「私」と女神の祝福
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・・あぁ・・・
・・・
暗闇の中に声が聞こえた、優しく、とても優しく愛しむ声。
暖かさと幸福感に包まれる。
目を開けると、
あぁ・・
そこには微笑む2人の顔が見えた。
何故かこの2人が自分の両親だとわかった・・
ふぁ・・「俺」は生まれ変わったんだ・・・
赤ん坊になってから数年思考がはっきりせず靄のかかったような日々を過ごした。
両親の話しかける優しい声から言葉を学び、世界を知った。
そして俺は生まれる前の記憶を少しずつ思い出していった。
歳を追う毎に少しづつ、抜け落ちた欠片を集めるように、ある程度思い出すのに5年弱かかった。
前世では早く死に両親に悲しませた…今世は親孝行な子になろうと思う。
問題は「俺」が「私」になった事、生まれる先が決められないという事は、性別も決めれない当然である。
初めて自分の性が変わっている事に気づいた時は、
「なんじゃこりゃぁ!」
と幼女に似つかわしくないセリフが漏れ出て…両親を驚かせてしまった。
その後、普通の子供の振りをして勘違いであると思わせるのに苦労したよ。
最初は戸惑いもし、軽く絶望もした、たが状況に人って慣れるよね~自分でびっくりだよ。
だが思考は17年の男としての記憶もあり考え方や仕草が男っぽい、たまにお母さんに怒られる。
毎日が楽しい。
優しい両親に平凡な生活、とても幸せである。
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差し込む暖かな日差し、窓の外から小鳥の声が聞こえる。
「ルドル雑貨店」2階の「私」の部屋。
いくつかの継接ぎのぬいぐるみ置かれており女の子の部屋ぽい。
ぬいぐるみはお母さんが作ってくれた、服を作る際出る切れ端を繋ぎ、中にはおがくずを詰めた簡単な物だ。
小さいぬいぐるみはお店に商品として並んでいる、小さな子供向けとして偶に売れているようだった。
お母さん会心の作のクマのぬいぐるみは抱き枕にしている、8歳の時のプレゼントだ。
「ん~朝かぁ…もう少し寝てようかな…」
暖かな布団に包まれうつらうつらと睡魔への抵抗を諦めようとしていた。
交易都市でもあるこの街の人々の朝は早い、日が昇り始めるより早く働き始める。
当然我が家も言わんと知れず朝は早い、毎朝のイベントお母さんがやって来る。
ドアをノックし返答を待たず開かれ、
「ほらほら、いつまで寝てるの?ファナ早く起きなさい。」
「あともうもう少し…あと、5分、いや…グー…」
フッと溜息を漏らしながらお母さんは最後の手段にでた。
「も~お父さんに頼もうかしら?」
ニヤリとしたお母さんの顔がちらりと見える、
「はい、起きます!」
ガバッと起き上がり急いで着替えを始める。
「朝食の準備すぐできるから早くね~」っとお母さん。
ドアを閉める時、扉の陰で項垂れるお父さんが見えた、仕方ないよ、お父さん。
お父さんの起こし方はある意味拷問だ。
息が切れるまでくすぐられるこっちの身にもなって欲しい…一度……漏らしかけ…号泣した。
8分袖の白い上着に紺の膝下のワンピース、スカートにも慣れたよ…最近までズボンが多かったが9歳にもなりスカートを履くようにと、お母さんに言われている。
スカートだと男の子達と走り周るのに心もとないのだ、色々と。
タライの水でささっと顔を洗い身だしなみを整え朝食だ、テーブルの上には野菜が煮込まれた
スープと籠に盛られたパンが並ぶ。
良い香りに小さくお腹が鳴る、とても美味しそうだ。
最後に私が座り両親が女神に祈りを捧げ食事が始まる。
お母さんの料理はどれも美味しい、たまに教えて貰いながら一緒に調理するがまだまだだ。
この世界の作物や動物は地球のそれとほぼ同じだ、名前まで一緒の物が多くある。
前任の女神は地球を参考にしたか面倒だったに違いない。
そう女神だ、この「ファリウス大陸」は女神信仰で「慈愛の女神アリア」を信仰する神殿が各街にある。
これは6歳の時の忘れたい記憶。
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この世界では6歳になると神殿で女神の祝福を授かる習わしがある。
幼児の死亡率はまだ高く6歳までは余り家の外にも出してもらえない、当然、神殿なんて見た事もなかった。
6歳の時、祝福を授かる為に初めて神殿に行く事になった、両親に手を引かれ初めての遠出でテンションが上がる!
初めて見る街並みに完全にお上りさん状態だった、あれは何これは何と神殿につくまで両親を質問攻めにして困らせた。
神殿は美しい外観をしており、礼拝堂に向かう途中、煌びやかな装飾品が並んでいた、無駄事にお金かかってんなぁと一目でわかる。
神殿には祈る女神の姿を模した像があった、興奮に胸を躍らせ女神像を見上げる。
そして、それを見て盛大に吹いた。
「大丈夫?ファナちゃん?」
「ウ、ウン、メガミサマノゾウガトテモキレイデオドロイチャッタ・・」
「ふふ、慈愛の女神アリア様の像よ」
どういう事だ、新人女神って言ってたし…どうして…顔があの自称女神なんだ?
めちゃ驚いた、有名だったんだねコスプレ女
落ち着け私、別に本人が居るわけでもないし。
周りを見渡すと同じように祝福を授かりに来た親子が数組、順番を待っていた、私は最後らしい、質問攻めにした為到着が遅れたのだ。
祝福と言っても神官のおっちゃんが女神像を前して子供の頭に手を置き何かブツブツ言ってるだけだ。
ささっと私の番も終了し、私も無事祝福を授かったらしい?
これで無料ならともかくお布施が必要とかぼろい商売である、自称女神に文句を言ってやる。
どうも神官のおっちゃんと両親は知り合いらしい。
両親が神官のおっちゃんと話し込んでいた。
手持ち無沙汰になっていたので、早速女神像の前に跪き祈る振りをして文句を並べていると、
『お久しぶりです、大橋さん、お元気ですか?』
余りの事にビクッと驚き周りを見渡す挙動不審の幼女、
なぜ、自称女神の声が…『自称じゃなく女神ですが?』…』
間違いなく頭の中に聞こえやがった…人目がなければ頭を抱え転げまわっただろう。
『6歳おめでとございます、さすが、私の加護です!守りは完璧です!』
『あ、ありがと、って、いきなりしゃべり掛けるなぁ驚くだろ!暇なの?暇なの?』
『はい、暇!』
『・・・・働け・・』
『それより、なんで女神像がアリア?なんだよ?新人じゃなかったのかよ?』
『ん?当ったり前です、私は慈愛の女神として認められる活躍をしたのですから』
『5年や6年で『大橋さんと会ってから400年程経ってます』でぇええ・・?』
『転生の際、設定ミスで400年程待って貰ってました、確認って大事ですね、魂の状態で時間の概念なかったから気にはならなかった筈ですが?』
『・・・400年・・・はぁ』
(まぁお陰でこの両親の元に生まれたのだからいいか…)
子供達が走り回って騒いでいる中、ただただ静かに、一人の女の子が祈りを捧げている(ように見える)姿に周りの人達が感心している。
『せっかくですから、お祝いに私自身が祝福を授けてあげます』
嫌な予感しかしないその発言に、
『いやまて、ちょっと~』
何故か目を閉じているのに小躍りしている女神の姿が見える。
待ってくれと女神像に向かい止める様に両手を挙げる、その時…女神像の手から七色の光の粒子が零れ落ち俺の体を包み込み、体に吸い込まれるように消えていく。
水を打ったような静けさの中、プルプルと震える幼女。
周りの人達はその信じられない光景に目を見開き固まっている。
恐る恐る周りを見渡すと神官のおっちゃんが泡を吹いて倒れそうになってた。
両親は見ていなかったらしく倒れそうになる神官を介抱している。
『ど、どうしてくれるんだよこの状況『気にしたら負けです』もう何もするなぁ!…』
その後、意識を取り戻した神官のおっちゃんが何か言いたげな視線を送ってきたが、何も無かったですよっと、子供らしい笑顔を向ける。
ピクピクト頬を引き攣らせながら額に手を当てた神官のおっちゃんは、
「ちょっと疲れが溜まったのか…光の悪戯でしょう。」
自分に折り合いをつけたらしい…。
で、その後、いかに女神様が素晴らしいとか偉業?の有難いお説教で怪奇現象を無かった事にしてくれた。
周りの人達も有難ーい説教を聞き見なかった事にして帰っていった。
そりゃ、女神様が個人に祝福とか有り得ないよね普通、くそ、駄女神が!
用事がない限り神殿には近づかないようにしようと心に誓う。
『せっかく女神の祝福を使えるように…酷い!、大盤振る舞いですよ!、奇跡ですよ!』
何か聞こえたが無視だ…。
家に帰る途中、
「最後のほう妙な緊張感があったけどこんな感じなのかしら?」
「そうだね、僕も緊張したよ、ははは」
両親に見られなくてよかった、こうして6歳の祝福イベントは終了した。
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嫌な事を思い出した、軽く項垂れる。
両親に心配され、大丈夫だよと笑顔で答えて朝食を食べる終わり、開店準備を手伝う為、一緒にお店に向かう。
(今日一日何もありませんように。)と誰に祈るのでなく一人ごちるのであった。