神殿の間
「またダメでしたか。」
そんな声が頭の上から聞こえた。
何度死んでもこの感覚はなれないわね、と思いながら上体を起こした。
ここは神やその使いがいるところ。私は神殿の間と呼んでいる。
本来なら人間には入れないところだ。私は、まぁ色々あって死ぬたびにここに来る。
つまり、ここに私がいるというのは…つまり…また、殺されたのか……。
「ええっと前回の名前は柊藍那でしたか?平凡な容姿で、平凡な身に、運良く転生できたのに、また殺されなさったのですね?平和と言われる日本に行けたのに20年ほどでここに戻ってきやがって……」
そこでぶつくさ文句を言っている人は神様の使いである。名前がないらしいので、私が勝手に精霊のレイと呼んでいる。
ネーミングセンスは皆無なのは申し訳ないと思いつつ、他の名を思いつくわけでもないので、この名で呼ばせていただいている。
まぁ、実際には精霊ではないらしい。実際には天使の方が近いらしいのだが、絶世のイケメンに天使のテンちゃんとか名付けたら、なんかバチが当たりそうなのでレイと呼んでいる。
「聞いているのでしょうか?セリア様!まったくあなたという人は…」
「ええご心配なく。聞いていますよ。」
セリアはレイに心配をかけたくないため気丈に振る舞った。
本当は日本に思い入れがあった。日本では今までと違い見返りのない愛を両親や祖母、そして日本で初めて心を開いた、そして自分の身に起こっていることを初めて話せた幼馴染…いや恋人がいた。
今回ばかりは本当に死にたくなかった。本当に…
だがしかし、死んでしまった。本当は日本に戻りたい思いがあった。未練しかない。
レイにこの気持ちを打ち明けるか少し迷ったが、レイに心配だけはかけたくなかったので、黙っていることにした。
「もう何万回もこのようなことがあれば慣れますよ。仕方がないでしょう。呪いを完全に解くのは難しいので…」
そう私は今までにうん万回転生している。
そもそもの発端は、私が昔神の側近のオリシスに気に入られてしまったことだ。
ちなみに、その時の名前がセリアだったので未だにレイにはセリアと呼ばれている。
そんなことはさておき、その方の恋人であるリアーナの嫉妬によって、リアーナから呪いをうけた。
その呪いはずっと、私がだれかの憎しみによって、殺され続けることらしい。
不死ではないので何回も、いいえ、何十回、何百回、何千回、何万回も殺され、そしてそのたびに転生し、そして殺される。そんな運命である。
まぁはっきり言って最悪だ。
だいたい、今回はただ何事もなく大学生活を送っていた時に殺されただけだから死に様もましである。
が、しかし今までは、拷問されたり、奴隷になったり、犯罪者として処刑されたりと、ひどかった。
最近は少し呪いが解けてきたのか、なぜか知らないが、前回の転生で初めて普通の身分を手に入れた。
これはもしや、殺されずに済むのではと思っていたが、殺されてしまった。
日本に帰りたい…幼馴染にまた会いたい…そう心で思っている反面、また、自分の周りの何も罪のない人たちが、自分の運命に巻き込まれてしまうことをひどく恐れる気持ちもある。
呪いを受けた私が普通の人と同じように過ごしたから人生の絶頂でリアーナの呪いで殺されたのか。本気でそう思ってしまう。
もう一度このようなことが起きたら多分私は立ち直れない。
初めてもらった無償の愛に自分は何もできなかったばかりか、恩を仇で返してしまったのだから。
自分が最悪な人間だと思った。自己嫌悪に陥らずにはいられない。
あー次はどうしようか。どうしたら周りを巻き込まないで済むのか。
そんなことをしばしば考えているうちに、はたと、私を呼ぶ声に気がついた。
「………リ…様?セリア様…?本当に聞いていらっしゃいますか?」
「あ、レイ…ごめん…少し考え事をしてしまっていたわ。大丈夫よ。心配かけてごめんなさいね。」
「全く…本当ですよ、セリア様」
「ご心配おかけして、すみません。」
ああ、まずい。話が脱線したままだった。なんの話の途中だっけ?
そうそうリアーナの呪いの話だったわね。それで話を元に戻しましょう。
なぜレイは私が殺されない人生を送ることを望んでいるのか。その理由は一つである。
単純にこの呪いが神そして現世を覆い尽くしてしまい、最悪なことになっているから。
最悪なことって?と疑問が湧くかもしれないが大量にありすぎて語りつくせないのでまた今度。
そして、この呪いを解く方法は一つ。私が殺されずに自身の生命を全うして死ぬこと。
まったくリアーナはなんということをしてくれたのだろうか…
しかもリアーナは解呪の方法を知らない呪いを使ってしまったのである。
本当にどうしようもない方である。
「セリア様?本当に大丈夫でしょうか?取り乱してすみませんでした。俺がもっとちゃんとしていたら…本当にすみませんでした。」
「いえ、大丈夫ですよ。心配かけさせちゃってごめんね…。」
レイは少し年相応の落ち着きを見せて欲しいわと心の中でレイを毒づいた。全く、何万回とこのやり取りをしているのか…。
まぁ心配させるようなことをさせた私も悪いのかな?
「本当にすみませんでした。気分が優れないなどといった症状があったらすぐにこの私にお伝えしてください。」
「今のところ体調はいいわ。心配してくれてありがとう。」
いい訳がない。
だが、レイに悟られてしまったら心配をかけさせてしまう。いくら心配させたところで私はずっと神殿の間で過ごせるわけではないのである。
転生を何万回と見送るレイには苦労をさせてしまっていると思う。
そんな彼を余計に心配させるのは私がさせていいことではない。
「それは良かったです。何をしたらよろしいですか?」
「そうね…少しだけ魔術をを学ばせてもらえないかしら?」
「へっ?と言うことは、つまり…ナランダの方に次は転生すると言うことですか?いやいやセリア様...」
「自分で自衛できるくらい強くなればいいんでしょ?もう誰にも私を殺させないわ。」
レイの言葉を遮って自分の考えを伝えようとした。
もう二度と周りの人を巻き込みたくない一心で考えた末の結論である。
「ナランダならここで鍛えた魔術をそのまま使うことができるでしょ?」
地球とかそういうナランダとは違う所では私の魔法(正確には魔法ではないのだが…)が使えない。精霊の加護がないというのが理由だそうだ。
「しかしセリア様。そうなると普通の人と同じような生活は難しくなるかと…」
そうなのだ、そもそもオリシスの目に止められたのは私の魔力というかまぁ力が特別なものだったから、である。
普通の人は妖精の力を使って魔法を使うらしいの だが私は違う。精霊の力が使えるのだ。
何が違うかといえば、妖精は精霊の中でも人の形をして人のように感情を持つ。
例としてはディズニーのテ◯ンカーベル。気に入られないと使えない挙句にどのくらい使えるかもその人の魔力によってだが、決まっているらしい。
それに対して、精霊は自然が宿している力。
私は自然がある限り永遠に誰にも縛られらことなく魔法(?)が使えてしまう。
しかもよく見ると魔法を使っている時のオーラ?とかが違うらしい。
「魔法を使わずに静かに平穏に暮らすの。」
「なるほど…魔術ならば使っている様子みんなと似ていると昔言われていましたねぇ…。って、違いますよ、セリア様。冷静にお考えください。ナランダで今まで、何をされたか思い出してください。」
ナランダは今の日本ほど発達していない。
そればかりか、奴隷は当たり前、身分も存在するし、何もしてない善良の市民が犯罪者呼ばわりされて拷問されることも少なくない。
かくいう私も、何千回と奴隷になったし、何千回と犯罪者として拷問や磔をされた。私痛覚は人並みにあるのよ?本当に痛かったのよ?
貴族に初めてなった時には、それこそ、本当に喜んだが、なぜか結局悪役令嬢として弾糾され、毒殺された。
しかし、今回は今回ばかりはなんかうまくいく、そう思った。根拠のない自信に過ぎないのだが…
「まぁもう、いいんじゃない?自分の全てを使って生きていきたいのよ。今回だけはうまくいく気がするの。」
「そうですか…ここで揉めても何もいいことはないので、セリア様を信じることにします。ならば教えましょう、魔術を…。」
「あっ違うの…魔術の本を読みたいのよ。神々が使う高位な魔術ではなく、庶民的な魔術を学びたいの。」
「し、失礼しました。本を取ってきますので、少しお待ちください。」
魔術と魔法は似て非なるものだ。魔法は妖精に直接働きかけて例えば水をもらったり、火をつけてもらったりするものである。
しかしこれには弱点がある。使うたびに魔力を食ってしまう。そして魔力は人によってだが、そう簡単に蓄えられない。つまり一部の人を除いて非常に効率が悪い。
それに対して魔術は妖精と契約を結ぶのに近い。こうすることによって微力ながら妖精の力を借りることができる。そうするとわざわざ妖精に働きかけずに力を使える。
そして魔術を得意とする人は色々な属性を持つ妖精と契約し、さまざまな技を使うことができる。
「セリア様、取ってきました。こちらの本などはどうでしょうか?」
「ありがとう、レイ。そうこれよ、この本。この本が見たかったの。本当にありがとう。」
私はレイが持ってきてくれたいくつかの本の中から一つの本を取った。
この本こそ私が読みたかった本なのだ。この本は古代に書かれた本で、もう滅んだとされる精霊による魔術が描かれている。
この本で魔術を覚えよう!そして今度こそ死んでやらない!日本での悲劇を繰り返しでなんかやるものか!リアーナの呪いを受けない、そんな人生を歩もうではないか!
セリアは1人そう決意した。いや、決意しなければならなかった。そうしなければずっと日本であったことを引きずってしまいそうだからだ。
日本であったことを引きずれば、ここ、神殿の間で闇落ちしてしまう。それだけはセリアにとって避けたいことであった。
次の話はセリアが死んだ直後の日本が舞台になっています。
3話か、4話から転生先の話がスタートします。
転生ものが好きだから読んでくださった方々、すみません。
以下、小説には関係がない作者の話になります。付き合ってくださると幸いです。
はじめまして、雪 せつなです。雪はすずきと読みます。
初めての投稿なので読みづらいところなどあったかもしれませんがここまで読んでくださってありがとうこざいます。
誤字脱字等がありましたら指摘していただけるとうれしいです。
また、コメントがあるとより一層頑張れるのであると嬉しいです。
批判コメントも受け止めます。(多分…)
改善できるところはしていきたいので、ぜひお願いします。