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僕と騎士様の異世界転生  作者: ちひろ
いざ! 異世界転生!
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第五話

 呆然と暗闇に立ち尽くす僕は、大混乱に陥っていた。

 召喚の儀式は成功しなかった。

 それはいい、もともと成功するなんて期待はほとんどしていなかったし、インチキに違いないと思っていた。


 僕は慌てて部屋の電気をつけると、本のページをめくった。


 『よもや失敗などするはずはないと思うが、成功していれば、君の前にはロウソクの炎から伸びるように現れた何者かの姿が見えていることだろう。仮に失敗した場合、ロウソクの炎は消えてしまったはずだ。まあ、そんなこともあるさ。再び火をつけて再チャレンジだ』


 失敗...した?

 失敗した(・・・・)

 儀式は失敗だ!

 火は消えたということは魔法陣は起動したが、悪魔は呼び出せなかったということ!

 つまり...


 「本...物?」


 そこからはひたすら儀式を繰り返した。

 雰囲気を出すために服も着替えたし、呪文もそれっぽく聞こえる言い方で唱えてみたりした。

 母さんがご飯に呼びに来た時はなんとも言えない微妙な顔をされたが、それはしっかり食べておいた。

 腹が減っては戦は出来ぬとも言うしね。

 早く儀式に戻りたくて肉じゃがをかきこむ僕を見て、さっきみたいのは2年遅いんじゃないのかしら、とか言われた時は顔から火が出るかと思ったが。

 厨二病じゃないから!


 食べ終わるなり部屋に戻り儀式を再開する。

 何度やっても失敗する。

 召喚本も読んだが、失敗に関するトラブルシューティングは載っていないようだ。

 というか、まず失敗することなどないというような書き方をしてある。

 くう、役に立たないな。


 そうこうしている間に、いつの間にか朝日が上っていた、というわけだ。


 『悪魔との、いや、神かも知れないが、交渉は上手くいっただろうか。相手は理知的な相手であったかな? 君はいったい何を願ったのだろう。興味は尽きないが、私にはそれを知る術はない。悪魔を呼び出してまで願いを叶えんとする欲深き君に、幸多からんことを』


 最後のページを読みながら、重いまぶたを必死で持ち上げ、何度目とも知れないため息を吐く。


 『最後に、何度やっても成功しなかった君。いや、まさかそんなことはないとは思う。幼稚園児にでも出来るような簡単な儀式だしな。ないとは思うが、そんな稀有けうな人間が仮にいた場合、致命的に才能がない。もう前世から人生やり直した方がいいな。他力本願たりきほんがんに身を投じず、来世ではなんとか頑張れ』


 やかましいわ!

 誰が幼稚園児以下か!!

 実際、成功させられておらず、強く言い返せない身なのが歯痒はがゆい。


 時計を見ると、そろそろ登校しないと行けない時間が近づいている。

 ここまでか。


 ベッドに召喚本を放ると、制服に着替えリビングへと降りる。

 母さんはタブレットでテレビを見ながら朝食を作っていた。

 器用なこと。


 「あら、おはよう。もうご飯出来るとこよ。それから...深夜はもうちょっとだけ声を抑えてくれると助かるかなー」


 うわああああ、聞かれてんじゃん!

 夢中になって、思ったより声が大きくなってたのか。

 いでよ悪魔よ、とか大声で叫ぶ息子...いやあ、それは将来心配になるわ。


 「い、いやあれはほら...アレだよ。演劇部の見学に行ったから、その影響というか、高校では何か部活しようかなと思ってさ」


 「...ああ、そうなのね! なあんだ、心配しちゃ...いや、思春期になると色々あるって聞くし。でも、優弥のことは信じてるからね!」


 ちょっと苦しいかなと思ったけど、なんとかごまかせたみたいだ。

 つか、相当心配させたみたいで、母さんには悪いことしたな。


 「今日はご飯いいや、ごめんね。急ぐから。行ってきます!」


 「あ、ちょっと、優弥!?」


 逃げるように家を飛び出すと、バス停に向けて歩いていく。

 深い深いため息を吐き出した直後、背中を叩かれた。


 「おっはよ、どしたのため息なんて吐いて」


 唐突な遠慮のない衝撃に、僕は盛大にむせかえる。

 振り向くと、ポニーテールの女の子がニコニコと僕を見ている。


 「ゲッホ...な、奈美...相変わらず馬鹿力な...」


 この女、森崎奈美もりさきなみは、僕の幼なじみだ。

 身長は悔しいことに僕より少し高い。

 中学の時から陸上をやっており、中学時代は特別強化指定選手に選ばれたとかなんとかで、運動神経がかなりいい。

 ただ、膝を壊してからは陸上部を辞め、高校でも部活はしていない。

 体型は大変スタイルがよく、特に足が長い。

 男に声をかけられてるのを頻繁に見るし、密かに憧れてる男子生徒も多いと聞く。

 僕はこいつとは兄弟みたいな感覚なので、興味が無いが。

 でも、誰かと付き合ったとかいう話は聞かないんだよな...


 「誰が馬鹿力よ。優弥が貧弱なだけでしょ。何か運動部にでも入って鍛えてもらった方が良いんじゃない? 肉体に対する刺激が少ないからちっこいのよ。あれ、目の下クマ出来てるけど、ちゃんと寝てるの?」


 「うるさい、余計なお世話だ。あと、ちっこいとか言うな」


 何が楽しいのか、ずっとニコニコしながらナチュラルに急所を突いてくる。

 ドSか。


 占い師がいた路地を抜ける。

 ひょっとしたらまたいるかもしれないという僕の期待が、あえなく砕け散ったのは言うまでもない。

 会えたら色々言ってやりたいことが山のようにあったのに。


 「どこ見てるの?」


 「あ、いや、ちょっとね...」


 言葉を濁して足を早める。


 「ん? てかいつまで付いてくんの?」


 「え、学校行くんだから学校まででしょ? あんたの事はおばさんにもよろしく頼まれてるんだから、キチンと見とかないと」


 「いや、僕は頼んでないよ...」


 コイツといると、大抵ロクなことにならないのは体験済みだ。

 狙ってる男のやっかみとか女友達のいない男の妬みとか、全部こっちにしわ寄せが来んだかんな。


 バス停に着くと、丁度バスが来る所だった。

 乗り込んでいつものようにパスケースを滑らせると、空席がいくつかあった。

 ラッキー、いつもは座れないけど、この時間だと少し空いてんだな。

 朝は気まずい思いしたけど、いつもより早く出て結果的には良かったかもな。


 空いている二人掛けの席の窓側に座り、隣の席にカバンを置く。


 「ちょっと、そっち詰めてよ」


 通路を見ると、奈美が立っていた。


 「え、いや、ここ座んの? 他空いてんじゃん」


 「他の人が座るでしょ。どうせ満席になったら空けなきゃいけないんだから、早いか遅いかだけ。ほら、カバン取って」


 「はあ...わかったよ」


 僕がカバンを抱えると、奈美はいそいそと席に座る。

 座ると頭の位置はほとんど僕と変わらない。

 僕の胴が長いのか、コイツの足が長いのか...いや、僕の座高は平均のはずだ、そうに違いない。

 仮にそうだとしても、足が長いのって羨ましいよなあ。


 「...何?」


 「あ、いや、何でもない」


 迂闊うかつにもじっと見ていたようだ。

 僕はスマホを取り出し、『異世界の空も青かった』の続きを読み始める。

 話はいよいよ佳境かきょうに差し掛かり、仲間を揃えた主人公がお姫様に見送られて魔王を倒しに魔界へと向かうところだ。

 主人公はめちゃんこ強い。

 きっと魔王も誰ひとり欠けることなく倒してくれることだろう。


 「また小説? よく飽きないね」


 奈美が僕のスマホを覗き込むようにして言う。

 何だか分からないが少し恥ずかしい気がして画面を奈美から見えないように隠す。


 「いいだろ別に。面白いんだよ」


 「へえ。どんな話なの? ちょっと聞かせてよ」


 「いや、ちょ...僕これから大切な趣味の時間なんだけど」


 「いーじゃん、暇なんだもん。それとも、人に話せない程度のつまらない話なの、それ」


 「はあ!? ふざけんな、めっちゃ面白いよ! あのな、この主人公は平凡極まりないただの高校生だったんだよ。それが異世界に転移してからはーーーー」


 結局、バスが学校に到着するまで身振り手振りを交えて熱弁した僕は、話の続きを全く読むことができなかったのである。

 奈美は、ずっとニコニコと聞いていたが、あいつ内容わかってんのかな。

 異世界とか言っても訳わかんないだろうに。


 奈美と一緒にバスを降り、校門を抜け校舎に入る。


 「あ、かおちーん」


 昇降口の靴箱の前で先に上履きを履いていた女の子に、奈美が駆け寄っていく。


 「...あ、奈美...おはよう」


 控えめな声で挨拶を返す彼女は、高校から奈美と友達になったという女の子だ。

 名前は確か広瀬香織ひろせかおり、僕より頭一つは小さく、髪型はショートカットで大人しめな性格をしている。

 背の低さにコンプレックスを持っており、髪を伸ばすと余計に小さく見えるからショートにしているという話だ。

 いや、奈美から聞いたんだけどね。


 「じゃ、私はかおちゃんと行くからね。またお昼にねー」


 いや、お昼にね、じゃないっての。

 そんな約束した覚えないぞ。

 っと、周りの男どもの目が...刺すようだ。

 ヤバイな、これは早く教室に行かないと、奴が来たらまた...


 「おーう、今日もアツアツじゃねーか」


 くそ、手遅れだったか...

 後ろからかけられた声に振り向くと、そこにはワックスか何かで髪を全部逆立てた目つきの悪い男が、頭一つ高い位置から僕を睨みつけていた。

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