第1話 逃避行
3作品目です!よろしくお願いします。
「サリーシャ・ランドマーク公爵令嬢!!私は貴方との婚約を破棄する!第一王子である私の婚約者であることを盾に傍若無人な振る舞いをしたことを許すことは出来ない!そして聖女アリスにも嫌がらせをし、その上階段から突き落とすなど言語道断、厳罰に処す」
何ということだろう!?この国の第一王子であるアルト様は聖女アリス様を腕に抱き卒業パーティーのこの場であのような宣言している。
私はそんな事なんてしていないのに。
「アルト様!わたくしはそのようなこと……」
「黙れ!衛兵よ、さっさと連れて行け!」
衛兵に連れて行かれる途中、目の端に聖女アリス様がピンク色の髪をなびかせアルト様に抱きついているのが見えた……
外務大臣である両親が陛下と共に外遊に出ている中、裁判もなくパーティーからたった5日後に刑が執行された。
お父様お母様ごめんなさい……
私はそっと目を閉じた。
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「サリーシャ・ランドマーク公爵令嬢!!私は貴方との婚約を破棄する!第一王子である私の婚約者であることを盾に傍若無人な振る舞いをしたことを許すことは〜」
どこかで聞いたことのあるセリフを私はまた聞いている。
ええっ!!これは!?目の前には戸惑う私の姿が見える。私は処刑されたはずでは??
声の主である隣の人を見上げるとアルト様!!
これはどうなっているの?ふと頬に触れる自分の長い髪を見るとピンク色!!!そしてこのシチュエーション……まさか私聖女様になってる???
ではあのサリーシャは誰?
いやいやマズイ!このままではサリーシャが断罪、処刑されてしまう。考えている時間はない。
サリーシャは本当に何もしてないからね!お父様とお母様を悲しませたくない。
「アルト様!!ちょっとお待ち下さい!」
私は話の途中でこっそりアルト様に話しかけた。
「アリスどうしたんだい?大丈夫だよ。この僕に任せて!」
アルト様はサリーシャだったときには聞いたことがない甘〜い声で囁いてウインクまでしている。
「いえ!アルト様!聞いて下さい!」
私は周りにも聞こえるよう強めにアルト様に話しかけた。
「アリス?もしかして、もっと色々なことをサリーシャにされたのかな?言ってごらん?」
よしっ!とりあえず話を聞いてもらおう。
「私はサリーシャ様に酷い言動を浴びせられたことなどありません!」
「アリス何を言っているの??さてはサリーシャに脅されてるんだね!サリーシャ!なんて卑怯なことをするんだ!」
「アルト様、サリーシャ様に脅されてなどおりません。私の話をちゃんと聞いて下さい」
「アリス……聖女だからといってすべての人を慈しむ必要はないのだよ。大丈夫!汚れ仕事はこの王子に任せるんだ!衛兵〜」
ダメだ〜!この王子は人の言うことを聞いちゃいない。このままではサリーシャがまた処刑されてしまうではないか。
私は周りを見渡して大事な大事なあることを思い出した!
よし!王子から逃げよう!!
私は王子の腕を振り払い壇上から飛び降りると、私の手を取って走り出した。
「アリス様?いったいどうしたのです?!」
懐かしい私の声にジーンとしたが浸っている暇はない。
「サリーシャ様、このままでは5日後には貴方は処刑されてしまいます。私は知っているんです。8日後にはお父〜じゃなくてランドマーク公爵夫妻と陛下が帰ってきますよね?それまで逃げましょう!あの王子のいう事に従っていては処刑されてしまいます!」
私は走りながら舌を噛みそうになりつつ説明した。
「なぜ、そんなことを貴方が!!……いえ、さすが聖女様ね。先読みの力があるのかしら?」
「二人とも待て!」
「聖女様!お戻りください!」
衛兵たちが追ってくる。
捕まる前に!今のアリスなら出来るはず!
「サリーシャ様!私の手をしっかり握っていて!テレポート!!」
私たちは卒業パーティーの会場から姿を消した。
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私は王子との不毛なやり取りをしている最中に思い出したのだ!ここは乙女ゲームの世界だということを。
私はサリーシャとしての生を終え、次に別の世界の人間「小鳥遊 真理」に一度生まれ変わっている。
この世界は真理の時にハマっていた乙女ゲーム「聖女の恋は蜜の味」の世界にそっくりなのだ。
略して「恋蜜」をやっていた時にこの世界の記憶を取り戻すことはなかったが。
恋蜜では、主人公であるアリスがストーリー序盤で聖女となり様々な力を使ってイベントをクリアしていく。イベントをクリアするたびに攻略対象と使える力が増えていくのだ。
ちなみにアルトイベントでは、無実の罪で悪役令嬢にさせられたサリーシャを連れて8日間逃げ切るのがクリア条件だったと思う。
でも、アルト様が急にあんなふうな暴挙に出たかはわからない。なぜなら、真理はアルトイベントをクリアすることなく事故で亡くなったからだ。きっと、クリアしていれば実は〜みたいな真相が明らかになっただろう。
クリア条件はわかっているもの攻略方法は手探りだ。とりあえず逃げ切るのみ!!