「私」とダンジョン
12の月になり森は雪に埋もれ静かな室内には薪の燃える音だけが聞こえてくる。
暖炉の前に敷かれた毛皮に寝転がり天井を見ている。
最近こんな感じで過ごしている、気合が入らないと言うか集中できないからだけど。
俺がフィル姉さんの弟子になり3ヶ月経つ、そろそろ両親に俺が行方不明になったことが伝わるはずだからだ。といって手紙など出せる筈も無く、両親御悲しむ顔が浮かび何も手に着かなくなっていた。
エル兄さんとフィル姉さんは外で模擬戦をしている俺もそれに参加しているはずだったけど
「緊張感のない訓練は身に付かないわ、ファナちゃんはお休みにしましょう」
フィル姉さんにも注意を受けてしまった、分っていても意識がそちらに向いてしまうんだ…
「はぁ~~」
出るのは溜息ばかり、ミリルお姉ちゃんは心配そうにこちらを見ているがそれすらも辛く感じている。
居た堪れなくなり部屋に戻り外出用の服を着こむ、これも両親が用意してくれていた物だ。
ギュッと体ごとコートを抱きしめる。
「ミリルお姉ちゃん、少し散歩に行ってきます」
返事を待たず外に出ると冷たい風が少し気持ち良かった。
「ファナちゃんどこ行くの?」
フィル姉さんが心配そうな声で聞いて来た。
「頭を冷やしに散歩してきます・・・」
「そう、いってらっしゃい、早めに戻ってくるのよ」
俺は無言で身体強化を行い森に向かい駆けて行く、少しすると後ろからエル兄さんが追い付いて来ていた。
「おい、ファナ待て!待てって」
「なんですか?エル兄さん?」
お互いに木の枝に降り立つ、一人になりたかったから少し乱暴に答えたがエル兄さんは気にする事も無く俺を見ている、それがさらに俺をイライラさせた。
枝から飛び降り更に森の奥に足を進めいくと最初の頃訓練していた湖が見えて来た。
「何時までついて来るんですかエル兄さん?」
ギュッギュッギュッ新雪を踏締める音とエル兄さんの息遣いだけが聞こえる。
「お前が家に戻るまでだ」
「帰ってくださいエル兄さん!」
自分でも驚くほど大きな声が出た、エル兄さんはこれでも気にする事無く、しかも俺が言われたく無い一言を発した。
「両親の事か?気にしすぎるなよ」
些細な事とでも言うような一言に俺の頭の中で何かが切れた。
「ふざけた事を言うな!!」
眩しいほど輝く髪にどれ程の魔力を込めたかが解る。怒りのぶつける先、地面を思いっきり蹴りつけた。
ドカンゴバァン!
目の前が真っ白になり衝撃と振動が体を吹き飛ばそうと襲い掛かって来るが障壁を張り耐える。
足元に円状の亀裂が走り周辺の木々から積雪が吹き飛び何本かの木が倒れた。
乱れた呼吸を戻そうと深く息を吸う。
エル兄さんも周囲に障壁を張り真剣な顔で俺を見ていた。
「ファナの両親を心配する気持ちは分かる、だが今はまだ何も出来ないだろ?」
「出来ないから…心配で…悲しくて…」
我慢していた涙が溢れだし足元に涙の染みがポツリポツリと増えていった、隠すように両手で顔を覆う。
「後一年は待つんだそうすれば両親の監視が消える筈だ」
後一年…でどうなるんだよ?涙を溜めた瞳でエル兄さんを見つめると少し後退り
「ファナは生死不明だ遺体が無い以上攫われたと思われているだろう、攫われた先から逃げ出したとして戻る先は両親の元と思うのが普通だ、ファナはまだ子供だしな」
「悪かったな子供で…」
「まったくだ、いじけたりと情緒不安定な所が子供だ…で2年程経って戻ってこなければどこかの貴族辺りに攫われて逃げれない状態にあると思うだろう。」
「納得できないがそうだな」
「それまで両親は間諜が見張ってるって事だ。今ファナが何かすればそれは両親を危険に晒すって事なんだ辛いのは分るが考えすぎるな、ファナの両親はお前が無事だと信じているさ」
なるほど見張りが両親についている以上俺が近付く訳にはいかない。俺を捕まえる為に両親が攫われる危険がある。
それにお父さんとお母さんには後でしっかり謝ればいい、無事に帰る事が一番重要なんだから。
王都に行って永遠に会えないより・・・皆と再会した時恥ずかしくない様にしないとな。
フィル姉さんもミリルお姉ちゃんもエル兄さんも俺の味方だ家族だ、何を心配してたんだ?帰ったら謝ろう。その前に
「あのエル兄さん怒鳴ったりしてごめん、ごめんなさい!」
頭を下げながらしっかりと伝えた。
「お・・おう」
ズズ・・ズズズズッ・・・・
地鳴り?周囲を見渡すが何も変化はなさそうだが
「エル兄さん地鳴りが」
「あぁこれ・・・は・・・ぁあぁああ・・・・」
突然地面が隆起し俺達を飲み込むようにひびが広がっていく
地鳴りの発生源は足元だった、ひび割れが大きくなると足場が轟音とともに崩れる、突然の事に障壁も張れず俺は落下した、小さくなる穴から瓦礫と共にエル兄さんが飛び込んで来た。
俺達は暗闇の穴の底に落ちて行った。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
「ファナ起きろ、ファナ!」
「あ・・・はぁ・・あふ」
少しずつ瞼を開くとエル兄さんの泥だらけの顔が目の前にあった。
「落ちた後気を失っていたんだ、痛い所は無いか?」
何処から落ちたって?ここは洞窟の中?エル兄さんの頭上に小さな光の玉が浮き周囲を照らしている、便利だなぁ・・・ボーとそれを見ていると。
「おいしっかりしろ、頭でも打ったのか?少し移動するぞ」
ガチガチガチ・・・
不意に持ち上げられた所謂お姫様抱っこだ、一気に目が覚めた。
エル兄さんは暗闇の先を照らしながら進んで行く。
「起きたから、はっきりしたから降ろせ降ろしてぇ」
恥ずかしくてポカポカとエル兄さんの胸元を叩く。
「重くないから大丈夫だ、それよりココに留まると危険だ出口を探さないと」
「落ちて来た穴は?」
「崩れた土砂で通路ごと埋まった、ファナを抱えて逃げるので精いっぱいでなすまない」
気絶して生き埋めになる所を助けられたのか、しかしお姫様抱っこされるより危険手なんだよ?心臓がバクバクして死にそうだ・・・下手にカッコいいからなエル兄さん…だが見上げた顔には余裕が無かった。
「魔物が居る、ここは奴らの住処だ」
「魔物」
体が強張る、殺されかけた記憶が蘇りギュッとエル兄さんにしがみ付いた。
「ファナ?どうした?」
「嫌な事思い出した・・・どうしよう凄く怖い」
余りの怖さに鼻水が出て来た、ズズズっと鼻を啜る
「は、女の子らしい所もあるんだな驚いたよ」
エル兄さんは嬉しそうだが、どう考えても貶されてるよなこれ。
鼻をエル兄さんの服を鼻に貼り付る
「なにしてんだ?」
ズビビビビー鼻をかんでやった、すっきりした~。
「何、何しやがる!あ~~~ここを脱出したら覚えてろよ!」
ここが魔物の巣、この世界でダンジョンと呼ばれる危険地帯だ。
しかし、何でこんな所にダンジョンが有るんだよ・・・




