表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

3、秘密の港


講師2人をとり残したまま、4人が爆笑した。


「珍獣に、落ち着かされてヤんの、ダッセーな、トム。ククッ・・・。」


「うるさいっ、珍獣じゃねーし!!」


ゲラゲラ笑うミコに抗議して、グーで腕を叩く。


クソッ、笑いやがって。


アタシの怒った顔を見て、また他の3人が笑う。



って。


目の前の2人が、ポカンとしているのに気がついた。


「ヤバ・・・。」


言葉使い、すっかりお嬢様じゃねーし!!


現状に気がついて、焦り出すアタシに2人がクスクス笑いだした。



何で?


「あー、よかった。叶さんが、あの生徒会長キャラじゃなくて。てゆうか、叶ちゃんでいい?」


は?


岩男の話している意味がわからん。


「麻実ちゃん、取りあえず、家の連絡先教えてくんねー?」


いやもっと意味がわからない、残念な男。



アタシは何て答えていいかわからず、固まっていたら、隣でミコが口を開いた。


「聞いていいですか?大学でもモテモテのお2人が、何でわざわざこの街にまで来て、麻実に絡んでんですか?」


丁寧な口調だけど、声が低いし本来のミコオーラ全開だから、空気が凍った。


コージもアキも泣きそうだし。


ミカ&ナナグループは敏感に察知し、そそくさと店を出て行った。


岩男も残念な男も、顔から笑顔を外した。


「へぇ。もしかして、大学の後輩?」


岩男がチラリとミコを見た。


「ええ。あいにく、経済学部まで一緒ですね。」


「やっぱ、俺と麻実ちゃん、運命かもー?」


残念な男、その思考まで残念だ。


「帰ってくんねー、かな?」


ミコが立ち上がった。


「えー、何で?」


岩男も立ち上がる。


はあ。


マズいな。


「すみません、もうお帰り下さい。これ以上ここにいると、危険ですから。」


アタシは仕方がなく、2人に頭を下げた。


だけど、こいつらは訊く耳を持たないらしく。



「麻実ちゃーん、俺その嘘くさい生徒会長口調きらーい。普段通り喋ってよぉ。」


残念な男の馴れ馴れしい言葉に、そうだそうだと岩男も頷いた。



はあ。


もう嫌だ。


こいつら人の話きいてねーし。


この状況わかってねーし。



もう知らん。



「とりあえず、忠告はしたから。マイクに迷惑かかるし、言うこと聞けないのなら店の外に出て!!」


アタシはやけくそ気味に叫んだ。





驚いた。


ミコに瞬殺されると思ったんだけど、2人は案外強かった。


しかも、残念な男が、格段に強い。


ああ、これは武道をやっているんだ。



かたっていうのかな?


体の動きがしなやかで、とても綺麗。



だけど、やっぱりミコは違う。


強さとか、技とかそんなんじゃなくて。


場慣れとか、覚悟とか、ちょっと大げさだけど人生だとか。


背負っているものが違う。


ミコは喧嘩する時は、どんな喧嘩でも同じ。


命をかけていつも戦う。


バカなんじゃないかと思うけど。


それがミコの世界だし。


これからもそうやって生きていくんだろう。


そんな覚悟で喧嘩をするから、相手だって怯む。


恐怖が湧きでたりする。


そこをミコは攻撃する。


だから、負けない。



ミコのパンチが、残念な男の腹に入った。


一瞬、息ができないように動きが止まった。


そこにとどめを刺すように、ミコが足を上げかけた時。


よく知っている、品の無いアメ車のエンジン音が聞こえてきた。



「ミコ!!ヤバい!ジョーが来た!アタシ、今日外出禁止令出てたの!帰るねっ!」


焦る私の声に、4人も焦り出した。


アタシと違う意味で、4人はジョーが怖い。


意味はそのまま。


アタシに無茶をさせると、本気でシバかれるから。


女だって容赦はない。


アキも何度かビンタをされている。


そのたびにアタシはジョーに抗議するけど、聞いちゃいない。


「とりあえず、解散だ!またなっ!」


トムが叫んで、皆はバラバラに別れた。


アタシはマイクの店に入り、裏口を使わせてもらう。



はあ。


ったく、ジョーも暇だよね。


仕事しろ、っつうの。


コマシのロリコン過保護野郎なんて、マジ最悪――



なんて。


心の中で毒づいたのが、いけなかったのか。





ガシッ――



いきなり、後ろから腕を掴まれた。



え?


も、もしかして、ジョー?


アタシの悪口が、ロリコン念力で聞こえたとか?



ビクつきながら、振り返ると・・・。



アタシは、一気に脱力した。



何だ。


「残念な男か。」


安堵のため息をついた。


だけど。



「・・・残念な男って?」


胡散臭い笑顔と、その質問に。


滅茶苦茶、焦った。


し、しまった!・・・口から出ていたんだ。



だけど。


ジョーに見つかるとヤバいので、取り敢えず安全な場所まで逃げた。





港の一角。


アタシのお気に入りの場所。


実は誰も知らない。


だって、此処に来る時はいつも1人だから。


だから、こいつを此処に連れてきてしまったことは――



「チッ。」


「えぇ!?お嬢様が、まさかの舌うち!?」


「うるせーよ。本性バレてんだろ。今更突っ込むな。」


ギロリと睨むと、残念な男がケラケラ笑う。


「やっぱ、サイコー、そのキャラ。俺の踏んだとおりだなー。あの生徒会長キャラは絶対、作ってるって思ったし。」


残念な男がうんうん、と頷く。


「え?あん時から、わかっていたのか?」


驚いて、アタシは残念な男を見た。


そして。


ドキリ、とした。


コイツの目って・・・・・。



「まあな、初対面の時・・・あ、玄関で会った時にな、本当は違う感じじゃないかって目を見て思ったのと・・・控室で、他の生徒会メンバーの気持ちの悪い声に、麻実ちゃん笑いそうになって、あわてて部屋出て行ったろ?」


「え、わかっていたのか?」


よく見てんな。


「ああ。思った通りだった。」


「何だ、完璧にキャラを作っていると思ったんだけどな。」


「いや、戸田とか他の講師達は、生徒会長キャラをそのまま信じていたぞ。だから、ほぼ完璧だろ。」


「いやいや、『ほぼ』がついたら、『完璧』っていわねーし。あー、あと10ヶ月、卒業までこのキャラどうにかもたせないと!!」


本性バレたら、あんまいいことなさそうだし。


「何で、本性隠してまで鎌倉花園に通ってんだ?お嬢様にこだわらなければ、偏差値が高い学校は他だってあるだろ?」


残念な男が不思議そうな顔でアタシを見た。


「・・・親孝行だよ。父親が、アタシをお嬢様学校に通わせるのが夢だったんだよ。ま、育ちはお嬢様じゃねーけど、うち、そこそこ家裕福な方だから。」


そう言うと、残念な男が首をひねった。


「だけど、無理してまで・・・。」


ま、普通はそう思うだろうな。


「親孝行したいんだよ・・・この先、あんまできないかもしれねーし。できる時にしておきたいんだよ。」


好きな場所のせいか、ポロリと本音が出た。


「なあ、明日時間あるか?」


急に、残念な男が話をかえた。


「何で。」


「ぶっ。ホントに、キャラ違うな。ウケるし。」


ケラケラ笑う残念な男に、舌打ちをする。


「うわっ。短時間に2回も舌打ちされた!」


「お前が悪いんだろーが。」


「お前じゃなくて、俺の名は華清かしんだ。名前で呼んでくれ。残念な男ってのは、かなり傷ついたから、却下な。」


そりゃ、そうだな。


いきなり、『残念な男』なんて呼ばれたら、いい気はしないよな。


てか、怒るよな。失礼だし。


だけどな、カシンてのも、呼びにくいしな。


「・・・じゃあ、『ハナ』って呼ぶ。」


「華清の『華』か・・・ふっ、素直じゃないやつ。でも、結構いいな?よし、じゃぁ、俺は麻実まみって呼ぶな?」


はっ!?


驚いて、見上げると。


切れ長の瞳が、アタシを見つめていた。


その瞳は、深い、深い黒。


目の奥には、出口のない闇が広がっていそうな・・・そんな、瞳。


少し、コイツの何かがわかってしまったような気がして、ドキドキした。


だからアタシは。


動揺を見せたくなくて。


つい、言ってしまった。


「まあ・・・ちゃん、づけはキモいから・・・いいか。」




優しい、春の風が頬を撫でる。


潮の香りと、この風がアタシは何より好きだ。


波の音。


この場所は、やっぱり、アタシには必要だ。



「いい場所だな・・・・ここ。」


ポツリと、残念な男・・・ハナが呟いた。


「ああ、アタシのお気に入りの場所だ。誰も知らない。」


そう言うと、ハナが吹き出した。


よく笑うな、コイツ。


「わかった。だから、舌打ちかー。ククッ・・・」


図星なだけにムカつく。


ギロリ、と睨むと。


「悪い、悪い。悪かったってば・・・・なあ・・・ここ、誰にも秘密にしておくから、俺、またここに来てもいいか?」


そう言って、また闇の広がる瞳でアタシを見るから。


思わず、頷いてしまった。


ハナはそんなアタシに満足そうに笑った。





「お、もう9時だぞ。帰んなくていいのか?」


その言葉に、ジョーの顔が浮かんだ。


マズい。


「帰る。」


「送るぞ。」


「いや、地元だし、返って目立つからいい。あ、ここからまっすぐ出て、信号を右に曲がって、酒屋を斜め左に入ってそのまま行くと、駅だから。じゃあな。」


そう言って、足早に去ろうとしたけど。



「明日、11時に此処で待っている。デートするぞ。」


ハナがとんでもない事を言いだした。


「はっ!?」


「だから、デート。あ、でもジーンズ、履いてこい。」


「何で、アタシが。断る。」


「ククッ・・・気持ち良いくらい、きっぱり断るなー。だけど、麻実は断れねーよ。お嬢様の真実バラされたくないよなー?」


「はっ!?脅しかっ!?」


「ちげーよ。デートの誘いと、助言だ。」


さらっと、言ってのけるずうずうしさにムカつく!!


「ふんっ、言ってろ!残念な男!」


捨て台詞を残しアタシは踵を返した。


そして。


アタシの耳に残るのは、ハナの笑い声と、波の音・・・。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ