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12/17

12、見切り


退院をした。


いつの間にか、土地買収の話はなくなっていた。


それより、Nローンが不当たりを出して、倒産と騒がれている。


そして、パパの店があった場所一帯を買収して、グランドヒロセ横須賀を建てたいと、マツとマツの親父さんが頼みに来た。


多分、全部マツとマツの親父さんで色々な処理をしてくれたんだろう。


通帳に既に5億円の振り込みがあった。


山田太郎名義での入金だ。


嘘くさい。


マツから、今回の関係者からの慰謝料だということだ。


こんなものいらないのに。


パパのアタシ名義の貯金も沢山あった。


こんなに残してくれたって、私には使いきれないのに・・・。




ジョーはまだ戻ってこない。




1人の家は、不気味なほど静かだ。


マツとマコトが交替で様子を見に来てくれる。


ハナの親父さんも頻繁に連絡をくれる。


あまりにも心配をかけていると思ったので、ハナの自宅へ久しぶりに顔を出した。


親父さんが、アタシの様子を見た途端心配になったんだろう、連絡をしてハナを帰国させると言い出した。


会いたいけど・・・。


今、一番側にいてほしいけど。


アタシはハナの親父さんを止めた。


「いや、麻実ちゃん。やっぱり華清を帰国させる。こんな麻実ちゃんの傍に、華清はいるべきだ。留学はいつでもできるんだ。」


そう言って、親父さんはハナの留学先に連絡をいれてくれたけれど。


ハナは、留学先の同級生たちとバカンスで1週間、ハワイに旅行に出かけているそうだ。



ハワイ・・・。


バカンス・・・。



ハナの親父さんが、電話機を叩きつけた。



その音が、あたしの心のバランスを崩した――


今まで、押し込めていた感情の蓋が、開いてしまった。




横須賀まで送るという、ハナの親父さんの心遣いを気持だけうけとって、東京駅までタクシーで帰るからと辞退した。


だって、ハナの親父さんにかかってくる電話がひっきりなしで、多忙な事がわかるから。


呼んでもらったタクシーに乗り、東京駅ではなくて成田と行き先を告げた。


お守りのように、いつもバッグに入れていたパスポート。


こんなアタシでも、ハワイへは何度か行ったことがある。


パパが皆を連れて行ってくれた。


ハワイは気候がいいから、体調もくずれにくい。


だから、海外への旅行はハワイばかりだった。







どうしても。


どうしても。


ハナに、抱きしめてもらいたくなった。


気のみ気のままで、来てしまった。


どこにいるのかも、知らないくせに。


だけど、何故か確信があった。


マツと友達のハナは、多分グランドヒロセハワイを使うんじゃないかって。





ロビーで、6時間くらい待っていたら、男女15人くらいの楽しそうなグループが入ってきた。


直ぐにわかった。


少し日焼けした、ハナ。


表情は生き生きとして。


手には大量の花を抱えている。


ハワイの、南国の花ばかりだ。


皆、これから練習をするのかな・・・。



声をかける気力もなくて。


ただ、その団体をボーっと眺めていた。


だけど。


ハナと目が合った。



「麻実っ!?」


ハナが驚いて飛んできた。


「こんなところで、何してるんだっ!?」


少し怒っている?


そうだよね、一年間連絡とらない約束だもんな。


だけど・・・。


「あ、あのな・・・実は、パパが・・・。」


死んじゃったの、って言おうとした時。


「KASHIN!!」


仲間の女性が、ハナを呼んだ。


「あ・・・悪ぃ。仲間が呼んでる。これ、課題でさ、今日中に案をグループでまとめなきゃなんねーんだ。」


困った顔のハナ。


ごめんね、そんな顔させちゃって。


「アタシは、大丈夫・・・こんなところで会うなんて、びっくりしただけだ。」


そう言って、必死で口角を上げた。


「おー、そうだな。で、親父さんと一緒なのか?」


ハナの言葉に、全身に鳥肌がたった。


「・・・・・う、ん・・・多分、もうすぐ、来る・・・。」


どうにかして、言葉にした。


「あー、だったら挨拶してーんだけどなー。ここに、泊まってんのか?」


アタシが頷くと、ハナが自分の部屋の番号を教えてくれた。


「親父さんと合流したら、一度部屋に電話くれ。な?」


「KASHIN!!!」


さっきの女性が、前よりも強く呼んだ。


アタシを睨んでいる。


「あー、うるせーなっ。ま、帰るまでにまた会えるだろ?取り敢えず、行くわ。」


そう言って、アタシに顔を近づけてきた。


何故か、受け入れられなくて。


フイ、と顔をそらした。


「何だよ、また拗ねてんのか・・・ククッ。ま、帰るまでに仲直りの、濃厚なキスしてやっから、な?」


そう言って、ハナは去って行った。





アタシは、ロビーを出た。



もう。


もう・・・。


もう、いいや。



もう、アタシ。


頑張れないよ。









ホノルル空港へ着いた。


だけど。


此処からは、どこにだって繋がっているけど。


アタシには行きたいところなんて、もうどこにもない。


どうせなら、知らない土地にでも行こうか。


そこで、残りのアタシの時間を過ごそうか・・・。



もう、疲れた。


もう、頑張りたくない。


もう、誰にも優しくされたくない。


もう、誰とも話したくない。


もう、誰とも・・・。


恋なんて、しない―――



もう。


ここら辺で。


アタシに。


見切りをつけたい――







帰国のチケットをとった。


出発まで2時間半。


搭乗手続きまで1時間半。


日本に帰るけれど、飛行機が着陸するのは、千歳空港。


知らない土地に向かおうと、何となく北海道を選んでしまった。


何をするわけでもなく、少しだるいので椅子にかけたまま時間を待つ。





「KASHIN!!!」


と、呼んだ女性の声が耳に残っている。


健康そうな人。


ああいう人だったら、ハナの足を引っ張らないで、ハナのことを助けていけるんだろうな。


アタシには、到底無理な話だ。



そろそろ搭乗手続きの時間が迫ってきたので、立ち上がった。


え、と。


どこだろう・・・。


そう思って、行先を探していたら。




「いい加減にしろ!!!」



鬼の形相のマツが、息をきらせて目の前に立っていた。


「マツ・・・ごめん。今、誰とも話したくないから。帰国、これからするし。」


「は?1人で帰らせるわけないだろ!?」


ダメだ。


マツが心配してくれているのに、心に何も届かない・・・。


黙って、歩き出した。


腕を捕まれる。


「華清には、会ったのか?」


「・・・もう・・・もう、いいんだ。」


「もういいって、何を言っているんだ?」


「諦める、から。」


「は?とにかく、華清に連絡し――「ハナには、言うなっ!もう、会わないっ!知らせたら、マツとも縁をきるからなぁぁぁっ!!!」


多分、絶叫だったのだろう。


物凄く、驚いた表情のマツを見た。



その後の記憶は、ない――







波の音。


昔、パパとママと一度だけ海へ遊びに行った。


パパはいつも忙しくて、だけどその時は時間を作ってくれた。


何処だったのか、場所はわからないけど。



何故かジョーもいなくて。


3人だけ。



横須賀と違って、砂浜があって、清んだ海。


パパに・・・。


人間は昔、海の中に住んでいたんだ、と教えられた。


パパもママも笑っていて、このまま海の中に住みたいって思った。






目を開けると。


また現実に、戻った。



「・・・・・ここが、海の底なら、よかったのに。」


「そんな・・・・・そんな、こと、言うなよ・・・っ。」


マツが、泣いていた。


「涙が・・・もったいない。」


「え?」


「アタシなんかのことで、泣くなんて、無駄なことするな。」


「何、言って・・・。」


「ここ、どこだ?」


「ハワイの病院だ。」


「そうか・・・ハナには、知らせたのか?」


「いや、まだだ。麻実ちゃんが知らせたら俺と縁を切るって、言っただろ?」


「ハハッ・・・律儀なやつ。」


「連絡するか?明日まで、あいつ、グランドヒロセに泊まっているぞ?」


「いや、いい。ハナとは別れるつもりだから、何も知らせないでくれ。」


「麻実ちゃんっ!?」


「見切り・・・つけたんだ。」


「え?見切りって・・・待てよ、華清とちゃんと話したのか?」


「え?・・・ああ、違う。見切りつけたって、ハナにじゃない。」


「え?」


「アタシに、見切りをつけたんだ・・・。」



多分、そう答えたアタシの目は。


マツに向いてはいたけれど。


何も映って、いなかったと思う。







白檀の香りに、意識が浮上した。


昼間の明るさに、目が眩しく眉をひそめた。



「麻実ちゃん、咽かわいてない?」


変わらない優しい口調で、マダムが尋ねてきた。


「・・・少し。」


しわがれた声しか出ない。


だけど、アタシが反応したのが嬉しいのか、マダムはほほ笑むと、吸いのみを差し出してきた。


口をつけて、二度呑み込んだ。


口の周りをやさしく、柔らかい布でふいてくれる。


「すみません。」



眠っている間に投与された薬がきいたのか、随分体が楽になっていた。


少し体を起こしたくなり、ベッドに手をつくと。


マツの大きな手がアタシの体を支えた。


枕を斜めしてくれて、それを背に座った。


「悪ぃな・・・。」


そう言うと、悲しい目をしたマツが、顔にかかったアタシの前髪をはらい、そのまま髪をすく。


部屋には、他にマツの親父さんと、ハナの親父さんがいた。


「麻実ちゃんの体調が良ければ、少し話をしたいんだが。」


疲れた顔のハナの親父さんが、口を開いた。


アタシは、頷いた。


「はい。大丈夫です。でも、その前に・・・この度は、大変ご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありません。」


本心だった。


皆、多忙を極める人たちなのに、アタシなんかのために、こうやって集まってくれるなんて。


迷惑をかけてしまったこと、本当に申し訳ない。


アタシがそう言って、頭を下げると、マツがアタシの肩を持ち、グイッと起こした。


「麻実ちゃんに謝ってもらうことは、何もない。」


顔は怒っていた。





眠ったままだったアタシは、話し合いの前にトイレにたった。


歩いてもふらつかないし、本当に薬が効いて体力が随分回復したんだと思った。


トイレから出ると、扉の前でマツが待っていた。


多分、1人で歩いてふらつかないかと心配しているんだろうな。


「男が乙女の、トイレ待ちって、かなり引くぞ。」


どうマツに接していいかわからず、軽口をたたいた。


「俺は引かない・・・どんな、麻実ちゃんだって引かない。」


「・・・アタシ、面倒で今、手を洗わなかったぞ?」


「・・・引かない。」


「オイッ、何だよ?今の微妙な間は?」


そう言うと、マツはアタシの腕を掴んで、真剣な瞳でアタシの顔を直視した。


「麻実ちゃんが、好きだ。」


切なくて苦しそうな表情。


何となく、気がついていた・・・。


だけど、アタシはもう誰も受け入れることはできないから。


ただ、何も言えず、マツに頭を下げたのだけれど。


突然、マツがアタシの腕を離し、目の前で跪いた。


な、何だっ?


「叶麻実さん。俺は1ダースの鉛筆を全て大事にする。だから、俺と結婚して下さい。麻実ちゃんが自分に見切りをつけたって言うなら、その麻実ちゃんの残りの命の時間、全部俺に下さいっ!」


な・・・。


こ、これ、これって・・・。



「いやだわー。松太郎って、ソツがないって思っていたけど。デリカシーがなかったのね?最悪よ?出てきたばっかりのお手洗いの前でのプロポーズなんて、信じられないわー。」


マ、マダムッ。


「そうだよなー、それに麻実ちゃん、手、洗ってないって言っているぞ?もし、オーケーだったら、そのまま手にキスするのか?」


ミ、MR.ダンディー・・・ソコか?


「麻実ちゃんにプロポーズするってことは、松よぉ。もう華清に麻実ちゃん任せておけない、ってことだな?」


オッサン・・・。




医者が脈を測ったり、血液を採ったり、内診をして、明日に退院が決まった。


皆少し、安心した顔をした。


その後、マダムが温かな紅茶を淹れてくれた。


アタシは、枕を斜めにして、ベッドに座った。




「麻実ちゃん。実は華清には何も話していないんだ。松から、麻実ちゃんが強く華清には連絡するなって言っていたと聞いて、麻実ちゃんの気持ちを確かめてからと思ってな。」


ハナの親父さん・・・オッサンが話し始めた。


「ハナには、何も言わないで・・・このまま、勉強をさせてください。それが、アタシの望です。」


決心した事を、はっきりと告げた。


オッサンがため息をついた。


「麻実ちゃん・・・状況を、説明してくれ。華清には会ったのか?」


「はい。ただ、ハワイに来たのは、バカンスではなくて・・・研修のようで。グループで課題がでているらしく、ハナが抜けると困るみたいだったので・・・そのまま帰ってきました。」


「え・・・まさか?麻実ちゃんを、あいつがそのまま帰したのか?」


「いえ・・・他の人もいたので、長く話せなくて。ハナにはパパが亡くなったことは、言っていません。パパと多分ハワイに遊びに来たって思ったみたいなので、そのままにしました。」


そこまで言うと、オッサンが拳でテーブルを叩いた。


はずみでティーカップが鳴る。


「申し訳ないっ、麻実ちゃん。あいつは、ダメだ!こんな麻実ちゃんを見て、何もなくて元気にハワイに遊びに来たって思える神経が、許せん!麻実ちゃんに愛想を尽かされるのも、当たり前だ!」


「ハナに見切りをつけたなんてことはないです。アタシが・・・アタシが、悪いんです。本当はアタシ、誰とも付き合うつもりはなかったんです。体が弱くて、自分のことで精一杯ですから。でも、ハナのことを好きになって・・・少しだけ側にいるつもりが、だんだん欲が出てきて。でも、アタシ、昨日でわかりました。ハナには健康な女性が似合うって。いつもアタシの心配ばっかりさせていたんじゃ、仕事にならないです。特にハナのような仕事は・・・。もっと、ハナには、活躍してほしいんです。」


「麻実ちゃん・・・でも、華清には麻実ちゃんが必要なんだぞ?」


絞り出すような声で、オッサンが言った。


そんなオッサンを見て。


アタシの事をこんなに思ってくれるオッサンに、きちんと話をしなければと思った。




「アタシ・・・30歳くらいまでしか、生きられないんです。」


オッサンが、アタシの言葉に目を見開いた。


それと反対に、広瀬ファミリーは・・・俯いた。


あれ、広瀬ファミリーは知っていたな?



「ま、麻実ちゃんっ!?」


「どこが病気って訳じゃないんですけど。体の器官全てが、生まれた時から弱くて、機能しにくくて・・・。小さい頃は、風邪をひくだけで、肺炎にすぐなって、何度も死にかけて。いろいろ検査したんですけど、ただ全て弱い、と。それで、将来は体の器官の機能が徐々に落ちて、多分そのうち働かなくなって、死ぬだろうと・・・その期限が、小学校の時に計算して想定したのが30歳頃だと。毎年検査していますが、未だにそんなもんだろうっていう結果です。最近は年明けにそれをやりました。」


「華清は、それを・・・。」


「もちろん、言っていません。知っていたのは、パパと、ジョーだけ・・・ミコは、人より長生きできないかもしれないっていう程度です。」


「やっぱり!華清に連絡をしよう!」


オッサンが必死の形相で、アタシに訴えた。


アタシは静かに首を横にふった。


「もう・・・潮時です。ハナとは、初めから結婚する気はありませんでした。ごめんなさい。ただ、側にいたくて・・・。だけど、決めたんです。もう会わないって。ハナが将来の話をするのを聞くのが・・・もう辛い。ハナに何もしてあげられない自分が、辛い・・・。ハナの語る将来像に私が存在しないって思う事が、辛いんです。ハナには、納得して家元になってほしい・・・だから、もう・・・ハナとはっ・・・・。」


最後まで、言えなかった。


嗚咽がこみ上げる。


マツがそんなアタシに駆け寄ろうとしたのを制して、マダムがそばに来て、アタシの背中をさすってくれた。


温かい手・・・。


「私、気になっていたんだけど。今の話、麻実ちゃんのママは知らないの?」


え、それ今聞く?


マダム・・・。


「おい、早紀。今、その話する時か?」


MR.ダンディが、疲れた声をだした。


「ええ!今よっ。大事な話なのっ!」


品のいいマダムと思っていたけど、案外勝気マダムだったことに、今気がついた。


逆らうべきではないな・・・。


「・・・ママとパパはアタシが8歳の時に別れて、ママはフランスへ帰っちゃったし・・・電話でしか話していないから・・・アタシの体ついての事は知りません。」


「えっ!言っていないの?じゃあ、麻実ちゃんのお父さんが亡くなったことは?」


痛いとこつくな・・・。


「先日・・・伝えました。国際電話で。」


そう言うと、勝気マダムが身を乗り出した。


「何て、何てっおっしゃったのっ!?」


言いにくい・・・。


「・・・・・・。」


そう思っていると、マツが。


「お袋、もういいだろ?麻実ちゃんだって、言いにくいことはあるんだ。」


「だめっ、訊きたい!言って!!」


勝気マダム・・・。


「・・・去年母は再婚したそうで、子供も生まれて。だから、アタシには何もしてやれない。高校を卒業したんだから、自分で生きて行きなさいと・・・。」


一気に喋ったら。


その瞬間。



ぎゅううううううううっっっっ。



「ぐえっ。」



アタシの咽から変な声が漏れた。


凄い力で、勝気マダムに抱きしめられたから。



「お、お袋っ、何やってんだよっ!麻実ちゃん、息ができないだろっ!離せっ!」



「決めたっ!麻実ちゃん、私っ。麻実ちゃんを養女にするからっ。松太郎と別に結婚しなくてもいいからっ。ねっ!?そうしよう!」



えええええっ!?


いや、何?


えと・・・。


どういういきさつで、こうなるの!?



「おい、お袋っ。冗談じゃない!麻実ちゃんに俺はどうしても結婚してもらわないと、困るんだっ。邪魔すんなよ!!」


「うるさいっ。華清君に先越されて、彼女にできない様じゃ、プロポーズOKなわけないでしょ。それに、何?あれ。トイレの前って、考えられない。あー、もう無理。デリカシーがない男は、無理!ねー?麻実ちゃん。」


「何言ってんだよ?30歳までだろが何だろうが、麻実ちゃんの残りの人生俺が全部もらって、楽しく暮らすんだ!俺の幸せ、邪魔すんな!!親だろ?子供の幸せ考えろよ。俺は麻実ちゃんに幸せにしてもらうんだから、ひっこんでろ!」


え、と・・・。


アタシが、マツを幸せにするの?


てゆうか。


マツ・・・アタシに幸せにしてもらうって。


意味、わかんないんだけど。


アタシがポカン、としていると。



「麻実ちゃん、松太郎が麻実ちゃんに幸せにしてほしいんだって、どうする?」


マダムがそう言って、アタシの顔を覗き込んだ。


「え・・・だって、アタシじゃ幸せにでき――「麻実ちゃんは、幸せにできるよっ。別に、松太郎のこと断ってもいいけど、私のプロポーズはことわらないでね?」


「プ、プロポーズって・・・。」


「私、松太郎の後に、妊娠したの。だけど、流産しちゃって・・・女の子だったの。で、その後、病気で子宮全摘して。子供もできなくなって、落ち込んでいる時に、妊娠中の主人の浮気が発覚して。」


ええっ!?


「い、いや、早紀・・・今、それは関係ないはな――「関係あるでしょっ!」


途端に大人しくなる、MR.ダンディー・・・いや、エロダンディー?


「それで私、鬱になったりして、本当に辛かったわ・・・だから、私、幸せになりたいのっ!」


え?


「もう、もう、私。麻実ちゃんのお世話をしている時、本当に幸せなの。私の子供が生まれていたら、麻実ちゃんと同じ年だし。これって、運命じゃない?」


う、運命かどうかは、なんとも・・・。


アタシが、勝気マダムの勢いに圧倒されていたら。



「麻実ちゃんっ。」


ええっ。


マツが土下座をしていた。


な、何?


「お願いしますっ。俺と結婚してくださいっ!」


頭を床に、こすりつけている。


イヤイヤイヤイヤイヤ・・・。


「マツ、こういうのは良くないよ。止めようよ。」


マツの腕を引っ張る。


だけど、びくともしない。


「麻実ちゃんっ、お願いっ!」


ええっ。


今度は、勝気マダムまで?


「てゆうことでっ・・・麻実ちゃんっ、俺からもお願いっ!」


やると思った。


エロダンディー・・・。



3人そろって、土下座をされた。


はあ・・・。



広瀬ファミリーの連携プレーには、脱帽した。



そして。


親子3人の土下座を目の当たりにして、オッサンは項垂れた。



「はぁ・・・脱帽だ。麻実ちゃん、幸せになれ。」


そう言って、泣きながらオッサンは、納得してくれた。


「華清には、帰国するまで言わない。帰国したら、俺から話すから。麻実ちゃんは心配しなくてもいいからな・・・体、大事にしろな?」


アタシの頭を撫でながら、顔を歪めたオッサンに、アタシはハナの幸せを願っていますと伝えた。


そして、オッサンは。


「麻実ちゃん、もう俺には麻実ちゃん口調で話してはくれないのか?」


寂しそうな顔をして、去って行った。




だって。


かしこまった口調で話さないと、ダメじゃん。


アタシのいつもの言葉で話をしたら、我慢している気持ちがどうなっちゃうか、わかんねぇし。


オッサンにだって、スゲー可愛がってもらったし。


ケツ触られたり、手ぇ握られて頭突きお見舞いしたり・・・マジ、おもしれーオッサンだった。


家元っつーのに、とぼけていて、ハナを愛していて、菊の名人で・・・。



「ッ・・・・クッ、ウッゥッ・・・・・・。」


色々なことを考えていたら、想いがどんどん溢れて来て。


ハナとももう会うこともない。


そう思ったら・・・。


涙が・・・。





・・・はぁ。


涙が引っ込んだ。


勝気マダム・・・なんで、手を広げてアタシを笑顔で見ているんだろうか。


マツは、何か紙とペンを手にしてアタシの方にやってくるし。


エロダンディは、何故か紙にあみだくじを書いているし。



アタシ、感傷にひたれねーじゃん。


アタシ、自分に見切りつけたんだぞ?




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