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とある依頼

食事を取り満たされたタクトはまた地下に戻り回復をやり始めるか、眠たくなり自宅に帰るかと踏んでいた二人だったが、それでもきっとこの言葉は言うだろうとヤマを貼っていた。

だからスムーズに答えられる。

そうすれば怪しまれることはない。


「今日は半分近くが冒険者と一緒にダンジョンに行っているわ」

「あとはいつも通り街の巡回だな」

「そうなんですね。なんか騒がしいなーと思ったんですけど」


こういうときに限って何かを聞いているタクト。

しかしこれにも最適な答えを用意していた。


「さっき言っていたダンジョンでちょっとね。

でも街を巡回している人を何人かそっちに回したから問題ないわ」


「重傷がいるなら僕行きますよ」

「問題ねぇ!お前がいなくてもな!!」


ここで強気に押す。

そうすればきっとタクトは……


「そうですか。なら僕は一回家に帰りますね」


と、予想通りの言葉が出てきた。

マーレスとアリシアは内心でハイタッチしている。

完璧な誘導。ここでタクトに現場に出てもらうわけには行かない。


少なくとも睡眠を取ってもらい体調を万全にしてもらうまでは回復の仕事をさせるわけにはいかないのだ。

そして自ら決めたことに関してそれを疑うことはない。


「ええ。分かったわ。明後日出勤、でもいいですよね」

「あぁ。タクト、ちゃんと休んでから出てこい」

「分かりました。それじゃ二人ともお疲れ様でした」


なんの疑いもなくギルドから出ていったタクト。

それを見送った二人ははぁ~と今日一番デカいため息をついた。


「これなら、大丈夫ですよね??」

「グレスト山脈はまだ住民には届いてねぇ。問題ねぇだろうよ」


なら良かった。と、アリシアは付けていた受付嬢のバッチを外し


「私も行ってきます。もしかしたらにこの3人の誰が行かないといけない事態かもしれません」

「あぁ。こっちは任せろ」


アリシアもマーレスも分かっていた。

きっと今回の事態はタクトを含めた3人の中から誰かが行かないといけない状態であることを。


そしてその中でもタクトなら問題なく事態を終息させられる。

しかし地下から出てきたタクトを見た二人は分かってしまった。

もしかしたらタクトに頼むかもしれないとちょっとした期待があったが、タクトを見れば分かる。そんな頼める状態ではないことが。


異常な回復の修行をしているがそれは誰かを助けるため。

それが分かっているからこそ二人も強く言えない。

同じ師匠についた身。教えはその身に刻まれている。


『回復術師が不甲斐ないことを言うなッッ!!!!絶対に助けろ!!!!』


だから、タクトは人一倍回復術を極めようとしている。

そしてそれを二人はできるだけサポートしたいと考えている。

タクト一人に負わせない。その他にはタクトを騙してでも今回の案件はタクト抜きで遂行しないといけないのだ。


「ったく、……なんであんな兄弟子を置いて行ったんだよ………」


唯一タクトを制御出来た師匠。

回復しか興味がないタクトが師匠にだけ懐いていたあの頃。

その思い出を思い出しながらマーレスは自身のギルド長室へ戻っていった。


……………………………………………………


その頃タクトはアクビをしながら自宅へと向かって歩いていた。

いくら疲れた身体と精神を回復させても確かに疲労は蓄積される。

そのピークに達してしまうとしばらくは眠りについてしまう。

そんなことになると大切な時に回復させることが出来ない。

なのでタクトもギリギリのラインを見極めて回復の修行をしている。


あと少しで家につく。

気分的にも少し足取りが軽くなったかなーと感じていると、その家の前に誰かが立っていた。


見たことのない女性。

そして服装は一般的な者だが雰囲気が何処となく上級階級の人だと感じさせる人だと思った。

すると向こうもタクトの事に気づき駆け足で近づきてきて


「もしかしてタクト·ラージェスさんですか!!?」

「はい。そうですが……」


「良かったー!!行き違いにならなくて〜!!

あのお願いがあってここで待たせてもらいました!!!」


「お願い……というと、誰かを回復したい人がいるんですか??」

「はい!!お願いです!!!私の友人を助けてください!!!!」


タクトの両手を取りギュッと握りしめる。

大抵の男ならこれでイチコロだが、タクトはそんなこと感じるわけもなく、ただ純粋にこの女性からの依頼を聞くことにした。


「まずは家で話を聞きましょう」

「で、でも、時間がッ!!」


「そうなんですか??なら、案内してください。その道中で話を聞かせてください」


はい!!と強く言った女性はタクトを置いていくかと思うぐらいに駆け足で走り出す。タクトもすぐに女性に追いつき並走しながら質問をする。


「まずはお名前を。あと回復させたい人の名前も」

「私は……ジュールです。友人はアネッサです」


「ではジュールさん。そのアネッサさんはどんな状態なんですか??」


するとさっきまでの疲労と心配していた表情がより濃くなり、思い出したくないものを思い出しているかのように躊躇いながら……


「………アネッサは、毒を……完治が不可能と呼ばれる猛毒に……お願いです……アネッサを、アネッサを助けて……ッッ!!!」


「分かりました。とにかくいまは急ぎましょう。

すみませんけど道案内は任せますね」


「えっ。……キャッ!!?」


ジュールお姫様抱っこをしたタクト。

一瞬、お姫様抱っこにキュンとするジュールだがタクトが駆け出した瞬間にそんなものは消えてしまった。


風になる。

そう言える程に速く駆けるタクトに、ジュールは落とされないようにしがみつくのに必死である。


「タ、タクトさんッッ!!!!」

「あぁ。方角聞かないと分かりませんでしたね、すみません」


すぐに急ブレーキをかけるタクト。

いきなりの高スピードに恐怖で震えるジュール。

息を整え周りを見渡すと、あっという間に街から草原へと移動していた。

それももう街が見えないほどに離れている。


「………えっ??」

「それで方角はどちらですか??」


「あ、あの……タクトさんて何者ですか??」

「回復術師です」


「……………………………………………………」


絶対に違う!!という言葉をグッと堪えたジュールだった。

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