不幸の始まり
「ビクトル家の家主、ラムバート様。ただ今到着しました。神官のホアン、と申します。」
あの私の魔法事件が起きてから3日後、玄関先でこんな声が響いた。
ここ、ブランシュネージュ王国では、高貴魔法が使える人は神官になることが多い。
つまり、父は私の魔力について調べるため、私のために神官を1人派遣してしまったのだ。
なんてこったい…。てっきり、石で魔力量とか、属性とか調べるのかと思っていたから。
この国では特殊な石を使って魔力量を計るのが一般的である。安上がりで、簡単に調べられるかららしい。
ちなみに石にも属性があるため、それで属性も調べるとこができるが…
「人が見てるところじゃどうにもならないし、多分お父様は前の再現をしようとしてるのでしょうね…。はぁ……。」
本当にため息しかでてこない。
しかもいつもなら、こういうときに見守ってくれる執事のサティーもいない。
おわったなぁ…。
「フィオ。今大丈夫かい?今から神官にお願いして前の再現をしてもらうのだよ。」
嫌な予想的中…。ちっとも嬉しくない。
「よろしくお願いします。フィオーネ様。ホアンと申します。」
「よろしくお願いします。」
この3日間していたことなんてわがままを減らすことだけよ。魔法の制御でも少し習っておくべきだった。
少しばかり後悔しても何も始まらない。
※
「これより3日前の再現を行う。」
父の厳かな声が庭中に響いた。
そう、私の魔力が何者であるか調べるために庭に連れ出されてしまった。
「では、水の初期魔法の呪文を唱えますね。」
「هدهبهبعييعذعسقللحلحزعطسيذهتزداتهبذانغيطاتنحغيطتتっっ」
水が大量にどこからともなく溢れたと思ったら一瞬で氷に変わった。
そして、大きな氷の塊は周りの熱を奪って行く。
川の水が全部氷になったような感じである。
「っっ………」
ただ皆驚きのあまり、何も行動できず困惑するばかりであった…1人を除いて。
(やってしまったぁぁああ。というか前回よりひどい。ていうか、なんで氷になってるの?!)
「ご主人様、フィオーネ様、ホアン様。邸に今すぐお入りください。」
どこからともなく父の秘書の声がした。
皆この声で我に帰り、
「さ、寒い。」
そう。自分の熱が奪われていることに気がついた。
※
「申し訳ありませんが、初めての経験です。しかしながら、起こってしまったことには対処いたします。」
邸の中に入って一番最初に口を開いたのはホアンであった。
今は季節的には夏だというのに私が作ってしまった氷のせいで外はとんでもなく寒くなってしまった。
0度くらいだと思うが。
「迂闊に頼んだ私も悪かった。しかし、この氷をどう始末しようか。」
父の声からかなりの焦りを感じる。
「神官皆で、なんとか氷を除去できるよう、なんとかやっていきたいと思います。そうしなければビクトル家が、いや、ブランシュネージュ王国の存続の危機にさらされてしまいます。」
そうなのだ。ここ、ブランシュネージュ王国では国民の7割から8割が農業に従事している。
ビクトル家が治めている土地も例外ではない。
いや、まぁ私が今ここで魔法を使えば一発だと思う。炎の魔法を使えば…。
「あの…お父様。魔法を抑えるブレスレットとか、アクセサリーってなかったかしら?」
「あったら一か八かで炎の魔法を使ってみるわ。」
「まった!」
父とホアンの声が同時に聞こえた。
「フィオ。今回はまだよかった。人を巻き込んでないからね?しかし…炎はやばい。ブランシュネージュ王国全域が火事になってしまうかもしれない。」
まぁですよね……。
東京ドーム◯個分の氷を一応初期魔法でいとも簡単に作った私に魔法を使わせたら、ブランシュネージュ王国、いやナランダを消滅しかねない。
はぁ…この先どう生きよう。
ちなみに国の神官と、隣の国ブエルテ王国の神官170人を総動員し、1週間かけて氷を溶かしたそう。
なんとかブランシュネージュ王国は滅亡せずに済んだが、農作物が例年より取れず、税を納めることができない農民が多発し、まぁ大変だったらしい...。王様ごめんなさい。
※
「そういえば…」
1人になったフィオーネは、ある疑問が湧いた。
「兄の時はただ、水が湧き出ただけだったし、湧き出た水はどこかへ行ってしまった。」
そうなのだ。どこからともなく現れた水はどこかへ消えてしまっていた。しかも、
「湧いた水の量も少なかった。」
「でも、神官とやった時は水じゃなくて、氷になったし、消えないし、不幸体質がもろに出ているような感じがしたのよね…。」
まぁ、国を1つ潰しかけたのだから不幸に間違いはない。今までだったら、過失であっても即、牢屋行きであっただろう。
何がちがかったのだろう…。
「あーもー。普通の幸せって何よ?!」
割とやけくそになって、夜の空に叫んだ。
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