前編:〈魔女〉と契約、しませんか?
嫌いなものが多い人間だという自覚がある。
人参が嫌いだし、玉ねぎが嫌いだし、キャベツが(緑のやつも紫のやつも)嫌いだし、レタスが嫌いだし、ピーマンとか論外だし、辛うじて煮込んだ白菜と焼いたネギは認めてやっても良いけど、それ以外の野菜は基本的に嫌いだ。鳥の胸肉はパサパサしてて嫌いだし、豚肉は油っぽくて嫌いだし、牛肉はなんだか好きになれないし、もちろん小骨の多い魚なんかはアウトオブ眼中で、生臭い刺し身なんかも話にならないけど、鶏皮をカリカリに焼いたやつか、あとは鶏のもも肉ならまあ許せる。それから、味のついてないパンと白米は性に合わない。もちろんマヨラーでもないしケチャップも嫌いだ。まぁハンバーグのデミグラスソースはギリギリ許してやってもいい。
でもとりわけ大嫌いなのは、「頑張る」という言葉だ。
頑張るって何だ。頑張るって。頑張ったら何か良いことがあるっていうのは、つまり普段からの労力の配分が間違っているってことだ。日々確実に、実力の4割くらいでやるべきことをこなし続けていれば、それで問題は解決する。それで解決できない問題は、つまり、自分の手に余る問題だってことだ。世の中には「無理」っていうものがあって、少なからぬ人は「無理」と「無理じゃない」の境界線をあまり真面目に見極めようとしない。でも無理なものは無理。無理。頑張ったって、むーりー。
……うん。我ながらロクでもない人間だなって、思う。
だから私が「私」の存在に気づいたとき――つまり、どうやら私はいつの間にか自我(だの精神だの魂だのその手のもの)だけが異世界に紛れ込んでいて、その世界のどなた様かの肉体に寄生してたんだってことに気づいたときも、私の正直な感想は「これってたぶん自業自得だわ」だった。
ごめんなさい、強がりました。
いやー、「私」が目覚めた途端、なんかすっごくヤバイ感じの牢屋にいたってのは、さすがにちょっと焦った。焦ったっていうか、思わず笑いそうになった。
だってさあ、だいたい6畳くらいのスペースに私を含めて10人くらいの薄汚い囚人がいて、しかもあり得ないくらい臭いんだもん。少し冷静さを取り戻してから確認してみたけど、トイレがないのね、この牢屋。そりゃ臭い。臭いですよ。自明な臭さ。
どうしてこうなった!
必死で思い出してみようとしたけれど、イマイチ記憶が曖昧で、めっちゃ困った。
ただ、どんなに頑張っても両親の記憶とかが出てこなくて、代わりにこれまた薄汚い修道院みたいなところでガキを相手に毛布を奪い合ってたことは思い出したので、たぶんこの世界の私は孤児だったんだろう。
それからなんか魔法の才能みたいなのを見出されて、なんか学校っぽいところに行って、そこで王子様っぽい人に一目惚れされたような気がする。でもって自我の半分は「嫌いなものの多い」ことにかけては誰にも負けない私だったから、ワガママ放題やらかした。サークルの姫ってやつだ。
で、たぶん喧嘩売っちゃいけない相手に喧嘩売って、途中までは勝てそうだったんだけど、どっかで派手にしくじって、こうなった。
あっはい、自業自得です。
……ともあれ。
状況からいって、この牢屋は死刑囚、ないし限りなくそれに近い人間が放り込まれているんだろう。こんな不衛生な環境に人間をすし詰めにしたら、死刑にしなくたって死ぬ。我らが偉大なる人類の歴史を振り返ればこの程度、「人間として最低限度の生活」かもしれないけど。
いやいや、今はそういう例外的な最下位探しをしてる場合じゃあない。そうやって見つけた例外を言い立てるのは典型的なクソリプですよ、知ってた?
うーん。
でもこれ、あまりにも未来なさすぎだよね。未来がないっていうか、1秒先すら真っ暗な感じ。あーもう、なんでこんな状況になるまで放置したわけ!? 異世界で「目覚める」なら、もうちょっとこう、「お前との婚約を破棄する!」って言われた瞬間とか、そういうタイミングは選べなかった?
うん、そんな現実逃避してる場合じゃあない。それになんかこう、ここで「オッス、オラ転生者。転生したら詰んでたので死にます」で第二の人生っぽいものがフィナーレを迎えるっていうのは、負けたみたいで嫌だ。いや内心、死にたみで満載だけど。
でもなんかこう、ちょっとくらいは足掻いてみたくない? 「このスマホは君に無限の力を与えてくれる。さあロックを解除したまえ」って言われたら、とりあえず4桁の数字を1万回入力する覚悟を固めるでしょ? いやもちろん最初はそのスマホの持ち主の誕生日から入力するけど。ついでに言うと、今の私はボロ布みたいな下着の上下以外に何も持ってないけどね!
いやいや、待った。ウェイ。ウェイ。ウェーイ、ゴー。
そういや「私」って、「魔法の才能」を見出されたんじゃなかったっけ? ってことはナンカ=スゴイ=魔法が使えちゃったりしない? それでこの牢屋から華麗に脱出……はい、それは理論的に成り立ちませんね。そんなことできるならもう逃げ出してるっしょ。
んー、でもまだ捨てゲーするには早いか。早いね。うん、早い。
だって以前の「私」は、「針金で鍵を開ける方法」みたいな知識はないけれど、「無から針金を作る魔法」は使えたのかもしれない。前提条件が変わった以上、実験するに限りますね、はい。
さあて。魔法。
……魔法?
それってどうやって使うの?
おおっと。確かに前提条件が変わってた。今の「私」は、魔法の使い方とか全然知らねえっすよ。あっは、当たり前すぎた。うーわー、これは一本取られたわー。なにこのクソゲー。なんでこんな微妙なところだけ、ご都合主義が通じないの?
うーん。何かこう、マニュアルとか、ヘルプとか、readmeとか、恨みの籠ったコメントとか、どっかにない? レドメはなくても、「この一行を消すとなぜか動きません」みたいなコメントくらい、普通どっかにあるでしょ? あるよね? ない? なかったら殺す。絶対殺す。
いやいや、いまそういう鬱憤をぶつけても仕方ない。うーん。こう。せめて、こう。自分のできることとか、ステータスとかを見れる機能……
【ステータス】
名前:スティーナ 状態:極めて不健康
地位レベル:-32768
〈レベル不足により閲覧禁止〉
〈レベル不足により閲覧禁止〉
〈レベル不足により閲覧禁止〉
〈レベル不足により閲覧禁止〉
〈レベル不足により閲覧禁止〉
〈レベル不足により閲覧禁止〉
お、おう。
おー、あー、はい。
はい。
なるほど。ステータス。
【ステータス】
名前:スティーナ 状態:極めて不健康
地位レベル:-32768
〈レベル不足により閲覧禁止〉
〈レベル不足により閲覧禁止〉
〈レベル不足により閲覧禁止〉
〈レベル不足により閲覧禁止〉
〈レベル不足により閲覧禁止〉
〈レベル不足により閲覧禁止〉
うっざ! 今は呼んでねえっての! 死ねこのクソUI! 滅びろデーモン!
でもまあいいや。とりあえず「私」の名前はスティーナというらしい。一歩前進。
で、地位レベルが約マイナス3万と。いや違うなこれ、たぶん桁溢れしてる。ってことはあれかあ、地位レベルって補数つきの16ビット? やっす。きょうびこんなところで節約してどうすっかなー。さすがにアンダーフロー対策はしてるっぽいけど。
あ、でも仕様を馬鹿にする前に、もう1つ実験。
ステータス……を意識しつつ、私の前で体育座りしてピクリとも動かない女の子をポイント&クリック! いやそのマウスもトラックパッドもないけど、そんなイメージで! ひとつ! 動け、マイ魔法!
【ステータス】
名前:アウロラ・へルミネン 状態:極度に不健康
地位レベル:-25
〈レベル不足により閲覧禁止〉
〈レベル不足により閲覧禁止〉
〈レベル不足により閲覧禁止〉
〈レベル不足により閲覧禁止〉
〈レベル不足により閲覧禁止〉
〈レベル不足により閲覧禁止〉
おっしゃキター! キター! きたあああああああ!
つうかあれだな、この〈レベル不足により閲覧禁止〉っていうのウザイな。これって表示をオプトオフできたりしない? えい、えい、オプトオフ! オフになった?
【ステータス】
名前:アウロラ・へルミネン 状態:極度に不健康
地位レベル:-25
なった。便利ね、魔法。
で、だ。うん。やっぱ地位レベルの仕様、問題なかったねー。死刑囚並の待遇が、地位レベルー25で達成できちゃうんだし。むしろなんで16ビットも取った。あはは。ははは。はあ。
つうか私のマイナス3万ってどうよ。どうなのよ。むしろこれでなんで死んでないのかなー。そっちのほうが不思議やろ!
あーいや待て、もしかしたらこのアウロラちゃんが特殊な例かもしれん。他の子も見てみよっと。他の子もマイナス2万3万当たり前かもじゃなーい!
結果。
アウロラちゃんのマイナス25が最下位でした。トップは〈状態:瀕死〉のアミタちゃんで、マイナス2。ははは……はは……。
いやいや、でもこれかなり前進した。
ていうかさ、この【ステータス】って魔法? みたいなもの? かなりヤバくない? ヤバイ。実際ヤバイ。てか滅茶苦茶ヤバイ。チートなんてものじゃないでしょコレ。こっちの人はこれくらいみんな使えますってことになると話は変わるけど。
ううーん。
とりあえずここは、慎重に行動したい。
この魔法が超ユニークってなら、今の状況から抜け出せるチャンスにもなる。
でもこの魔法が超ユニーク、かつ、こんな魔法を使えるヤツは速攻で殺すべきっていう話なら、サドンデス要件をひとつ増やしちゃう。
さて弱ったね。ここから先はインタビューしかないかなあ。でもこの牢屋にいる子たちが、まともに受け答えしてくれるとは思えないんだよなー。
でも自分のステータスにも〈極めて不健康〉とかあったなあ。たぶんこれ、このままじゃあそんなに長生きできないってことだよなあ。どーすんのこれ。いやもう投了する? 投了でもいいんじゃない? てか投了しかないよねこれ?
なーんてことを考えながら、私は改めてアウロラちゃんに視線を向ける。
たまたま私の一番近くにいたのを不運と思って、ちょっとお話してくれないかなあ。無理かなー。てかそもそも私、「おしゃべり」はめっちゃ苦手だしなあ。
うーん。
なんかこう、話題のきっかけ的なもの、ないかなー。アウロラちゃんの【ステータス】をもう一度確認したら、話しかけるネタとか見つからないものかしら。
【ステータス】
名前:なし 状態:不健康
地位レベル:38
……なんぞこれ。
思わず二度見。
【ステータス】
名前:なし 状態:不健康
地位レベル:38
……なんぞこれ。名前なし、地位レベル38?
いや待って。待って。これってつまり――だとしたら……いや、落ち着け。
まずは計算。仮にざっくりと、(X+(-25))/2=38として、Xは……101か。
で、-25は死刑囚の中でも最低ランク(私を除く)。
Xの値は、その逆側に4倍。
なるほどね。
やっぱ超チートじゃん、この【ステータス】魔法。
ってことは、これって私が特異点として使える魔法だと思って間違いない、かもだ。
少なくとも、賭けていいところまで来た。
――なら、勝負しようか。
「賭けだよ、賭け。賭けを、しようよ」とか唱えながら、さ。
だから私は、〈極めて不健康〉な身体に鞭打って、大声を出す。
「看守さん! 看守さーん! 看守さああああん!
大変! 大変だよ! 大事件だよ! 無視してると、あんたのクビが危ない級だよ!
騙されたと思って、ちょっと話を聞いてよ!
看守さん! 看守さーん! 看守さああああん!」
しゃがれた喉で出せる限りの大声を出しながら、鉄格子をガシャガシャと揺さぶる。囚人たちの目が一斉に私を見たけど、そんなことを気にしても仕方ない。いま大事なのは、とにかくウザい存在であること。ひたすら、ウザい存在であること。
そうやってガシャガシャやってると、3分ほどして看守さんっぽい人物が姿を見せた。試しに【ステータス】を見ると地位レベルが8。少なくともマイナスじゃないから、「こっち側」の人間じゃないってことだ。うわー、やっぱこれチート。おかげで手が広がった。
調子にのって、私はなおも鉄格子をガチャガチャさせる。と、看守さんが私の目の前までやってきて、目にも留まらぬ早業で私をぶん殴った。痛いと思うより早く、私の身体がふっとばされる。痛い。めっちゃ痛い。でもここが勝負どころ。
ここが、勝負の、分水嶺。
「うるせえぞ、クソ虫!
おとなしくしねえなら、晩飯は抜きだ!」
私はクソまみれの床に突っ伏したまま、看守の罵倒を聞く。吐き気がひどいけど、吐くものが胃に入ってない。だから代わりに、私は言葉を吐き出す。看守の名前は【ステータス】で確認済みだ。
「ちょっとだけ私の話を聞いてよ、ミッカさん。
あなたの将来にとって、すごく大事な話だから」
ミッカ看守は私の言葉を鼻で笑って、もう一度右手に持った片手槍を構えた。たぶん、さっきの一撃は片手槍の石突で殴られたんだろう。私は負けじとミッカ看守の目を睨みつけて、同じ言葉を繰り返す。
「ねえ、お願いだよ。ミッカさん。
ねえ、ミッカさん。ミッカさんの将来に関わる話なんだ」
ここまで言われて、ようやく馬鹿ミッカは状況の異常さに気づいた。彼は急に顔色を青ざめさせると、震える声で私に問いただす。
「……テメェ。俺の名前を、どこで聞いた」
第一関門、突破。
いやー、なかなかの薄氷だった。ミッカ看守が囚人全員に自己紹介するような人間だったら、名前を連呼しても何の意味もなかった。
でも、そうじゃなかった。
おそらくこの社会は、地位レベルとかいうやつで、分断されている。本人たちは「地位レベル」なんていう定量化された数値で意識していないかもしれないけど、そこはまだどうでもいい。
大事なのは、こんな極限状態に押し込まれた囚人の中には、地位レベル−2程度の人が含まれているってこと。
一方で、たかが+8のミッカさんは「看守」としてある程度の人権が保証されてる。たぶん。
それくらい、1の差(ないし正の数と負の数の差)は大きいってことだ。
である以上は、ミッカ看守は「クソ虫ども」に、自分の名を教えなどしない。
人間よりずっと下の存在だと考えている相手を、自分と対等に扱ったりするものか。
いやはや、めっちゃアドリブで仕掛けた賭けだけど、この賭けに私は勝った。
なら、あとはもう一息。
「私は知ってるんだよ。ねえミッカ看守、あなたは私が知ってることを、知ってるはずでしょう?
だから、聞いてよ。お願い。でないとあなたは一生、後悔するよ?」
完全なハッタリ。
でも看守である以上、過去の「私」が何をしてきたかは、知っているはずだ。今の曖昧な私以上に。
過去の「私」は、いわゆるサークルの姫的なアレだったと思う。
しかもガチな「姫」級の相手に喧嘩を売って無残に負けた、正真正銘のクソ虫だ。
であれば、「私」に与えられた蔑称は、「クソ虫」以外のものがあったはず。
その予想は、違わなかった。
「……この魔女めが。
そうやって俺を誘惑しようってんだろう! その手に乗るか!」
はい正解。まあ、魔女って呼ばれるよね。わーかーるー。めっちゃ理解ー。
でもさあ、「その手に乗るか!」なんて言った段階で、もう勝負は終わってるのよねえ。だってー わたしはー まっじょー だからー。
「私はどうでもいいのよ。ほんと。どうでもいいの。
問題があるのは、こっちのアウロラちゃん。
いますぐ彼女を牢屋から出して、お医者様に診せて。
ミッカさんなら、それがどういう意味か、わかるでしょう?」
馬鹿ミッカは反射的に怒り狂おうとしたけれど、辛うじて思いとどまった。
つまり彼は、職務に忠実な看守だってことだ。
彼は囚人全員の名前と、その罪状、そして様々な事情を、大まかなところで頭に入れているのだろう(事実、彼は「私」のことも知っていた)。だから彼は、半ば挑発じみた私の言葉を、真剣に吟味するしかない。偉いぞミッカ。さすがは国家公務員だ! 働け公僕ミッカ!
私の祈りが通じたのか、それとも通じなかったのか、公僕ミッカはくるりと回れ右すると、足早に牢屋の前から去っていった。
で、それから10分もしないうちに10人近い衛兵さんを連れて公僕ミッカが戻ってきて、アウロラちゃんを担架に乗せて運び去った。アウロラちゃんは身動きひとつしなかったけれど、【ステータス】は〈極度に不健康〉なところで留まっていたから、まあ大丈夫だろう。ただ、体を動かす気力が尽きたってだけ、の、はずだ。
その後だいぶたってから、牢屋に「夕食」が運び込まれた。
囚人が1人減って、少し広くなった牢屋の中で、私は「夕食」と称するものを喉の奥にせっせと押し込みながら――いや失礼、これ囚人の食事にしては、めっちゃ美味くない?――自分があと2つ、賭けに勝つことを祈った。
1つは、アウロラちゃんの先にある確率機で、勝ちの目が出ること。
もう1つは、明日の朝くらいまでは、自分の体が命を永らえることを。
■
棒のようなもので乱暴に体を突かれて起きてみると、まだ自分は生きていた。賭けに勝ったのかもという思いのままにガバっと体を起こそうとしたけれど、全身のあちこちが緩慢に痛んでうまく動けない。でもここはしっかり目をさますべき状況だろう。たぶん。
無理やり目を開けると薄ぼやけた視界の先にはミッカ君がいて、牢屋の鍵を開けようとしていた。彼の背後には完全武装の兵隊さんが何人もいる。万が一にも脱獄など許さないスタイル。
「起きろ、魔女。尋問の時間だ」
立ち上がろうと思ったけれど、どうにも体が動かない。そうやって足掻いていると、公僕ミッカが引き連れてきた兵隊たちが私の腕を乱暴に掴んで立ち上がらせた。ぬあー、フラフラする。超ハイレベルな立ちくらみ。ていうかこれ〈死因:立ちくらみ〉とか行ける。絶対行ける。人は立ちくらみで死ねる。
そんなことを考えているうちに私は牢屋の外に出されると、重たい手枷に足枷をつけられ、さらには腰縄+麻袋で目隠しと、完全装備を整えられた。ワーオ、VIP待遇。
地位レベル−25のアウロラちゃんが担架だったのに、さすがはマイナス側にカンストの私。ちらっと自分の【ステータス】を見るとアウロラちゃんと同じ〈極度に不健康〉なのに、この待遇差。
そうやって死にかけてるんだか、よろめいてるんだか、運ばれてるんだか、よくわかんない感じでしばらく移動したら、今度はどこか冷たい床の部屋に連れ込まれたようだった。
ぼんやり頭でナンジャラホイとか思っていると、めっさ冷たい水をぶっかけられる。いや死ぬ。これマジで死ぬ。死にます。ちょっと。死ぬ。心臓止まるから。マジ。なんか【ステータス】も〈瀕死〉になってるし。
で、ひとしきり冷水による「水洗い」を受けてから、さらに歩く。てかもうまったく足が動かない。死ぬ。外気温がそれなりに高いから、ギリギリで生きてるっていうだけ。たぶんあと数分で死ぬ。死ねる。つうか「尋問」がまだなのに殺してどうするんだよ馬鹿ミッカ。死ぬって。マジで死ぬって。
死ぬ死ぬと脳内で繰り返しながら廊下(足元が水平だ)を引きずられるように運ばれた私は、やがて人の気配がたくさんある場所に連れ出されたようだった。無理やり椅子っぽいものに座らされ、鎖で体を拘束される。
あー、でもこれもう無理です。死にます。意識朦朧を通り越そうとしてます。せっかく尋問タイムにこぎつけたのに。それではみなさん、さようならー。
「〈小治癒〉」
そこに突然、若い男の声がした。なにそれ? と思う間もなく、止まりかけていた心臓がわりとまともに機能し始めるのを感じた。オッ。もしかしてこれ、治癒魔法ってやつ? すごーい。魔法! 魔法だよ! リアル魔法きたよコレ!
あ、てか自分も【ステータス】とかいうのが使えましたね。では早速。
【ステータス】
名前:ラウーノ・ヤンセン 状態:健康
地位レベル:89
ほほう。本日のお相手はラウーノさん。
地位レベルから推察するに、ヤンセン閣下とか呼んだほうが無難っぽい人だねコレ。平民ミッカなんかとは比べ物になんない。
なーんてことをやってると、ヤンセン閣下からお声がかかった。
「顔が見えんと、やりにくいな。
看守。頭の覆いを外せ。
これが規則違反であれば、私がその責任を負う」
おおー、おっとこまえー! いいよねー、死ぬまでに一度は言ってみたい。「私が責任を負う」。嘘です。言いたくないです。ていうかマジ顔で言うような言葉じゃないよね。でもカッコイイから憧れちゃう……とかするうちに、頭に被せられた麻布がとっぱらわれた。
反射的に周囲を見渡すと、ここはどうやらちょっとした小部屋で、周囲には何人もゴッツイ兵隊さんがいて、なんか「オラッ! ワイらは魔法使いやで!」とか「うちらは神官やからな!」みたいな自己主張をした服を着た人たちも数名。そのうち1人はめっちゃナイスバディな感じの美女さんですよ。あとで【ステータス】見とこっと。
あいにく窓はないか、あってもしっかりカバーされてるっぽい。部屋のあちこちにランプが置かれている以上、たとえここが地下室だとしても外気を取り込む仕組みはあるんだろうけど。
あたりをキョロキョロする私に軽くイラついたのか、ヤンセン閣下からお声がかかる。
「相変わらず基本的な礼儀を覚えようとしないようだな、スティーナ。
貴様らしいと言えば、実に貴様らしいが」
うへ。おおい、過去の「私」よぅ。基本的な礼儀作法くらい、こんなガッチガチの階級社会(推測)なんだから、ちゃんとしよう? いや半分は今の私のせいなんだろうけど。
だからってわけじゃないけど、私はさっそく先手を打つことにする。こういうのは先手必勝って1941年6月22日の頃から決まってるんですよ。たぶん。
「ご壮健なようで何よりです、ヤンセン閣下。
ところでアウロラ姫のお腹の子供は、ご無事でしたか?」
ハッタリといえばハッタリだけど、これはもう理論的な必然ですよね。
アウロラちゃんをクリックしようとしたら、誤クリックで「名前がなくて、地位レベルがやったら高い」人物をタゲちゃった。仮に(あくまで仮に)子供の地位レベルが両親の地位レベルの平均によって求められるとしたら、アウロラちゃんの地位レベルが−25で、お腹の子の地位レベルが38なんだから、アウロラちゃんとエッチしてた野郎の地位レベルは101ってことになる。
で。
問題のアウロラちゃんなんだけど、【ステータス】を見たらへルミネンっていう苗字があった。元孤児の私とか、公僕ミッケとかには苗字がないところから考えて、アウロラちゃんは「やんごとなき方のお手つきになった女中さん」とかではなく、貴族階級と思っていいだろう。要は「アウロラ姫」なわけ。たぶん。
それはともかく私の爆弾発言は、予想通りの効果を発揮したようだった。
ヤンセン閣下を筆頭に、部屋にお集まりの皆様が一斉に軽く息を飲んだ音が、聞こえる。
あっはっは、ヤンセン閣下。ちょーっと読みが甘かったんじゃなーい? そりゃあね、「魔女」扱いされてる「私」に尋問する以上は、今みたいに「すごい護衛たち」に囲まれてなきゃいけないんでしょうとも。
でもさあこれって、こんな感じで「セキュリティクリアランスがベリー高い情報」が囚人の口からポロリしちゃうと、いろいろと責任問題になる可能性もあるってことだよねえ。
もちろん、いまヤンセン閣下の護衛についてるのは「信頼できる部下たち」なんだろうけど。さあて、どうかな? 本当に本当に、全員が全員、信頼できる? 信頼する? 信頼しちゃう? さあ、さあ、さあ、どう? どうなの、ヤンセン閣下?
たぶん私は、食い入るようにヤンセン閣下の顔を見ていたのだろう。ヤンセン閣下は小さく息を吸って軽く身震いすると、素早く自己を再建したようだった。さすがですね。
「答えろ、スティーナ。
貴様はどうやって、これを知った?」
あ、再建できてなかった。これは愚問でしょ。こんなの聞いちゃいけない質問ナンバーワンじゃなーい。
だってこれで私は「少なくともヤンセン閣下は私の【ステータス】能力を把握してない」ってことと、「【ステータス】能力ってのはこの世界ではけして一般的(ないし普遍的)なものではない」ってことを確信できた。つまり相手の手番で手札を2枚もらえた感じ。イエース、カードアドバンテージ。
「それについては『分かったから』と申し上げるほかありません。
逆に言えば、これは私が自分の力だけで知った情報です。
他の人に同じことができるかどうかは、わかりません」
ヤンセン閣下は燃えるような目で私を睨みつけると、人差し指でテーブルの上をコツコツと叩いた。
それから唐突に、その尊い頭を下げる。それこそテーブルにつかんばかりに、べっこりと。ワオ。なんですかこれ。てかヤバイ。ヤバイでしょ。地位レベル89の人が私に頭を下げるって。めっちゃマズいでしょ。
私の内心の焦りをよそに、ヤンセン閣下は頭を下げたまま言葉をつないだ。
「すまない、順番が間違っていた。まずは貴様に、謝意を示さねばならん。
アウロラを死地から救ってくれたこと、百万の言葉を重ねても礼を尽くしたことにはならん。本当に、本当に、ありがとう。
貴様がその本心で何を企んでいるにしても、礼を言うべきことには、礼を言わねばならん」
お、おお?
その、あの、なんだ、私はアウロラちゃんっていう確率機から超絶激レアな何かを引っ張り出したっぽい。そこまでは、わかる。でも、そこまでしかわからんちんですよ。ぬあー、これは困った。
あ、でもそんなに困らないか。
つか今のうちですね、コレは。うん。今のうち。遠慮なく話を聞くなら、今のうち。
「閣下、どうか頭をお上げください。私はいまや、一刻も早く死すべき〈魔女〉でしかありません。
そんな相手に、閣下のような方が頭を下げるべきではないでしょう」
私の言葉を聞いたヤンセン閣下は、微妙にバツの悪そうな表情のまま頭を上げた。
あー、この人って根っこのところではわりとフツーの善人なんだなあ。じゃあその善意に、ちょっとくらいフリーライドしてもいいよね? ちょっとだけ。さきっぽだけ。
「それより閣下、お恥ずかしながら、ひとつだけ伺えませんか。
実は私は、この牢に入れられる前の記憶が曖昧なのです(たぶん)。
許されざる罪を犯したことは記憶しておりますし、やんごとなき御方に対してあり得ぬ侮辱と侮蔑の限りを尽くしたことも、漠然とは覚えております(たぶん)。
いまなお閣下は私が何か企んでいるとお疑いのようですが、疑われても仕方ないというか、むしろ疑わないなどあり得ぬほどのことを、私はしでかしました(たぶん)。
ですがそれ以外のことは、霧がかかったように曖昧なのです。
願わくばアウロラ姫のことを、伺える範囲で教えていただけませんか?」
わりと多めに付属する「たぶん」を飲み込みつつ、ヤンセン閣下にぶっちゃけトークで質問する。
私の問いに対してヤンセン閣下は驚いたような顔をしたけれど、すぐに渋い顔になって頷き始めた。
「……そうか。
看守から、牢に入った貴様が狂気に冒されたという報告は受けていた。
だが今の貴様は、とても狂を発した人間には見えん」
そうやってしばらくの間、ヤンセン閣下は黙って私の顔を睨みつけていた。
それから覚悟を決めたという顔になると、突然、私の右手に自分の右手を重ねる。え? 何? 何なんです?
「俺の問いに、正直に答えろ。
貴様が牢に入る前の記憶の多くを失っているというのは、本当か?
〈嘘検知〉――さあ、イエスかノーで解答せよ」
なるほど、魔法。これは好都合。
「イエス、です。
私は牢に入る前の記憶の多くを失っています」
私の解答を聞いたヤンセン閣下の右手が、ぽうっと青白く光る。
その色合いを見て、ヤンセン閣下は驚いたような顔。
「青反応、か。
貴様が、あの貴様が、嘘をついていないとはな……。
世の中、不思議と奇跡には事欠かんようだ」
おー、すごい。人間嘘発見器だ。てかさ、昔の「私」にまたツッコミたいんだけど、「あの貴様が嘘をついてない」って驚かれるって、どうなの。マジで。ほんと、どうなの。
「いいだろう。ではアウロラについて、教えられる範囲のことを教えよう。
アウロラは俺の妹で、もともと貴様と同級生だった。貴様からは日常的に陰湿なイジメを受けていたよ。気丈なあいつは学内でこそ毅然としていたが、家に帰ると俺の膝の上で毎日のように泣きじゃくっていた。
貴様が元第一王子殿下の寵愛を一身に集めていたのでなければ、俺が学院に乗り込んで、貴様を斬っていただろう」
うおーい。マジですかー。ほんと勘弁してよ、「私」!
なんでそういうアホらしいことに「頑張っちゃう」かなあ……これだから「頑張る」ヤツは信用できないんだよう。
「貴様と元第一王子殿下に正義の裁きがくだされてから、アウロラも元気を取り戻した。
卒業後はへルミネン伯との挙式も盛大に行われ、あいつは失った数年を取り戻すかのように、幸せを掴んだ」
ははあ。卒業して即、ご結婚ですか。そういや日本でも昔の女学校は「結婚退学」が基本だったって聞いたなあ。
「だが――1ヶ月前、へルミネン伯は暗殺された。そして暗殺を実行した犯人として、アウロラは逮捕された。
アウロラは泣きながら冤罪を訴えたが、あいつが犯人であることを示す証拠は、あまりにも念入りに作り込まれていた。なんとか即決での公開処刑だけは食い止めたものの、俺たちもそれが精一杯だった」
うわー。やっぱそういう陰謀、あるのねえ。嫌だ嫌だ。他人の足を引っ張って何が楽しいのやら。
他人の足を引っ張っるなんて非合理的なことに労力を使ってる間に、別の人が地道にリードを広げていくから、それってトータルで見ると自分の立場を弱めるだけだってことくらい、2秒くらいシミュレーションモデルを検討すれば分かるでしょうに。
「無論、今なおアウロラの立場は危険な状態にある。
だがアウロラが身ごもっていたというのは、俺たちにとってみると、事態を大きく変え得る情報だった。
確かに、現状においてアウロラには『罪』がある、ことになっている。
だがお腹の子供は、まったくの無罪だ。
ゆえに子供が生まれるまでは、アウロラの命を奪うようなことは、できない。そんなことをすれば、死後その魂は無限の地獄に落ちるからな」
オッ、ここで宗教きましたか。
でも自分も「死後の魂」とやらにかなり関係が深いっぽいから、ここはあとでしっかり調べるとしましょう。世界が変わればルールも変わる。
「つまり俺たちには、この卑劣な陰謀を仕掛けた相手を逆に追い詰めるだけの猶予期間が、8ヶ月ほど与えられたというわけだ。
それにアウロラが身ごもった子は、法的に言えば、へルミネン伯爵の爵位継承権第一位となる。へルミネン伯を暗殺した輩にとってみれば、何が何でも殺さねばならない相手だ。だから奴らは絶対に、あちら側から仕掛けてくる」
なーるーほーどー。
アウロラちゃんを守りながらライバルを出し抜く(しかも期限は約8ヶ月)ってのは、とても難しい戦いになるだろうけど、それでも今までの状況よりは全然マシだよねえ。
でも、どうかなー。
ぶっちゃけヤンセン閣下とそのお友達で、その勝負って勝てるんかなー。
つかさあ、これに勝てるんだったら、そもそも初手で負けてないよねー。
第一この話だって、こんな誰が聞いてるかわかんない場所でベラベラ喋っていい話じゃあないじゃん。
ということは、だ。
私は居住まいを正すと、ヤンセン閣下に向き直る。
「閣下。貴重なお話、どうもありがとうございました。
ですがひとつだけ、私見を述べさせてください。
このままでは、閣下はアウロラ姫を守る戦いに、勝てません」
私の指摘に、部屋の空気がすうっと下がったのを感じる。あっは、私が本音トークすると、だいたいこうなるんだよねー。日本でもそうだったけど、異世界でもそうなるのねー。不思議だねー。不思議だなー。
「1つ。確かに、軍隊が相争う戦場においては、防御側は有利です。一般に、防御側は攻撃側の3倍有利だと言われるほどに。
防御側が主導権を持って、彼我の軍が衝突する場所をコントロールできれば、最大で6倍程度にまでその差は拡大するでしょう」
いわゆる「攻者3倍の原則」ってやつですね。
……ヤンセン閣下が「なんだこいつ」って顔してるけど、そこはスルー。
「けれども『特定個人を防衛する』というミニマムな戦いになると、話は変わります。
『自分の命と引き換えに目標を殺す』『死後に永遠の地獄に落とされても構わない』という決意を固めた捨て身の暗殺者が10人も押し寄せれば、普通に守ったのでは30人程度の護衛では歯が立ちません。
そのうえ攻撃側は、自分たちが最も有利になるタイミングで攻撃できます。
例えばアウロラ姫がお医者様に診てもらうために、移動する最中を狙う。あるいはお医者様を閣下のお屋敷に呼ぶのであれば、呼ばれたお医者様を前もって殺しておいて、あたかも医者でございって顔をして屋敷に入る。
いずれにしても、この戦いにおいて戦場を選ぶのは、攻撃側なんです」
要約すると「自爆テロから護衛対象を守るのはめっちゃ大変ですよ」って話。これも私らの世代にとってみれば、悲しいくらい当然の知識になってしまった。いやさ、自爆って言っても、爆弾なんていらないじゃない。他人を転生させる勢いでトラックを運転すれば、それで成し遂げられてしまう。トラックがなさげなこの世界なら、馬車とか? 転生馬車、よくない? 私も行き詰まったら試してみよう。
でまあ、ヤンセン閣下はようやく私の話に追いつけたのか、とても渋い顔。つうか今頃ですか、閣下。しゃーないけどさ。いまは最愛の妹、アウロラちゃんが九死に一生を得たってだけでも、大金星だもんね。
「それから、もう1つ。
こちらからお話を伺っておいて何ですが、このお話は、こんな場所でしていい話ではありません。ですよね?
なるほど周囲においでの方々は、閣下が信頼する方々なのでしょう。でも、本当に? この人達の誰かが、敵と内通していたら? いまは大丈夫でも、例えば親御さんとか娘さんとかを誘拐されて、裏切るように求められたら?
それだけじゃあないですよね。この場所での会話をこっそり盗み聞きしてるネズミさんがいない、とも限らない。ていうか普通、いるでしょ。
もちろんヤンセン閣下も、本当に重要な情報は明かしていません。例えばアウロラ姫がいまどこにいるか、とか。でも私にしてみると、いま伺った範囲で既にいくつか、これは途轍もなく危険だなと判断するしかない部分がありました」
真っ向からの批判を聞いたヤンセン閣下は、むっとした顔で「そんなことはわかってる」と言って、席を立とうとする。いやいや、そんなことないですってば。わかってない。あなた、わかってないヨー。
「8ヶ月」
だから私は、直球で問題点を指摘する。
ヤンセン閣下がぴくりと動きを止め、ゆっくりと椅子に座り直した。
「閣下は『8ヶ月の猶予』と言いました。
その情報は、本当に口に出して良かったのですか? ま、敵に対する撹乱という可能性はあるでしょう。でもアウロラ姫のお腹を見れば、8ヶ月という数字は妥当だなというのも推測できるはず。
無論、いずれは敵方にもバレる情報ではあります。でもそれを閣下の口から確定情報として語ってしまうのは、率直に申し上げて、不用意でした」
私の批判を受け止めたヤンセン閣下は、射殺さんばかりの目で私を睨みつける。
まあ、コトの始まりは私がアウロラちゃんの妊娠をこの場で暴露したことなんだけどね! そこは都合よく忘れよう! そうしよう! てかヤンセン閣下が本気でアウロラちゃん防衛戦を勝ち抜きたいなら、そんな些細なところに拘ってる場合じゃあないっての、わかるはずだし。
わかんねーなら、残念だけどアウロラちゃんは死ぬね。お腹の子供も。あと、ついでに私も。
でもヤンセン閣下がミジンコよりマシな脳みそを持ってるなら、愛する妹のためにここでやるべきことって、ひとつしかないはずなんですよ。
「……貴様は、何が言いたい?」
ほうら。ヤンセン閣下も、そこまで馬鹿じゃあなかった。
それに私としても、ここまで事情を聞いておいて「やっぱりアウロラちゃんは死にました」っていう結末でお話が終わっちゃうのは、なんか悔しい。自分が死ぬのは、しゃーないとしても。
だから私は、提案をする。
「閣下。悪魔と――いえ、魔女と、手を組みませんか?
アウロラ姫と、お腹の赤子の幸せにとっていま必要なのは、悪辣なる敵を上回る悪辣さを持った、魔女なのでは?」




