CHANCE
今回もよろしくお願いします。
「すごい、勝ったよジブ!」
「ああ、なんとかね」
クリスがジブリルに水筒を渡す。
「はあ…次は私か…」
クリスは、かなり緊張してる様子だ。
「大丈夫ですよ。練習のとおりにすれば勝てます」
強くなっているのはジブリルだけではない。彼女もまた、とてつもなく成長している。
「副将戦!両者前へ!」
試合開始直前のアナウンスだ。
「よし、頑張れ!」
ジブリルが笑顔で声をかける。
「構え」
『ブルズアイ』
『障壁』
「はじめ!」
試合が始まった。
双方お互いに向かって駆け出したが、明らかにイナンナの動きが鈍い。というか、もう立ち止まってしまいそうだ。障壁は自分、あるいは味方に効果を付与した場合鉄壁の防御力を発揮する盾になる。しかし、彼女はそれを相手に付与し、物理的に動きを制限する技を身に着けた。相手にとっては、文字通り障壁である。
相手の固有術式は身体能力を上げるようなものでもないし、遠距離攻撃でもない。つまり、この時点でクリスの勝ちが確定したということだ。その場でイナンナが降参し、クリスの勝利で試合終了だ。
先に二勝を上げたので、僕らのチームが一回戦を突破することが確定した。
「やったあああああああ!」
クリスがジブリルを強く抱きしめながら喜んでいる。もうそこまで距離が縮まっているのか。
「とりあえず一息ですね。あとは僕が醜態をさらさないようにすればいい」
僕はそう言って水をひと口飲んで、フィールドに上がった。ここまで来たら一回戦は全勝したい。
「大将戦!両者前へ!」
ああ、緊張するなあ...僕は本番にとことん弱い。黒い戦闘服を着て、ステージに立つ。入試の成績が上位10名に入るものは、戦闘用の制服を作るときにパーソナルカラーを定められるのだ。
「構え!」
とっとと終わらせよう。相手のセツロは、大量の紙人形を柔軟に操る汎用タイプ。体力的にも長引かせると辛い。一撃で終わらせる。
『加速』
『集い、刃を研ぎ澄ませ』
「はじめ!」
合図とともに全速力で接近してSTVSを抜き放ち、セツロの首筋に刃を突きつけた。
「投降してください」
セツロはあまりに一瞬の出来事に全く反応できず、立ち尽くしている。
数瞬経って少し落ち着いたのか、ようやく状況を把握したようだ。
「…降参する」
会場が大歓声に包まれた。1年生が3年生のチームを完封したのだ。こんなこと、少なくとも僕が対戦記録を遡って調べたここ20年ほどでは数えるほどしか起こっていない。
「やっぱ流石だな!」
「やったあ、2回戦だ!」
ジブとクリスからも激励を受け取った。しかし、僕が気にかけていたのは隣の隣のステージ、1回戦第6試合だ。ここでは、1年生が4年生を完封した。
主将はアズラエル・フォン・アスターテ。今回僕が「最も手強い」と考えている相手だ。やはり、勝ち残ってきた。それどころか、本人がこれまでと比べて相当強くなっている。たった1ヶ月間でここまで実力が上がるとは、流石だ。
そして、運命の決勝戦。お互いトーナメントを勝ち上がり、ついに最後の1戦だ。
1年生Aクラス、アズラエル班対1年生Aクラス、イスラフェル班。前代未聞の1年生同士の決勝戦だ。
「先鋒戦、両者前へ!」
アナウンスがかかる。相手の先鋒はルイーゼ・フォン・ディーゼ。壁や床などあらゆる場所を泳ぐように移動できる魔法を持っている。今までの試合では相手を地中に引きずり込むなど、応用を利かせて幅広い攻撃手段を見せている。応用力の高さ故に戦闘スタイルがあまり定まらず、パターンを推測してのカウンターを入れづらいのもルイーゼの強みだ。ただ、植物は地上だけで栄えているわけではない。
「構え」
『フィロスタシス』
『液状化』
「始め!」
掛け声と同時にステージ全体に竹が根を張り、まるで竹林のようになってしまった。そう、根を張った。マダケ属、学名Phyllostachysに限らず、竹は地中に巨大な網状の根を張る。一つの竹林が丸々根っこでつながってるなんてこともザラだ。そして僕らの予想通り、ルイーゼは土と岩しか通り抜けられないようだ。つまり、ステージの地下に竹の根を張り巡らせれば、彼女の最大の武器を潰したも同然なのだ。
潜れないと悟り、潜伏を諦めてルイーゼが浮上してきた。そしてその手のひらにはオレンジ色の魔法陣。まさか、根と地表の間の水たまりのような僅かな隙間で、ジブリルに魔法の起動をさとられぬよう魔法陣を展開したのか。
『炎魔法・豪炎』
「魔法陣を展開してからの発動が圧倒的に遅い」という一般魔法の弱みを完全に潰してきた。これはジブリルが負けるか…?
「いや、まだ僕には届かないね」
『バイロバ』
その途端、ジブリルの周りからイチョウ、学名Ginkgo bilobaの大木が壁のように何本も生えてきた。ルイーゼの炎魔法で竹林が燃える中、ついに火の手がイチョウに届いた。
「よし、いける!」
ルイーゼが勝利に大きく近づいた喜びを噛みしめる。しかし、イチョウは燃えなかった。表面が少し焦げる程度だ。イチョウは樹皮が厚く高い耐火性を持っているため、ちょっとやそっとでは燃えることはない。
「なっ…」
一瞬たじろいだルイーゼの僅かな隙を、ジブリルは見逃さなかった。一気に距離を詰めて死角に回り込み、剣の切っ先をルイーゼの背中に突きつけた。
「…降参する」
敗北を認め、ルイーゼがステージを降りた。
「勝者、ジブリル・フォン・ルシフェル!」
大きなアナウンスがかかり、会場が沸く。僕達が初めてアズラエル班に黒星をつけたのだ。
「やりましたね!これは本当に勝てるかもしれませんよ」
「いやいや、まぐれだよ。ルイーゼは本当に強かったなあ。こんなに強い相手とはもうあんまり戦いたくないな」
僕とジブリルはそんな他愛もない、しかし半ば本気の会話で談笑していたが、まだまだ油断するわけにはいかない。次の相手はペトラ・フォン・ヘンケルス。火、水、風、土という異なる属性の、4体の式神を使役する式神使いだ。その分消耗も多いので、長期戦に持ち込んでうまく攻撃を交わし続けられればクリスティーンも勝てる。
「副将戦、両者前へ」
「じゃあ、行ってくるねジブ!」
多少の緊張の色を顔に浮かべながら、クリスがステージに立った。
『障壁』
『召喚・ランペイジ』
「始め!」
やっぱり、初っ端から式神使いの最大の切り札を出してきた。消耗戦でじわじわ削られるより、最初に全ての火力を叩き込むつもりだ。合理的だが、大きな賭けでもある。
クリスは自身にバフを掛け、特に機動力を底上げしながら、式神たちの攻撃をかいくぐって間合いを詰めようとする。しかし、攻撃パターンがとても良くできている。まず水の式神ケルピーで大波を作って視界を塞いだあと、風の式神白虎、大地の式神ヨルムンガルドで横から体勢を崩させ、最も攻撃力の高い炎の式神ヘルハウンドで一撃を加える。単純だが、強力だ。
対するクリスは、一度に効果を付与できる最大数が現状自分を除いて3で、必ずどこかにデバフをかけられない式神が少なくとも1体いる。そのまま手数で押し切られて、いつの間にかクリスがボロボロになっていた。
そもそも、ペトラは異なる4つの属性、そして同時に攻撃する手段が術者と式神を合わせて最大5つ。圧倒的に手数が多い。もともと相性が悪かったのだ。
「クリスティーン・シュミットが戦闘不能と判断し、勝者、ペトラ・フォン・ヘンケルス!」
無情なアナウンスがかかった。
ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。




