「私」と勇者と魔王1
「お母さんおはよう~...」
まだ眠そうな顔をしながらゆらゆらと階段を降りていく。
「最近、起こしに行かなくても起きて来るなんて偉いわね、ファナちゃん」
ホントはまだ寝ていたいんだがアレが待っているのだから仕方無い・・・
最近の俺の楽しみ、それは!
家にあるカレンダーを回す事、回すのだカチリとな!俺の朝の仕事だ。
この世界にはカレンダーが在る、紙製じゃないぞ?
丸い板を数枚重ねて、外側に1~30まで、内側の板には1~12が書かれている円盤状のカレンダー
カチリ、ふふ、我が家の日付が変わった。
このカチリという音を聞くとなぜか落ち着く…
お、今日は6の月の15日、ジェフ爺の所に行く日だ!
そうそう、この世界は1から12の月で1の月=30日だ。
そして、驚く事に時計は無いっていうのか時間は気にして無い感じ、日が昇り日が暮れる。
朝起きて朝食、お腹が空けばお昼食で、夕暮れが来れば夕食だ。
朝が来れば日付が変わる、かなりいい加減。
曜日という区切りも無く休日という概念も無い、休んでもお金は稼げないからね。
元日本人としては気になる所だが、世界はこの調子なのでどうにもならない。
で、今日はジェフ爺の所でお勉強だ。
勉強と言うだけでウンザリしていたのは過去の事だ、ふふ。
この街には学校という物は無く子供は教えて貰える人に習うのだ。(貴族様には学校のような教育機関があるらしい)
そう、6歳の祝福を授かった?後、外に出る事が出来るようになったよ、親と一緒ならだけど。
しかし、看板読めません…看板だけでは無いんだけど文字を読めないとか外国に来ている気分だ・・・外国以上か・・
そこで、両親に、
「お父さん、お母さん、私、文字読書き出来るようになりたい。」
と、お願いした喋れるが文字が読めないのは日本人として色々歯がゆかったのだ、すると少し驚いた顔をして、
「交易都市だし教えてくれる人が多いから、ファナちゃんも教えて貰うかい?」
あれ?お父さんもお母さんも読書き出来るよね?
「お父さんは教えてくれないの?」
お父さんはお母さんをちらりと見る、そこには笑顔で殺気を放つお母さんがいた、
「教えたいんだ・・・けど・・うぅ・・勉強会ならお友達もできるよ?」
うんうんと頷くお母さん、
お友達だと…俺はもう20年以上(前世込み)生きてるんだ、今更子供の友達など…
「お勉強会行きたい!」
そして勉強会に参加す事になった、友達もできるしな!
この地域の読書きを教えてくれていたのがジェフ爺だったのだ。
ジェフ爺は元商人で引退後、無償で子供達に文字の読み書きと簡単な計算を教えてくれている、読書き計算が出来るのと出来ないのとじゃ将来大きな違いが出てくるのだ。
ジェフ爺は体格はごついし短髪白髪頭で顔も怖い(頬に傷がある)が根は優しい爺さんだ。
俺は割と早く文字を読めるようになった、今じゃ読み書きなんでもござれだ。
覚えが早いと褒められた、照れて無いし!
最近では小さな子に教えたりもしている、褒めていいんじゃよ?
ジェフ爺さんは良く頭を撫でながら褒めてくれるだ、そんなジェフ爺さんの勉強会は俺の楽しみでもある。
通いだして3年弱そろそろ習う事も無くなってきたのが寂しい。
昼食を終え急いで出かける準備しているとお母さんが馬鈴薯の入った籠を持ってきた、
「じゃぁこれジェフさんに渡してね」
「は~い」
さすがに無償といってもって事で、いくらかの食べ物を持って行ったりするのだ集まった食料は皆のおやつになる、茹でた芋は旨い…じゅるり
お店がお昼休みを終え開店しかける頃、
「いってーきまーす!」
”ヒャッハー”と飛び出そうとするとお父さんにガッチリ捕まった。
「まってファナ、いいかい?馬車に注意して、変な人について行っちゃダメだよ、ああ、それと・・」
未だに凄く心配そうなお父さんは超過保護だ。
「もう10歳だよ大丈夫だよ、心配性だなぁ、いってきます」
私の姿が見えなくなるまで見送ってくれるお父さん、やだ、ちょっと怖い。
少し広めの通りを鼻歌交じりに駆けていく、この体になって疲れ知らずだ子供って凄い。
西に進み民家が減って来る頃に見えるのがジェフ爺の家。
こじんまりした建物で広い庭に大きな机と丸太で出来た椅子が並ぶ、今日も一番乗りだ!
ドンドンドン!
「ジェフ爺、おきてるー?おはようございますー!」
偶に昼過ぎまで寝てるので強めにドアを叩く。
少し待つとドアが開き眠そうなジェフ爺が出て来た、
「おはよう、ファナ、もう少し遅らせて来てもいいんだぞ?」
「ジェフ爺、もうお昼過ぎだよ…楽しみだからねぇジェフ爺の勉強会(皆と遊ぶ)、あ、これお母さんから」
ありがとよと少し笑顔になったジェフ爺は籠を持ち奥の部屋に消える。
来る度に思うんだが、部屋の内装はとても質素で飾り気がない、商人として上手くいかなかったんだろうか?
そんな事を考えていると、テーブルの上に置かれ赤いカバーの一冊の本が目に入った。
(うわぁ、本とか高級品じゃないか、こっちに来て初めて見た)
思わず本を覗き込む。
本の背文字に【 勇者達と魔王の物語 】と書かれていた。
まったベタな題名だなぁ、冒険物かな?思わず本に手を伸ばす、
「その本に興味が有るのか?」
「ふぃあ!…ご、ごめんなさい…」
いつの間にか戻ってきていたジェフ爺に声を掛けられ妙な声が出た、勝手に本に触ろうとしたんだ、怒られる、うぅ。
ジェフ爺は椅子に腰かけながら、そっとその本を持ち上げて、
「最近手に入れた本でな、昔の事が書かれておるんだよ」
歴史書?怒られると身を縮めていたのも忘れジェフ爺を見つめてしまう。
「昔の事?勇者??魔王??」
「そうだ、400年程前にあった勇者と魔王の戦いが書かれている」
私は驚いた、確かに女神に勇者召喚の話は聞いたが、魔王の存在は初耳だった。
眼をパチパチさせながら話を聞いていると、そっと本をこちらに差し出してきた。
「ファナは文字も読めるし、丁重に扱うのなら読んでみるかね?」
「は、はい、読んでみたいです!」
俺は今、満面の笑みだろう。
「そうかそうか、じゃあこの部屋から持ち出さ無い様にしてくれよ」
「ありがとうございます、ジェフ爺様!」
本なんて高級品を読めるチャンスなんて無い、しかも歴史が書かれているとか。
普通はお年寄りが知っている限りの昔話程度でしか知り得ないのだ。
それを代々継いでいくので内容が奇天烈な話もあったりする。
早速、本をテーブルに置き読み始めた。
ほんとうに楽しそうに読みよる、他の子もファナ位覚えが良ければ楽なんだがなぁ。
外を見ると何人かの子供達がこちらに向かって来るのが見える。
この調子じゃファナは今日の勉強は無理だな、まぁ教える事も無いが。
----------勇者達と魔王の物語----------
ファリウス大陸には大小の多くの国々が在った。
人々は魔物の脅威に怯え日々を過ごしていた。
そんなある日、女神の啓示があった。
- 異世界より、勇敢な若者を召喚する 勇者召喚魔法 -
勇者を召喚出来れば魔物は駆逐され恒久の平和が訪れる。
その啓示に世界が歓声に沸いた、多くの国がこぞって勇者召喚を行った。
勇者召喚魔法には莫大な魔力が必要であり多くの魔法使いが国の為、民の為、世界の未来の為、命まで魔力に変え…力尽きていった。
そして、同時に貴重な魔法の知識も消えていった。
…しかし、勇者は現れなかった。
魔法使いはその数を減らしていった。
そして、魔法という貴重な戦力を失った国々は魔物に滅ぼされていった。
人々は希望を失い、世界は滅びの道を辿って行った。
絶望に染まる世界に、遂に2人の勇者が召喚された。
一人は白銀の勇者
一人は漆黒の勇者
追い込まれていた人々はその勇者という希望に縋りついた。
勇者は人々の願いを叶えるように戦った。
勇者の力は絶大だった。
剣を振れば大地が裂ける。
魔法を使えば山が形を変える。
傷ついた人々を救い出す。
勇者によって大陸の魔物はその数を減らしていく。
しかし、何時の頃からか、漆黒の勇者がおかしくなり始めた。
そして、漆黒の勇者が世界の人々にその剣と魔法を向けたのだ。
自らを【 魔 王 】と名乗って
…世界に宣戦布告した…
魔王は魔王城に王女を連れ去った。
魔王を倒し王女を救い出す為、英雄達が名乗りを上げたのだ。
黄金の聖騎士 光の聖女 境界の魔女
そして 白銀の勇者
勇者達は魔王に戦いを挑んだ。
戦いは人知を超え、まさに世界の終焉を思わせた。
闇に染まった魔王の力に勇者達は追込まれた、その時
白銀の勇者の全ての力込めた一撃が魔王を貫いた。
白銀の勇者は英雄達に微笑み掛ける、そして
空が裂け、閃光と共に白銀の勇者と魔王は世界から消た。
勇者が消えた世界にまた魔物達が溢れだした。
世界は、魔物の脅威に再び脅かされた。
境界の魔女 は白銀の勇者より授かった魔法を行使した。
境界の魔女は微笑みながら光の大樹となった。
魔物の大群が幻のように消えていく、傷ついた者達の傷が癒えていく。
暗闇の空が青く輝く。
境界の魔女は自らの命を魔力に変え奇跡を起こしたのだ。
そして世界は救われた。
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パタンと本を閉じ、
「魔法使いって居るんだ…って勇者何もしてないし!暴れただけじゃねーか!」