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銀狼の薬蜜  作者: 飴城甘*
第6章『銀狼の薬蜜』
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第9話『緊急事態』

 貿易商人の男性は真っ先にアデリタを船から降ろし、アデリタ宅へと運びました。


「よし、あとはなにかあれば近所のだれかを頼るんだよ」

「はい、ありがとうございます。おじさんっ」


 そして、アデリタをベッドに寝かせたあとそそくさと自分の仕事に戻っていきました。

 そこでアデリタは意識を取り戻したようで、苦しそうに吐息を漏らしました。


「……テン。私は大丈夫だから、お前たちだけで森に行ってこい」


 その子はか細く、いつもの様子はみじんも感じられませんでした。


「本当に大丈夫ですか?」

「……大丈夫だ。薬飲んで寝てりゃいずれ治る。そこの棚の……上から3番目の薬を持ってきてくれ」


 アデリタは棚を指さし、必要な薬をテンに持ってこさせました。それは普段からアデリタ本人が作っている常備薬でした。

 その薬を水で飲んで、アデリタはまた横になって寝ました。


「……寝ちゃいましたね」

「だな。……どうする?」

「ここならたぶん2人でも大丈夫でしょうし……」


 うん、とテンは頷きました。アデリタが言う通り、銀狼の森へと行くことにしました。

 森に行く前に近所の人たちにアデリタの状態を説明しました。


 それから2人で森へと入りました。

 ルナはこの森のあちこちを気にしながら歩いていきます。テンもアデリタがいないときに森に入るのは初めてで不安で胸がいっぱいです。

 森は静かで鳥の鳴き声と風で葉が擦れる音が響き渡っています。

 テンたちは無警戒に獣道を歩いていていましたが、動物の気配は感じられません。


「……ここにいるのか?」

「前はこの森で会ったんですよね。……どこにいるかはわかりません」

「獣の勘とかでわからないのか?」

「そこまで獣になってませんっ」


 テンは苦笑しつつ答えました。

 それからも森を進んでいきましたが、銀狼の姿はありません。


「奥の方まで来ているけど」

「大丈夫ですっ……前にも、来たので!」


 その様子からは大丈夫さなんて見当たりません。ルナは大きくため息をつきました。


「出るのも苦労しそうだな」

「……すみません」


 ルナの言葉にテンは項垂れました。

 ガサッと音が聞こえて、2人はその方を見ました。しかし、それから音は途絶えて何も出てきません。2人は少し見たあと、顔を見合わせます。


「何がいると思う」

「なんでしょうね……」

「行ってみるか」

「あ、ちょっと」


 ルナは音のなる方へと進んでいきました。茂みをかき分けて進むとそこには白い毛をした狼が数頭いました。1頭が横たわり、周りを囲んでいます。

 テンはそれを見て、池の汚染事件を思い出しました。まさか、と思い飛び出して倒れている狼の様子を確認しました。すると、取り囲んでいた狼はすっと後ろに下がって、テンの様子を窺っています。


 倒れている狼は死んでいるというわけではなく、苦しそうに呼吸をしていました。

 口元の草には黒い液体でぬれたような跡があります。


「これは病気か?」

「わかりません……でも苦しそうです」


 周りの狼たちは悲しそうにしている、とテンは感じました。倒れている狼を心配しているのだと。何をするでもなく、ただ倒れた狼を見つめていました。


「……薬を作ったことは」

「手伝ったことなら……こういう時アデリタさんがいれば」


 テンは思わず手をかざして、蜜を出そうとしました。しかし、1頭の狼は鼻先でテンの手をつついて、その注意を向けさせます。テンが振り向くと、狼は首を横に振りました。


「……ダメなんですか?」


 狼はテンを見つめます。


「落ち着け、テン。原液は毒だ。そうだろう?」

「あ、そうでした……」


 テンは掲げていた手を降ろしました。不安とテンパりと緊張でテンは涙目になっていました。


「……テン。お前下の大地にいる時、本を持っていたな」

「はい、銀狼の薬蜜ですね。あれは家に……」

「テン」


 ルナはテンをまっすぐ見つめました。


「お前が薬を作るんだ」

「えっ」

「アデリタさんに……」


 そこまで口にして、アデリタは体調不良で寝込んでいることを思い出します。

 すると、倒れていた狼はガフッとせき込み、血のような黒いものを吐き出しました。


「……時間がない。覚悟を決めろテン」

「……」

「助けたいか、助けたくないか。どっちだ!」

「……助けたいですっ! 助けましょう!」

「よし」


 テンが決めたあと、ルナは頷きました。


「まずは人手が必要だ。お前はまず助けを呼べ。誰でもいい」

「はいっ。……ルナさんは?」

「私はこの狼を出来るだけ町に向かって運ぶ。向かう先はアデリタの家だ」


 テンは頷き、町の方へと走り出しました。道は迷うはずもないほど真っすぐな道。テンは急いで救援を呼びに行きました。

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