第77話 ★別離と邂逅の迷宮 ~第1層(前編)
いよいよダンジョン突入!
「レンレン、マイダ、遅かったな。準備は大丈夫か?」
カーリーが言った。
僕が眠たげなマイダの手を引いて、ダンジョンの入口が出現した王宮前広場に着くと、カーリーとディーナは既に到着していた。
数は少ないが、二人だけではなく、見送りの人たちも来ているようだ。
こちらの世界の僧侶の格好をしているが、僧侶というよりは、むしろ将軍に見える頑健そうな老人が近寄ってきて言った。
「レンレン殿、ご無沙汰しておる。ミローク神にご武運を祈っておきましょうぞ。我らが誇る剣の達人、カーリーとともに見事この試練を果たしたならば、われわれの同志ですな」
この人は、カーリーが所属する『戒めの砦派』師団長のアクィナスさんだよな。
僕が返事をしようとすると、横からもう一人、口を挟んできた。
「なにをおっしゃる。憑依術師のレンレン殿は、もう美しきディーナをパートナーにすると決めております」
ディーナの後見人である『綜合教団』ゼノン教主が現れて、横から言った。
軽くにらみ合う二人を横目に見ながら、僕はマイダに聞いた。
「マイダは見送りの人、来ないのか」
「ワタシは昨日パパとよく話してきたから、大丈夫」
ようやく目が覚めてきたらしいマイダが言った。
そこへ、現場の守備隊長らしき人と話していたディーナが戻って来た。
「私たちの謁見の日に生還した騎士さんは、体調は回復したものの、迷宮探索中のことが思い出せないでいるそうです。残念ながらそれ以降、生還者は出ていないとのことでした」
「そうか……。あの騎士は『仲間たちはバラバラにされた』みたいなこと言っていたな。何があったのか……」
カーリーが首をひねる。
「ま、ここで悩んでいても仕方がないか。突入して、あまりにも危険であれば素直に撤退しよう。それじゃあ全員揃ったし、出発するか」
僕らは見送りの人たちに改めて挨拶を済ませると、守備隊長さんに声をかけ、ダンジョンの周辺を厳重に取り囲んでいるバリケードの一部を開いてもらった。
バリケードを通過し、ついに迷宮の入口に立つ。
4人が横に並んだままでも歩けそうな、大きな真四角のやや下りの通路が、地上の光が届く範囲では真っすぐに続いている。
あの先は、いったいどうなっているのだろうか?
「敵の憑依術師は、『別離と邂逅の迷宮』って呼んでましたよね? 『別れと出会い』ということでしょうが、何と別れ、何と出会うのでしょうか」
ディーナが思案気に言った。
「まあ、ジュンイチロウジュンイチロウの作ったものなら、大したことないでしょ。ワタシたちはダンジョンを楽しみましょ」
マイダは何か探しているのか、自分の荷物をガサゴソとさぐりながら言った。そして、ようやく目的のものを見つけたらしく、古い羊皮紙の巻物のようなものを引っ張り出す。
「あった、これこれ。前に見つけて買っておいたんだけど、結構高かったのよね」
「なんだい、それ?」
僕が聞くと、マイダが得意げに答えた。
「じゃーん、自動マッピングの古代魔法がかかった迷宮用スクロールよ。これでワタシも迷わないわ」
でも方向音痴のマイダは、毎度毎度、地図があっても迷子になるよな。『まいどまいごのまいだ』だ。
突然そんな言葉が思い浮かんで僕は噴き出しそうになったが、必死に耐えた。
「それじゃあ、ダンジョン突入! ところでレンレン、今なにかワルーいこと考えたわよね」
あっさりバレて、白状させられました。
「はっ!」
気合を込めたカーリーの刃が、素早く動き回るスライムを一刀のもとに切って捨てた。
ダンジョンに突入して、すでに3時間以上が過ぎただろうか。幸い魔物は弱いものが散発的に出現する程度だ。
ルートの方は、驚いたことに外から見えたとおりの直線の通路が、分かれ道も無くそのままずっと続いている。
方角は東よりなので、もう王都の下は通り過ぎて、東の森の地下にいるはずだ。
でも魔法で作られた迷宮なので、物理的な位置にあまり意味はないのかもしれない。
分岐がなく、迷う心配がないので、マイダはもう自動マッピングのスクロールを荷物にしまいこんでいる。代わりに、入口からの光が届かなくなる前に小さな魔法のランタンを4つ出して、みんなに貸してくれた。
これなら用意してきた松明はいらない。準備がいいな。
「高いのよこれ。壊さないでよね」
マイダが僕だけに言う。
ちなみに灯りについては、ディーナが光の精霊も召喚し、前方に飛ばしているので不意を打たれることはない。
ダンジョンと言えば罠も気になるが、マイダがトラップ発見の支援魔法を発動しており、特に何も引っかからないようだ。
「なんだか順調だな」
「そうですね」
僕がひとり言を漏らすと、隣を歩くディーナが同意した。
その時、なんらかの異変に気付いたらしいカーリーが前方を注視しながら言った。
「レンレンがそんなことを言うから、何かたくさん近づいてきたぞ」
う、フラグを立ててしまったかな。我ながらご愁傷様だ。でも何だろう?
そこでディーナが光の精霊をさらに前方に飛ばしてチェックする。
「ゴブリンです! 多数!」
「少しは本気を出した方がいいな。魔法も使おう。ディーナ、できるだけ吹っ飛ばしてくれ」
カーリーが剣を抜きながら言った。僕も形だけ?小剣を抜く。
ディーナが早速、大きめのファイアーボールを前衛のカーリーとマイダの間から放った。
狙い違わず火球が敵の先頭に立つゴブリンたちに命中し、何体か倒れる。ディーナは続けて魔法の準備を始めた。
そして、敵に向かってカーリーが突っ込むと、その横のすき間からディーナが魔法を撃ち込もうとする。
だが、同時にマイダもその間隙に向かって走りこもうとしていた。射線とかぶる!
僕が辛うじてマイダの服の裾を掴んで止めると、火球がマイダの目と鼻の先を通過していった。
「あぶなっ! 狭くて戦いにくいわね……。じゃあワタシも支援魔法で」
マイダが筋力と敏捷性強化の支援魔法を、最大魔力でカーリーに向けて放った。
カーリーはちょうど先頭のゴブリンを何匹かまとめて倒したところで、僕らの状況を確認するため振り返った。その目前にマイダの支援魔法が飛んでくる。
「うわっ」
驚いたカーリーが反射的にのけぞって避けた。流れ弾となった支援魔法がゴブリンの群れに命中する。
どちらかというと普段は鈍重なゴブリンの動きが、明らかに加速した。
「ヤバ」
マイダが思わず口にした。
その後はグダグダな戦闘になった。
マイダの支援魔法を受けたゴブリンは、カーリーであれば複数が相手でも全く問題としないようだが、それでも何匹かが横をすり抜けてこちらに突入してきた。
続いてマイダが迎撃に出たが、強化されたパワーに手を焼いている。
そこで僕も加わって何とか抑えようとしたが、あっさり腕に切り傷を負ってしまった。
僕は後退し、代わったディーナが小剣で身を守りながら、至近距離からのファイアーボールで勝負をつける。
以降もしばらく狭い通路での乱戦が続いたが、どうにか強化ゴブリン?の群れを倒すことができた。
「やっと終わりましたね……。マイダ、ごめんなさい、危うく火球をぶつけるところでした」
ディーナが呼吸を整えながら言った。
「ワタシもゴブリンに支援魔法当てちゃってゴメン。何だかゴブリンをわざわざ上位種のホブゴブリンにしてから戦った感じよね」
マイダが首を振りながら言う。
「ごめん、それはマイダの魔法をよけた私が悪かった。支援魔法を受けることにまだ抵抗があって、反射的に躱してしまった。そう言えばレンレン、その傷、治癒魔法で治してしまおう」
自身の宗派の教えの関係で、基本的に魔法を自分のために使わないカーリーが言って、ケガした僕の左腕の治療を始める。
「レンレンは戦果無しでケガしただけってかんじね」
横から治療を見ていたマイダが失礼なことを言った。でもまあ事実だから反論ができない。
「ごめんよ!」
僕が半ばヤケで言った。
なんか全員、ごめんって謝っているな。
普段は戦闘で聖女たちの連携が乱れることはほとんどないのに。
まあ初めてのダンジョン戦だから、仕方がないものなのかな。
僕はその時そう思った。
応援よろしくお願いいたします。
第1層の後編は明日あたりアップいたします。




