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銀狼の薬蜜  作者: 飴城甘*
幕間
6/11

第5.5話『空の旅』

 その船は、船体に大量に取り付けられたプロペラと船の中央部に存在する重力制御装置のおかげで空の旅を実現しています。

 重力制御装置は船の周囲50mほどまでの範囲を制御しているため、外から動物が入り込むことは難しく、船から物が落ちても船に戻せるように設定されています。

 装置のエネルギーは魔力となっていて、1回の航行に多大な量を消費します。

 仮にここが故障した場合、ほぼ航行不能状態となり、墜落するでしょう。空船の心臓部とも言われている装置なのです。


「わぁ~~~っ」


 航行を開始してから数時間。下の大地がうっすらと見えてきた頃。テンは船の端まで行って大地を眺めていました。

 見えてきたと言ってもまだまだ空高い位置に存在し、大陸を一望出来てしまうほど遠くまで見通せました。


「すごいですね! アデリタさん!」


 振り向き、アデリタを見ました。アデリタは落ち着いた様子で見降ろしています。


「1度は見たことあるはずだが、やっぱり覚えていないか」

「あー……」


 テンがこの世界にやってきた時、その居場所は下の大地でした。それからアデリタによって空の島スカイトラッドに連れてこられたのですが、その際にテンはこの船に乗っていたのです。

 しかし、その時のテンは絶望し、思考力も落ちていて記憶に留めておけるほど余裕のある状態ではありませんでした。


「そう言われてみればそうでしたね。あはは……」

「でも、良い眺めだな」

「……はいっ!」


 甲板では、船乗りたちも今はゆったりと休んでいるようでした。

 アデリタはある場所を指さしました。そこには緑豊かな大地の中に遠目からでも町が広がっているのが分かるほど建物の多いところでした。

 中央にひときわ目立つ建物も建っています。


「あそこに見えるのがフランタミアだ。そして、その国土は――」


 大陸の北端から南端までを指さしてテンに伝えました。

 フランタミアは大陸の中央に鎮座し、その国土は大陸の半分以上を有しています。


「そのフランタミアに行くんですよね。すっごい広いですね……」

「そうだな。お姫様がいるのが」


 南東の方へと指さし、そこにあるのは都市部と比べると小さく見える町でした。それでも城が建っているのは確認できます。


「エルドラノールという町だ」

「ほぉ……!

「姫様がいるには小さな町と思っただろう」


 2人の後ろから会話に入り込んできたのはウィルベルトでした。


「え? いやそんなことは思っていませんよ?」

「……私は小さいと思う」


 否定するテンの横で茶化すように口を挟むアデリタ。


「…………この広大な国土の中で姫様が任されているはあの町だけなのだ」

「……?」


 テンにとってそのことがどういうことを指しているのかわかっていませんでした。その様子を見て、アデリタが言葉を添えます。


「あの国は、王が国を治め、各地の領土をその息子や娘が治めていて、その広さが彼らの権力の強さを示しているんだ」


 それでもピンと来ていないテンに対し、イチから説明しようとも考えましたが、めんどくさくなってウィルベルトに託すことにしました。


「……そうだな。王というのはわかるか?」

「はい、国の1番偉い人ですよね」

「うむ。そして次の王は、王の子どもたちの中から1人選ばれるのだ」


 ウィルベルトは1つずつ確かめながらテンに教えていきました。


「……その王様を決めるのに、町の大きさが関係しているということですか?」

「惜しい。それも1つの要素だが、多くの町を管理できることが重要になってくる」

「多くの?」


 ウィルベルトは頷きます。


「王となればこの国全体を治めねばならない。なら次の王にふさわしいのは、多くの町を統治できるものがふさわしいとされている」

「なるほど」

「多くの町を統べるということは、人の扱いに優れ、人民からの信頼も厚いことになる」


 テンは下の大地を見下ろしました。他の町と比べてもエルドラノールは小さいようでした。


「姫様はその力がないわけではないが、ご病気から領土の管理を兄妹たちに分けざるを得なくなった」

「……お姫様はもうその権力が弱いってことですか?」

「ということだ」


 テンはエルドラノールを見つめました。するとアデリタが口を挟みます。


「まあ、弱いどころか王への道は閉ざされているだろうな」

「…………このままならいずれあの町の統治者からも降ろされるだろう。今でさえ取り上げられていないことが不思議なぐらいさ」

「…………」

「テン殿」


 思いつめるように俯いていたテンにウィルベルトは優しく微笑んで声を掛けました。


「君は何をしに行くのだったかな」

「……! 病気を治してあげるためです」

「病気を治せば、姫も燻っていた手腕を発揮できる」

「そうですね! 絶対治しましょう! ね、アデリタさん!」

「……」


 なんだこの空気、と言いたげにめんどくさそうにするアデリタ。しかし、すぐに取り直し頷きました。


「ああ、そうだな。そのために行くのだ」

「アデリタ、頼む」

「いーっ! 辛気臭い顔をするなウィル! この……!」


 耐えかねたように動き出し、ウィルベルトの頭をワシャワシャとかき乱しました。ウィルベルトも驚いた様子ではあるものの強く抵抗は示しませんでした。

 テンは空を見上げました。いつも暮らしていた島を下から覗くとこれまた違う印象を受けます。


「お姫様って、どんな人なんだろう……っ!」


 テンは期待で胸を膨らませませるのでした。

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