「何かしらの事情があるみたいだな。しかし、真実は隠れているからこそ暴き甲斐があるのだ。お互い詮索はよそうじゃないか。それで、その二人だけを殺せば良いのか?」
左側の人影も話し出した。
「他にも、周りに居るアスターテ人はいくら殺しても構わないよ」
「ケッ、アンタ俺達よりも断然悪魔じゃねえか」
右側の人影の暴言には耳も貸さず、召喚者は話を進める。
「明日の午後には、アズラエルが居るオウル要塞の城内の人間は全員丸腰になる。念の為、ターゲットを襲うのはそれ以降にしたほうが良い」
「忠告には感謝するが、我々を舐めてもらっては困るぞ」
五芒星が、冷静に分析したかのようにに話す。
「だから言っているんだ。イスラフェルは貴様らが思う数倍は規格外だ。お前たちでも、少しの慢心が命取りになるぞ」
「肝に銘じておこう。明後日にはターゲットの首を持ってくる」
五芒星がそう言うと、悪魔達は目にも留まらぬ速さで飛んで天井を突き破り、彼方に消えていった。
「これで奴らを殺せなかったら、本格的に軍を起こすことにしましょう」
フードの中の一人が、召喚者に話しかけた。
「そうだな、シグルド」
召喚者は、何かを考えているような言い振りでそう答えた。
読んでくださり、ありがとうございました。
今日、機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Begining-観てきました。ネタバレ防止のため詳しくは話せませんが、いやあ、こりゃまたドエラいシリーズが始まりましたね。古参ガノタも大歓喜ですわ。
バンダイ様、サンライズ様、スタジオカラー様並びに制作に関わった全ての方に謝罪します。
導入のあらすじ2ミリだけ読んだだけで「水星の魔女のボツ案」とかほざいてすみませんでした。




