吐きそう
王との謁見と聞いて、どんなものを想像する?
まずは赤いカーペットだよな。それから、豪奢な椅子に腰を下ろす王に、それを守る兵士。
俺は、勇者。
これだけ言えばわかるだろう。そう、トーマスとは、俺のことだ。
ノミの心臓が暴れまくる俺に、面を上げよだってさ。殺す気か!
俺は後悔していた。
主人公になりたい。その願いのために伝説の剣を抜いたが、主人公ってそんなにいいものだろうか?いや、俺にはこの肩書が重すぎて、吐きそうです。ごめんなさい、許してください。
もう、王様との謁見ってだけで吐きそうなのに、魔王と対峙しちゃったらどうなるんだろう?吐血するだろうな、ストレスで。
俺は息を大きく吸った。
なぜかって?王様が言いたいことがあるかどうか聞いてきたからだよ。
「はい。」
震える声で返事をした。
俺は決意した。このまま勇者になっても死ぬだけなのは目に見えてるし、そのせいで人類滅亡とか笑えねー。
俺のチート能力は、いまだに目覚めない。勇者になっても目覚めなかったのだから、もう一生目覚めないのだろう。
続きを促した王に応え、俺は震えながら事実を話した。
「俺は、勇者ではありません。本当の勇者は、王子様です。」
最後の部分は事実かわからないが、俺はそう言った。ちなみに、王子の名前はわからなかったので、王子様とか言ったけど、なんかキモイな。
もちろん説明を求めた王に、俺はストッパーの話をした。
「あのままでは、誰も剣を抜けませんでした。そう、真の勇者の王子様でさえも。」
「ですが、一民の声を届けることは不可能。なので、勇者という肩書を一時お借りいたしました。お許しください。」
俺は土下座した。あ、この体勢落ち着くわ。
俺は、こうして一民に戻らなかった。そう、戻れなかったんだよ。
「かはっ」
耐えきれなくなって、俺は吐血した。
吐血した理由?わかるだろ、あの場所に来てしまったんだよ。
彼を勇気ある者、勇者ではなく、誰を勇者というのだろう。
そう言ったのは、隣で俺の心配をするイケメン王子だった。こいつのせいで、俺は今人類の敵と向き合っている。
「俺は・・・トーマスぅ・・・勇者です。」
半泣きながらも、俺は魔王に名乗った。
ちなみに、こんな時でも、俺のチートは目覚めてくれなかった。