538 ムルート(男爵領)
無事、マイヤー男爵領の町に到着した。
「今さらだが、馬車ってどこで売れるんだ?」
コラウスで言えばコレールの町くらいの規模。人口で言えば一万人くらいか? 大きいと言えば大きいが、そこまで商売に活気があるとは言えない。いや、なんか城壁の前が賑わっているな。
「隊商が集まる広場にいけば仲介屋がいる。その仲介屋に言えば買取りしてくれるはずだ」
へー。そんなのがいるんだ。
ミシニーに任せて馬車を進めると、町の裏にきた。
「川が近いんで昔から隊商はここに集まる」
その昔が気になるが、命が惜しいので黙っておく。ミシニーの手が領域に入っているからな。
広場には隊商はいなかったが、仲介屋なのか、男が二人近づいてきた。
「初めて見る隊商だな? どこの商会だい?」
馬車を見ただけでわかるんだ。普通はわかる印でも揚げているのか?
「わたしたちは、ゴブリン駆除ギルドのものだ。ウワサは聞いてないかい?」
あ、そうだ! 冒険者ギルドにワイニーズ討伐のこと報告にいかなくちゃならないんだったよ! すっかり忘れてたわ。
「あんたらがそうかい。ウワサには聞いてるよ。ここでもやってもらいたいよ」
「被害が出ているのかい?」
「今年はあまり姿を見てないが、ムルートのほうは被害が出ているって話だ」
ムルート? アシッカとは別の方向か?
「それは、いい情報を聞いた。いってみるよ。だが、今日は馬車を売りにきたんだ。買取りしてもらっていいだろうか?」
よくわからないからミシニーに任せているが、ミシニーのコミュニケーション能力の高さに驚いてしまう。
いや、コミュニケーション能力が高いのは知っているが、仲介屋の男たちはミシニーの耳に目がいっているのに気にした様子もなく受け答えしている。素直に凄いと思うよ。
「ああ、問題ないよ。これから交易が頻繁になるからな。買わせてもらうよ」
「それはよかった。タカト。どのくらいで売る?」
え? そちらから提示してくれるんじゃないの? そうだとばかり思って考えなかったよ。
「えーと、時間がないから値が低くくても構わない。今日中に払ってもらいたい。どうだろうか?」
「安く買い叩くってことかい?」
「ああ、そうだ。オレらはゴブリンを殺していくらの稼業。ここで手間を取られるほうが損だ」
「まあ、そちらがそれでいいのなら馬込みで一台金貨五枚でどうだい?」
「売った。それでいい」
びっくりされたが、構わないと押し進めた。
男たちがすぐに人を集め、馬車の具合を確かめたら一台金貨五枚で契約を結び、一時間くらいで金を支払ってくれた。
「粘れば金貨七枚はいけたぞ」
てことは金貨六枚が相場ってことか。馬車って結構高いものなんだな。いや、馬が高いのか?
「欲張ってもいいことない。ゴブリン駆除ギルドを広める宣伝料だと思えばいいさ」
元々タダで手に入れたもの。手間はマイヤー男爵領まで運んだだけ。一台金貨五枚になれば大儲けだろうよ。
馬車八台で金貨四十枚。毎度ありー、だ。
「マーダ。分け前だ」
ニャーダ族の男たちに金貨一枚ずつ渡した。
「金の使い方は徐々に学んでいけ」
「いいのか? 金貨だぞ?」
マーダは金貨の価値を知っているようで、驚きの顔を見せていた。
「持っていろ。いろいろ使うこともあるからな」
なにに使うは説明できないけどな。
「マイルスさんたちの分け前です。隊で分けてください」
冒険者組で、リーダーのマイルスさんに金貨を六枚渡した。
「おれらもか?」
「ええ。馬車をマイヤー男爵領まで運んでくれましたからね。分け前を渡すのは当然でしょう」
残りはオレが管理する。ミシニーや獣人姉妹は前から持たせてある。これ以上持たせても邪魔なだけだからな。
「マイルスさん。あとは好きにしてください。オレらはもうしばらくマイヤー男爵領にいますんで」
「わ、わかった。おれらはムルートのほうを回って、ライダンド伯爵領を通ってコラウスに戻るよ。ギルドは知っていても他のヤツらは事情を知らない。あれこれ訊かれるのも面倒だから半年くらい帰らないでいるよ」
それもそうだな。他のヤツまで考えていなかったよ。
今日は町に泊まると、オレらはここで別れた。
「マーダ。お前たちはコラウスに戻っていいぞ。ビシャとメビもだ。ゴブリン駆除をしながら帰るといい。オレらは魔石を売って男爵にワイニーズ討伐の報告をしたら飛んで帰るよ」
冒険者ギルドに報告にいかなくちゃならない。なにかに巻き込まれる前に帰るとしよう。
「わかった。仲間が気になるから帰らしてもらう」
「タカト、無理しないでね」
「ミシニー、タカトをよろしくね。雷牙もタカトから離れちゃダメだからね」
心配されるのはありがたいが、なんだかオレがトラブルメーカーのように聞こえるのは気のせいだろうか? 誰か違うと言ってくれ!
なんて願いは誰にも届かず。ニャーダ族は去っていった。
「ジュリアンヌの店にいく」
「ジュリアンヌか。懐かしい名だ。まだ生きていたんだな」
「知っているのか?」
年齢を隠したいならヒントとなることは言わないで欲しい。つい考えてしまうじゃないか。
「まーな。古い知り合いさ」
それ以上は訊くなと受け取り、ジュリアンヌの店に向かった。




