りんごの思い出
作者の都合で、すべての漢字にふりがなをつけています。拙作ですがご一読いただけましたら嬉しいです。
王妃様は、白雪姫のために料理をしていました。料理が得意ではない王妃様ですが、きれいなドレスが汚れるのも気にしないで、一所懸命になって料理を作ります。
「王妃様お手伝いいたしましょう」
王妃様が苦労しながら料理を作っている様子を、見た召使いが言いました。
「大丈夫です。前の王妃様も料理をしてたのですから、わたくしもこれくらいは、やれなければいけないのです」
王妃様はことわります。前の王妃様が病気で死んでしまい、落ち込んでいた王様が今の王妃様を、新しく迎えたのでした。王妃様はお城の人たちに少しでも受け入れてもらえるようにと、前の王妃様と同じように振る舞っていましたがなかなか思うようにいきませんでした。それでも、王様と前の王妃様の間に産まれた白雪姫は、王妃様のことが好きでした。そんな白雪姫が好き嫌いをして、りんごを食べないと知った王妃様は、白雪姫にりんごを好きになってもらおうとりんごのパイを作ろうとしているのです。
「わかりました。それでは、何かありましたら呼んでください」
王妃様にことわられた召使いが答えました。それでも王妃様が心配な召使いに見守られながらりんごのパイは出来上がりました。王妃様は、召使いと一緒に味見をしました。少し焦げてしまい、形も崩れてしまったりんごのパイですが、おいしく出来ました。うれしくなった王妃様は、白雪姫に食べてもらおうとできたばかりのりんごのパイを持っていきました。
「白雪姫、あなたに食べて欲しくて、パイを作ってみたの」
王妃様は白雪姫にりんごのパイを差し出しました。でも、白雪姫は受け取りません。
「ごめんなさい、お義母さま。わたしは、りんごが嫌いなの」
白雪姫は言いました。王妃様はりんごとは言わなかったのにどうして白雪姫にはりんごと分かったのでしょうか。不思議に思った王妃様ですが、白雪姫にりんごのパイを食べて欲しくて、フォークを使ってりんごのパイを一口の大きさに切ると、白雪姫に差し出しました。
「ひとくちでいいの。きっと好きになってもらえるわ」
王妃様は、お願いをします。そして、少し空いた白雪姫の口に入れました。しかし、白雪姫は口の中に入ったりんごのパイを吐き出します。それだけではありません。白雪姫は、王妃様が持っていたりんごのパイを払い落としてしまったのです。王妃様は驚きました。声も出ません。
「りんごは嫌いなの。お義母さまもわたしにいじわるをするのね」
白雪姫は、部屋を飛び出していきます。白雪姫が泣いていたのを見て、悲しくて、ショックを受けた王妃様は倒れてしまいました。召使いによってベッドへと運ばれた王妃様が目を覚ました時は夕日が沈むころでした。白雪姫はどうしたかしら。気になった王妃様は、召使いに聞きます。召使いは、白雪姫がお城から外へ出て行ったきり帰って来ていないと言います。外は暗くなるのに帰って来ていない白雪姫を心配した王妃様は、探しに行こうと起き上がります。しかし、召使いが外へと行こうとする王妃様を止めました。
「白雪姫が心配なのです」
王妃様は召使いに訴えます。召使いは、首を横に振って王妃様を行かせません。白雪姫が心配な王妃様は、召使いを振り払って探しに行こうとします。
「わたしの母が、街で困っていた白雪姫を見つけて保護しています」
召使いは王妃様に言いました。白雪姫から事情を聞いた召使いの母親は、落ち着いて話ができるようにと白雪姫をひと晩預かると連絡をしてきたことを王妃様に話します。白雪姫が無事だとをわかった王妃様はやっと落ち着いてベッドへと戻りました。
「王妃様。白雪姫が、どうしてりんごが嫌いなのか聞いていただけますか」
召使いは話します。なぜ、白雪姫がりんごを嫌いになってしまったのか。それは、前の王妃様が母親の作ったりんごのパイが好きだったことがきっかけでした。前の王妃様は、母親にしてもらったのと同じように白雪姫にりんごのパイを作りました。でも、前の王妃様の作ったりんごのパイは、とてもまずかったのです。りんごのパイを食べた白雪姫にまずいと言われた王妃様は意地になり、どうしても白雪姫にりんごのパイを食べさせようと毎日のようにりんごのパイを作っては白雪姫に食べさせました。そして、白雪姫は前の王妃様の作ったりんごのパイをりんごという名前の料理だと勘違いをしていたのです。お城の召使いや兵士が勘違いをしていると教えようとしましたが、どうしてもりんごのパイを食べてほしい前の王妃様と一緒になってだましているのだと疑われたという話でした。そうです。白雪姫は、りんごという果物を見たことも食べたこともなかったのです。
「それでは、ちゃんと教えなくてはいけませんね。手伝ってくれますか」
王妃様は、明日もりんごのパイを作ると決めました。そして、召使いに上手に作れるように手伝ってほしいとお願いしました。
次の日、朝からりんごのパイを作った王妃様と召使いは、太陽が高くなったころに白雪姫を迎えに行きました。王妃様は、白雪姫にりんごのパイを渡します。
「お義母さま、わたしはりんごが嫌いなんです」
白雪姫は強く言いました。りんごのパイを王妃様に返します。
「そうだったのかい。言ってくれればりんごのジュースなんか出さなかったのにね」
飲み物を用意してくれていた召使いの母親が言いました。
「りんごは、このまずい料理のことでしょう。ジュースなんかじゃないわ」
白雪姫は、驚いて言いました。そして、ジュースを飲みます。召使いの母親は、全部を理解したようにうなずくと真っ赤なりんごを持ってきました。
「これが、りんごだよ。王妃様のパイはおいしそうだけどね」
召使いの母親はりんごを白雪姫の前に置いて、王妃様が作ったりんごのパイを食べました。おいしそうに食べている様子を見て白雪姫はびっくり。もうひとつと、りんごのパイを食べる召使いの母親を見て、白雪姫は、怖い顔をしながらもりんごのパイを食べました。
「おいしいわ」
驚いた表情をした白雪姫は小さな声で言いました。そして、ふたつ目を手に取って今度はゆっくり味わうと笑顔を見せます。緊張しながら様子を見ていた王妃様でしたが、安心したようで小さく笑いました。
「今度は、一緒に作りましょうね」
嫌いというのがうそのようにりんごのパイを食べている白雪姫に、王妃様が言いました。
「はい。お義母さま」
白雪姫はりんごのパイを食べながら笑顔で答えました。
好き嫌いはあっても仕方がないと思いますが、食わず嫌いは格好が悪いですよね。