5.前へ
「避難指示が解除されました。情報、配給品が必要な方は市役所へお集まりください。怪我をされた方、救助が必要な方は、、、」
ミリアはシェルター近くの公園で暫く呆然としていたが、ふと避難警報が鳴り止んでいることに気がついた。
「コウ。行こう。」
「い、行く?」
ぼんやりとしたままコウスケは問い返した。
「市役所に人集めてるみたい。もしかしたら皆も行ってるかもしれないよ。」
「み、皆って?」
コウスケは形見の時計を握りしめながらさけぶ。
「ミリアも見ただろ!皆あんなになってて、ベント高の制服だってたくさんあったじゃないか!みんな死んだんだ!父さんや母さん。ミゲルやサーシャ、モチコ先輩だって!みんな!みんな!」
「そ、その時計は?」
「父さんのだ。シェルターに落ちてた。」
「そう。」
ミリアは口をつぐんでコウスケに悲痛な目を向けた。暫くの静寂が訪れる。やけに風の音がうるさくコウスケは感じた。
「昔ね。」
ミリアはゆっくりと口を開いた。
「私のお母さんが死んですぐの頃、コウのお父さんに言われたの。」
コウスケはゆっくりと顔を上げた。
「死んだ人はね。遠い天国から見ていてくれるんだって。それでね、私が笑った分だけ幸せになるんだって。ねぇ、コウ、顔を上げて?前を向こう?生き残った私達にはその義務がある。何ができるかわからないけど、それでも笑顔でいなくちゃ。ね?」
「そんな子供だまし!!」
コウスケは声を荒らげる。
しかし、真っ赤になったミリアの目を見て言葉に詰まった。
「いや、ごめん。ミリアに当たっても仕方ないよな。分かった、行こう。どんな現実が待ってても向き合わなきゃだよな。」
コウスケは立ち上がり、歩き始めた。
(父さん、仇は必ず!)
ーーーーーー
市役所に着くとかなりの人数の人達がいた。中にはベント高校の制服も見受けられた。
「コウ!よかったね!無事な人もたくさんいるみたい!ホム研の皆だってもしかしたら!」
「ああ!そうだな!つってもどうやって探すかなぁ。」
その時、様々な放送や話し声に混じって一つの声が聞こえた。
「志願兵の受付はこちらでーす!ご希望の方は46会議室にお進み下さーい!」
暫くその係員を見ていたコウスケはおもむろに呟いた。
「なあ、ミリア、俺、軍に志願しようと思う。」
「はぁ?何を急に?志願したいなんて言ってたっけ?」
「いやさ、これから暮らしていくには軍に入るのが手っ取り早いかなって。戦争遺族年金とかすぐもらえるもんでもないだろ?軍に入っちゃえば取り敢えず食うには困んないじゃん。丁度良くホムンクルスならそれなりに技術と知識がある!」
「いやぁ、まぁそうかもだけどねぇ。てかコウ、モチコ先輩いなくてもちゃんと機体動かせるの?」
「いや、高校入る前は一人でやってたしモチコ先輩いなくたっ、、、」
「あらあら、ウチの名前聞こえたんおもたけど、勝手にいないものにしないで欲しいわぁ」
「「えっ?」」
後ろを振り返った二人の前に一人の少女が立っていた。