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僕と騎士様の異世界転生  作者: ちひろ
いざ! 異世界転生!
9/12

第九話

 「そ、そんな...」


 突撃二人目にしてリョータなる人物の知り合いを見つけたのは僥倖ぎょうこうだったが、その本人が既にいないという状況に、僕は落胆らくたんを隠せずにいた。


 「帰ってくるかどうかも分かんないし...ま、帰ってこない可能性が高いわね」


 「そう...ですか」


 「どうしてリョータを?」


 俯いていた顔を上げて、お姉さんを見る。

 改めて見ると、すごく綺麗な人だ。

 背も高い。

 170cmは越えていそうだ。

 二つしか離れていないはずなのに、大人の女性って感じがする。


 「ん?」


 「あっ、いや! あの、これなんですけど...」


 ヤバい、またうっかりじっと見ちゃってた!

 この癖も直さないと...


 「シートと...枕?」


 「は、はい、屋上で寝てたみたいで、そのまま置いて行っちゃったから、忘れたのかと思って...」


 「...ぷっ」


 「え?」


 「あはははははは!」


 「え? え?」


 急に笑い出したお姉さんに、何がどうしたのか分からず、戸惑ってしまう。


 「はー、おっかしい。なんだ、そういうことだったのね。変だと思ったわ、いつもアイツを訪ねてくるヤツらとは雰囲気が全く違うんだもの」


 「は、はあ...」


 「いいわ、渡しといてあげる。貸して」


 「え、あ、すいません、ありがとうございます。お願いします!」


 「いいのよ。逆にアイツが迷惑かけて悪かったわね」


 「い、いえ、大丈夫です」


 「ふぅん...?」


 お姉さんはニンマリとしながら、手を当てた腰を折って顔を僕に近づけてくる。


 「優しいのね。それに...小さくて可愛い。名前、なんて言うの?」


 「え、あ、あの...」


 ふわりと、えも言われぬいい匂いがして、至近距離に近付いたお姉さんの魔性の魅力にドギマギしていると、グイッと肩が後ろに引っ張られ、二人の間に奈美が割り込んできた。


 「先輩! ちょっと近すぎじゃないですか!? もう用事は終わりましたから、これで失礼します!」


 お姉さんはキョトンとした顔で奈美と僕の顔を交互に見ていたが、ニヤリと口角を持ち上げ、先程とは違う悪戯いたずらっ子のような顔をする。


 「あらら...ふぅん? ふふふ、なぁに、あなた、この子の彼女さん?」


 「か...っ! か、彼女なんかじゃありません!」


 「じゃあ、どいてくれる? 別に関係ないでしょう? 私はその子と話をしているの」


 「おお...これは修羅場の予感」


 京一、聞こえてるから。


 「わた、私は優弥のお母さんからよろしく頼まれてるんです! 変な虫がつかないように!」


 「優弥...優弥君って言うのね。いい名前じゃない。似合ってる」


 「あっ...!」


 「むう、山崎、墓穴を掘ったな。減点だ」


 「...奈美ちゃん、しっかり...!」


 君ら、楽しそうね。

 てか、広瀬さんまで...


 「まあいいわ、名前は教えてもらったから、今日はここまでで。優弥君、私、あおいって言うの。覚えててね」


 「覚えません! もう良いですよね! 優弥、帰るわよ!」


 「あ、ああ...あの、それ、よろしくお願いします!」


 「はいはーい。ちゃんと渡しとくね。また会いましょ。今度は二人で」


 「...っ! 会いません! ほら、早く歩いて!」


 「山崎、完全に遊ばれてるな...減点だ」


 「...奈美ちゃん、頑張って...」


 「ふふふ、二人とも、可愛いわねえ。若いっていいわあ」


 僕は奈美に背中を押され、ヒラヒラと手を振る葵さんをあとに、階段を下りていく。

 てか、危ないよ!

 そんなに強く押したら転げ落ちるから!


 「なんでデレデレするのよ! ちょっと年上なくらいで! 二つしか違わないんだからね!」


 そうなんだよ。

 二つしか違わないんだけど、凄く年上感があるんだよなあ。

 不思議だ。

 葵さんか...綺麗で大人っぽかったなあ...いい匂いがしたし...


 「ちょ、っ、と! 今、あの女のこと、考えてたでしょ!」


 僕の肩を掴む奈美の両手が、ギリギリと強く絞り上げられる。


 「いたたたたた! ちょ、何してんの!? 奈美は馬鹿力なんだから、僕の肩が壊れちゃうよ!」


 「ふん! 知らない!」


 何なんだよもう...

 今日は散々だよ、全く...


 「じゃあ、目的も達成出来たことだし、帰るか」


 「うん、そうだね。奈美と広瀬さんはどうする?」


 「私達も帰るわよ。かおちゃんは方向が逆だから、校門前で別れるけどね」


 「んじゃ、お疲れ様ー。優弥、例の件、夜電話するわ」


 「ああ、分かった。頼んだよ」


 京一は一足先に校門を出て行く。

 “魔力”の件...大事なことだったはずなのに、すっかり忘れちゃってたよ。

 今日は色々あったからなあ。

 帰ったら、また悪魔召喚をやり直さないと。

 校門前のバス停で、広瀬さんと別れる。

 バスが来るまでもう少しか。

 腕時計を見ながらバスの時間を確認していると、隣から袖を引かれた。

 奈美だ。


 「例の件?」


 「...ああ、ちょっと調べ物を頼んでるんだよ」


 「ふぅん...」


 なんかこいつ今日おかしいな。

 さっきもえらい葵さんに突っかかっていってたし。

 なによ、その目。


 「べ、別に変なこと調べてるわけじゃないんだからね!」


 「何も言ってないけど?」


 「くっ...!」


 目が言ってるんだよ!

 口ほどに!

 あ、バス来た。


 僕と奈美はバスに乗りこみ、やっぱり奈美はまた隣に座ってきた。

 狭いんだけど...いいよ、睨むなよ!

 ネット小説読んでるから、気にならないと言えばならないし。


 「えぁ、みどり町2丁目ぇ、みどり町2丁目でぇす。お降りの方はぁ、車が止ぉまってから、お立ち下さぁい」


 いつもの車掌の声を聞いて、バスを降りる。

 寂れた商店街を抜け、近道の路地に入る。


 「昨日、ここで占い師に会ってさ」


 「占い師?」


 「そう、なんか、みかんって書かれた箱に水晶玉乗っけててさ。紫の服とか着て、すごい怪しい占い師。女の人っぽかったけど、今度会ったら絶対に逃がさないんだ」


 「何かされたの?」


 「何かって...いや、そういうんけじゃないんだけど。言いたいことと聞きたいことが山ほどあるから」


 あいつは召喚に関しての、何らかの情報を持っているはずだ。

 京一にも頼んではいるが、ヒントは多い方がいいに決まってる。

 あと、ノロマって言ったの忘れてないからな!


 「へえ...それってさ」


 「ん?」


 「アレのこと?」


 「え?」


 奈美が指さす方向に視線を向けると、そこには昨日のままの姿で、やっぱり遠目に見ても胡散臭い占い師が、こちらに向かって手を振っているのだった。

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