初めての魔法
「フィオ?今、大丈夫かい?」
突然声をかけられてびくっとした。
あれ…私、いつのまに寝ちゃったの…?
「う…うん…だいじょーぶ…」
「ほんと?庭でまってるからね!」
眠たい目をこすり、なんとか今の状況を把握しようとした。
今の声はラシリアお兄さんの声。つまり…魔法を学ばなければならない時が来てしまったということ。
フィオーネの部屋には時計はない。
また、鏡なども置いてない。
置いてあるのはでかいベットとクローゼット、それに机と椅子とランプのみだ。
「すぐ庭に行かなきゃいけないんだけど…。その前に今後の方針を書いたこの紙をどこかにしまわなければ…。」
この紙が見つかったら終了なのだ。
「ベットの下も多分ダメよね…。うーん…。となると…」
丁寧に紙を折ってクローゼットの中から1着の服を取り出した。そして、
「よし、紙に穴を開けて、服についてるリボンに通せば…。これならいいんじゃないかしら?見えないし。」
我ながら名案ではないか。ふふっと笑って呑気に過ごしていると、
「いや違うのよ!庭に今から急いで向かわないといけないのよ…忘れてた。」
※
一方その頃庭では…
「まだかな?フィオは…。緊張でもしてるのか?緊張してるのはこっちだというのに…。」
ラシリアは初期魔法しか使えない。だから妹であるフィオーネに初期魔法を教えるのに適していると判断されたのだが…
「フィオはどーせ初期魔法の呪文なんて覚えてないだろうし、呪文を唱える前にしれっと生活魔法とか、高貴魔法とかつかっちゃうんだろーなー…。」
「まったく、嫌な役だ。」
そんなことをぶつくさ言っているうちに愛しのフィオがやってきた。
「フィオ、大丈夫かい?」
「うん。準備はバッチリ!」
はぁ…とりあえず水の初期魔法でも出しますか。
「いい?フィオ。今から水の初期魔法を使うからよく見とくんだよ?」
「はーい。」
「اسحاطخسغسابتدعصلسعدって…えっ?」
水の呪文の途中なのにもかかわらず、初期魔法とは到底思えない量の水が湧き出し、庭一帯を一瞬で埋め尽くした。
「えっ?なんで?」
少しパニクるラシリアの横で、フィオーネは
(やっってしまったぁああ…お兄ちゃんの呪文を聞いて心で暗唱したら自分の力がでちまった。どうしよう。取り返せないミスを犯してしまった……)
…ものすごく後悔していた。
今まで、初期魔法を聞いたことがないわけではなかったが、何も起こらなかったので安心していた。
今までと違かったことは一つあった。
今までフィオーネはまったく魔法に興味がなかった。呪文を集中して聞くことなどなかった。しかし今日、兄の初期魔法に集中してしまったのだ。
「フィオーネ様!ラシリア様!大丈夫でしょうか?」
そして家の者たちが騒ぎを聞きつけて、ぞろぞろと庭にやってきて、みな
「なにごとですか……。」
と口を揃えて言った。
いやまぁそうなりますよね。半端じゃない水の量が一瞬で現れてしまったのだから。
「フィオ?フィオ?お前はこっちにきなさい。ラシリア?大丈夫かい?」
少し遅れてきたのは父。
父はいつもは厳つい顔をしているが、実はすごく過保護である。
はぁ…なんでこんなことになっちゃったんだろう…。
※
「それで、ラシリア、もう一度聞くよ?いつもの通り初期魔法を出そうとしたんだね?」
「はい。」
あの後、庭から家に戻り、父親から兄と私の2人で事情聴取を受けている。
「そしたら、初期魔法の途中でなぜか大量の水が出たんだね?」
「はい。」
「ってことはフィオが何か持っているのか?うーん。」
ごめんなさい。私が持ってます。
「フィオ。いいかい?しばらく魔法は禁止だ。ちゃんとしたところで君の魔法を見てもらおう。」
やっぱりそうなりますよね。もうごまかせなくなってしまうじゃないですか…。
作戦失敗。これから本当にどうしよう…。
いや待てよ?どーせバレるのなら、使ってしまえばいい気がする。
私だって普通の暮らしがしたい!
追放されても何されても、いいからもういっそのこと勝手にチート生活を歩もうではないか!
魔法について補足説明
魔法は大きく分けて3つ。
初期魔法と生活魔法と高貴魔法です。
何が違うかというと発動のさせ方です。
初期魔法は決められた呪文をいうのに対し、生活魔法はお願い事を妖精に言う感じです。そして高貴魔法は手で操る感じ。
そして威力も段違いらしいです。
ちなみに、初期魔法はほとんど全員が使えます。生活魔法はナランダの4割くらい。高貴魔法になると、全体の0.1%を下回るそうです。
以下、作者のあとがき
ここまで読んでくださってありがとうございます!コメントなどをお待ちしております。
あと、非常に申し訳ないのですが、ラブコメ要素は結構後になるまで出てこない…です……。
まじでごめんなさい(土下座)