16、いつまでも~誠
叶ちゃんは、誕生日の2週間後に・・・永眠した。
34歳だった。
子供の頃に宣告されたタイムリミットを、大幅に更新して、旅立った。
葬儀は叶ちゃんの最後の願いで、深紅の薔薇に囲まれた美しい、叶ちゃんにぴったりの見送りだった。
花の監修を全て、華清が取り仕切った。
黙々と作業する華清は、人眼もはばからず、涙を流し続けていた。
松は口がきけないくらい、憔悴しきっていて、見ていられなかった。
マツの親父さんもお袋さんも同様だった。
その中、ただ1人、松と叶ちゃんの息子のタケだけが涙を流さず目を見開いて、ただじっとしていた。
叶ちゃんは、とても可愛い女の子だった。
初対面の時、美しさと上品さに圧倒され。
二度目に横須賀で会った時には、まったく違う印象の・・・違う顔に、魅せられた。
そして、叶ちゃんの歌う『捧げる愛』に、心を完全に持っていかれた。
口は悪いのに憎めなくて、楽しくて、可愛くて・・・知れば知るほど、俺は叶ちゃんを好きになった。
だけど、叶ちゃんは華清と恋に堕ちた。
くやしいけど、お似合いだと思った。
それなのに、松と結婚・・・ショックで、寝込んだ。
だけど、叶ちゃんの体の事を知って・・・俺は、どんな叶ちゃんでも一番の味方でいようと思った。
報われない想いだった。
それでも、叶ちゃんが笑っているなら、それでいいと思った。
少し前、叶ちゃんに呼ばれて、家に会いに行った。
華清に電話をしたいと叶ちゃんに頼まれた。
今年に入って、歩く力もなくなった叶ちゃんは、命が残り少なくなっていることが、誰の目にも明らかだった。
多分、最後の願いなんだろうと思った。
何とかすると了承すると、叶ちゃんはホッとため息をついた。
ふと見るとカーディガンの胸に、キキョウのブローチ。
俺が花言葉の意味を考えて、贈ったブローチ。
俺がじっと見ていると、叶ちゃんが内緒の話があるから耳をかせ、という。
何だろうと思い、耳を寄せると。
ちゅ。
はっ!?
俺の頬に叶ちゃんがキスをした。
なななななな・・・・・。
「何でっ!?」
「うーん、感謝のキスかな?」
「はっ!?」
俺が、わけがわからずテンパっていると。
叶ちゃんが優しく笑った。
「マコト、色々ありがとな?楽しかった。それから、お前の気持ち・・・嬉しかった。ま、応えられなかったけどな?」
驚いた。
「叶ちゃん、俺の気持ち・・・知ってたんだ?」
「おう、でも悪ィな・・・アタシ、面くいなんだ。」
「知ってるよ!」
「あははは・・・そうか、岩顔は無理って知ってたか。」
もう、相変わらず口が悪い。
だけど、楽しそうに笑っている。
そうだ、俺はいつもこうやって、叶ちゃんと話をするのが好きだった。
「マコト、アタシの願いを聞いてくれるか?」
笑っていた叶ちゃんが、いつの間にか真剣な表情になっていた。
「な、何?」
「お前、すぐ結婚しろ!」
「は!?相手がいないよ。」
「何言ってんだ。顔じゃ無理でも、金があんだろ。金にもの言わせて、結婚しろ。」
そんな無茶苦茶なこといわれても・・・。
だけど、無理矢理約束させられた。
叶ちゃん以外の女の子を、俺は好きになれるのだろうか・・・。
「こうやって、3人で会うのも久しぶりだな。」
叶ちゃんの葬儀の1ヶ月後、華清と松と俺で集まった。
松も華清もやつれたようだ。
ここは、グランドヒロセ横須賀の最上階。
『TOP OF YOKOSUKA』
叶ちゃんが好きだったてっぺん。
皆で来たぞ。
叶ちゃん。
見ているか?
いつまでも、俺達は。
君を・・・。
愛してる―――




