表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と騎士様の異世界転生  作者: ちひろ
いざ! 異世界転生!
2/12

第二話

 校門前からバスに乗りこみ、空いている席に座った僕は早速スマホを取り出し、ネット小説のサイトを開く。

 降りるまでの30分とて無駄には出来ない。

 カテゴリはファンタジー、お気に入りは異世界転生いせかいてんせいものだ。

 このネット小説が僕の唯一の趣味だ。


 僕は山本優弥やまもとゆうや、この春、高校に入学したばかりだ。

 入学のお祝いに買ってもらったこのスマホが、僕をいつも異世界へと連れていってくれる。

 ああ、あくまで比喩ひゆだけどね。

 もともと本は好きな方だったけど、まさかタダで読める小説があるなんて、思いもよらなかったな。

 中学時代はさほど魅力を感じていなかったので、中学に入学する時に買ってもらったガラケーを三年間使い続けた。

 周りにはスマホでゲームしてる友達もいたけど、そんなちっこい画面でちまちまやるより絶対に家のテレビでやった方が良いと思ってたから、羨ましいとも思わなかった。

 電話なんだから電話とメールさえ出来りゃいいのさ、なんて言ってたっけ。


 あああああ、それなのにこんな、こんな素敵すてきがスマホに詰まってるなんて!

 だって、誰も教えてくれなかったじゃないの!


 まあ、過ぎてしまったことは言っても仕方ない。

 話はネット小説だ。

 僕はネット小説を読むようになって、いっぺんで異世界転生の魅力に取りかれた。

 こちらの世界では平凡だった主人公が、ご都合主義つごうしゅぎに神様から凄い力をもらって、向こうの世界でドラゴンと戦ったりお姫様やエルフにれられたり奴隷どれいを何人も抱えたりそれをみんな嫁にしちゃったり、やりたい放題するんだ。

 もはやテンプレ扱いさせるほど、メジャーなジャンルである。

 最初はただ面白くて読んでただけだったが、やはりと言うかなんというか、自分も異世界転生したいな、なんて考えるようになるまで、そう時間はかからなかった。


 「えぁ、つぎはぁ~、桜塚さくらづか~、桜塚でぇす。お降りの方はぁ~、ボタンを押して、お知らせ下さぁい」


 車掌しゃしょうの声が車内に流れる。

 おっともう半分か、小説読んでると時間がすぐ過ぎるな。


 今のお気に入りは、『異世界の空も青かった』というタイトルの小説だ。

 本当にアマチュアなのかと疑いたくなる文章力は、それだけで僕を話に引きつけるのに、出てくるキャラクター達も魅力的できが来ない。

 なにより、平凡を絵に書いたような主人公が異世界で無双むそうするのが読んでいてたまらなく爽快そうかいだ。

 こんな風に、自分も異世界へ行けたらな、などと夢想むそうしても仕方ないよね。


 無双だけに。


 ともあれ、この主人公は、こちらの世界で一度死んでいる。

 暴走する車から、少女をかばって自分が巻き込まれたのだ。

 善行ぜんこうによる死を見とがめた神様は、その行為に対しての褒美ほうびとして異世界への切符キップとスッゲー能力をくれた、という筋書き。

 導入どうにゅうとしては良くあると言えば良くある形ではある。

 ただねえ、異世界転生する人達って、偶然巻き込まれたケースが多いんだよね。


 「えぁ、みどり町2丁目ぇ、みどり町2丁目でぇす。お降りの方はぁ、車が止ぉまってから、お立ち下さぁい」


 おっと、降りないと。


 定期替わりであるICカードの入ったパスケースを読み取り機の上にすべらせ、バスを降りる。

 ここから歩いて家まで10分少々、趣味の時間はここまでだ。

 歩きスマホは危ないからね!


 のんびり歩きながら考える。

 異世界転生は偶然の産物さんぶつ

 もちろん、こちらの世界に帰りたいという主人公の苦悩くのうが物語のエッセンスにもなるから、そういう点でも都合が良いんだろうけど。

 狙って行く人がいないのはなぜだろう。

 物欲ぶつよくセンサーでも働くのかしらん。

 大体、死んで転生する場合、つまりこちらで死ぬんだから何とかして死ななきゃいけないわけで、狙って死んで、転生できなかったらと思うと、とても実行する勇気はない。


 そんな益体やくたいもないことをウダウダと考えつつ、さびれた商店街を抜け、細い路地ろじへと入る。

 ここ、近道なんだよね。



 どうにかして安全に異世界へ行けないものかーーーー


 そこまで思考しこういたった時。


 「お兄さん」


 唐突とうとつに声を掛けられた。


 反射的に視線を声のした方へ向けると、そこには『怪しい占い師』という言葉から10人に連想れんそうしてもらったら9人は思い浮かべるであろう、紫の衣装にフードをかぶり、ヴェールのようなマスクで口をおおった女性らしき人物が、水晶玉の乗った箱を前に座っており、おいで、おいで、と手招てまねきをしているのだった。


 その箱、みかん、て書いてあるけど大丈夫?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ