第七話
予約投稿をミスりました...
「なあ、ちょっと相談があるんだ」
学食で、京一はAランチ、僕は弁当を広げていた。
ちなみに、京一のAランチには僕が進呈したゆで卵も乗っている。
僕は義理堅い男だからな。
また助けて下さいね?
「相談? 心当たりが多すぎて絞りきれんが、何の件だ」
「否定出来ないのが辛いけど...京一さ、悪魔とか神とか信じる方?」
「...優弥、友達を宗教に勧誘するのは感心しないぞ。友情を壊す」
「いや、違う違う、そんな訳ないだろ! ...それで、現時点で、どうなの?」
「ふーむ...無いな。俺は幽霊も信じない。見えないものは信じるな、見えないものに惑わされるな、がじいちゃんの遺言だからな」
「...やっぱりそうだよな。普通はそうなんだよ...」
「何だ一体。オカルトにでも目覚めたか?」
「...実は、そうなんだ」
「おい?」
京一がゆで卵の殻を剥きながら、心配そうな目を向けてくる。
まあ、普通はそういう反応になるよな。
僕だって、立場が逆ならきっとそんな顔して京一を見てたはずだ。
「いいか、ありのまま話すから聞いてくれ。それで、アドバイスが欲しい」
京一はじっと僕の目を見つめていたが、ふっと一つ息を吐くと、椅子の背もたれに体重を預けた。
「分かった。言ってみろ」
「本物の、悪魔召喚の書を手に入れた」
「っ...早速突っ込みたいが、続けて」
「うん。で、召喚は失敗した」
「おい。言葉は正確に選べよ? 失敗したのか? 起動しなかったんじゃなくて」
「そう、明らかに失敗したんだ」
うん、やっぱり京一は頭が切れるな。
もう気付いた。
相談する相手を間違えなかった自分を褒めてあげたい。
「...そんなことがあるのか...世の中分からんもんだな」
「本に書いてある通りにやったと思うんだけど、何回やっても失敗するんだ」
すっかり箸を止めてしまった京一は、腕を組んでこちらを見ている。
「失敗の原因に心当たりは?」
「ない...と言いたいんだけど、一つだけ。儀式の際に“魔力”を注げ、って書いてあって」
「ほう? 優弥が、そんなもん持ってたとは初耳だが」
「いや、僕も初耳だよ。持ってるわけないじゃん」
「ふむ...それでは、ちと難しいんじゃないか? 超能力者とか霊能力者とかが持ってたりするのかも知れないが...どこぞに弟子入りでもしてみるか?」
「いやしないよ...何が悲しくて今からイタコ目指さなくちゃいけないのさ...」
「じゃあ、どうするんだ、“魔力”?」
「それを考えて欲しいんだよ...」
京一はその後食事を再開し、さっさと食べ終わると立ち上がる。
僕も既に食べ終わっていたため、京一が食器を下げに行くのについて行った。
「ひとまず教室に戻るか。一応、“魔力”については調べておくよ」
「助かるよ。やっぱり持つべきものは友達だね!」
学食を出て、教室へと向かいながら話を続ける。
「時に優弥。お前、悪魔なんぞ呼び出してどうするつもりだったんだ?」
「うっ...そ、それは...」
異世界転生が目的だなんて、高校生にもなって恥ずかしくて言えないよ。
「どうせ、異世界に行きたいとか、そんなんだろうけど」
「心を読むなよ! 別にいいだろ、悪い!? でも、よく異世界転生なんて言葉知ってたね」
「ああ、お前いつも夢中になってスマホで小説読んでるからさ、どんな内容なのかと思って」
「...思って?」
「授業中お前が寝てる間にスマホ覗いたら、そういう内容の小説があったから」
「僕のプライバシーどこいった!」
「大丈夫だ、俺は気にしないから」
「僕が気にするよ! 何言ってんの!? ダメだよ、親しき仲にも礼儀だよ! いや、ちょっと、その“やれやれ”みたいなリアクション止めてくれる!? 僕がおかしなこと言ってるみたいじゃないか!」
「はは、分かった分かった。なるほど、悪魔に願い事をして異世界転生ねえ」
「上手く行けば、死んで転生するより安全かなって思ったんだ」
「安直」
「うるさい」
暫く他愛もないやり取りを続けつつ教室に戻ると、僕の机を中心に人だかりができていた。
わいわいと楽しそうに話す奈美とその周りを見て、これは良くない流れだと直感する。
「京一」
「どした」
「僕、あの中に割って入る勇気はない」
「ああ...針の筵だろうな」
「僕、残りの時間は屋上で過ごすから、なんとか誤魔化しといて」
「分かったよ。苦労するな」
「いつもごめん」
僕はため息を吐くと、教室の入口を通り過ぎ、屋上へと階段を上ってゆく。
屋上の扉を開けると、暖かな陽射しと涼しい風を、全身で浴びる。
ああ、やっぱりここは僕の一番のお気に入りの場所だ。
屋上を囲っているフェンスに近付こうとしたとき、誰か男子生徒が寝そべっているのに気付いた。
うわ、ちゃんとレジャーシートまで敷いて、枕使って寝てる...
「んん...?」
フェンス側を向いていた彼はこちらに寝返りを打ち、薄らと目を開ける。
誰だろう...校章は...赤。
三年生だ。
「誰だ...? オレの眠りを邪魔する奴は皆殺しだ」
うわ、この人ヤバい人だ!
きっと頭もヤバいに違いない!
僕、死んだかも...
「す、すいません、僕...」
「...あ? 何だ中坊か。勝手に入ってくんな、つまみ出されんぞ。教室帰れ」
「いや、誰が中坊に見えるほどチビですか! れっきとしたここの一年生です! 大体、ココ中等部ないでしょうが! ...ハッ!?」
怖そうな先輩相手だというのに、ついうっかりツッコんでしまった。
ああ、ダメだ...もう死亡決定。
お母さん、先立つ不幸をお許し下さい...
「おお...流れるようなツッコミだな。俺にツッコミ入れるやつなんか久しぶりに見たわ」
先輩はむくりと起き上がるとニヤリとしながら僕を見下ろす。
背が高い、恐らく180cmは超えている。
髪は長く肩まであるが、背が高いのもあって暑苦しくは見えない。
左耳には真っ赤なピアスが光り、怪しい魅力を醸し出している。
言ってることは危ない人だが、顔つきは優しげでこれは男の僕から見ても超イケメンと言える。
「あと何分だ」
「...え?」
「だから、昼休みはあと何分残ってるかって聞いてんだよ」
いや、そんなの一度も言ってないよね!?
エスパーじゃないんだから、心読むのが前提の会話しないで欲しいんですけど!
僕は取り落とす勢いでスマホを取り出し、時間を確認する。
「あ、あと、15分です」
「おお、丁度いい塩梅だな。...くあぁぁぁ...」
先輩らしき人は、大きな欠伸をしながら、僕の横を通り抜けて、屋内への扉へ歩いて行く。
すると、扉の向こうから、ゴリラが出てきた。
いや、違う、ゴリラみたいな図体をしたオールバックの男だ。
「あ、リョータ君、ここにいたのかよ! みんな探して...ん? あいつは?」
ゴリラが僕を目ざとく見つけたようだ。
「知らね。一年みてーだけど」
「ふぅん...なぁーーーーに、見てんだコラァ!!」
「ひっ!」
怒号のような声を受け、僕は金縛りにあったように動けなくなってしまう。
「おいやめとけ。ガキいじめんな」
「ああ...いや、それどころじゃねーのよ! カズトヨの野郎、ヒロキとまたモメてて...」
二人はそのまま何かを話しながら屋内に入っていってしまう。
僕は、一人になった後も暫く動けなかったが、遂にはヘナヘナと尻餅をついてしまった。
「はあ~...こ、怖かった...」
そのまま呆然と座り込んだ僕の体がまともに体が動くようになり、さっきの人がレジャーシートと枕をそのままにして行ったことに気付いたのは、午後の予鈴が鳴ってからのことだった。