何もなかったわ
新学期が始まった。
日に焼けて真っ黒になった奴、四六時中家の中でゲームでもやっていたのだろうか真っ白な奴、人それぞれ有意義な夏休みを過ごしたであろう。
俺は足の具合が良くなってからは、アルバイトに没頭した。倉庫内の日に当たらない作業であったので、日光で皮膚が焼ける事はなかった。
「おはよう」俺より先に登校していた穂乃花を見つけて挨拶をする。
「おはよう」やけに機嫌がいいように思えた。きっと久しぶりに俺に会えたからに違いないと自己分析を試みる。
「あの・・・・・・、おはよう・・・・・・」遅れて友伽里が登校してきた。穂乃果の顔を見て顔色が少し暗くなる。時間が経過して彼女なりに反省したようであった。
「私、気にしてないから・・・・・・・」穂乃果はそう言うとニコリとほほ笑んだ。
「どうしたのよ、朝から陰気な顔をして!新学期よ!新しい朝よ!」何やら桂川が異様なテンションを上げながら割り込んできた。
「お前、朝からテンション高すぎだぜ、なあ穂・・・・・・」穂乃果の名前を呼びそうになったが急に恥ずかしくなって止めた。
「そうね、光君」」穂乃果は平然と俺の名前を呼んだ。そうか俺が意識しすぎなのだと少し反省した。
「なぬ?君達いつからそんなに距離感が狭まったの。まさかあの夜?」桂川はお道化ながらはやし立てる。その言葉を聞いた友伽里の顔が少し引きつったような気がした。
「なに、馬鹿な事言っているんだよ。俺達に疚しい事なんてないよ」俺は馬鹿な事を言うなとばかりに手を振った。
「ホントに?」クラス中が静かになって聞き耳を立てているようであった。
「そうね、何も無かったわ」穂乃果の言葉に反応するように男子達の安堵のため息が一斉に聞こえたような気がした。