12、見切り
退院をした。
いつの間にか、土地買収の話はなくなっていた。
それより、Nローンが不当たりを出して、倒産と騒がれている。
そして、パパの店があった場所一帯を買収して、グランドヒロセ横須賀を建てたいと、マツとマツの親父さんが頼みに来た。
多分、全部マツとマツの親父さんで色々な処理をしてくれたんだろう。
通帳に既に5億円の振り込みがあった。
山田太郎名義での入金だ。
嘘くさい。
マツから、今回の関係者からの慰謝料だということだ。
こんなものいらないのに。
パパのアタシ名義の貯金も沢山あった。
こんなに残してくれたって、私には使いきれないのに・・・。
ジョーはまだ戻ってこない。
1人の家は、不気味なほど静かだ。
マツとマコトが交替で様子を見に来てくれる。
ハナの親父さんも頻繁に連絡をくれる。
あまりにも心配をかけていると思ったので、ハナの自宅へ久しぶりに顔を出した。
親父さんが、アタシの様子を見た途端心配になったんだろう、連絡をしてハナを帰国させると言い出した。
会いたいけど・・・。
今、一番側にいてほしいけど。
アタシはハナの親父さんを止めた。
「いや、麻実ちゃん。やっぱり華清を帰国させる。こんな麻実ちゃんの傍に、華清はいるべきだ。留学はいつでもできるんだ。」
そう言って、親父さんはハナの留学先に連絡をいれてくれたけれど。
ハナは、留学先の同級生たちとバカンスで1週間、ハワイに旅行に出かけているそうだ。
ハワイ・・・。
バカンス・・・。
ハナの親父さんが、電話機を叩きつけた。
その音が、あたしの心のバランスを崩した――
今まで、押し込めていた感情の蓋が、開いてしまった。
横須賀まで送るという、ハナの親父さんの心遣いを気持だけうけとって、東京駅までタクシーで帰るからと辞退した。
だって、ハナの親父さんにかかってくる電話がひっきりなしで、多忙な事がわかるから。
呼んでもらったタクシーに乗り、東京駅ではなくて成田と行き先を告げた。
お守りのように、いつもバッグに入れていたパスポート。
こんなアタシでも、ハワイへは何度か行ったことがある。
パパが皆を連れて行ってくれた。
ハワイは気候がいいから、体調もくずれにくい。
だから、海外への旅行はハワイばかりだった。
どうしても。
どうしても。
ハナに、抱きしめてもらいたくなった。
気のみ気のままで、来てしまった。
どこにいるのかも、知らないくせに。
だけど、何故か確信があった。
マツと友達のハナは、多分グランドヒロセハワイを使うんじゃないかって。
ロビーで、6時間くらい待っていたら、男女15人くらいの楽しそうなグループが入ってきた。
直ぐにわかった。
少し日焼けした、ハナ。
表情は生き生きとして。
手には大量の花を抱えている。
ハワイの、南国の花ばかりだ。
皆、これから練習をするのかな・・・。
声をかける気力もなくて。
ただ、その団体をボーっと眺めていた。
だけど。
ハナと目が合った。
「麻実っ!?」
ハナが驚いて飛んできた。
「こんなところで、何してるんだっ!?」
少し怒っている?
そうだよね、一年間連絡とらない約束だもんな。
だけど・・・。
「あ、あのな・・・実は、パパが・・・。」
死んじゃったの、って言おうとした時。
「KASHIN!!」
仲間の女性が、ハナを呼んだ。
「あ・・・悪ぃ。仲間が呼んでる。これ、課題でさ、今日中に案をグループでまとめなきゃなんねーんだ。」
困った顔のハナ。
ごめんね、そんな顔させちゃって。
「アタシは、大丈夫・・・こんなところで会うなんて、びっくりしただけだ。」
そう言って、必死で口角を上げた。
「おー、そうだな。で、親父さんと一緒なのか?」
ハナの言葉に、全身に鳥肌がたった。
「・・・・・う、ん・・・多分、もうすぐ、来る・・・。」
どうにかして、言葉にした。
「あー、だったら挨拶してーんだけどなー。ここに、泊まってんのか?」
アタシが頷くと、ハナが自分の部屋の番号を教えてくれた。
「親父さんと合流したら、一度部屋に電話くれ。な?」
「KASHIN!!!」
さっきの女性が、前よりも強く呼んだ。
アタシを睨んでいる。
「あー、うるせーなっ。ま、帰るまでにまた会えるだろ?取り敢えず、行くわ。」
そう言って、アタシに顔を近づけてきた。
何故か、受け入れられなくて。
フイ、と顔をそらした。
「何だよ、また拗ねてんのか・・・ククッ。ま、帰るまでに仲直りの、濃厚なキスしてやっから、な?」
そう言って、ハナは去って行った。
アタシは、ロビーを出た。
もう。
もう・・・。
もう、いいや。
もう、アタシ。
頑張れないよ。
ホノルル空港へ着いた。
だけど。
此処からは、どこにだって繋がっているけど。
アタシには行きたいところなんて、もうどこにもない。
どうせなら、知らない土地にでも行こうか。
そこで、残りのアタシの時間を過ごそうか・・・。
もう、疲れた。
もう、頑張りたくない。
もう、誰にも優しくされたくない。
もう、誰とも話したくない。
もう、誰とも・・・。
恋なんて、しない―――
もう。
ここら辺で。
アタシに。
見切りをつけたい――
帰国のチケットをとった。
出発まで2時間半。
搭乗手続きまで1時間半。
日本に帰るけれど、飛行機が着陸するのは、千歳空港。
知らない土地に向かおうと、何となく北海道を選んでしまった。
何をするわけでもなく、少しだるいので椅子にかけたまま時間を待つ。
「KASHIN!!!」
と、呼んだ女性の声が耳に残っている。
健康そうな人。
ああいう人だったら、ハナの足を引っ張らないで、ハナのことを助けていけるんだろうな。
アタシには、到底無理な話だ。
そろそろ搭乗手続きの時間が迫ってきたので、立ち上がった。
え、と。
どこだろう・・・。
そう思って、行先を探していたら。
「いい加減にしろ!!!」
鬼の形相のマツが、息をきらせて目の前に立っていた。
「マツ・・・ごめん。今、誰とも話したくないから。帰国、これからするし。」
「は?1人で帰らせるわけないだろ!?」
ダメだ。
マツが心配してくれているのに、心に何も届かない・・・。
黙って、歩き出した。
腕を捕まれる。
「華清には、会ったのか?」
「・・・もう・・・もう、いいんだ。」
「もういいって、何を言っているんだ?」
「諦める、から。」
「は?とにかく、華清に連絡し――「ハナには、言うなっ!もう、会わないっ!知らせたら、マツとも縁をきるからなぁぁぁっ!!!」
多分、絶叫だったのだろう。
物凄く、驚いた表情のマツを見た。
その後の記憶は、ない――
波の音。
昔、パパとママと一度だけ海へ遊びに行った。
パパはいつも忙しくて、だけどその時は時間を作ってくれた。
何処だったのか、場所はわからないけど。
何故かジョーもいなくて。
3人だけ。
横須賀と違って、砂浜があって、清んだ海。
パパに・・・。
人間は昔、海の中に住んでいたんだ、と教えられた。
パパもママも笑っていて、このまま海の中に住みたいって思った。
目を開けると。
また現実に、戻った。
「・・・・・ここが、海の底なら、よかったのに。」
「そんな・・・・・そんな、こと、言うなよ・・・っ。」
マツが、泣いていた。
「涙が・・・もったいない。」
「え?」
「アタシなんかのことで、泣くなんて、無駄なことするな。」
「何、言って・・・。」
「ここ、どこだ?」
「ハワイの病院だ。」
「そうか・・・ハナには、知らせたのか?」
「いや、まだだ。麻実ちゃんが知らせたら俺と縁を切るって、言っただろ?」
「ハハッ・・・律儀なやつ。」
「連絡するか?明日まで、あいつ、グランドヒロセに泊まっているぞ?」
「いや、いい。ハナとは別れるつもりだから、何も知らせないでくれ。」
「麻実ちゃんっ!?」
「見切り・・・つけたんだ。」
「え?見切りって・・・待てよ、華清とちゃんと話したのか?」
「え?・・・ああ、違う。見切りつけたって、ハナにじゃない。」
「え?」
「アタシに、見切りをつけたんだ・・・。」
多分、そう答えたアタシの目は。
マツに向いてはいたけれど。
何も映って、いなかったと思う。
白檀の香りに、意識が浮上した。
昼間の明るさに、目が眩しく眉をひそめた。
「麻実ちゃん、咽かわいてない?」
変わらない優しい口調で、マダムが尋ねてきた。
「・・・少し。」
しわがれた声しか出ない。
だけど、アタシが反応したのが嬉しいのか、マダムはほほ笑むと、吸いのみを差し出してきた。
口をつけて、二度呑み込んだ。
口の周りをやさしく、柔らかい布でふいてくれる。
「すみません。」
眠っている間に投与された薬がきいたのか、随分体が楽になっていた。
少し体を起こしたくなり、ベッドに手をつくと。
マツの大きな手がアタシの体を支えた。
枕を斜めしてくれて、それを背に座った。
「悪ぃな・・・。」
そう言うと、悲しい目をしたマツが、顔にかかったアタシの前髪をはらい、そのまま髪をすく。
部屋には、他にマツの親父さんと、ハナの親父さんがいた。
「麻実ちゃんの体調が良ければ、少し話をしたいんだが。」
疲れた顔のハナの親父さんが、口を開いた。
アタシは、頷いた。
「はい。大丈夫です。でも、その前に・・・この度は、大変ご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありません。」
本心だった。
皆、多忙を極める人たちなのに、アタシなんかのために、こうやって集まってくれるなんて。
迷惑をかけてしまったこと、本当に申し訳ない。
アタシがそう言って、頭を下げると、マツがアタシの肩を持ち、グイッと起こした。
「麻実ちゃんに謝ってもらうことは、何もない。」
顔は怒っていた。
眠ったままだったアタシは、話し合いの前にトイレにたった。
歩いてもふらつかないし、本当に薬が効いて体力が随分回復したんだと思った。
トイレから出ると、扉の前でマツが待っていた。
多分、1人で歩いてふらつかないかと心配しているんだろうな。
「男が乙女の、トイレ待ちって、かなり引くぞ。」
どうマツに接していいかわからず、軽口をたたいた。
「俺は引かない・・・どんな、麻実ちゃんだって引かない。」
「・・・アタシ、面倒で今、手を洗わなかったぞ?」
「・・・引かない。」
「オイッ、何だよ?今の微妙な間は?」
そう言うと、マツはアタシの腕を掴んで、真剣な瞳でアタシの顔を直視した。
「麻実ちゃんが、好きだ。」
切なくて苦しそうな表情。
何となく、気がついていた・・・。
だけど、アタシはもう誰も受け入れることはできないから。
ただ、何も言えず、マツに頭を下げたのだけれど。
突然、マツがアタシの腕を離し、目の前で跪いた。
な、何だっ?
「叶麻実さん。俺は1ダースの鉛筆を全て大事にする。だから、俺と結婚して下さい。麻実ちゃんが自分に見切りをつけたって言うなら、その麻実ちゃんの残りの命の時間、全部俺に下さいっ!」
な・・・。
こ、これ、これって・・・。
「いやだわー。松太郎って、ソツがないって思っていたけど。デリカシーがなかったのね?最悪よ?出てきたばっかりのお手洗いの前でのプロポーズなんて、信じられないわー。」
マ、マダムッ。
「そうだよなー、それに麻実ちゃん、手、洗ってないって言っているぞ?もし、オーケーだったら、そのまま手にキスするのか?」
ミ、MR.ダンディー・・・ソコか?
「麻実ちゃんにプロポーズするってことは、松よぉ。もう華清に麻実ちゃん任せておけない、ってことだな?」
オッサン・・・。
医者が脈を測ったり、血液を採ったり、内診をして、明日に退院が決まった。
皆少し、安心した顔をした。
その後、マダムが温かな紅茶を淹れてくれた。
アタシは、枕を斜めにして、ベッドに座った。
「麻実ちゃん。実は華清には何も話していないんだ。松から、麻実ちゃんが強く華清には連絡するなって言っていたと聞いて、麻実ちゃんの気持ちを確かめてからと思ってな。」
ハナの親父さん・・・オッサンが話し始めた。
「ハナには、何も言わないで・・・このまま、勉強をさせてください。それが、アタシの望です。」
決心した事を、はっきりと告げた。
オッサンがため息をついた。
「麻実ちゃん・・・状況を、説明してくれ。華清には会ったのか?」
「はい。ただ、ハワイに来たのは、バカンスではなくて・・・研修のようで。グループで課題がでているらしく、ハナが抜けると困るみたいだったので・・・そのまま帰ってきました。」
「え・・・まさか?麻実ちゃんを、あいつがそのまま帰したのか?」
「いえ・・・他の人もいたので、長く話せなくて。ハナにはパパが亡くなったことは、言っていません。パパと多分ハワイに遊びに来たって思ったみたいなので、そのままにしました。」
そこまで言うと、オッサンが拳でテーブルを叩いた。
はずみでティーカップが鳴る。
「申し訳ないっ、麻実ちゃん。あいつは、ダメだ!こんな麻実ちゃんを見て、何もなくて元気にハワイに遊びに来たって思える神経が、許せん!麻実ちゃんに愛想を尽かされるのも、当たり前だ!」
「ハナに見切りをつけたなんてことはないです。アタシが・・・アタシが、悪いんです。本当はアタシ、誰とも付き合うつもりはなかったんです。体が弱くて、自分のことで精一杯ですから。でも、ハナのことを好きになって・・・少しだけ側にいるつもりが、だんだん欲が出てきて。でも、アタシ、昨日でわかりました。ハナには健康な女性が似合うって。いつもアタシの心配ばっかりさせていたんじゃ、仕事にならないです。特にハナのような仕事は・・・。もっと、ハナには、活躍してほしいんです。」
「麻実ちゃん・・・でも、華清には麻実ちゃんが必要なんだぞ?」
絞り出すような声で、オッサンが言った。
そんなオッサンを見て。
アタシの事をこんなに思ってくれるオッサンに、きちんと話をしなければと思った。
「アタシ・・・30歳くらいまでしか、生きられないんです。」
オッサンが、アタシの言葉に目を見開いた。
それと反対に、広瀬ファミリーは・・・俯いた。
あれ、広瀬ファミリーは知っていたな?
「ま、麻実ちゃんっ!?」
「どこが病気って訳じゃないんですけど。体の器官全てが、生まれた時から弱くて、機能しにくくて・・・。小さい頃は、風邪をひくだけで、肺炎にすぐなって、何度も死にかけて。いろいろ検査したんですけど、ただ全て弱い、と。それで、将来は体の器官の機能が徐々に落ちて、多分そのうち働かなくなって、死ぬだろうと・・・その期限が、小学校の時に計算して想定したのが30歳頃だと。毎年検査していますが、未だにそんなもんだろうっていう結果です。最近は年明けにそれをやりました。」
「華清は、それを・・・。」
「もちろん、言っていません。知っていたのは、パパと、ジョーだけ・・・ミコは、人より長生きできないかもしれないっていう程度です。」
「やっぱり!華清に連絡をしよう!」
オッサンが必死の形相で、アタシに訴えた。
アタシは静かに首を横にふった。
「もう・・・潮時です。ハナとは、初めから結婚する気はありませんでした。ごめんなさい。ただ、側にいたくて・・・。だけど、決めたんです。もう会わないって。ハナが将来の話をするのを聞くのが・・・もう辛い。ハナに何もしてあげられない自分が、辛い・・・。ハナの語る将来像に私が存在しないって思う事が、辛いんです。ハナには、納得して家元になってほしい・・・だから、もう・・・ハナとはっ・・・・。」
最後まで、言えなかった。
嗚咽がこみ上げる。
マツがそんなアタシに駆け寄ろうとしたのを制して、マダムがそばに来て、アタシの背中をさすってくれた。
温かい手・・・。
「私、気になっていたんだけど。今の話、麻実ちゃんのママは知らないの?」
え、それ今聞く?
マダム・・・。
「おい、早紀。今、その話する時か?」
MR.ダンディが、疲れた声をだした。
「ええ!今よっ。大事な話なのっ!」
品のいいマダムと思っていたけど、案外勝気マダムだったことに、今気がついた。
逆らうべきではないな・・・。
「・・・ママとパパはアタシが8歳の時に別れて、ママはフランスへ帰っちゃったし・・・電話でしか話していないから・・・アタシの体ついての事は知りません。」
「えっ!言っていないの?じゃあ、麻実ちゃんのお父さんが亡くなったことは?」
痛いとこつくな・・・。
「先日・・・伝えました。国際電話で。」
そう言うと、勝気マダムが身を乗り出した。
「何て、何てっおっしゃったのっ!?」
言いにくい・・・。
「・・・・・・。」
そう思っていると、マツが。
「お袋、もういいだろ?麻実ちゃんだって、言いにくいことはあるんだ。」
「だめっ、訊きたい!言って!!」
勝気マダム・・・。
「・・・去年母は再婚したそうで、子供も生まれて。だから、アタシには何もしてやれない。高校を卒業したんだから、自分で生きて行きなさいと・・・。」
一気に喋ったら。
その瞬間。
ぎゅううううううううっっっっ。
「ぐえっ。」
アタシの咽から変な声が漏れた。
凄い力で、勝気マダムに抱きしめられたから。
「お、お袋っ、何やってんだよっ!麻実ちゃん、息ができないだろっ!離せっ!」
「決めたっ!麻実ちゃん、私っ。麻実ちゃんを養女にするからっ。松太郎と別に結婚しなくてもいいからっ。ねっ!?そうしよう!」
えええええっ!?
いや、何?
えと・・・。
どういういきさつで、こうなるの!?
「おい、お袋っ。冗談じゃない!麻実ちゃんに俺はどうしても結婚してもらわないと、困るんだっ。邪魔すんなよ!!」
「うるさいっ。華清君に先越されて、彼女にできない様じゃ、プロポーズOKなわけないでしょ。それに、何?あれ。トイレの前って、考えられない。あー、もう無理。デリカシーがない男は、無理!ねー?麻実ちゃん。」
「何言ってんだよ?30歳までだろが何だろうが、麻実ちゃんの残りの人生俺が全部もらって、楽しく暮らすんだ!俺の幸せ、邪魔すんな!!親だろ?子供の幸せ考えろよ。俺は麻実ちゃんに幸せにしてもらうんだから、ひっこんでろ!」
え、と・・・。
アタシが、マツを幸せにするの?
てゆうか。
マツ・・・アタシに幸せにしてもらうって。
意味、わかんないんだけど。
アタシがポカン、としていると。
「麻実ちゃん、松太郎が麻実ちゃんに幸せにしてほしいんだって、どうする?」
マダムがそう言って、アタシの顔を覗き込んだ。
「え・・・だって、アタシじゃ幸せにでき――「麻実ちゃんは、幸せにできるよっ。別に、松太郎のこと断ってもいいけど、私のプロポーズはことわらないでね?」
「プ、プロポーズって・・・。」
「私、松太郎の後に、妊娠したの。だけど、流産しちゃって・・・女の子だったの。で、その後、病気で子宮全摘して。子供もできなくなって、落ち込んでいる時に、妊娠中の主人の浮気が発覚して。」
ええっ!?
「い、いや、早紀・・・今、それは関係ないはな――「関係あるでしょっ!」
途端に大人しくなる、MR.ダンディー・・・いや、エロダンディー?
「それで私、鬱になったりして、本当に辛かったわ・・・だから、私、幸せになりたいのっ!」
え?
「もう、もう、私。麻実ちゃんのお世話をしている時、本当に幸せなの。私の子供が生まれていたら、麻実ちゃんと同じ年だし。これって、運命じゃない?」
う、運命かどうかは、なんとも・・・。
アタシが、勝気マダムの勢いに圧倒されていたら。
「麻実ちゃんっ。」
ええっ。
マツが土下座をしていた。
な、何?
「お願いしますっ。俺と結婚してくださいっ!」
頭を床に、こすりつけている。
イヤイヤイヤイヤイヤ・・・。
「マツ、こういうのは良くないよ。止めようよ。」
マツの腕を引っ張る。
だけど、びくともしない。
「麻実ちゃんっ、お願いっ!」
ええっ。
今度は、勝気マダムまで?
「てゆうことでっ・・・麻実ちゃんっ、俺からもお願いっ!」
やると思った。
エロダンディー・・・。
3人そろって、土下座をされた。
はあ・・・。
広瀬ファミリーの連携プレーには、脱帽した。
そして。
親子3人の土下座を目の当たりにして、オッサンは項垂れた。
「はぁ・・・脱帽だ。麻実ちゃん、幸せになれ。」
そう言って、泣きながらオッサンは、納得してくれた。
「華清には、帰国するまで言わない。帰国したら、俺から話すから。麻実ちゃんは心配しなくてもいいからな・・・体、大事にしろな?」
アタシの頭を撫でながら、顔を歪めたオッサンに、アタシはハナの幸せを願っていますと伝えた。
そして、オッサンは。
「麻実ちゃん、もう俺には麻実ちゃん口調で話してはくれないのか?」
寂しそうな顔をして、去って行った。
だって。
かしこまった口調で話さないと、ダメじゃん。
アタシのいつもの言葉で話をしたら、我慢している気持ちがどうなっちゃうか、わかんねぇし。
オッサンにだって、スゲー可愛がってもらったし。
ケツ触られたり、手ぇ握られて頭突きお見舞いしたり・・・マジ、おもしれーオッサンだった。
家元っつーのに、とぼけていて、ハナを愛していて、菊の名人で・・・。
「ッ・・・・クッ、ウッゥッ・・・・・・。」
色々なことを考えていたら、想いがどんどん溢れて来て。
ハナとももう会うこともない。
そう思ったら・・・。
涙が・・・。
・・・はぁ。
涙が引っ込んだ。
勝気マダム・・・なんで、手を広げてアタシを笑顔で見ているんだろうか。
マツは、何か紙とペンを手にしてアタシの方にやってくるし。
エロダンディは、何故か紙にあみだくじを書いているし。
アタシ、感傷にひたれねーじゃん。
アタシ、自分に見切りつけたんだぞ?




