第6話 幕間 ~ それぞれの思惑
「カーリーよ、新たな憑依の受け皿が現れたそうだな」
ミロス教『戒めの砦派』のトップである師団長は、カーリーを呼ぶと言った。
「はい師団長様。昨夜の神託で聞いた転生者がそうだったようです」
「うむ……。そなたの剣技は既に一流の腕に達している。しかし、まだそなたの父には及ばない」
「はい。その通りです」
カーリーが厳格な父の顔を思い浮かべながら答えた。
「だが、そなたには聖女の力がある。その力の受け皿を獲得し、剣技と合わせてそなたが自由に使いこなせるようになれば、父をも超える力を発揮できるかもしれん」
「はい」
「近頃、憑依術師は極端に減っている。教会内でも各派の取り合いになるだろうが、ミロス教の教義を厳しく護り、悪を滅ぼすのは我ら『戒めの砦派』の聖なる務め。我らこそが受け皿を手に入れて当然だ」
「はい。私もそう思います」
「……ところで先日からのタケノコか何かの恐怖症?はもうよいのか?」
「はい。無理やり量を食べまして、克服いたしました。お恥ずかしい限りです」
「そうか。そなたも大変だな」
「いえ、さらに精進し、かならずや世界にミローク神の力を示します」
カーリーは力強く誓いの言葉を発した。
「パパ、用ってなあに?」
「おおマイダ。さっき聞いたんだが、久々に憑依に適性がある者が現れたそうじゃないか」
「うん、今日さっそく憑りつかれてたから解呪の手伝いをしたんだけど、ちょっとキモいやつだったよ」
「そうか、それは大変だったな。だが、お前もわかっているだろうが、聖女が十分に力を発揮するには、できるだけ優秀な憑依術師の手駒が必要だ」
そこまで言ってマイダの父は王都ダニーディンの街並みが広がる窓の外に視線を移すと、いまいましそうにため息をついた。
「お前も知ってのとおり、私は父……、お前のおじいちゃんが創ったこの『生命の法則教会』を引き継ぐのに、強欲な親族どもから色々と横やりが入って相当苦労した。他人に口を挟ませず、お前に円滑に継がせるためには、実績が必要だ。それには、その術師を取り込んでしまうに越したことはない」
「そうね。大丈夫、私に任せてよ。いざとなったらお金の力にモノを言わせて……。それでもダメならワタシの魅力で勝負ね! ところでパパ、全然別の話だけど、ワタシ、ワンちゃん飼いたくなったの」
「そうか。種類は決めたのかい? 犬にもいろいろあるのだろう?」
「犬だなんて! ワンちゃんて呼んでよね。種類はまだ決めてないから、いろいろ見てみたいの」
「じゃああとで秘書に、王都で一番のペットショップを呼ぶよう言っておくから、好きなのを選びなさい」
「わーパパありがとう!」
そう言ってマイダは大司教である父に抱きついた。
「ディーナはいるか?」
メイドにマントを渡しながら、教主は言った。
「はい、こちらに。教主様お帰りなさいませ。」
「ああ。今日の代表者会議でハンナ高司祭から報告があったんだが、転移で憑依術師が現れたそうだな。それも上等の。」
「ええ。上等かどうかはわかりませんが、今日ちょっと関わりました。」
「そうか。憑依は我々『綜合教団』の、象徴といっても良い術だ。これから相性のチェックがあるのだろうが、そなたの力でなんとしてもその術者を手に入れるのだ」
「承知いたしました。努力いたします」
「うむ、まあ、そなたの美しさがあれば、その者に言うことを聞かせるのも容易いことだろうがな、ハハハ」
その言葉に顔を曇らせるディーナをあとに残し、教主は風呂へと向かった。
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