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銀狼の薬蜜  作者: 飴城甘*
第4章 空を挟んで下に存在する大地
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第7話『エルドラノールはお祭り騒ぎっ!』

 風呂から上がった後の昼。時間を示し合わせ、テンとアデリタ、そしてプリムラとウィルベルト達騎士がお城の前に集まっていました。

 町は何やら賑わっている様子。お祭り騒ぎのように人の声が絶えず聞こえてきます。

 ウィルベルトたちが聞いて回ったところ、プリムラの病状が回復したという情報がどこからか漏れて町に広まったそうです。それで町民たちは大騒ぎ。

 

 プリムラの回復を祝う宴が始まってしまったということだそうです。

 駐在していた騎士がポロっと言ってしまったのだろう、とウィルベルトは言いました。


「でも、よかったじゃないかテン」

「?」

「お祭りの方が楽しいだろう?」

「……そうですねっ!」


 アデリタの言葉にテンは元気よく頷きました。そしてプリムラの手をつなぎ、走り出します。


「行こう、プリムラ!」

「はいっ」


 今日の行動での約束事は騎士たちの見ていない場所にはいかないこと、騎士たちの目の届く範囲で町を見て回ることでした。

 もっとも、このお祭り騒ぎでは見失いやすいかもしれません。



 まずテンたちは屋台の方へと誘われました。


「姫様、ご快復おめでとうございます。サービスですよ」


 露店の店主は肉を串に刺して焼いたものをたっぷりとたれにつけて、プリムラとテンに渡しました。この国の特産品の1つなのだそうです。

 

「ん~~~っ! 美味しい!」

「そうですね」


 1口食べて唸るように喜ぶテン。その様子に店主も嬉しそうに笑います。


「はっはっは、いいね嬢ちゃん。いい食べっぷりだ……おっと、姫様と一緒ということはさぞ名のある……」

「いえっ、そんなんじゃありませんので、大丈夫です!」

「何を言うか、そこの少女こそ今回姫様を治す薬を作った、テンだぞ」

「アデリタさん!?」


 後ろから肉を食べながら指摘するアデリタにテンは驚き振り向きました。もっと驚いている人物がテンの目の前にいました。


「あんたが……そうかい。ありがとうな、姫様を助けてくれて」

「どういたしまして……」


 アデリタのおかげと否定しそうになりましたが、言えばアデリタから素直に受け取るようにと口を挟まれることを想像し、恥ずかしながらも感謝を受け入れることにしました。

 その様子に微笑みつつ見守るウィルベルト。すると店主は彼らにも視線を向けます。


「ほれ、あんたらも食っていきな。こういう時ぐらいしか食えねえだろ」

「いや我々は警護がある」


 あっさり断るウィルベルトにギーゼルヘールが言いました。


「副団長、そうです。我々もいるのです。副団長も羽を伸ばしてはいかがでしょう」


 ダラはガハハと笑い、店主から串を数本受け取り、警護に当たっていた騎士たちにも分けていきました。

 受け取った手前、無碍にすることも出来ずウィルベルトは肉にかぶりつきました。


「ウィル、お味はどうですか?」

「……美味しいです、姫」

「あらあら、タレを口につけて」


 プリムラはウィルベルトが動くよりも早く、自らのハンカチを取り出してウィルベルトの口をぬぐいました。


「……姫」

「あなたが遅いからですよ」


 してやったりと笑みを浮かべるプリムラは普段の大人びた表情とは違い、小悪魔な感じでした。


「ふふ、ティロ君にも自慢できるなぁ~……」


 食べ終えたテンはたれの残りだけがついた串を手ににやけた顔で呟きました。


「テンのご友人ですか?」

「うん、私よりちょっとお兄さんで今料理の修行中なんだ」

「そうなんですか。でしたら向こうの食べ物もいかがですか?」

「いいねっ」


 テンとプリムラは次なる食べ物を求めて、別の露店へと向かいました。

 それからというもの、先程のお肉料理に始まり、果物やお菓子等様々なものを食べ歩きました。

 どこにそんなに入っているのか。途中から大人たちは見守るだけになっていきました。

 中にはたい焼きのようなふわっとした食感のものも見つけ、テンは興奮しました。魚はこの辺だとみられないらしく、魚の形はしていませんでしたが。

 町の中は時間が経つほどその賑わいを強めていきました。


 食べ物の他にもおもちゃだとか遊びだとか、大道芸をしている者もいます。誰かが演奏をし始めると、誰かが踊りだして、それは伝染していき、多くのひとを巻き込んでみな踊り始めました。

 人が集まり、音楽もよく聞こえないほどでも踊りをやめる人はいませんでした。

 そこに混ざってテンとプリムラも踊りあかしました。その影響で町の多くは回れませんでしたが、テンにとってもプリムラにとってもこの1日はとても楽しい思い出になったことでしょう。


 日が落ち、空が暗くなっていく一方。テンたちはエルドラノールの名所である丘に登りました。辺りは魔法で作られたかがり火で照られています。


「綺麗~っ」

「あの向こうに見えるのが首都フランタミルのお城です」


 丘の上から見通した先には平野が広がっており、途中森があるもののそこから突き出すように存在する建物。それは夜空を背にするフランタミアの王城でした。

 城の周りはぼんやりと明かりに照らされていました。


「おぉ~……あんなに大きいんだねぇ」

「ええ」

「昔はプリムラもあそこに住んでいたんだよね」

「……はい、成人する前にこちらに来ました」

「寂しくなかった?」


 プリムラは遠くのお城を見つめながら答えました。


「そうですね。あの頃は寂しいと思う余裕はありませんでした。はやく一人前にならなきゃって、いっぱいいっぱいでした」

「そっか」

「今でこそもう王への道は閉ざされましたが、兄たちに負けない為政者になりたかったんです」


 でもね、とプリムラは続けます。


「この町に来られてよかったと思っているんです。……いや、今日改めて思えました」

「……」

「今日本当はね、怖かったんです。長い間姿も見せず、病気で城に引きこもっていた私はもう町の人たちに必要とされていないのではないかって。もちろん、姿は見せられませんでしたが、自分の仕事はこなしていました」


 プリムラの視線は近くにいる親子に向けられました。その親子は子どもとしっかりと手をつないで景色を堪能していました。


「町の人々からしたらもう仕事していないように見えていたかもしれません。でも、今日町を回って、みな私の快復を自分事のように喜んでいました。そんな人たちに支えられて、私は幸せ者です」


 照れるように笑いました。それを見てテンも笑みを浮かべます。


「だから、私はこの町の民のためにもっといい町にします」

「……うん。すごいよプリムラ」

「……私は」

「……だって、私は自分のことだけでも手いっぱいだもん。プリムラはたくさんの人のこと考えてて、すごいよ」


 テンはプリムラを見つめました。


「……ありがとうございます。テンの応援あればもっと頑張れる気がしますっ」

「うん、頑張れプリムラ!」


 2人には笑いあいました。




 既に日が落ち、満天の星空が光り輝いていました。一行は岐路に着こうとしたその時でした。

 草むらの陰から俊敏に動き、テンの手首を掴んで引っ張っていく謎の人物。思わぬ事態にテンはなされるがままに連れていかれてしまいました。

 騎士の者たちが気づかなかったのは不意を突かれたのはもちろん、その人物はあまりにも小さかったからでした。

 1番焦りを見せたのはアデリタで、すぐさま追いかけました。


「動くなっ! 動けばこの娘がどうなるか知らないぞっ!」


 恐る恐るテンが後ろ目でその姿を確認すると、そこにいたのは6歳ほどの少女でした。

 その瞳は暗くとも太陽のように輝き、暗いためか髪の色はテンと同じ白色に写ります。


 さらにその後ろから気づかれないように近づくギーゼルヘールの姿も視界に入りました。


「ふぎゅっ」


 少女はすぐさま捕らえられ、テンから引きはがされました。

 我先にと少女に近づくアデリタ。


「何が目的だ、小娘……その髪は」

「離せっ、オレは行かなきゃいけない場所があるんだ」


 明かりに照らされて見えたその髪は汚れているもの白い髪でした。耳というほどしっかりとした狼の耳ではありませんが、それらしきものも頭部についています。

 少女は必死に抵抗しますが、大人相手にはびくともしません。


「あなたが抵抗するからこちらもそれなりに力を入れているんです……よっ!」


 ギーゼルヘールがそう言うと、やがて少女は抵抗の意思を弱めました。


「ギーゼルヘール、一度離してあげてください」

「……承知しました」


 ギーゼルヘールは少女から手を離します。少女はその場に座りなおしました。


「…………」


 少女は黙って周囲を取り囲む全員の顔を見つめます。


「アデリタ、この娘は」

「ああ、きっと銀雪の少女の関係者だ。耳が退化して人間の耳に戻っているところを見ると娘か孫か」


 少女には狼の耳以外にもしっかりと人間の耳が備わっていました。


「アデリタ?」


 会話を聞いていた少女がアデリタに視線を向けました。


「……私を知って。…………まさか、いやそんな」

「……」

「あなたの名前はルナ。ルナ・モチヅキではありませんか?」


 ルナと呼ばれた少女は頷きました。


「モチヅキ……? どこかで聞いたような~……」


 呟くテンにアデリタが答えました。


「フウカ・モチヅキ、だろう。あの本の著者の名前だ」

「ああ!……ということはその人の娘さんかお孫さん?」

「待て、アデリタ。その人物は何百年も昔の人物ではなかったか? そうなると娘としても、いや、孫だとしても若すぎる」


 語り継がれる勇者の伝説が起こったのは何十年何百年も前の話です。今の時代はそれから何世代も経ています。


「いや、孫であっているよ」

「どういうことですか?」

「オレと会ったときはほんとに小さかったのに、大きくなったんだなアデリタ」

「……ええ、ずっとお会いしたかったです。おばあちゃん」


 その場で互いを理解していたのはアデリタとルナだけでした。

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