転校生
予鈴が響き渡る。五分後にクラスの朝会が始まる合図だ。
光は両腕で顔を覆い居眠りに入る準備をしている。この体制に入るとものの5分もあれば眠りにつける。
しばらくすると、教室のドアが開き担任の教師が教室の中に入ってきた。
「起立！気をつけ！礼！着席！」学級委員が号令をかける。それに合わせて生徒達は動作をする。
「今日は、皆さんに新しい仲間を紹介します。『渡辺』さん入って」担任教師が、廊下で待っていた転校生に教室へ入るように促す。
「おおお！」教室の男子たちの歓声のような声が上がる。
転校生は、少しだけ茶色かかった長い髪に透けるような白い肌、瞳は大きく、程よく膨らんだ唇。スタイルも良さそうである。街中ですれ違えば大半の男性は彼女を見て振り返るであろう。
その時、光は転校生に興味は無く、すでに軽い眠りの中で微睡んでいる状態であった。
あの時あった綺麗な若い母親、なぜだか彼女の事が頭から離れない。とても綺麗なお花畑で彼女とダンスをしている。周りには妖精の姿をしたひなちゃんが飛び回っている。ああ、夢なら覚めないで……。
「ちょ、ちょっと、光君.......、あの人って......もしかして……」斜め前の席に座る友伽里が、振り返りながら眠る光の肩を激しく叩いた。
「んーが、な、なんだよ、人が気持ちよく寝てるのに......」眠い目を擦りながら友伽里に言われるままに壇上にいる転校生の顔を見る。
「福岡から引越ししてきました、渡辺穂乃果と言います。皆さん宜しくお願いします」そう言うと転校生はペコリと頭を下げた。再度、男子生徒達からは歓声の声が上がる。
「あれ……えっ……？」その転校生の顔を見て、俺は一人驚愕していた。
「えーと、渡辺さんは.......、窓から２列目の一番後ろの席に座ってね」担任は、教室の後方の席を指さしながら指示した。その席は、光の座る席のすぐ隣であった。
転校生こと渡辺穂乃果は、教師に対して丁寧にお辞儀をしながら指定された席に移動して腰を下ろした。そして隣の席に座る光に向かって会釈してから彼に視線を合わせた。
「えっ？」今度は、穂乃果が光の顔を見て驚きの表情を見せた。
「あ、あの......、あなたは高校生だったんですか？」光が凝視する転校生は、先ほどまで夢の中で戯れていたあの人だった。
「あなたこそ、高校生だったの？」穂乃果も明らかに、光の事を年上だと勘違いしていた様子であった。その口元がかすかに引きつっているように感じた。
「そこの二人！転校早々仲良くなるのは良いけれど、デートの約束は放課後にしてね」担任のその言葉に、クラスの中は爆笑と口笛を鳴らす音が響き渡った。
「そ、そんなんじゃねえ！」光は激しい口調で担任に抗議した。
「渡辺さん。校内の事で解からない事があったら、彼に相談してね。先生は自由恋愛を応援しますからね」
転校生は顔を少し赤くしたと思うと軽く頷いた。
その二人の様子を見て、友伽里は嫌な予感と激しい嫉妬を感じていた。
