中編:〈魔女〉と契約、するんですか?
ヤンセン閣下との「契約」が成立して、私はその日のうちにあの牢屋から脱出できた。あそこにいた子たちにはちょっと悪い気もするけど、今の私には彼女たちのうちどれくらいが冤罪で、どれくらいがモノホンのダメダメウーマンなのかを判別する術がない。それにぶっちゃけ、もうそれをやっても私にメリットがない。
あー、そういえば牢屋から出て乗った馬車の中で、ヤンセン閣下にはめっちゃ痛いところを突かれた。
「仮に、だが。貴様が看守に示唆した情報を、俺たちの敵が先に補足していたとしよう。この場合、あの牢獄に敵方の暗殺者が送り込まれて、アウロラは殺されていただろう。
その可能性を、貴様は考えなかったか?」
ナイスツッコミ。
その場合、私は侵入してきた暗殺者と「交渉」するつもりだったんで。
そんなことをしても高確率で自分も死体になるだけだけど、そこで生き残って牢屋の外まで出られる可能性って、ヤンセン閣下と「交渉」していまこんな感じで牢屋の外に出られた可能性と、有意には変わんないでしょ。
……ということを、なるべく言葉を選んでヤンセン閣下にお伝えした。
閣下は「本物の魔女だな、貴様は」と言うと、馬車の中ではそれっきり私とお話してくれなくなってしまった。しゃーないですね。
でも私だって、ここであることないこと適当にでっちあげて言い訳するほど馬鹿じゃないつもりなんで。
だってさ。仮にも握手した相手っすよ?
ここで「実はアウロラちゃんが死ぬルートのことも考えてました」っていうところを私が一方的に握り込んじゃったら、そういう疑念は、一番ヤバいタイミングで爆弾となって炸裂する。もうね、これはそういうもんだ、としか言いようがない。
「相手に嫌われる材料は、嫌われても致命傷にならないうちに、全部ぶちまけとけ」。これは私の敬愛する先輩(前世)が教えてくれた、貴重な訓示だと思ってる。
ともあれそんなこんなでヤンセン閣下の別邸みたいなところに運び込まれた私は、マッパにひん剥かれた挙句、風呂場で医療従事者系のプロに囲まれて徹底的な洗浄をされたあと(なおこのあたりで意識がブラックアウト)、清潔さを最優先しました! みたいな感じのベッドに寝かされた。
それから3日ほど爆睡した私は目が醒めた直後に高熱を出して寝込み、2週間ほど生死の境を彷徨って、その間に何回かお花畑とかこっちに手を振るおばあちゃんとかを見たけど、なんとか現世っていうか来世っていうかそういうところにカムバックした。
もっとも「ちゃんと生き返った」あとも結構大変で、まるで味のしない麦粥っていう私にとっては地上最悪の食い物を強制される日々。いや、医療的にはわかる。めっちゃわかる。わかるだけに悔しい! 感じちゃう!
そんな感じでさらに2週間ほど半分寝たきり、半分リハビリみたいな日々を過ごした後、ヤンセン閣下と面会ということになった。
はっはっは。
わっはっはっは。
初動で1ヶ月近くロスしましたね!
私がヤンセン閣下なら、こんなポンコツ魔女、自分で首をはねるね!
……とか思ってたけど、ヤンセン閣下は思ったより私の体調を心配してくれてるみたいで、面会する部屋にも長椅子が置いてあった。いやこれめっちゃありがたいです。いまはまだ、普通の椅子に座るのキツイんで。
あのねー。やっぱあの牢屋、栄養状態はかなり悪かったみたいでさあ。今の自分の姿って、鏡(わりと精度が高いよ、すごいね)で見ると正直、キモい。ダイエットが行き過ぎて拒食症になった患者さんの写真、それそのもの。
だからですねえ、今の私ってケツと太腿の肉がめっちゃ薄くなってて、普通の椅子に座るとマジで痛いんす。
「さて。まずは現状の共有をしよう。
大変に残念だが、貴様の予想は正しかった。
俺たちは辛うじてアウロラを守れているが、それが精一杯だ。とてもじゃあないが、こちらから攻勢に出る余力はない。
だが俺には、貴様という魔女がいる。そう、信じさせてくれるか?」
あららららら。開戦1ヶ月で、もう神頼みっすか。
きっついわー。それいくらなんでっもきっついわー。
せめて半年や1年くらいは暴れてくださいよぅ、閣下!
そんなことを思いながら、私は浅く息を継ぐ。ちゃんと深呼吸できるほど、いろんな筋肉が戻ってないからしょうがない。
さあて。成り行きとはいえこっち側に掛け金を張った以上、ズルズルとドロップし続けるだなんて我慢ならない。いきなりのオール・インはナシにしても、せめて「テーブルに座る」ところまではたどり着きたいですねえ!
「まずは、謝罪を。貴重な1ヶ月を無駄にしましたこと、お詫びします。
不可抗力とはいえ、状況的に見て、頭を下げる必要はあると判断します」
我ながら偉そうだな! と思いながら、まずは枕詞。
ヤンセン閣下は、スポンサーだし? これくらいの礼儀は必要だと思うー。
「さて、儀礼はこの程度で。時間も惜しいですから、話を先に進めたいかと。
単刀直入に伺いますが、ヤンセン閣下は敵の正体に思い当たる節はありますか?」
まずは、ここから始めるしかないだろう。
ヤンセン閣下の主観っていうノイズが大量に混ざるけど、一切の手がかりなしでは、文字通り「お話にならない」。
でもヤンセン閣下の答えは、完全に想像の右斜上を行っていた。
「わからない、としか言いようがないな。
――ああいや、そんな顔をしないでくれ給え。
貴様は忘れてしまっているかもしれんが、この国の継承権システムは非常に難解だ。
アウロラが宿している子が故ヘルミネン伯の遺児であり、ゆえにその子供がヘルミネン伯爵位の継承権第一位であるというのは、誰だって分かる。
でもそこから先となると、複雑怪奇な家系図を読み解き、誰に継承権があるかを確認しなくてはならない。
……もう、言いたいことは分かるな?」
あっはい。なるほどねえ。
そういう面倒くさいシステムだってことになると、「本当は継承権2位」の野心家とかは自分の家系図情報を秘密にしたりして、継承権順位を「低く見せる」よねえ。
そうやって外から見ると継承権14位とかそのあたりにつけておいて、暗殺とか謀略で上をうまく排除したら、「自分は実は継承権2位であり、いまや1位になった」って飛び出てくるわなー。
で、そういう差し馬野郎どもが、1人や2人じゃない規模で存在するってわけだ。うっわめんどくさ。
いやいや、でもこれ、1つだけ問題があるよね。そこ、確認してみよう。
「状況は理解しました。
ですが我らが敵たる謀略家は、どこかで『自分こそが継承権第2位である』ことを証しだてしないと駄目ですよね? それって、どうやって証明するんです?」
私の質問に、ヤンセン閣下は「そんなことすら忘れたのか」と嘆息。うえーい。ヤンセン閣下からの信用度が落ちていくのを感じるぞー。でもここは我慢よ。
「我がサモロスト王国には、王立紋章院という組織がある。
そこで働くのは名前こそ紋章官だが、その任務には継承権の正確な測定も含まれる。
なにせ王立の組織だ。彼らの裁定に異を唱えたり、賄賂を持ちかけたりするのは、自殺行為に等しい。
ちなみに言っておくと、貴様が学院で最後に喧嘩を売った相手は、王立紋章院長たるリーヒマキ卿の、ご令嬢だ。まさに馬鹿のやることだな」
おおう……
「なるほど……それは愚の骨頂ですね。そんな馬鹿は死んだほうがいい。
ともあれ、王立紋章院であれば正確な継承順位が分かる、ということですね。
ただ、紋章院には全員が全員、すべての記録を提出しているとは限らない、と」
ふうむ。ふうーむ。
いやでも、だったらコレって、私のチート能力使ったらコールドゲームで圧勝できるよね。たぶん。ちょっとばかり検証は必要だけど。
て、ことは、だ。
必要なのは、まずは検証。そのためには紋章院の偉い人の助力と、一定の時間が必要になる。できれば引退した紋章官とかのほうがいい。期間としては、2ヶ月ほど見とけば安牌?
それから、「我らが敵」を見定めたとして、そいつをハメる方策も考えないといけない。けど、こっちはオーソドックスな方法でいけるでしょう。たぶん。
よし。
「ヤンセン閣下。これから私がやることは、所詮は、賭けです。
ですから私が勝手に一人で踊って、勝手に死ぬ可能性は、大いにあります。
ですが私の読みがすべて正しければ――そして閣下のご助力が頂ければ、この戦いを3ヶ月後には決着させられます。
勝算は……そうですね、弱気に言って4割といったところでしょうか。強気の数字を出してよろしければ、『必ず勝ちます』と申し上げますが」
私の勝利宣言を聞いたヤンセン閣下は、露骨に不愉快そうな顔になった。
「……随分と簡単に言うものだな。
それに、いくらなんでも不用心ではないか? 貴様の今の言葉を、敵方の間諜が聞いていないという保証はない。それでも貴様は、3ヶ月で我らに勝利をもたらす、と?」
私はちょっとだけ意地の悪い笑みを浮かべながら、この実に自然な問いかけに、答える。
「もちろん。
『3ヶ月で勝つ』といういまの言葉は、閣下に言ったというよりはむしろ、必死で聞き耳をたてているネズミさんに向かった言った言葉ですから。
ですのでネズミさん、何卒あなたのご主人様に、『貴様の命はあと3ヶ月だ』と〈魔女〉が言っていたと、お伝えください?」
■
「……実に、信じがたい。信じがたいが――だが、これは現実だ。
いや……すまない。また順序を違えたな。
まずは貴様に、一族を代表して礼を言わねばならない場面だ」
ヤンセン閣下が、長椅子に横になった私に向かって頭を下げようとするのを、私はかつてのように押しとどめる。いやマジでやめてってば。
「お礼はなにとぞご遠慮いただければと。
なにより、今回の勝利には大いに運が絡みました。
これほどの早期解決は、私も予想していませんでしたから」
私の言葉に、ヤンセン閣下もはっきりと苦笑を見せる。
「まったくだ。
貴様は『3ヶ月でカタをつける』と宣言したが、まさか2ヶ月で決着するとはな」
何があったかは、閣下の言葉どおりだ。
ヤンセン閣下に「3ヶ月で勝ちます』宣言をしてから、今日でちょうど2ヶ月。アウロラ姫の潔白は証明され(というか有耶無耶のうちに「なかったこと」になって)、ヘルミネン伯爵位はまだアウロラ姫のお腹の中にいる子供が継ぐことになった。死産だったらどうすんだコレと思ったりもしなくもないが、そのあたりはいろいろ仕組みが(魔術的なものも含めて)あるのだろうし、私の守備範囲でもない。
でまあ、タネあかしをすれば、実に簡単な話だ。
まず私は、このサモロスト王国の謎めいた継承権順位と、【ステータス】で見れる地位レベルの間には、一定の相関があるのではないかという仮説を立てた。
しかるにこの仮説を検証するため、かつて紋章院で勤務していたという老OBを紹介してもらい、彼のもとで紋章学を学びつつ、彼を慕って訪れてくるお貴族様の【ステータス】をこっそり観測させてもらった。
結果、継承権順位と地位レベルの間には、ほぼ完全な一対一対応があることが分かった。例えばカルマル辺境伯のご子息である三人兄弟は、ご長男から順に地位レベルが98、97、96。分かりやすくていいですねーっていう感じ。
とはいえ、それで何もかも解決したわけではなかった。次の問題になったのは、スコーネ公のご子息たちだ。こちらは4人のお子さんがいて、上から101、101、100、100と、地位レベルだけでは判別ができない。くっそ、ちゃんとfloat使えっての。
このあたりのバッティング問題は、さんざん頑張ってみたけれど、「地位レベルが同じ数値のときは、継承権の上下はわからない」という結論しか出せなかった。あー、悔しい。でもさすがにそこまでは望みすぎだろって言われたら反論もできん。うーぬぬ。
で。
この基礎調査が終わるまで、3週間くらい。
ともあれ、この間に紋章官OBの老フランゼンさんとめっちゃ仲良くなれたのは、実に良かった。おかげでこんなに早く話が進んだ。
てかさ!
てかさ!!
言わせて!!!
紋章学、めっちゃ面白い! これはイケてる!
紋章ってたぶん覚えゲーなんだろうなって思ってたんだけど、これはあれだね、原始的な多次元配列みたいなニュアンスがあるのね。
老フランゼンには「ヤンセン閣下の紹介でやってきた押しかけの弟子」って感じでコンタクトしたから、最初はめっちゃウザがられたんだけど、初日で紋章学のロジックにメロメロになった私がそこから3徹して老フランゼンが積んだ「これくらい分かっておけ」的な本を読破して、興奮冷めやらぬままにそれを踏まえた質問をしまくったら老フランゼンも俄然その気になっちゃって、そこからは2人とも寝不足で気絶するまで紋章学議論に花を咲かせてしまった。てへ。
そんな感じで老フランゼンの「お気に入りの弟子」に昇格した私は、それから1週間ほどで「ワシの跡継ぎ」として紹介されるようになった。えへへ。めっちゃ嬉しいっす、師匠。
いやいや、ちょっと待った。ちょっとまってね。
それすごく嬉しいけど、今すぐ就職ってわけにはいかないんですわ、師匠。なにせ私、すんごい借金めいたものがあるので。指標にして−32768くらい。
で、だ。
フランゼン師匠には「お前は紋章官になるために生まれた人間だ、それ以外の生き方をしたらお前は不幸になる」とまで言われたけれど、いまここで「はいそうですね」とは、言えない。言ったらアウロラちゃんは死ぬ。それは、なんか、ムカツク。
だから私はここでやむなく、師匠をスイッチした。
具体的に言えば、ヤンセン閣下の兄君だ。
いやー、こっからが苦しかった。死にそうっていうか、死ぬっていうか、死にたいっていうか、死ねっていうか。もうね、ほんと、死ね。
ヤンセン閣下の兄君はニルス・ヤンセンという人で、これがまあ、ヤンセン閣下とはメンタル面において、なにもかもまるで逆。簡単にいえばクソッタレなナンパ野郎だ。
これで顔面偏差値はヤンセン閣下よりかなり上な感じがあるから、一層、腹が立つ。ヤンセン閣下が偏差値67なら、ニルスは72くらい。死ね。死んでしまえ。
でも事業効率化ってことを考えると、ここは我慢するしかない。
顔面偏差値72のニルスは、当然ながら社交界の花だ。曰く、彼のもとには毎日のように大量の招待状が届くという。「ニルス・ヤンセンが参加するお茶会ないしパーティ」ってことになれば、参加者がぐっと増えるというのが、その理由。あーもう。ほんと死ね。死に絶えろ。
しかるに私は、そんなニルスの下働きでくっついているボーイ、という設定。
そう。そこもムカツク。
ボーイですよ。ボーイ。ガールなのに。ボーイ。ガール・ビケイム・ボーイ。ミーツしろよ、ミーツ。したくもないけどさあ。
とか愚痴っても仕方ない。投獄生活の間に、私の髪の毛はボロッボロになっていた。一応はそれなりに綺麗な色をしてる(はずの)アッシュブロンドのロングヘアは、1ヶ月ほど昏睡してる間に9ミリくらいのバリカン的なもので丸刈りにされてた。
いやその、まあね、証拠品として残された「刈られたあとの髪の毛」(というか髪の毛混じりの汚物じみた何か)を見て思ったけど、これはもうバリカンでもしゃーない。鏡で自分の姿を見た時は「ウホッこれならエイリアンとでも戦えそう」みたいな感じで、妙に似合ってたし。
とまあ、そういう事情もあるから「ボーイ」なんだけど。
確かに、激ヤセした体は、どう見ても「ボーイ」なんだけど。
くっそー。
まあ、いい。ここも我慢だ。我慢した。我慢したぞ。偉い!
そうやって2週間ほど我慢してたら、ニルス様がご招待に預かった夜会で、毎晩のように苗字が「ヘルミネン」な人たちとバンバン会うことができた。
ははは、そりゃそうだわ。あの堅物な弟さんより、このクソ兄貴を籠絡するほうがいいに決まってる。
「ニルス卿、弟君のラウーノ卿ですがなあ、ちょっとやりすぎではありませんかなあ」
「ラウーノ卿は、ニルス卿の家督を狙っているという噂もありますぞ」……ってやつだ。
だが残念! このミスター馬鹿殿ニルス卿、ひとつだけいいところがある!
それってのは、もう内々に「次代のヤンセン家を継ぐのは弟のラウーノ」ってところで、家族全員(ニルス含む)が納得してるってことだ。
なおニルス卿いわく「当主なんかになったら女の子と遊べないじゃん」。
やっぱり死ね。
と・も・あ・れ!
ニルスにくっついて2週間ほど夜会とお茶会をウロウロした結果、ヘルミネン家の面々の【ステータス】を、ほぼ全員ぶん確認できた。
で、その結果、継承権9位にいるネストリ・ヘルミネン(61歳)が、地位レベル99とかいうふざけた数字を示していることが分かった。今のところ継承権2位のハイネ・ヘルミネン女史は地位レベル92。3位のヨーナス・ヘルミナンがレベル98。4位のイヴァース・ヘルミナンで96。あとはドングリー・ノ・セイクラーベ。はっはぁ。左様ですかー。
そこからはまたフランゼン師匠のところに戻って、ネストリ・ヘルミネンの情報を(公開されている範囲で)探ってみたけど、これがまあ、臭い。実に臭い。
ネストリ卿の家系図は、めっちゃ平凡なんですよ。
でも彼の紋章。これが臭い。
基本的な意匠はヘルミネン家のものから大きく変わらないんだけど、小さくトカゲを意味する記号が配されてる。でもトカゲの意匠って、ヘルミネン家をかなり後ろまで辿っても出てこない。
なんじゃこれと思ってフランゼン師匠に聞いてみたら、「このトカゲは〈クロノベリの蜥蜴〉じゃ、それくらい見て分かれ」と怒鳴られた。わかんねえっす。
わかんないので師匠に質問してみたら、要するに隣国と300年に渡って戦った領土紛争の中で、戦死やら何やらでお家断絶した家の紋章らしい。しかるに300年争った領土(クロノベリ県)は、いまはヘルミネン家が治めている、と。はっはー。
こりゃあほぼクロだなと確信した私は、ここで再び師匠をスイッチ。ニルスの馬鹿殿の従僕になって、今度はネストリ・ヘルミネンのお妾さんとか、お気に入りの高級娼婦とかをあたってもらうことにした。
するとネストリ殿は下半身の緩さと財布の紐の緩さが一致しない御方なようで、我らが馬鹿殿はあっという間にお妾さんの一人に渡りをつけた。具体的にいうと、いわゆるNTR。そこまでしろって言ってねーよ。でもGJだ、ニルス。超GJ。
あとはベリー・ベリー・イージーだ。
ニルスが寝取ったお妾さん経由で、ネストリがどんなピロートークをしてるかはこっちに筒抜けになった。なんでも「下賤な雌犬だの、忌まわしい魔女だの、まとめて葬ってくれる。私がヘルミネンの正しい歴史を取り返すのだ」、だそうだ。
忌まわしい魔女ってのは100%私だろうから、下賤な雌犬ってのはアウロラちゃんかな。なんともはや、わっかりやすい男だこと。
事実上の尻尾を掴んだところで、ヤンセン閣下にお願いして王国の会計監査委員会(つまりこの国におけるマルサ)に「ネストリ・ヘルミネンの財務状況が不審なんですけどー」とお伺いを立てる。
するってーとマルサからは「こっちも疑ってはいるんだけど手が足りないから、この案件でネストリ君を刺したいなら君が頑張ってね☆」というお手紙が大量の書類つきで戻ってきやがった。F***。働けよ上級国家公務員。
愚痴っても仕方ないので、私が表計算ソフト……は、ないので手計算で精査したら、出るわ出るわ不正会計っぽいものの山。
いやさあ、あったりまえなんすよ。
いかに伯爵家の人間で、そっち方面の支払いはケチってるって言っても、継承権9位の立場であんなにお妾さんとか抱えてたら不正会計なしではやってらんないはず。
で、「ほらやっぱおかしいじゃん?」っていう書類をまとめてマルサに突っ返したら、その1週間後にはマルサが王国親衛隊の突入部隊を連れてネストリ・ヘルミネンの私邸に突っ込んだ。ワーオ、スワッティングした気分。でもこれにて一件落着。
……だと、思ったんですよねえ。このときは。
■
「しかし……まさか、こんなことになるとはな。
貴様はこれを狙っていたというわけか、〈魔女〉よ?」
ヤンセン閣下が意地悪な笑みを浮かべながら、長椅子の上でぐったりしている私に声をかける。我ながらシツレイな格好してんなと思うけど、とにかく疲れが抜けない体質になっちゃったみたいで、こればっかりはご容赦願うしかない。
あ、ちなみに事後報告になりますけどー。
私、一段階、ステップアップしちゃいました。
具体的に言うと、だ。
【ステータス】
名前:ラウーノ・ヤンセン 状態:健康
地位レベル:89
好感度:34(−33)
好感度が見れるようになったぞ! レベルアップやったね!!
……くっそ、今度こそ超絶意味ねえっす。マジで意味なさすぎ。私に対する好感度が分かったところで、クソの役にも立たねえだろうが!
しかもなんだよ(−33)って。いやなんとなく想像つくけど。これはアレだよ、私の地位レベルの1%が補正になってるっぽい。
あ、ちなみに私の面倒みてくれてるメイドさんは補正値が(−328)になってたから、この数値の計算にはわりといろいろある気配。
あくまで想像だけど、ヤンセン閣下は「あまり地位の上下を気にしない」タイプなんだろうなあ。メイドさんはそのあたりの感覚が普通の人(てか普通じゃなきゃメイドをクビになっちゃうよね)。
という、超絶どうでもいい話はさておき、だ。
「悪い冗談はご容赦ください。
こんなことになったところで、私には何も利益がないじゃないですか。
それとも閣下は、私の目的が世界の混乱だったり人間がたくさん死ぬことだったり、そういうことだとか思っておられます? そういう混沌のパワー的なものを吸収して強くなる! みたいな」
若干ウンザリしながら、閣下にわりとシツレイな返事をする。これくらいの減らず口を叩いても怒られないくらいには、私の「仕事」を閣下は認めてくださっている。
実際、ヤンセン閣下って、めっちゃ有能ってわけじゃないけど、誠実でいい上司だと思いますよ。下で仕事しててウザくないし、判断早いし、ちゃんとホウレンソウしてればわりとフリーハンドくれるし。
ニルス卿を使うって案にだけは大反対されたけど、まーそれはねー。
「貴様がそういう存在だとしてもいまさら驚きはしないし、それを理由に殺しもしないさ。
そうやって強大化した力を、敵に向かって使ってくれるなら、な」
あっはい、それって典型的な負け組思想なんじゃ……と思ったけど、そのあたりの「教育」は、ヤンセン閣下の教育係におまかせしよう。私なんぞがあーたらこーたら言うべき領域じゃあないよねコレ。
「遺憾ながら、世が乱れたのに私の体調は微妙な感じのままですね。
それで、緊急の御前会議のほうはどうなりましたか?」
ネストリ卿へのスワッティングは、完全に予想外の展開を呼び込んだ。
どうやらネストリ卿は国の中枢かなり深くまで間諜を食い込ませていたようで、私が最初にマルサにタレコミした段階で、彼なりの最終行動を始めていたらしい。要は、用意周到に仕込んで来た反乱の、旗揚げってやつね。
で、ネストリ卿の電撃的な蜂起は綺麗に成功。ネストリ卿をサポートする隣国からの援軍も国境を越えてまもなく到着、という次第。あーもう、マルサも「要注意だと思ってた」ならちゃんと監視しろよぅ。この国の諜報とかIntSecとかそういうのはどうなってんの。
「反逆者ネストリ・ヘルミネンは、誅伐されねばならない。
また彼に扇動されたヴァリアーク王国が、我がサモロスト王国固有の領土であるクロノベリ県における王国民保護を名目として軍を動かしたことに対し、ヤルヴァ国王陛下は強い遺憾の意を表された。
無論、国軍にも動員がかかっている。2ヶ月以内にクロノベリ県を戦場とした戦いが発生する可能性は、極めて高い」
ぬーあー。
なんつーか、はるばる異世界まで来て、コレか。コレなのか。
自国民保護を名目にした侵略。それに対する緊急動員と「強い遺憾の意」の表明。
人類って、つらいな。ほんと、つらい。
「ネストル・ヘルミネンが反逆者指定ってのは分かるんですが、クロノベリ県で彼がやらかした『意識調査』に解答した人たちは、どうなるんです?」
ネストルのオッサンは、用意周到なことに、クロノベリ県で「意識調査」をしていた。アンケートの内容は簡単で、クロノベリ県はサモロスト王国とヴァリアーク王国の、どっちに属してたほうがいいと思いますか? というもの。
こんなアンケート、普通に考えりゃサモロスト王国一択だ。それ以外の答えを返したらその場でハングドマンになっても文句言えない。実際、サモロスト王国にネストルが提出した「調査結果」では、98%が「サモロスト王国の統治こそが望ましい」で、2%は「難しいことは分からない」だったそうだ。まあねー。そうよねー。
ところがどっこい。
ネストルのオッサンがこのたび改めて公開した「本当の調査結果」によると、「クロノベリ県はヴァリアーク王国が統治すべき」という意見は全体の50.5%だとか。
300年に渡って両国の間で領有が入れ替わってきたクロノベリ県だけど、この40年くらいはサモロスト王国の統治が続いている。でもトータルで見ると、クロノベリ県をより長期間統治してたのはヴァリアーク王国だし、実際、遡ること200年くらい前から40年前まではヴァリアーク王国の領土だった。
つまりクロノベリ県のお年寄りたちにとってみると、「サモロストの芋っぽどもに支配され、ヴァリアーク語の使用も禁じられたまま死ぬなど、耐えられるものか」というわけ。なるほどですねー。
だってさ、彼らにしてみると、親からもらった名前はヴァリアーク語の名前だったわけじゃない? でも年齢的に言って、彼らは遠からず墓に入ることになる。そのとき墓石にサモロスト語に修正された名前が刻まれることになるってのは、気持ちのいいもんじゃあないだろう。
「反逆者ネストリ・ヘルミネンが行った意識調査など、なかった。
この話は、ここまでだ」
あーはい。はいはい。こっちから見ると、それがベストっすね。
そもそもネストルのオッサンが言う「50.5%」っていう数字も、捏造とかそういうのがゼロだとは到底思えないしね。完全な捏造とも思わないけど。
「そんなことより、貴様には大御所からのオファーがあるぞ。
いや、オファーではないな……命令、と言ったほうが正確だろう」
ふぇ? 命令?
「紋章官OBの老フランゼンは、よほど貴様のことをお気にめしたようだな。
老フランゼンが貴様の才能を、王立紋章院長のリーヒマキ卿に熱く語ったらしい。
そのせいで俺は会議の後にリーヒマキ卿に呼び止められて、『卿が飼っているという〈魔女〉について聞かせてもらおう』と言われてしまったよ。
リーヒマキ卿は、貴様に随分と興味を持ったようだ。
『あのスティーナめが、まだ生きていたか』とな。
リーヒマキ卿からは、じきに正式な招待状が届くはずだ。
五体満足で帰ってこいとは言わん。首から上だけは生きて帰れ、〈魔女〉よ」
……F**K!
■
そんなこんなで〈魔女〉スティーナは、リーヒマキ伯爵のタウンハウスまで来たわけです。アッハッハ、なんかめっちゃ豪華な馬車に乗せられたんで「そんな大げさなことしなくたって」と思ったけど、お屋敷を見て納得。街中なのにめっちゃ立派な前庭まであるじゃん。ワハハ。
でまあお出迎えのご挨拶からボディチェックその他までいろいろあって、到着から1時間ほど時間が経過したところでリーヒマキ卿とのご面会となったわけ、だけど。
「申し訳ございません。
今朝方、父に緊急の勅命が下りまして……失礼ながら私がお話させて頂きます」
リーヒマキ卿の代打で出てきたのは、ご息女のペトラ・リーヒマキちゃん様殿。めっちゃ綺麗なプラチナブロンドの髪に、お人形みたいな顔、メリハリバッチリのモデル体型と、なんていうか「完璧」を絵に描いたような人っすね。
で、この人こそが、過去の「私」がサークルの姫やってた頃、最後に喧嘩をふっかけて、惨敗した相手。ワーオ。いまの「私」には、具体的に自分が何をやらかして、どんだけ無様に負けたかっていうあたりの記憶がないんだけど、それでも目の前に座って居心地のいい相手じゃないです。目の保養的には最高ですが。
でも一応【ステータス】は見ておきますかねー。
【ステータス】
名前:ペトラ・リーヒマキ 状態:非常に健康
地位レベル:119
好感度:0(−0)
デスヨネー。そりゃ好感度0っていうか、マイナスでないだけグレイトでしょ。
……いや待って、見るべきはそこじゃないぞコレ。
好感度補正がゼロ?
それってつまり、身分制を否定してるんじゃ?
まさかこの人、生まれる時代か世界かを間違ってる系……?
ちょっとドギマギしながら、私は教えられたとおりの「ご挨拶」をする。
「はじめまして――ではありませんが、敢えて『はじめまして』とご挨拶を。
ヤンセン家に仕えております、スティーナと申します。
この度はご招待、まことにありがとうございます」
事前に教えられた「ご挨拶」を、ちょっとだけ変形させる。いやさあ、やっぱここは「はじめまして」って言っときたいんですよ。私としては。
「では私からも、敢えて『はじめまして』と申し上げましょう。
貴女には個人的にいろいろと思うところもありますが、それだけに『はじめまして』から仕切り直したほうが良さそうですからね。
率直に伺いますけど、『昔の記憶がない』というのは本当なのですか?」
メイドさんたちがテキパキと準備してくれたお茶で、ちょっと口を湿らせる。
あー、やっぱ緊張する。めっちゃ緊張します。アカンですよこれは。アカン。オーラが違う。この人を相手に喧嘩を売った過去の「私」を、ちょっとだけ褒めてあげたいくらい。
「遺憾ながら、本当です。もっとも完全に思い出せないのではなくて、ペトラ様をはじめ、学院の方々にとんでもないことをしでかした、という漠然とした記憶はあります。それこそ、あのような場所に投獄されるのも当然、と言うほかないような。
実はヤンセン閣下には過去の自分が何をしたのか、詳しく伺おうとしているのですが、閣下もその点については教えてくれません。『口にするのも忌まわしい過去のことを、俺に思い出させるな』と」
ペトラちゃんの琥珀色をした目が、私の目を真っ直ぐに射抜く。
一瞬、ゾクリと寒気のようなものが走った。
「……その言葉、嘘ではないようですね。
〈真実の目〉で見させて頂きましたが、あなたには意識的に嘘をついている人に特有の生体反応がありません」
うへえ、魔法っすかー。
いやー、やっぱズルいっすなあ、魔法。今は私にとって良い結果が出たけれど、今後も〈魔女〉としてガチなコン・ゲームをやっていくなら、相手が魔法を使ってくることを計算にいれないとアレなことになっちゃう。そのあたり、魔法の勉強もしなきゃだわー。
「ですので、もっと大事なことを伺わなくてはなりませんね。
スティーナさん――いえ、私の知らない、謎の御方。
あなたはいったい、どこから来た、何者なんです?」
心臓を鷲掴みにされたような、寒気。
でもこの寒気は、魔法なんかじゃあ、あり得ない。
謎の人物に向かって「あなたは何者なのか」と聞くのは、普通の問いかけの範疇だろう。でもわざわざ先に「どこから来た」かを聞くなんてのは、あまりにも不自然だ。
つまりペトラちゃんは、ある程度まで、私の正体にアタリをつけてるってこと。
うーん、でも困ったな。
これ、どう答えたものなのやら。
悩んでいると、ペトラちゃんがクスリと愛らしく笑って(ほんとめっちゃ可愛い)、言葉を続けた。
「人に名を尋ねるなら、私から名乗るべきでしたね。
私は20世紀の日本で生まれた人間です。名前は白瀬順子。1996年生まれで、あちらでは大学2年生でした。専門はロボット工学。T大学工学部の高橋先生に見込まれて、一歩早く研究室に迎え入れられていました。
あちらでの最後の記憶は、とある大企業との合同実験での事故ですね。私が乗り込んでいたロボットの内燃機関まわりにトラブルが起こって、補助電源も焼けて、電気系がシャットダウンしたところまでは覚えてます。
もうちょっと詳しく言えば燃料タンクの取り付け方か、パイプの取り回しに無理があったみたいで、気化したハイオク燃料が漏れてたみたいなんですよね。あとはお察しです。電源まわりがシャットダウンしちゃうと、ハッチを開くのもそこまで簡単じゃあないですからね」
……なるほど、ねえ。
ならしゃーないですね。仲間は多いほうがいいに決まってる。私もカードを切っちゃうとしますか。
「私も生まれは20世紀の日本です。名前は永井美紀。年齢は、まあその、16進表記なら20代ってことでひとつ。
学生時代の専門は情報工学で、白瀬さんが高橋教授の教え子ってことは、まさかの同門ってやつですね。
自分が在学中の頃は、ハッシー先生はまだ情報工学がメインでしたから。ロボットやりはじめたのって、私が先端研に移った頃だったかな」
私の告白に、ペトラちゃん――もとい白瀬さんは、目を丸くした(可愛い)。あはは、私だってまさかこんなところで高橋研の後輩に会うだなんて、予想すらしませんよ。できたらおかしい。
「待ってください、永井さんって……まさかあの永井先輩ですか!?」
おお? 白瀬さんとは1回りくらい年齢が離れてるはずなんだけど、なんで知ってんの?
「う、うん、あのってのが何を指してるのか分かんないですけど、たぶんその永井です。
ま、それはそうとして、そういうワケなんで、私があっちでどこに就職して、何を仕事にしてたかは、お話できません。
白瀬さんが永遠にこっちの世界に居続ける保証なんてどこにもないし、またあっちに戻る可能性だってゼロじゃあないでしょう?
そうである以上、私は機密保持契約に縛られちゃうんですよねえ」
白瀬さんはまたしても苦笑いしながら(すごく可愛い)、頷く。
「永井先輩がMITに移籍した後、突然本人理由で除籍したと思ったら消息不明になったっていうの、高橋研では有名でしたよ。きっとラングレーとかNSAとか、そういう所に呼ばれたんだろう、って。
先輩は見てないかもしれませんけど、NCISって洋ドラ、ご存じです? 私、あれがすごく好きだったんですけど、いつも『アビー』っていう科学者の捜査官に永井先輩を重ねて見てました。きっとああいうお仕事をされてるんだろうなあ、カッコイイなあって。
そうだ先輩、せっかくだから、こっちでもまたああいうお洋服、着てみません? 傲慢に聞こえるとは思いますけど、いまの私って、ちょっと凝ったお洋服の1着や2着なら、自由に仕立てられるお金がありますから」
グハッ。ドラマの趣味まで一緒か……いやまあその、確かに私は学生時代、研究室でもガチのゴスロリファッションを貫いてたけどさ! アレは! アレは若い頃の過ちであって!
「ま、まあ、それはおいおい、で……。
それはそうと、その『先輩』っていうの、そろそろやめません? 誰が聞いてるかわからないところで、うっかりその言葉が口からでちゃうと、大変なことになりますよ。なにせ私は規格外に低カーストな〈魔女〉で、あなたは大貴族のお姫様なんですから。
本来なら、こうやって直接会ってるのだって、かなーりアウトな振る舞いなはずです。郷に入りては郷に従え。大事ですよ、これって。そうでしょう、ペトラ様?」
私の言葉に白瀬さん――もといペトラ様は渋い顔(これまた可愛い)になったけれど、小さくため息をつくと(これもめっちゃ可愛い)、口調を改めた。
「そうですね、スティーナさん。
けれど私としては、とてつもなく有益な情報が得られたと確信しています。周囲の反対を押し切って、直接あなたに会った価値は、大いにありました。
我が国はこれから、戦乱の時代を迎えます。今はまだ双方のハト派外交官が必死で調停をしていますが、両国の市民感情から言っても、政局から言っても、最低でも1回の大規模な野戦は避けられないでしょう。
この状況において、反逆者ネストルをあぶり出した貴女の手腕は、見過ごせないものがあります」
そうやって「よそ行きの言葉」で語るペトラ様は、実に凛とした面持ちで、たまらなく可愛らしかった。やっばいわー、やっぱこれ転生して大正解。大正解ですよ。ウェヒヒ。
内心でニヤニヤしてる私をよそに、ペトラ様は言葉を続けた。
「戦争は、勝っても負けても悲惨なものですが、それでも能うならば勝ちたい。
それは、私の偽らざる思いです。
ですから私としては、自分にできる限りの努力をしたいと思っています。
私が行使できるあらゆる権力と、あらゆる力を使って、この戦争に勝ちたいのです」
ははあ。ペトラ様もがんばっちゃう系ですか。
ま、それが「普通」なんですけどね。
私としては、それに巻き込まれなきゃ、万事OKっす。
「つまり私は、ズルをします。
私は可及的速やかに父を説得して、この国の軍組織の一部に、公的な機関としての諜報部門を設立します。
今も諜報員はいますが、各貴族ないし王族がそれぞれ個人的なスパイを雇っているというのが現状です。これでは効率的な情報収拾・分析・統制など不可能ですし、防諜にも限界があります」
お、おお? なんだか話の雲行きが……
「スティーナさん。
この組織が成った暁には、あなたを組織の中核メンバーに迎えたいと思います。
今ここで返答を、とは申しません。
ですがなにとぞ、良いご返事を期待しております」