CHECKMATE
今回もよろしくお願いします。
結界の効果によって傷が修復されたクリスが、ステージから降りてきた。目には大量の涙を貯めている。そのままクリスはジブリルの胸に飛び込み、そこで悔しさのあまり大泣きしていた。ジブリルも、彼女の背中をさすることしかできていない。
「殿下はとてつもなくお強い。君でも勝てるかどうかだぞ、イスラフェル」
「大丈夫です、僕は勝ちます」
そう言って、僕はステージに登った。
「大将戦、両者前へ!」
王家の人間のみが着用することを許される純白の戦闘服を身に着けたアズラエルも、ステージに上ってきた。以前の彼とは比べ物にならないほど、彼は強くなっている。今なら一人でヴェンタス・ライガーすらも倒せるだろう。アズラエルから発せられる膨大な魔力を感じて、そう思った。しかも、腰には片手剣が二振り。双剣は、使いようによっては太刀への大きなカウンターになりうる。確実に僕を倒しに来ている。
「構え!」
『雷帝の槍』
雷帝の槍は、アズラエルの技の中で最も弾速が速い。というか、発動と着弾がほぼ同時だ。僕のスピードでも回避できないはずだ。ということで、対策を考えた。
『収納魔法・インベントリ』
そのまま開始まで10秒待つ。
「始め!」
開始と同時にアズラエルの手から稲妻が飛び出し、 そのまま収納魔法の中に吸い込まれた。
収納魔法の容積は、本人の持つ魔力の絶対量に比例する。要は、魔力が多ければ多いほど容積も大きくなるのだ。
僕の魔力は神の眷属仕様で、果てしなく膨大なものになっている。そう、アズラエルの攻撃魔法という通常は決して入らないようなものでも、僕の収納魔法にはすっぽりと収まってしまうのだ。
そうして収納魔法で初撃を受けきったあと、僕は全速力でアズラエルに接近する。STVSを抜き刀身を振動させ、アズラエルと切り結ぶ。彼は剣をクロスさせて僕の一撃を受けたが、みるみるうちに刀身が溶断されていった。それに気づいたアズラエルは後ろに引いて距離を取り、こちらの動きを伺った。しかし、彼の剣にはすでに傷一つついていなかった。
おそらく、修復の術式が付与された魔剣の類なのだろう。しかしここまで修復が速いとは、驚きだ。しかし、なんのためにこんな魔剣を持ち出したんだろうか?
僕は再び加速して、不規則な軌道を描きながらアズラエルの背後に回り込んだ。しかし、彼はそれを予期していたらしい。アズラエルの体の表面を、青白い稲妻が覆い始める。まさか、全方位への範囲攻撃か?そうだとしたら、超絶まずい。アズラエルの稲妻は本来の稲妻じゃない。したがって脅威なのは、熱よりも、金属をも簡単に貫いてしまう衝撃力だ。つまり、衝撃をいなす物質で僕自身を覆えば、なんとかやり過ごせるだろう。少しばかり創造神を使ってしまうことになるが、しょうがない。あとで誤魔化そう。
『雷鳴の腕輪』
アズラエルが呪文を唱えた。
『真珠層結晶』
僕も準備完了だ。
その瞬間とてつもない威力の稲妻がまばゆい閃光とともに放出され、石造りのステージそのものも、やがてはそれを覆う結界すらも吹き飛ばしてしまった。僕は虹色に輝く白い物質でドームを作り、その中で攻撃をやり過ごす。
ダイヤモンドは現状地球上で最も硬いが、ハンマーで簡単に割れてしまうくらい弱い物質だ。では、地球上で最も強い物質とは何か?それは、牡蠣などの一部の貝類が貝殻に持つ、真珠層だ。炭酸カルシウムを主成分とするこの物質は、極小の炭酸カルシウムの結晶の隙間をキチン質がガチガチに固めた構造をしている。この構造のおかげで、真珠層の強さは純粋な炭酸カルシウムの3000倍にも達すると言われている。これなら、アズラエルの稲妻の衝撃を耐えられる。
熱で剥がれてしまう分の真珠層は内側から僕が補填し、ひたすらに攻撃に耐える。こんな大規模な魔法、一回発動したらしばらく疲労で動けないだろう。
空を切り裂くような稲妻の轟音が止んだ。今だ。アズラエルが回復する前に一撃で決着をつける。瞬時にドームを消し上空に飛び出したが、ステージ上のどこにもいない。…まさか。
『エンチャント・雷帝の槌』
「…王手だ、イズ」
アズラエルは更に上空で、彼の魔法の中で最も威力が高い雷帝の槌をその剣にまとわせて、今にも斬りかからんとしている。いや、これを正面から受ける必要はない。STVSをアズラエルの剣と垂直になるように構え、そのまま接触と同時に体ごと左に回転させ、うまく攻撃を受け流す。余波は食らうが、直に攻撃を受けることはない。
お互いの剣が触れ、大きな稲妻が飛び散る。その瞬間僕は身体強化を全て開放し、渾身の力で回転させ、アズラエルと上下を入れ替える。背中側に防御魔法を展開し、そのさらに向こうでニトログリセリンを生成して起爆する。その強大な衝撃波を受けて空中で加速し、そのままアズラエルを地面に叩きつける。ステージにはX字のような大きなヒビが入り、土煙が立ち込めて観客からは殆どステージ上が確認できなくなってしまった。
やがて土煙が晴れ、ステージ上に今何があるのか、段々とあらわになってきた。そこにあるのは人影が2人分。仰向けに地面に横になっている白い人影と、その横で太刀を地面に突き立ててかろうじて立っている黒い人影だ。
「詰みですよ、殿下」
そして、審判による判定の上会場にアナウンスがかかる。
「アズラエル・フォン・アスターテ皇太子殿下が戦闘不能と判断し、勝者、イスラフェル・フォン・レラティビティ!」
決着はついた。ようやく、図書館に行ける。
「やった!やったぞ優勝だイスラフェル!」
「よがっだよお〜!」
ジブリルは狂喜乱舞してるし、クリスは嬉しさと安堵で半泣き状態だ。
「学園史上初めての1年生の大会優勝は君に取られちゃったな、イズ」
先生方の治癒魔法で回復したあと僕らのチームをそう讃えてくれたアズラエルは、その後後ろを向いて一人泣いていた。
「二人とも、素晴らしい試合を見せてもらったわ」
そこにいたのはリリー・アルダト・フォン・アスターテ王女だった。そりゃあ実の弟の晴れ舞台だし、観戦しに来るか。
「殿下!」
その場にいた全員が跪いた。
「いや、いいの。個人的に見に来ただけだし。イスラフェル、優勝おめでとう。アズラエルも準優勝しててお姉さん嬉しいわあ」
そう言ってリリーがアズラエルと僕を抱きしめる。
…?
何だ、この感じは?
心地いいというか、懐かしいというか…。
そんなことを思っているうちに、リリーはその場を立ち去った。
* * *
フウ、よく寝た。昨日は途中から柄にもなくアツくなってしまったな。前世では大学にすぐに飛び級して、10代半ばは完全に研究に没頭していた。だからなのか、初めてちゃんと青春をした感じがする。
今日からあと3日間は学園祭だ。残りも十分に楽しもうと思う。
今回は修学旅行先からスマホで執筆してみました。改めて私にはキーボードが合っていると気づく今日このごろです笑
次回もよろしくお願いします。
p.s.沖縄の海は最高でした。




