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2、地元

※このお話の舞台となる『横須賀』は、あくまで架空の街です。実際の街とは異なりますので、ご了承下さい。


「熱は、下がったのか?」


シラス雑炊をお盆に載せて、部屋にジョーが入ってきた。


「ノックぐらいしろー。」


アタシの抗議の声は全くの無視で、テーブルの上にお盆を置くと、ジョーはおでこに手を当ててきやがった。


「下がったな。」


そう言いながら、ジョーはホッとした顔をすると、土鍋の雑炊を私のご飯茶わんによそいだした。


「仕事は?」


「あ?お前が、これ食って、薬飲んだら行くぞ。」


よそった雑炊をレンゲですくい、ふぅふぅ息をふきかけて冷ます姿は、ウケる。


「ぷ。」


「何だ。」


「ウケてるだけー。横須賀で怖いもんなしのジョーが、可愛く雑炊ふぅふぅしてる姿にー。」


ゲラゲラ笑うと、ケリが飛んできた。


軽くかわしてやる。


「うるせぇよ。俺だって、怖いもんくらいあるぞ。紅茶キノコと、病弱暴走娘。」


「むっ!!何、病弱暴走娘って?しかも紅茶キノコと同等扱い!?」


ケリを入れると、ガシッとうまく入った。


「っ!!・・・おまえなぁ、少しは手加減しろよ。」


文句を言いながらも、アタシの口にレンゲを突っ込む。


「んぐっ・・・・・・もうっ、自分で食べられるし。」


「いいんだよ。黙って食え。」


「過保護ー。」


「うるせっ。」


「パパにまた怒られるよ?早く店に入んないと。」


「お前の世話も、仕事のうちだ。お前が熱出したのも社長に報告済みだし。」


「仕事ねー。趣味と実益を兼ねた仕事だねー。ロ・リ・コ・ン。」


「ばっ!?馬鹿やろっ!!何がロリコンだよ!!そんなエロい体しやがって!!」


ジョーが赤い顔で叫ぶ。


「うわ。セクハラ発言!20歳の男が、いたいけな13歳の少女に告ったのはロリコンでしょう!?間違いなく!!」


「何が、いたいけな、だ!!・・・それに、あれから4年だ。もう、ロリコンじゃねぇだろ。」


「え?それ、告白?」


「・・・・・。」


「告っちゃう?また振られるのに?」


「・・・振るのか?」


「うん。」


「はぁ!?こんな、いい男を、お前はまた振るのか?」


「だってぇ。」


「だって何だよ?」


「ガラの悪いロリコンって、最悪じゃん。」


「あのな・・・。」


「ロリコンって、変態ってことでしょ?」


「はぁ・・・俺は、お前に告る時期を間違えたのか?ロリコンって、一生言われるのか?」


「一生って・・・多分そんなに長い間、言い続けられないよ。安心してよ。」


「オイッ!」


ジョーの顔色が変わる。


「ごめん、ジョー。また、振っちゃって。アタシ、ダメだ。ロリコンと・・・孤独な男は、無理。だって、ロリコンって変態だし。孤独な男は1人にしたら、もっと孤独になっちゃうじゃんか。アタシ、自分の男を幸せにできないなんて嫌だし。」


「何、言ってんだ。お前がいたら、俺は幸せになれるぞ?」


ジョーが茶碗を置き、アタシの手を握る。


「ごめん、言いかえる。アタシが耐えられない。アタシがいなくなった後のこと考えると。もっと孤独にしてしまうかもしれないって考えると、堪らない。」


ジョーの手を握り返す。


「麻実・・・。」


私の言葉に、ジョーが悲しそうに眉を寄せた。


私の体の事になると、ジョーはいつもこんな顔をする。


本当に私の事を思ってくれているってわかるんだけど、大好きなジョーにこんな顔をさせてしまう事に堪らなくなってしまう。


だから、つい茶化してしまう。いや、内容は本当の事なんだけれど。


「あー、ダメな理由がまだあった!ごめん。残念なお知らせなんだけど。ジョーにそういう気持ちだったのって中学までだし。それも、ジョーが派手なお姉さまとラブホ入って行く姿を何回も目撃してすっかり、冷めているし。」


「マジ!?」


「うん。ちなみに、毎回違うお姉さまだよな?」


「ああぁぁっ!!俺としたことがっ!!」


アタシの発言に、ジョーが頭を抱えのたうちまわる。


そこへ、部屋の電話が鳴った。



「お取り込み中、悪いけど。多分、呼び出しだ、ジョー。」


そう言って、受話器をとるように促す。





「はぁ・・・・・・行ってくるわ。」


案の定、電話は店からの呼び出しだった。


ジョーは腕のいい、バーテンダーだ。


まあ、支配人的な事もこなすし。



私のパパはここ横須賀で、キャバレーやバーなど何店舗も店を持っている、いわゆる夜の商売人だ。


私に内緒にしているけど、ソープやラブホなども経営しているみたいだ。



ジョーは、5歳のころ、パパの経営するラブホに捨てられていた孤児だ。


パパは最初警察に引き渡そうとしたらしいんだけど、ジョーの目が気に入って引き取ったらしい。


どんな目をしていたの?と、一度聞いたことあるけど・・・絶対に負けねぇ!って喧嘩腰の目つきだったんだと。


それが気にいったって。


よくわかんねーけど。



まあ、それから2年後にアタシが生まれて。


兄妹同様に一緒に育ってきた。


というより。


守ってもらってきた。


病弱なアタシの面倒はいつもジョーがみてくれた。


8歳で両親が離婚してからは、もっといつもそばにいてくれた。





「そう言えば、あの男・・・電話かかってきたのか?」


部屋を出ようとドアを開けると、思い出したようにジョーが振り返った。


「え?誰?」


「お前の好きなラムレーズンサンドの店で、話しかけてきた男だ。」


「・・・ああ、残念な男か。」


すっかり、忘れ去っていた男の顔が頭に浮かんだ。


そう言えば、イイ男だったな。


ま、顔だけ。


「残念な、男?何だ?」


「ああ、それはこっちの話だから。電話かかってきたのかな?わかんないや?」


「あ?だって、お前ずっとこの部屋で寝ていただろ?」


「そうだけど、教えたのはここの電話番号じゃないし。生徒会室の、黒電話の番号だから。誰が、個人情報教えるかよ。」


そういうと、ジョーが吹き出した。


「ククッ。そうか、そうか。わかった。ククッ・・・。じゃあ、俺、店行くわ。ククッ・・・。」


ジョーは1人笑いながら納得すると、今度こそ機嫌良く部屋を出て行った。






さて。


ジョーも、店へ行ったし。


どうするかなー、と思っていたら。


電話がかかってきた。


相手はトム。幼馴染だ。


皆が集まっているから、出てこいだと。


ああ、そうか。


今日は土曜日だし、明日学校も仕事もないから、皆集まっているんだ。



熱も下がったし。


シラス雑炊も食べたし。


薬も飲んだ。



完璧だよね?


そう自分に言い聞かせ、クローゼットを開けた。






「おー、麻実。久しぶりだなー。」


港に面した公園のテーブルと椅子の置いてある場所がアタシ達の溜まり場だ。


溜まり場っていったって、何も悪いことをするわけではない。


皆で、楽しく話をするだけだ。


だけど、これがジョーの耳にはいると厄介なことになる。


ジョーは、私がここへ来ることをよく思わない。


何でかはよくわからないけれど。


一度理由をきいてみたら、『ダメなもんはダメ』って・・・それ、理由じゃねぇし。



だから、今日はジョーにはばれないようにしよう。



「麻実ー、お嬢様学校どうよ?ちゃんと、猫かぶっているかー?」


トムめ。


猫かぶっているか?って、全く。


そりゃ、しっかりかぶっているけど。


「完璧だ。」


指を二本立てて、余裕の顔をする。


すると、皆が一斉に吹き出した。


そして、爆笑。


「何だよ、失礼な奴らだな。」


「だ、だって・・・。ククッ・・・麻実がお嬢様って・・・スカジャン着て、お嬢様って・・・ないよなぁ。」


皆もゲラゲラ笑う。


「悪いかよ。これも親孝行だ。しかたねーだろ?」


そう。


アタシがあんなに居心地の悪いお嬢様学校に通っているのは、ひとえに親孝行のためだ。


パパが単にアタシをお嬢様学校に通わせたいから。


まあ、お金はあるからね。


だけど、アタシはお嬢様の育ちをしていない。


周りはこんな友達だし、何て言ったって、ジョーに育てられたようなもんだし。


ジョーは、横須賀を仕切っているような男。


中学のころから暴れん坊で、無茶苦茶強かった。


だから、ジョーには誰も逆らえない。


あ、アタシ以外はね。


あと、パパもか。



パパには絶対服従だし。



ま、聞くところによると、パパも若い頃は、ジョーみたいだったらしいし。


誰も逆らえないみたいだし。


ジョーよりもパパの方が強いって、ジョーが言っていたし。


「だからって、あんなお嬢様学校通うって、麻実もスゲーよなー。」


アキが呆れたように、言う。


アキとアタシの今日のスカジャンはお揃いだ。


明るい赤のスカジャン。


背中には、2匹の竜。


アキの誕生日にアタシがプレゼントしたもの。


アキのママはドブイタ通りで、バーをやっている。


外人好きで、恋人もしょっちゅうかわる。


アキには、生まれた時から父親はいない。


だけど、ハーフとひと目でわかる容姿。




アキとは中学で一緒になった。


黒い肌と、縮れた髪。


それが理由か。


小学校の同級生たちから、イジメを受けていた。


同じクラスの奴らはいじめに加担するか、見てみぬふり。


ヘドが出た。


アタシは見た目がこんなんだから、大人しいと思われたんだろう。


ハサミを持たされた私に、アキの方を指して髪を切れとやつらは命令してきた。


バカなやつら。


アタシにそんなこと言っちゃう?



アタシは黙って、髪を切った。


自分の髪の毛を。


背中まで綺麗に伸ばした髪がみるみるうちに、床に落ちていく。


パパがこの髪好きなのを思い出して、胸がチクリとしたけれど。



「ちょっ、ちょっと!?」


髪を切れ、って命令した女が慌て出した。



ガンッ!


ハサミを机にぶっさした。


「あぁ!?髪を切れっつったの、お前だろーが?何か文句あんのかぁ?」


女の胸ぐらを掴んで、腹にケリを入れる。


倒れない程度に手加減して。


そして、髪を掴んで引きずり、クラスの連中、に睨みをきかす。


「お前らも、おんなじだ。見てみぬふりするやつも、いじめに加担している。アタシは卑怯なやつがだいっ嫌いだ。これからも、こういうことすんなら、アタシが相手になるから、かかってこいよ?」


ザンバラ髪で、ニヤリと笑うアタシがかなり不気味だったんだろう、皆が怯えた顔になった。





「アンタ、あたしが小さい頃好きだった本の主人公に似ているよ・・・名前は?」


いじめられていた、彼女に話しかけた。


「さ、佐田アキ。」


ぷ。


かなりびびっているし。


「そっか、アタシは叶麻実、よろしく、アキ。」


そう言って、にっこり笑うと、アキの顔が赤くなった。


小さい頃、ベッドの中で読んだお気に入りの本の主人公の笑顔と、アキの笑顔がダブった。




アキに似た本の主人公には随分勇気を貰ったんだ――



クラスの奴らはおとなしくなったんだけど。


あっという間に噂は広がって。


三年の女子に次の日呼び出しを受けた。


ザンバラ髪はジョーにばれないように家に帰る前に美容院へ行ったから、バレていないけど。



呼び出し場所の、裏庭に行こうとすると、アキが追ってきた。


「アタシも行く。」


って、震えながら言われてもねぇ・・・。


「いいよ、呼び出しはアタシが受けたんだし。」


「だって・・・。」


昨日庇ったから、自分のせいだって言いたいのか?


勘弁してくれよ、って思ったんだけど。



「友達じゃんか。」



照れながらそういったアキの顔を、驚いて見た。


「・・・・。」


「何、違うの?」


アキの問いかけに、頭をふった。


「違わない、友達だ。」


やっぱり、アタシに勇気をくれた。


嬉しくて、笑ってしまった。




アキとはそれからの友達だ。




だけど、その後呼び出された三年女子のライターを奪って、そいつらの髪を焼いたのをみて、アキは友達を続けていいんだろうかと、一瞬迷ったことを聞いたのは随分後だったけど。


ちょっとショックだった(笑)




2歳上のトムが慌てて、飛んできたのは、呼び出しをした女達を全員正座させているところだった。



もちろん、アタシの靴は、両手をついている女の手の上にあって。


女の悲鳴に笑顔のアタシ。


トムが頭を抱えた。



「もう、いいだろ。」


「えー、全然たりないしー。腕ぐらい折っとかないとー、記念に?」


笑いながら大きめの石を持ち上げ、そう言うアタシをトムが慌てて止めた。



アタシはやっぱりパパの血を受け継いでいるせいか、性格はこのとおり暴れん坊で。


怒り出したら、歯止めがきかない。


卑怯なことがだいっ嫌いで。


だから、トムも必死だ。


仕方がなく。



「麻実、これ以上暴れると、ジョーさんにチクるぞ?」


脅された。



ピタリとアタシは動きを止めた。



ジョーにバレたらまずい。


怖いとかじゃなくて、1週間くらい続く小言地獄がキツイから。





ジョーのことは有名で。


それから。


アタシのパパが叶興産の社長だってあっという間にしれわたり、誰もアタシに逆らうものはいなくなった。

実は、パパも相当ガラが悪い。


「ちょっと、腹へったし。何か食いに行くか?」


コージが伸びをした。


190はある大男。


アタシとタメで、コージって名前だけど、完璧な赤毛に緑の瞳。


見るからに、外人。


母親は日本人だけど、父親が海軍の偉いさんだ。


ここ、横須賀のベースにいる。


父親が軍人だから、コージも、ってこの見た目からして皆思うんだけど、コージはダメだ。


だって、ヘタレだし。


将来の夢はパン屋さんだと。


アキのいじめがあったときに、見てみぬふりをしたクラスのやつ。


アタシが三年女子にキレて、ジョーやパパのことが学校の連中にバレた時、まわりは皆ビビってよってこなくなったけど。


コージは、アキとアタシに謝りにきた。


かなりビビって、震えながら。


だけど、見てみぬふりをした自分が恥ずかしいって。


コージはヘタレだけど、臆病者じゃない。


ヘタレだけど、勇気があるやつだ。


そこが気に入った。


だから、コージとも、それから友達だ。



「トム、今日マイクの店開いていたか?」


ミコが相変わらずのカワイイ顔で、トムを見た。



「あー、開いていたな。じゃあ、マイクんとこ行くか?…・・・って、ミコト、そのカワイイ顔で俺をみるなっ!」


トムがお約束どおり騒ぎだした。


ミコトは、アタシはミコって呼んでいるけど、れっきとした男。


トムとタメで、アタシが中学に入った時、学校をシメてた男。


見た目は、可愛らしい女顔で、身長も165センチ位と華奢で小柄。


あ、でも細マッチョか。


結構鍛えているし、てゆうかケンカ無茶苦茶強いし。


根性も据わっている。


なぜか、トムとマブダチ。


その流れでアタシとも仲良くなったんだけど。


ま、ある意味一番ケンカとかでは、ミコとは話が合うし。


ヤるならとことん、ヤらなくちゃ、みたいな?


2人揃うと、真っ青になって、トムが止めに入るし。


トムは、あだ名で、本名はツトム。


生粋の日本人だ。


親父さんが大工の棟梁で、家が隣。


完全な幼なじみ。


今は高校を卒業して、親父さんのもとで、大工の見習いをしている。


ミコは大学生だ。




アタシとアキとコージとミコとトムがいつもつるむ仲間だ。




皆がマイクの店に行こうと歩き出した。


マイクの店なら、ジョーがいる店から離れてっから、ま、大丈夫か。


アタシはそんなことを考えながら、皆の後につづいた。


マイクの店に行くと、騒がしかった。


ま、よくあることだけど。


つまりは、男の取り合い。



男が2人。


後ろ姿でわかる。


こいつらよそ者だ。


地元のやつらより、ずっと都会的な雰囲気。



女は、地元のよく知っているやつら。


ミカのグループと、ナナのグループだ。


全員同中。


全員タメ。


どっちもどっち。


男好きで、時々ウリもやっているって噂。


カンケーないけど。


逆ナンして、2グループで取りあいって訳か。


みっともいいもんじゃないね。



アタシが眉間にしわを寄せると、トムがすかさず、どうどう、とアタシをなだめ出した。


「オイ、アタシは、猛獣かっ!?」


そう言うと、トムを含め皆が笑いだした。


「いや、どっちかって言うと、珍獣じゃねーか?ぶっ、くくっ・・・。」


アタシの肩に手をまわし、ミコが震えながら笑う。


「そういうミコだって、同類だろっ!!」


ムカついたアタシが、言い返すと皆がその通り、と爆笑した。


もう、何だよ、人のこと笑いやがって、と4人を睨みつけたけど、視線を感じて振り返った。



「あ・・・。」


視線の先には。


思いっきり睨んでいる、ミカ&ナナのグループと。


振り返ったよそ者2人。


しかもよそ者なのに、知っている顔だった。



「えー叶さん?昨日ぶりっ。」


「麻実ちゃーん、教えてもらった番号に電話したら、藤原さんがでたんだけどー?」



げ。


勘弁してくれよ・・・。


「麻実、知り合いか?」


ミコの声が低くなる。


「昨日、学校に華道教えに来た講師だよ。」


そう。


そこにいたよそ者は。


昨日の確か・・・鎌倉支部の講師と、青山流のイケメン御曹司。


岩顔の男と、そして、残念な男――



何で、こんなとこにいるのさ!?



ハッとして、自分の姿を見直す。


スカジャンに、スリムの黒のジーンズ。


ポニーテールに黒のハイカットコンバース。


周りにいるダチは、お世辞にも品がいいとは言えない・・・。


うわ・・・本性もろバレじゃんか!!


「よかったよー、叶さんと会えて。学校休んでたでしょ?自宅が横須賀って聞いてさ、もしかしたら会えるかなーって思って今日来てみたんだけど・・・やっぱ会えなくて。じゃあちょっと飯でも食って帰ろうかって、ガックリしてこの店に入ったら。まさかここで会えるなんて、ラッキーだったよ。」


岩男がニコニコと話しかけてきた。




マイクの店の奥のコーナーテーブル。


アタシの横には怖い顔のトムとミコ。


向かいには、岩男と残念な男。


こちらはとっても笑顔。


アキとコージはこの雰囲気にビビってカウンター席に座り、こちらをビクつきながら伺っている。


その向こうにはミカ&ナナのグループが般若顔でこっちを睨んでいるし。



はあ。


何だよ、これ。



「とりあえず、何か注文しようか?麻実ちゃん何飲む?」


岩男がメニューを取り出した。


すかさず、トムが。


「マイク、俺たちいつもの!!」


と、ブロークンな英語で注文した。


目の前の2人は、呆気にとられている。


「コージお腹すいているんでしょ?食べ物も注文しなよ。」


ヘタレのコージは、気が立っているトムの注文に口をはさめない。


アタシの言葉にホッとした様子だ。




注文した飲み物が、やってきた。


アタシ達の分しか頼んでいないから、3つだけだけど。


「ここは、ソフトドリンクしかないのかな?」


品のいい英語で、残念な男がマイクに話しかけた。


アタシ達の飲み物、コーラとオレンジジュースを見ている。


トムもミコもアタシと一緒の時は、アルコールは飲まない。


アタシはいつも強制的にオレンジジュースだ。


岩男は、ジンジャエールを頼み、残念な男はバドワイザーを注文した。



「さて。折りいって、叶さんに頼みがあるんだけど。」


岩男が、にっこり笑いながら話を持ち出した。


コイツ顔はゴツイけど、バランスがとれている。


人当たりも良いし、見ていて何となくわかったが行動も会話もタイミングが良い。


顔はこんなんだけど、こいつは出世するタイプだよな・・・。


でも、所詮はよそ者だ。



「頼まれることなんか、ねーよ。よそ者はさっさと、帰れよ。」


喧嘩腰でトムがピシャリと言った。


「いや、君にお願いごとじゃないし。叶さんにだから。」


あくまでにこやかさを崩さない岩男。


はあ。


どう考えても、岩男の方が上手だよな。


「あぁっ!?」


ほら、簡単に挑発されているし。


「トム。いいから。」


そう言って、トムの手を握った。


だけど、まだおさまらないらしく、顔は威嚇したまま。


「どうどう。」


仕方がないので、さっきのお返しをしてやる。


「「「「ぶっ。」」」」


成功。


4人とも吹き出した。




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