書評『グリーン・ワールド』
地球の自然を台無にした人間たちが、遠く離れた別の星に移り住み、そこの自然を台無にする話である。
本書の見どころは主に二つある。一つ目が、惑星に暮す不思議な生き物たちだ。二つ目が、環境をことごとく壊してゆく人間の愚かさだ。
物語は移住から三十年後、人間たちが惑星での暮しに馴染んできた頃から始まる。
作者は古生物や進化に関する本を数多く著してきた。その知識は本書の設定でものびのびと発揮されている。体の作りも殖え方も、地球のものとは全く違う動物たち。どんな姿の生き物から枝分れて、他の生き物とどう関り合って生きてきたのか。色鮮かな挿絵は初めは気味悪く見えてしまうかもしれない。だが、本文を丁寧に読み込めば、彼らの面白さや愛しさが分ってくる。
惑星に降り立った人間たちは、地球でしでかしたことを反省して、自然とともに暮すことを誓う。しかし、世代を経るごとに歴史を忘れて、同じ過ちをおかしてしまう。
例えば、あの手この手を使って動物を殺し、滅ぼしてしまう。その成行きを鮮烈に表しているのが、小説の挿絵として載っている作中作の図鑑だ。初版の図鑑には何種もの動物が収められているが、版を重ねるごとに頁が黄ばみ、絵が塗り潰され、動物がどんどん減ってゆくのである。他にも、あとさき考えずに農業を始めて、地形がすっかり変る。無茶な品種改良のせいで、ペットが苦しみ足搔く。人間が森を街に変えたことで、生き物たちも変異し、あらぬ姿に変り果ててしまう。
こうして読み進めると、作者は遠い未来の遥かな星を描いているようで、実は近頃の地球を描いているのだと気付く。縮みゆくアラル海や、ゴミを漁るフィンチを想い起す。私たちの食卓に並ぶ家畜や家禽だって、先祖は野山で生き生きと駈けていた。路地裏や汚水に住む虫も、元々は美しい小動物だったのかもしれない。
本書を読み終えたあと、靴を履いて出掛けてみれば、身近な生き物たちの別の一面に気付くはずだ。