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2.告白大作戦

 何も知らない望夢のぞむたちに、雪斗と別れたあと、空は屋上で事情を説明した。


 まさか告白の後押しだと思わなかったのか、彼らは驚いた後、飛鳥・望夢のぞむかいゆかりの順で不安を口にした。


「……上手くいくか?」


「第一、告白の後押しなんてしたこともないしな」


「紫はあるでしょう? 望夢の」


「……あるけど、あれは……何振り構ってられなかったっていうか~……勢いだったからね、ある意味」


 彼らの反応は当然だった。


 空自身、自ら言っておきながら具体的なプランは無く、不安しかない。それでも、自分一人より彼らと一緒なら心強く、何より、上手くいく気がしたのだ。


 迷惑をかけるのは承知で、空は想いを込め、彼らの前に深く頭を下げる。


「みんな巻き込んでごめんね……! でも、私……白尾しろお君は上手くいくと思うの! だから諦めてほしくなくて……っ。こんなの、私の一方的なお節介だって解かっているんだけど、どうか、力を貸してください。お願いします……っ!」


「空……、もういい。頭を上げろ。気持ちは充分伝わったから」


 望夢のぞむの手が空の肩にそっと触れ、彼女の頭をあげさせる。呆れられただろうかと不安になる空だったが、頭を上げた先には、四人の笑顔があった。


「しょうがねーな、空はお人好しだからな」


「空ちゃんに何かあったら力になるって、前に約束したからね」


「心配しなくたって、俺達はいつでも空ちゃんの味方だよ」


「空、お前が一生懸命になるのはいつだって他人の為だ。だから、俺達はお前を信じてる。もっと俺らのこと頼ればいいんだよ」


「……飛鳥君、海君、ゆかり君、望夢君、ありがとう……っ!」


 空は、どれほど良い仲間を持ったか、知っているつもりだったが、より実感した今、どうしようもなく涙が込み上げそうになった。


 こうして、雪斗プラス、空達五人の告白大作戦が秘密裏に始動した。


 ***


 作戦一、告白する度胸をつける。


 これは、望夢のぞむと飛鳥の案だった。そして、そのために選んだ方法は、元々は海の祖父がしており、今は叔父が師範を務める空手道場への入門。


「海達から頼まれたからって、俺は手は抜かないぞ? 覚悟はいいかい?」


 海からは全く想像がつかない、強面で屈強な叔父が、真っ直ぐ雪斗を射抜く。


 雪斗はグッと、あってないような腹筋に力を入れ、声を出す。


「はい……っ! よ、よろしくお願いします!」


「返事から駄目だ。もっと腹から大きな声で!! 押す!!」


「押す……っ!!」


 厳しい道のりだが、告白当日までは通い続け、心身ともに鍛えて貰うことになった。


 作戦二、男らしいところを相手にみせる。


 作戦は実にシンプルで、彼女がナンパされているところを、雪斗が颯爽と現れ助け出すというもの。


 これはゆかりかいの策。そして、紫の縁者に協力を仰いだ。


「――で、何で俺が……?」


 不思議そな表情を浮かべる協力者は、紫の二番目の兄・久遠紺くおんこんだった。彼は、紫がいずれ女に刺されて地獄行が決定していると言うほどの女好きで、例にもれず、軽く空も口説かれたことがあるほどだ。


「お前以外に適任はいない」


「ったく、兄に向かって随分な言い方しやがって。いいか? 一個貸しだからな?」


 さらっと毒吐く弟に、紺は不服そうに眉を持ち上げながら微苦笑を浮かべる。だが、ゆかりの方が一枚上手だった。


「その貸し、この前、親父主催の見合いを断る隠蔽工作に協力した分でチャラね」


「なっ……くっそー! かわいくねー!」




 何はともあれ作戦は開始された。


 取り敢えず、雪斗は片思いの相手雅を、指定の場所へ呼び出す。少し遅れると伝え、待っている彼女の所へナンパ男に扮した紺を向かわせた。


 雅はあの日見たときと同じく、長い黒髪を頭の後ろで一つにまとめ、ワンピースにミュール姿でとても綺麗だった。


「一人? 暇ならどっかで飯でもどうかな? お兄さん奢るし」


「……いえ、人を待っているので結構です」


「でも、君十分以上そこで待たされてない? こんなカワイイ格好している子を待たせるなんて、俺ならないな~。一緒にバックレちゃおうよ?」


 我が兄ながら最高のクズぶりだと感心するゆかり、そして空達は遠くから見守る。


 そしてこのタイミングで雪斗の出番である。


白尾しろお君、頑張って」


「う、うん……!」


 雪斗は空に応援され、顔に力を込める。


 ――が、ここで想定外の事態に。


「いててててて……っ」


 何やら声が聴こえて全員が顔を向ければ、雅が紺の腕を後ろに締め上げていた。


 ――え?


「しつこいわね! 今日は大事な日なんだから、邪魔するなら容赦しないわよ!」


「す、すみません……っ」


 全員、何が起こったか分らない表情になる。


「警察に突き出したっていいんだから!」


「や……それだけは、マジで止めてください!」


 これはマズい。みんなで顔を見合わせると、ゆかりが偶然を装いつつ、慌てて駆け出した。


「兄貴! ちょっと、何やってんだよ!?」


「紫……っ」


「……その人、貴方のお兄さん?」


「うん。ウチの馬鹿兄貴が本当にごめんね……っ! 俺からきつく言っておくから、警察だけは勘弁してもらえないかな!? お詫びと言っちゃ、なんだけど、これ……あげるから」


 そう言ってゆかりがズボンのポケットから取り出したのは、映画館のチケット。もしもの時のために用意しておいた。因みに、しっかり恋愛モノ。


「これは……?」


「知り合いから貰ったんだけど、俺行く相手いなくって……。見たところ、君デートっぽいし、よかったら」


「で、デートってわけじゃ……っ! でも……ありがとう」


 そう言う雅はどこか気恥ずかしそうに顔を赤く染め、乙女モードでとてもかわいいかった。


 これはイケるんじゃないか? と、作戦が失敗し肩を落とす雪斗以外は思った。


白尾しろお、今だ! 行け!」


 好機を逃がさないよう、望夢のぞむが強く雪斗の背中を押す。雪斗は弾かれるように勢いよく飛び出し、雅の元へ駆けつけた。


「み、雅ちゃん……!!」


「雪斗!」


 彼女は、嫌な思いをしたことなど微塵もかんじさせない笑顔で、遅れて来た雪斗を出迎える。


「雅ちゃん何かあった……っ? 大丈夫……!?」


「全然、何も。それよりさ、これ貰ったから、一緒に映画観に行こうよ」


 チケットを顔の前でちらつかせほんのり紅い顔で笑う雅。彼女につられ、自然と雪斗も表情がほぐれていく。


 とてもいい雰囲気だ。


 そのまま、二人は映画館の方向へ歩いて行く。ふと見れば、雅が雪斗の腕に軽く腕を絡ませていて、後ろからみれば普通に学生カップルに思える光景だ。


「……あいつら、付き合ってないんだよな? 白尾しろおが鈍感なだけじゃねえか、あれ」


「うーん……。私はだから、上手くいくと思ってるんだけどね」


 微笑ましい二人を見送りながら、望夢のぞむと空はそんな会話をしていた。




 それから暫く、二月。世の中はバレンタインムードになりつつあった。


 立ち並ぶどこの店でも、バレンタインのお菓子や、かわいいラッピング類、お菓子の作り方や、告白や感謝の想いを伝える方法が載った本など、何かしら関連のモノがやたらと目に付く。


 その街中を歩く一組のうち、空と望夢のぞむも、話題は自然とそちらへ。


「望夢君は、甘いものって平気?」


「得意ってわけじゃないけけど、嫌いじゃねーよ。それに、空がくれるのなら何だって嬉しい」


「それならいいんだけど……! あの、こないだのこと……なんだけどね」


 空が笑顔から一転、硬い表情になると、望夢のぞむが不思議そうにこちらを見返す。


「どうした? こないだって?」


「……あの、白尾しろお君と保健室で会ったとき……、本当は何でもなくなかったんだよね……?」


「え……っ。あー……あれは、まあ、その……俺の一方的な嫉妬ってやつ……悪い」


 望夢のぞむが苦笑交じりに気まずそうに謝るので、空は望夢の手を握って首を横へ振った。


「ち、違うの。えっと、上手く言えなくてごめんなさい。望夢くんは全然悪くなくて、だから謝って欲しかったわけでもなくて……っ、ただ、嬉しかったの」


「え……?」


 意外な反応に驚いている望夢のそむに、空は小さく笑みを浮かべながら言葉を重ねる。


「望夢君のことを信じているし、私も望夢君から離れる気はないけど……ときどき、どうしても他の女の子達と比べて、不安になったりすることがある。だからこそ、私には白尾しろお君の想いが痛いほど理解出来て……、つい力が入っちゃったんだけど……。私、望夢君がヤキモチやいてくれて嬉しかった……! ただそれがね、伝えたかったです……」


「空……不安にさせてたのに気付かなくってごめんな? でも、マジで、俺……言ってなかったかもしれないけど、お前が初恋だから……」


「えっ……初……!?」


 今度は空が驚く番で、望夢のぞむはふっと可笑しそうに笑いながら、空の小さな両手を握り返す。


「前に言ったろう? 安梨沙に何度告られても、それまでは恋愛に興味なくて断っていたって。――だから、ちゃんと真剣に、空だけ見ているから。俺は、空がいいし、空じゃないと無理……ってことで、安心して欲しい」


望夢のぞむ君……ありがとう。本当に嬉しい。……望夢君のこと大好きだよ」


 空が涙を零しながら、少し力を込めて言うと、望夢のぞむは手の甲でその涙を拭ってやりながら、彼女を一点に見て微笑む。


「俺も。空が大好き」


 二人は一度無言で微笑み合うと、通りを抜け、街中のライトアップを背にそっと唇を重ねた。



















 

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