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第7話 訓練と緒戦(前編)

 さっそく翌朝から訓練が始まった。

 

 まず、ハンナさんが聖女たちを呼び集める。

 現在、聖女の存在は4名が確認されているが、1名は先日破門された宗派に属しており、同じく破門された前王の一党と王国第二の都市に籠っているそうだ。

 

 だから実質的には、聖女は昨日僕が遭遇したカーリー、マイダ、ディーナの3人だけだ。

 改めてお互い自己紹介をしたあと、ハンナさんから僕を含めた4人に今後の説明がされた。


「4人には、1年を目途にパーティーを組んでもらいます。訓練や実戦を経ながら聖女と憑依術師の相性を確認してもらい、実績を見て1年後に正式なパートナーを定めます」


「今、僕のほかに憑依術師はいないのですか?」


 僕が尋ねた。


「申し上げにくいのですが、五年ほど前でしょうか、最後の方が亡くなりまして不在です。当時の聖女と憑依術師、および数名の神官戦士が組んで近隣のちょっとした魔物の討伐に出たんですが、運悪くキャスパリーグという強力な魔物と遭遇したようで……。パーティーが全滅したので発覚が遅れ、蘇生もできませんでした」


 ご愁傷様である、って僕も運が悪ければすぐにそういう目に合うということ? やっぱ異世界コワい。


「それワタシも聞いたことあります! 数日後に発見された時には、みんなバラバラにされて、キャスパリーグの爪痕だらけだったとか?」


 僕がビビっているとマイダが追い打ちをかけるようなことを言う。


「ですから、そうならないように十分訓練を積んでくださいね。特にレンレンさんは戦闘経験がないとのことですから」


 はい、頑張ります……。



「1年後の、パートナーの決定はどのように行われるのでしょうか?」


 ディーナがハンナさんに尋ねた。


「基本的には相性を示す訓練期間中の実績と、レンレンさんのご希望をもとに、各宗派の代表者会議で決めることになります。相当揉めるとは思いますが」


 それを聞いたマイダが、なんか僕に変な流し目をしてくる。お子ちゃまには全く似合ってないと後から指摘しておこう。



 その後、僕は簡単な装備を支給され、教会本部の裏庭にある訓練場へ赴いた。神官戦士たちがあちこちで剣や槍の訓練を行っている。

 

 神官戦士でもあるカーリーが、備え付けの木刀を二本とると、一本を僕に投げてよこした。


「まずはレンレンの実力を把握しないとな。どこからでも掛かってきてくれ。ケガはさせないように注意する。それに、私は治癒魔法が使える」


 学校の体育の授業でやった剣道以外に、こういった経験のない僕は戸惑ったが、とりあえず木刀を正眼?に構えてみた。一方、カーリーは右手で無造作に木刀を肩に担ぎ、左手で「来い」という仕草をしている。


 僕は正直、相手が女性ということで躊躇したが、思い切って振りかぶると、僕的には素早くカーリーめがけて振り下ろした。


「痛っ」


 手首にズンと衝撃があり僕は木刀を取り落とした。全く見えなかったがカーリーの一撃が入ったらしい。あいたたた、ケガさせないって言ったじゃないですか……。


 するとカーリーが右手をかざし、治癒魔法を発動させた。僕の手首のあたりが白く輝き、ウソのように痛みが消えた。

 

「もう一度!」


 カーリーの指示で再度構え、打ちかかると全く同じ結果。


 結局十回対戦し、僕は息があがってしまったが、僕の木刀はカーリーの体どころか木刀にすら触れることはなかった。


「うーん、これは想像以上にヒドいな。基礎から鍛えないと……。よし、レンレンは全力素振り三百!」


 ゲッ、カーリーさんスパルタ! しかもカーリーは何だか嬉しそうにしている。もしかしてSっ気あり?


 僕がやむを得ず素振りを始めると、カーリーがマイダに言った。


「マイダ、ひさびさに一度手合わせしておくか?」


「いいわよ」


 マイダがいつも持っている短い杖を構えてカーリーと相対した。

 

 ディーナの開始合図でカーリーが素早く切り込むと、マイダはそれ以上のスピードで大きく下がって体制を立て直す。


 僕は素振りをしながら横目で見ていたが、マイダは押されているものの、素早い身のこなしでなんとかカーリーの攻撃をしのぎきった。


 あんな小柄な女の子にも僕は敵わないということか……。せっかくの異世界で無双してみたかったのに、ちょっと悲しい。



 続いてディーナの番。彼女は小太刀のような短い木刀を選び、逆手にとって構えた。


 開始とともに今回もカーリーが切り込むが、器用に小剣で受け流す。

 受け流しながら魔法を発動したのか、カーリーに向かって火の玉や水の塊が次々と襲い掛かった。


 カーリーの方も、それらを躱しながらさらに踏み込むが、互いになかなか相手を捉えられない。こちらも引き分けに終わった。


 僕の方はというと、素振り三百のあとも、カーリーのしごきにあい、へとへとになったところで昼食の時間になった。


 

「みんな強いんだな」


 教会本部の食堂で、腕を持ち上げるのもキツい状態でパンをちぎりながら、僕が観念したように言うとマイダが答えた。


「まあね。ワタシは支援術師だから回復と能力強化系の魔法が得意なの。さっきは自分に敏捷性強化と筋力強化を最大までかけてたから。今度レンレンにもかけてあげるわ。ちなみにケガの治癒魔法の方もある程度ならイケるわよ。ちょっとした切り傷とか捻挫・単純な骨折くらいならね」

 

 ディーナとカーリーが続ける。


「私はもともと魔物が多い山奥の育ちなので、ある程度の護身術は身につけていました。今日は周囲に人がいるので威力を抑えていましたが、精霊魔法に適性があるので、ご覧いただいたような戦い方になります」


「ま、神官戦士の私は剣が使えて当たり前だがな。父も神官戦士で厳しく仕込まれた。あとはレンレンにも使ったが、治癒魔法の適性が高いので神官戦士隊でもそれなりに重宝されている。蘇生は無理だが、息さえあればだいたい何とかできる。もちろん魔力の余裕も必要だが」


 

「確かにカーリーの治癒は一級品よね。そういえば昨日ハンナさんに、レンレンが治癒魔法でハンナさんのササクレを治したって聞いたわよ! 今度ワタシにも見せてよ、レンレンのササクレ魔法!」


 ニヤニヤしながらマイダが言った。


 こいつ見ていろ、そのうち僕の得意とする憑依魔法で……。って、あれ? そういえば憑依魔法ってどうやって使うんだ?


 僕がそれを問うと、カーリーが答える。


「憑依魔法はまず受動的憑依と自発的憑依に分けられる。受動的憑依は、聖女によって神の力を憑依術者に降ろして使用する。一方で自発的憑依は、憑依術者自らが自分自身を受け皿に何かの力を呼び起こす魔法を指す」


 ……ちょっとややこしいな。


「さらに憑依したあとの状態でも二つに分けられる。『随意系』の憑依魔法は、降ろされた後でも憑依術者が自我を保ち、自らの意思で力を行使できる魔法だ。一方で『不随意系』の魔法は、まあ言ってみれば体を乗っ取られたような状態になる魔法だな」


 僕が懸命に理解しようとしていると、マイダが後を引き取って言った。


「だから、レンレンが昨日変態貴族を自分で自分に降ろして、コントロールできずに暴れていたのは、『自発的』『不随意』憑依魔法になるわね。一番どうなるかわからない危ないやつよ。それともハンナさんに襲い掛かったのがレンレンの欲望なら、自発的『随意』の憑依だけど」



「……自分で降ろすのが危ないのは昨日でよくわかったよ。じゃあ『受動的』な方、聖女の憑依魔法ではどんなのが降ろせるんだ?」


「実はそれ、人それぞれなんです。私たちは聖女の天啓を受けてからまだ日が浅く、憑依術師が不在だったこともあって、経験がありません。ですが過去の例で言うと、危機になると天啓があり、その場の状況を一気に変えられるような、様々な力を憑依術師に付与できることが多いです」


 ディーナの言葉に残りの二人もうなずいた。

 

「結構行き当たりばったりですね。最後の憑依術師も魔物にやられたって言うし」


 僕がディーナに感想を言うと、


「恐らく力を降ろす前に、最初に聖女か憑依術師がやられてしまったのだろう。だからこそ訓練が重要ということだな。じゃあ、そろそろ午後の鍛錬といくか?」


 みんなを見ながらカーリーが言った。



 僕が唸りながら、素振りのしすぎで持ち上がらない腕で残ったミルクを飲みほそうとした。


「あ、そうそう、回復回復!」


 マイダが突然僕に体力回復の支援魔法をかけ、急に腕が軽くなった僕は、ミルクを顔にぶちまけた。


 

「あ、なんかゴメン」


 全く悪びれずにマイダが言った。

 


いつもありがとうございます。

明日以降も毎日1話、投稿したいと考えています。

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