表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血鬼~Bloody Demon~  作者: にっしー
第1章戦場への帰還
2/9

第一話 出会いと再会 ①

初めまして!長編ファンタジー作品です。

これから、長くなってきますが、今後ともよろしくお願いいたします!

かつて、緋の眼に鬼の力を纏いし者たちがいた。


 彼らのことを人々は尊敬と畏怖の意を込めこう呼んだ。


 血の鬼……血鬼と。


 --ウエスタンシティ(西の都)。



「離せよ、僕の友達!」


 少年が、路上で綺麗な女性を捕まえた無精髭の男に叫ぶ。


 周りには野次馬がぞろぞろとその様子を見物しており、「危ないな」、「大丈夫かしら」と少年と女性を心配する声が飛び交う。


「んん?」


 野次馬の一人の男がニュッと顔を出してその光景を見つめる。


 無精髭の男は、少年に対し怒鳴った。


「うっせぇんだよ、クソガキが!悔しいならかかって来やがれ!」


「くっ…」


 少年は、何もすることが出来ず、頭を下げる。


「す、すみません。僕が悪かったです。だから、許してください。」


「ガハハ、だせぇな。それでも、男かよ!よーし、許してやるよ。次からはぶつからねぇよう気を付けることだな!」


 すると、男は女を蹴飛ばし、高笑いしながら去っていった。


 先ほどの野次馬の男は、ポテトチップスを食べながら言った。


「あらら…」


◇◇◇◇◇◇


 夕刻の土手で、先ほどの少年は一人佇んでいた。


 そこに、あの野次馬の男が少年の右隣へ座る。


「……食うか?」



 男は、ポテチを差し出した。


「いらないですよ。というか誰ですか、あなた?」


 少年は怪訝そうな顔で、男を見る。


「俺?俺の名前は工藤誠士郎。少年、名前は?」


「……陽助、藤堂陽助です。」



 工藤は、無言で夕日を見ながら、ポテチを食べる。


「ちょっと、聞いてます!?」


「あ、悪い悪い。お前、確かさっき土下座してたろ?」


 工藤の問いに、少年は少し頬を赤らめ、俯き顔で答える。


「……見てたんですか。情けない姿、見られちゃいましたね」


「けど、まあ、お前はちゃんとあの子を守ったろ?」


 その言葉を聞くや否や、少年は態度を一変させる。


「……守った?僕が……?どこが!!土下座しか出来ない男が守ったと言うんですか!?」


 陽助は、息を荒くし、工藤に詰め寄る。


 工藤は、至って真剣な眼差しで言う。


「ああ、そうだ」


 陽助は驚き、目を大きく開く。工藤は、そんな陽助に対して、言葉を続ける。


「確かに、お前の姿は端から見ればものすごくカッコ悪かったかもしれない」


陽助は、その言葉に対し、悔しさと、恥ずかしさの入り交じった表情を浮かべる。工藤は、そんな陽助に対して、なおも続ける。


「だがな、プライドを捨ててまで誰かの為に何か出来る人間はそう多くない。俺にはお前の土下座姿、カッコ良く見えたがな」


 陽助は一瞬、呆気に取られたような表情を見せると一粒、涙を流した。


「男に言われても嬉しくありませんよ」


「ん、それもそうだな」


 陽助は、不満をぶちまけるように工藤に話す。


「……僕もう、どうしたらいいのか分からないんです。僕は、力で人を守ることができない。大切な人でさえも。僕は何の為に………生きているんですか?」


 工藤は、頭を掻くと静かに話し出す。


「生きるってよ、そんな難しいことか?誰かのそばに居たいから、誰かと笑いあっていたいから……生きている。それで、充分なんじゃないか?」


「工藤さん、あなた、一体……」


「只の侍さ」


 工藤がそう言ったとき、土手の上から女が走ってきた。


 先ほど、無精髭の男に捕まっていた女だ。


「陽助君!」


「あ、結衣さん!」


 少年が駆け寄る。


「この方は、どなた?」


 女が陽助に聞く。


「え~と、工藤誠士郎さんって方です」


 陽助の言葉の後、工藤は答える。


「……旅の侍をしている」


 工藤は、腰の剣をちらつかせる。


「お侍さんですか、初めまして。陽助君の友達の上月結衣と言います。よろしくお願いします」


 女は、お辞儀をすると、手を差し伸べた。


「あ、ああ。よろしく」


 工藤は、ぎこちなく握手する。


「良かったら私の家に泊まって行きませんか?この近くで、旅館をしているんです」


「それは助かる。けど、ご両親に迷惑では?」


「いえ、両親は二人とも亡くなっているので」


 女は、顔を俯かせる。


「結衣さんのご両親、10年前の戦争で……」


 陽助が答える。


「……そうか。それは変なこと聞いちまったな。まあ、せっかくだし、泊まらせてもらうよ」


◇◇◇◇◇◇


 夜、二人と夕食を楽しんだ後、二人が寝ているのを確認するとそっと外に出た。


「これでいい」


 工藤が歩み始めようとすると後ろから女の声がした。


「こんな夜中に、何処へ?」


 結衣だった。


「出ていくよ、金は置いていく」


「あなた、只の旅のお侍さんじゃないですよね?」


 結衣は尋ねる。


「なぜ、そう思うんだ?」


 結衣は、一言こう言った。


「私は、この旅館を継ぐまでは医者をしていました。従軍医療者として。だから分かるんです、あなた、身体中に怪我をしてる」


「……で?それがどうしたんだ?」


「そんな人を放っておくわけにはいきません。あなたもしかして……」


 工藤は若干、間を置いた後、ため息をつき話す。


「……はぁ。バレちまってるもんは仕方ないな。お前の考えてる通りだよ。俺はあの戦争の参加者だ」


「……やっぱり、そうだったんですね」


 結衣の重たく弱々しい声に、工藤は振り返る。


「俺は、お前たちのそばには居られない。悪いが、こう見えても命を狙われてる口でな。周りを捲き込むわけにはいかないんだ」


「……そうやって、人と距離を置いてきたんですか?」


 結衣は寂しそうな顔を見せる。


「誰かを傷つけまいと、人と関わることを避けてきた。でも、本当は違うでしょ?」


「やめろ、そうじゃない」


「あなたは逃げてきただけよ。そうやって自分の心に嘘までついて」


「……やめろ」


 工藤の注意に耳を傾けず、結衣は言葉を続けて、被せる。


「周りを捲き込むわけにはいかない?ふざけないで!!あなたは、怖いだけよ。大切なものを失うのが。自分の前から消えてしまうのが」


「やめろって言ってんのが……聞こえねぇのか!!」


 工藤が声を荒らげると、周りは虫の鳴き声や葉っぱの揺れる音も聞こえないほどに、静寂に包まれる。



「……人を傷つけたくなかった?そんなんじゃない、傷つきたくなかったのは……あなた自身よ」


「……ああ、そうさ。全部お前の言う通りだよ。俺は怖かっただけだ、目の前にあるもんが星屑のように散っていくのが。見たくなかっただけだ、幻想を打ち砕かれんのが。知りたくないだけだ。他人を守るために避けてんじゃなく、てめぇを守るために避けてるってことによ」


工藤は拳を震わせ、地面を虚ろな表情で見つめる。


「工藤さん……なら、うちに来てください」


「おいおい、俺の話聞いてのかよ。言っただろ、俺はここには……」


「あなたの過去は分かりません。きっと、私じゃ受け止めてあげられないくらいに辛いことがあったのかもしれない。でも、そんなの知らないし、問題じゃない。だって私は……死なないから!」


 結衣の台詞に、何かを思いだしたかのように、工藤の表情が緩む。


「……ハハッ……あー、そうか、そうか」


 工藤は左で自分の顔を掴み、小さな笑みを浮かべる。


「な、なんですか。バカにしないでください、これはつまり、その、あなたを元気づけようと……」


 結衣は少し照れた様子を見せる。


「いや、悪い悪い。……昔、似たやつがいてな」


 工藤は、懐かしむかのように、結衣を見る。


「私にですか?」


 結衣の質問に工藤はそっと頷く。


「ああ、似てるって言っても外見じゃねぇ。何ていうか、雰囲気がよ、似ててな」


「へぇ……その方はお元気ですか?」


「いや、死んだよ。その戦争でな」


「え……あの、ごめんなさい。私、変なこと聞いちゃいましたね……」


 謝るそぶりを見せる結衣を、工藤が慌てて止める。


「気にすんなって。なぁ、それよりひとつ頼んでいいか?」


「あ、はい。私に出来ることなら」


「じゃあ、ひとつ頼むわ。死なねぇってんなら、安心できる。ひとまず一週間、お前んち泊めてくれ」


 結衣は笑顔で応答する。


「はい!!」


◇◇◇◇◇◇


 翌日。



「あの男と戦う!?」


 工藤からのいきなりの提案に、陽助は目を丸くし、心の動揺を隠しきれなかった。工藤は今日、陽助たちをいたぶった男を倒しに行こうと言うのだ。


「そうだ、陽助だって悔しいだろ?」


「無理ですよ。あいつ、ここいらで有名な不良なんですよ」


「決めつけるなよ。やる前から諦めるな。先に行くから来いよ」


◇◇◇◇◇◇


 工藤は、昨日の無精髭の男を呼び止めた。


「おい、何の用だ、おっさん」


 無精髭の男の呼び掛けに、工藤は少しむっとし、返答する。


「おっさんじゃない、俺の名前は工藤誠士郎。しかもまだ26だ」


「なんだ、こいつ……」


 変なものでも見るかのような態度を取る無精髭の男に対して、工藤は訳を話し、無精髭の男を待たせた。


「アホか、あいつは来ねぇよ。あんな腰抜けに何ができるってんだ」


「来るさ、あいつは」


 工藤は、断言する。


「何の根拠があって……」


 無精髭の男の言葉を遮り、工藤は言う。


「……なあ、あんた知ってるか?どんな鈍刀だってな、必死に頑張って自分を磨けば名刀にだってなれるんだぜ?」


 すると、そこに少年がやって来て、息を切らし、苦しそうに叫ぶ。


「僕は、逃げない!!」


 そこには木刀を握る陽助がいた。


 工藤は、にっと口元を緩ませた。


「よく逃げなかったな、あとは俺に任せろ」


 無精髭の男と戦おうとする陽助を、工藤は制止する。


「でも、工藤さん、一人じゃ危ないですよ!」


 そう言う陽助に工藤は笑顔で、「心配するな。こんな雑魚は俺一人で十分さ」と、準備運動のポーズを取り始める。


「あ?何だと、おっさん!」


 無精髭の男は怒り、工藤の襟を掴む。


 その手を工藤は、左手で掴み返す。


「離せよ、おっさん……」


 無精髭の男は、工藤の左手を掴み、退かそうとする。

 

 しかし、工藤の左手は鉛のように重く、まるで、鎖で繋がれているかのように、微動だにしなかった。


「だから、言ってんだろ、おれはまだ26だ。おっさんじゃねぇ」


「てめぇ、ふざけんじゃ……」


 無精髭の男が、我慢ならず、拳を振ろうとする。


「今日は天気も良いことだしよ、ちっとはお空に飛んで行っちまったらどうだい!!」


 ぶうんと、工藤は無精髭の男を上空に投げ飛ばした。


「なあ、クソヤロー」


 無精髭の男は空高く舞い上がり、その姿は遥か遠方へと、消え去っていった。


 その様子を陽助は、呆然と見つめる。映画のワンシーンでも見ているかのように、今の工藤の行動が現実の物とは陽助には、すぐに理解出来なかった。


「やべっ、ほんとにクセェ」


 工藤は、鼻を押さえていた。


 最後のふざけた態度はともかくとして、工藤のこの一部始終は陽助に勇気を与えた。


 それからというもの、工藤、陽助、結衣の3人は、一週間という当初の予定も越え、日々を楽しく生活していた。



 そんなある日--



「誠士郎さん、じゃがいもと、人参を買ってきてもらえますか?」


 結衣が、工藤に夕飯のお使いを頼む。


「いいけど、今日の夕飯か?」


「ええ、とびっきり美味しいカレーですよ」


「へぇ、いいね」


 陽助が頷く。


「了解、買ってくるよ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ