「私」と勇者と魔王2
パチパチ、小枝が爆ぜ焚火の明かりが森の暗闇に数人の影を作り出す。
「この調子で進めれば後2日もあれば到着するはずです」
体格の良い男が枝を火にくべる、
「しっかし、こんな所まで逃げるとか面倒な事ですわ」
自分の髪を梳かしながら青髪の女がぽつりと呟く。
夕食の準備だろうか石を積み出来た竈に鍋がかけられ幾つかの野菜が煮込まれていた。
料理をしていたのは小柄な女性、根菜の皮を器用に剥きながら金髪の少女がヤレヤレといった表情で青髪の女性に、
「ぶつくさ言う前に手伝ってください、燻製肉切り分けてく下さいよ!」
「まぁまぁ、僕が手伝うよ、これかな?」
白銀の鎧を身に着けたまだあどけなさを残す少年が手伝い始める。
「え、、いえ、勇者様にそのような事を、あ、ありがとうございます…」
頬を染めながら楽しそうに準備を進める二人を暖かく見守る。
彼らは魔王を追っていたこの世界の英雄達。
黄金の聖騎士
光の聖女
境界の魔女
そして白銀の勇者
漆黒の勇者が”魔王”と名乗り王女を攫い東の森に在る砦に逃げたらしいのだ。
漆黒の勇者こと魔王には普通の兵では歯が立たない、そこで国王より白銀の勇者と英雄達に王女の救出及び魔王の説得に急遽駆り出されたのである。
聖女が木製の椀にスープを注ぎながら
「しっかし、王女に振られた?からって攫って逃げる?バカじゃないのあいつ」
その椀を受け取ると聖騎士は
「正確には第2王女だ」
聖女、魔女はぎょっとした顔をする
「「え!」」
「第2王女って確か10歳ですよね?」
「そうだ」
「そういう趣味だったんだ、黒豚」
勇者は苦笑いだ
「黒豚は酷いよ、彼の居た世界ではそれが普通かもしれないし」
漆黒の勇者は異世界から来たのだそうかもしれない、
「そうかも知れませんが、…私も何度か誘われていたので」
「そのまま付き合えばよかったのに、、」
「なんか言った!?」
ギロリと聖女は魔女を睨むと魔女はふいと目を逸らした。
そんなやり取りを見て
「彼は悪い人じゃないよ何時も真剣に訓練してたし、冗談も面白かったよ?」
「勇者様方は仲が宜しかったんですね」
「同じ異邦人だしね親友以上さ、はは」
夕食も終わろうとする時、思い出に花が咲く
「そういえばこちらに来た時、漆黒殿大はしゃぎで子供のようでしたな」
聖女は思い出してケタケタ笑う、
「そうそう、思い出した!、俺の封印されし左目が~とか力を抑える拘束何とかが~とか言動おかしいよ?」
「漆黒の勇者様は魔眼持ちなのですか?すごい、、」
「違うと思う…魔女あんたすぐ騙されるでしょ?」
勇者は焚火の炎を見つめ、
「僕は必ず、魔王を説得して見せる必ず、、、」
「勇者様…」
勇者の力になろうと魔女は心に誓う。
2日後勇者一行が砦に到着する、道中一度も魔王の妨害は無かった。
何か秘策が魔王には在るのかと勘繰りもしたが、今更と正面門より進む。
魔物との戦いの為に作られた東の森の砦、森の中に建造された要塞とも見れる。
一時期防衛線の要所として多くの兵が駐留していたが今は誰も居ない。
勇者達が魔物を倒し東の森より駆逐したのだ、当時を思い出し
「久しぶりだな、この砦、ここでかなりの期間戦ってたんだ」
勇者は思い出に浸るよう砦を見渡している。
聖騎士も同行していたので当時を思い出していた。
「漆黒殿もここで戦闘訓練を行いましたな、最初は泣き叫んでいましたが」
聖女はふと不思議に思い思わず聞き返す、
「泣き叫ぶって…勇者様達は最初から強力な力を宿していて強いんでしょ?」
「僕と違って彼は戦いの無い世界から来たらしくて、力は有っても使い方が解らなかったらしいんだ」
「私が初めてお会いした時には人智を超えておられましたが」
魔女は最後に勇者達と合流したので魔物を殲滅するその姿しか知らなかったのだ。
◇
「うぉ~こりゃすげ~剣を振るうだけで地面に亀裂はいるとか俺SUGEEE!」…「ほらほら、魔法撃つだけで山が削れるww」…「……こんな俺でも皆の為に…役に立てるんだな…うぅ……ありがとな、白銀」
◇
「彼は努力してその力を使えるようになった、本来の力なら僕より強力だよ」
「勇者様より強いなんてことは…」
砦の中央にある広場に到着すると魔王が居た。
黒髪に黒い瞳の小太りな男性、歳は若い20にも成って居ないだろう、顔はまぁ少し残念だが、身に纏うは漆黒の鎧(漆黒勇者用特注品)と真紅のマントは素晴らしかった。
どこから持ち出したか立派な椅子に腰かけ、久しぶりの友人に会ったように、
「よく来たなぁ白銀、と取り巻き達」
勇者は鞘に手を掛け魔王を睨む、
「漆黒…いや、魔王、どうしてこんな…第2王女はどこに?」
「ん~そうだなぁ~探してみろよ勇者様ぁ、王女様はまぁおまけみたいなモンだ、お前を呼び出す為のな、ゾロゾロ連れてこられても面倒くせぇしなぁ、俺はお前が嫌いだ、何時も上から見下しやがるし、同じ死地に赴き勝利しても称賛を受けるのはお前だけだ、お前が居る限り俺は満たされねぇんだよ」
魔王がそんな思いを、気付かなかった事を悔やむ、言葉が出ない、
「魔王、、僕は、、、君を、、、」
聖女は凱旋パレードにも参加していたのでその光景も見ていた。
『顔貌見れば判るでしょうにって嫉妬でこの騒ぎですか?』
魔王は腕を振り上げ叫ぶ!
「俺はお前を倒しこの世界で自由に生きる、第2王女と共になぁ!」
聖騎士が「まぁ……好みはそれぞれか」
聖女が「うげぇ……変態」
魔女が「うわぁ……ま、まさか勇者様も」
一瞬目を瞑り迷いを捨てた勇者が叫ぶ、
「そんな事はさせない、倒してでも君を連れて帰るよ!」
勇者 対 魔王の戦いが始まる。
魔王は黒刀を、勇者は光の剣を正眼に構え魔力を纏う。
次の瞬間突風が巻き起こり、爆発するかのような火花がそこらかしこで轟音を立てる。
眼で追う事の出来ない剣技の応酬、その一撃が必殺、踏み込む度、両者の足元に爆発が起こる。
砕けた城壁が弾丸のように飛んでくる、
「こんな戦いにどう支援するってゆうのよ!!」
魔女も異常な速さに魔法を使いあぐねていた、
「勇者様を信じて下がりましょう、此処に居ては危険です」
余りの力の差に聖騎士は愕然とするが、聖女と魔女を守らねばならぬと、
「ここまでとは、俺の後ろに、後退する急げ!」
力の差などでは無い、無力、英雄達は、この戦いの中では道端の小石にも等しい存在なのだ。
魔王の繰り出す切先を白銀の剣は流れるようにいなす、態勢の崩れた魔王に勇者の剣が光に変わり切り上げる。
それを魔王はうすら笑いを浮かべ瞬時に魔法障壁を張り回避する。
「くっ速い、これならどうだ!」
それを切り崩すか如く連撃を繰り出す勇者。
「うぉぉおおおお!」
鉄の塊がぶつかり合うような音が響くが障壁を切り崩せないでいた。
魔王は歪んだ微笑みを刻み正面から連撃を弾き返す。
「ははぁー弱くなったんじゃないか勇者ぁっと!」
轟音を轟かせ砦が崩れていく中、勇者が瓦礫と共に蹴り飛ばされ壁に爆音と共に激突する。
人の戦いとは思えぬその光景に立ち尽くす英雄達、
ただそこに居るというだけで防御障壁が悲鳴を上げる
「剣撃の余波だけで砦が削られていく……あぁ勇者様が!」
「防御障壁にヒビが…信じられないわ…」
叩き付けられ勇者の動きが鈍くなる、
「不味いな勇者が押されている」
魔女は手を合わせ祈るしか出来なかった魔女の魔法は勇者に通じないと悟ったのだ、
「そんな…勇者様、負けないで!」
魔王の攻撃が止まり、瓦礫に埋もれる勇者を睨みつける。
「これだ、、、勇者様、勇者様、、、くそがぁ!」
瓦礫を押しのけ勇者が叫ぶ、
「僕には誰の応援も称賛も関係ない、君と共に戦いたかったんだ、同じ勇者として!親友として!」
魔王の殺気が膨れ上がる
「くっ今更それか…」
魔王は腰の赤黒い刀身の短刀を引き抜き勇者に向け、
「茶番もここまでだ、もう終わらせるぞ勇者!」
禍々しい魔力を纏う短刀に勇者は言い知れぬ不安と恐怖を感じた。
「魔王その武器はいけない、危険だ!」
「この呪具は切り裂いた物を異空間に飛ばす、神器だ!、消えて居なくなれ…勇者」
「あんな呪具いつの間に……」
「や…やめて…」
勇者には立ち上がる程の力しか残っておらず、勝利を確信した魔王がマントを翻す。
「言い残すことがあれば聞いてやる、聞くだけだがな!」
壁に背を預けるように立ち上がった勇者は魔王の顔を真っ直ぐに見る、覚悟を決めた、そんな表情だった。
「魔王、いや、漆黒……僕は…ボクは……君の事が…好きだ…愛してる……」