「私」と勇者と魔王3
「魔王、いや、漆黒……僕は…ボクは……君の事が…好きだ…愛してる……」
白銀の衝撃の告白に戦場の空気が凍り付く、一瞬で凍り付いた。
余りの事に思考が停止したのか殺気は消え去り魔王の顔から表情が無くなる。
・・・
・・・
・・・
「お前…何を言ってるんだ…?」
数十秒後に魔王からやっと出た言葉がそれだった。
英雄達もその言葉で我に返ると勇者から後ずさる小太りな魔王の姿が見えた。
勇者は真っ赤な顔をして俯いたままだ。
「え…今?…勇者様?」
「そう言えば勇者殿の世界は基本男だけだと聞いたな」
聖騎士が爆弾発言をする、それを聞いた聖女、魔女、魔王までが目を見開き信じられないといった表情になる。
魔王の顔が絶望に染まる、初めて告白された相手が…男だという事に。
「いや、俺はそういうんじゃねえし…女性がいいというか…男は嫌な訳で………」
勇者がやっと顔を上げる。
今度は魔王の顔が真っ赤になり驚きの表情に変わる。
「お、、、おま、、お前、、、は、白銀か、、、?」
潤んだ瞳を魔王に向ける眼麗しい少女がそこに居た、白銀の髪に金色の瞳、勇者の面影を残したその姿に,そこに居た全員が目を奪われる、美しいとただそれだけだ。
「ボクらは伴侶と認めた人が現れると性別が変わるんだ…魔王…君は強い、ボクよりも…」
それが白銀の居た異世界、白銀はこれまで他人を認めた事は無かった、そして自分より強い相手を探していた。
この世界に来たあの瞬間、眼麗しい者達しか居ない世界から来て初めて出会ったあの日から見慣れぬ漆黒の姿に惹かれていたのだろう。
「魔王、その、ボクと…「よろしくお願いします!」」
真っ赤な魔王は見事なお辞儀から両手を先し出し全身全霊で叫ぶ、元男?知ったことか!目の前に理想の少女が居ると、今しかない君しか居ないと!
しかし両手を差し出す、それが不味かった手にしていた短刀が重力に従い落ちていく…カッン!魔王の鎧を傷つけたのだ。
「「「「「 あ 」」」」」
短刀が耳障りな悲鳴を放ち砕けた。
ゆっくりと空が闇に染まるとガラスが砕ける音と共に空間に輝く亀裂が走る、そう、短刀に傷つけられた魔王を異空間に吸い込む為に。
パラパラと崩れるように風景が落ちて消えていくと魔王の体が宙に浮き亀裂に引き寄せられていく。
「くそっ吸い込まれてたまるか…やっとやっと…」
勇者が魔王に抱き着き食い止めようとするが止まらない。
「くっだめだ、止まらない」
戦闘によりボロボロになった勇者は碌に魔力も纏ず魔王と共に引きずられていく、勇者達に近づこうとすると弾かれる英雄達。
「白銀離せ!、お前まで吸い込まれる!」
勇者「構わない、君と一緒なら…」と魔王を強く抱きしめる。
「皆さん、ごめんなさい、魔王と…漆黒と…この世界を……ごめんなさい…」
「くそ、王女は向こうの塔の最上階だ、魔法で眠らせているすぐ起きるだろう、すまない」
指さされた塔は傷一つなかった、魔王が防御魔法を張り巡らしていたのだろう。
英雄達は何もできなかった、輝く亀裂の中に少しずつ消えていく勇者達を見送るしか、
「そんな、、、勇者様、、うぅ、、ぞんなぁ、、」
勇者は魔女が泣き崩れる姿をすまなそうに見ていた。
「あのペンダントをお願いします、きっと皆の力になるはずです」
魔女は勇者より【女神から授かったペンダント】を持っていた、どうしようもない窮地に陥った時に使いなさいと。
勇者達は光の中に消えていく、優しく微笑みながら……。
第2王女は直ぐに見つかった、目覚めたところだったんだろうか眠そうな目でこちらを見ていた。
王都まで帰還途中、王女は色々話してくれた。
初めて魚釣りをした話、それを焚火で焼き食した事、星空を見ながら眠った事、広い草原を走った事、美味しい木の実を食べた事、魔王は王女を町娘のように接していたのだ。
王女は生まれて初めての体験をとても嬉しそうに話してくれた。
漆黒の勇者が王女の我儘を叶える為に連れ出したのだとそう思えた。
ファリウス大陸最強の騎士団を有する国『ガルドリア』
謁見の間の英雄達に貴族達の苛立ちの眼が集る、そこに居るはずの勇者が居ないからだ。
国王に勇者達がこの世界から消えてしまったことを伝えた、当然王城は大騒ぎになった、
それを止められなかった英雄達に処罰を求める貴族達、
他国に逃げだそうとする貴族達、
最前線となっていたこの国は勇者を失い追いつめられる事となる。
勇者達が消えて数週間、魔物の異常増殖で人類は劣勢になっていた。
「ま~勇者達に頼ってたしこうなるわよね」
光の聖女が城門から見渡すと城壁を囲むように魔物が集まっていた。
”どうにもならない状態”が今この国の現状だった、
多くの国々が滅ぶ前このような状態だったのだろう、
そう、今この国が魔物に狙われた、ただそれだけだ。
「他国の援軍も望めない今、我々だけで対処せねばならないが…」
「私なら逃げるわ、まぁどこに逃げるのさって話だけど」
黄金の聖騎士と光の聖女はこの国と運命を共にする覚悟はできていた、
王もここで迎え撃つことを決めたのだ。
国が滅んで王だけが残っても仕方なかろうと。
最後にカッコいいじゃないと何時も王族に文句を言っていた聖女が微笑んでいた。
決戦が始まる、いや、戦いに成るのかすら疑問だが逃げる訳にはいかなかったのだ。
「魔女殿は?」
「あの娘は無理かなぁ勇者にぞっこんだったし、別れがアレだし」
魔女は森から戻ると自室に籠り続けていた。
「魔女には幸せになって欲しかったんだけど、漆黒がねぇ…」
「白銀殿の彼を思う強さか…」
「ねぇ黄金、あんたさぁ……」
二人は残り少ない時間をまるで散歩でもしているかのように談笑し城壁を歩いて行く。
数時間後・・・
魔物の群れがざわめき出す、ガチガチと顎を鳴らし、その手の武器をぶつけ合う、
その耳障りな騒音が大波のように城壁を巡り王都を包む。
城門を殴り付ける音が響き出し大地が揺れ始めた、魔物達の進行が始まったのだ。
城門はあっけなく破壊され門より魔物が溢れだす。
怒号と悲鳴が詰所の中を飛び交う、此処もすぐ戦場になるだろう、それ程までに魔物の進行が速い、まさに津波だ。
聖女は足止めすら出来ない状態に苦笑いする。
「不味いなんてモンじゃ無いわね…勇者の強さを実感するわ…これ防いでたとか」
聖騎士は装備の確認をし同じく苦笑いだ。
勇者達が強すぎたのだ決して兵達が軟弱な訳では無い、英雄が居たとて現状は変わらないだろう
「さて、指揮所も意味を成さなくなったし我らも行くか、ここで少しでも数を減らさねば」
「そうね、最後に魔女に避難するように言ってくるわ、あの状態じゃ無駄死にだしね」
「そうだな、魔物が来るまで少し在るようだし話す位いいか・・」
二人は指揮所側にある天幕に向かう、魔女の待機所に。
魔女は放心状態でペンダントを握り締めていた。
「さて、境界の魔女、あんた逃げなさい、あんたなら逃げ切れるでしょ?」
我に返り唇を噛む。
「…何でですか?」
「まぁ結構絶望的でさぁ、勝てる気しないってゆうか…あんたにこんなとこで死んで欲しく無いの」
「そういう事だ、王族の護衛に向かって欲しい」
「私はまだ諦めません!、…勇者様がおっしゃったんです、このペンダントで…」
「勇者の持ち物だし期待したいけど、何も起こらないんでしょ?」
「……はい」
幾ら魔力を流そうと何も反応を起こさないのだ、ペンダント表面に何かの魔方陣が彫られているので魔具であるのは間違いないのだが。
発動方法が解らない、魔法陣がこの世界の方式と違いすぎて解析できないでいた。
魔女は勇者様が預けてくれた神器を使う事の出来ない自分が悔しかった。
外が騒がしくなり兵士達の慌てる声、騎士達の鎧のぶつかり合う音、そして魔物の顎を鳴らす音が聞こえてきた。
「あ~来ちゃったかぁ~仕方ない行こうか」
「うむ」
聖騎士と聖女は一瞬見詰め合い少し笑う。
天幕の外に出ればそこは地獄だった、黒い津波が人を建物を飲み込んでいく、何かが砕ける音と共に悲鳴が上がる。
倒れても倒されても湧き出すように現れる魔物に思わず笑ってしまう。
英雄達は最後の戦場に向かう。
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「これはどういう事、予定より遅れてるじゃない!」
女は苛立ちを隠すことなく吠える。
一向に進まない計画に何処にミスが在ったのか解らないでいた。
「世界もパラメータが偏りだしたし修正が難しくなるし、勇者は何をしているのかしら!」
この女の予定ではもう世界は魔物の脅威から解放され平和な時代が訪れているはずだったのだ。
しかし、平和になる所か魔物の数が増えすぎてこのままでは人類の滅亡に繋がる、そんな所まで進んでいた。
「このままでは主に…どうすべきか…」