「私」とコスプレ女
ここは「私」が生まれ育った、「ファリウス大陸」の南東に位置する交易都市「リガール」。
5メートルを超える石壁に囲まれた南北に楕円形をした都市である、周囲は森と草原で都市の南側には大きいな湖が在り、農業も盛んだ。
冬でも雪が降るほど寒くはなく過ごしやすい気候、大陸中央に位置する王都へ続く街道の拠点として商隊や護衛の傭兵や冒険者、また仕事を探して様々な人々がやって来る。
交易拠点となっているので人の出入りが多く中には荒くれ者も居る、街中は治安の為の衛兵を多く雇い入れているおかげで治安はまぁ悪くない。
だが街の外は危険が多い。
この世界には生息数は少ないが魔物が存在する、旅には護衛は必須でしかも障害は魔物だけではなく盗賊も含まれる、人の流れの多い都市の近くでは魔物より商隊を襲う盗賊のほうが問題になっている位だ。
「リガール」はどこか懐かしさのある赤煉瓦の街並みに東門と西門が繋がる数キロの大通り。
大通りには大陸各地からの集まる珍しい商品を並べたお店や武器防具を扱うお店が並び、東門西門の近くには宿屋や飲食店が連なってる。
商隊は街に入ると数日、商売や補給やら休養でとどまることが多い、夜になれば商売で儲けた者、護衛の者達が飲み食らい、旅の話で盛り上がるのは毎夜の事だった。
大量の荷を積載した馬車が連なるように進み、行き交う人々は各地から集まる商品や食料を売買し旅の疲れを宿で癒し次の街を目指す。
そして、この街の大通りから離れた場所に小さな雑貨屋がある。
旅人より街人をお客にしている生活用品を扱うお店でお世辞にも品揃えは良いとは言えないが、店内は良く整頓されており棚には生活用品が並ぶ。
5人もお客が入れば身動きが取れなくなりそうな広さだ、だが日頃からそんなにお客が来ないので困ったことはない。
カウンターでぼーっと外を眺めている「私」こと「ファナ」は今日もいつ来るかわからないお客様を待っている。
大通りから離れているし周りは居住区で飲食店も無い為、冒険者達もめったに来ない、たまに大通りの人混みに疲れた人が迷い込むくらい。
ちなみに昨日のお客様は2人だった、2つお隣のお婆さんと向かいのお肉屋さんの奥さん、お婆さんの昔話を2時間程聞いていたが他にお客さんが来る事は無かった・・。
お婆さんから貴重な飴玉を貰えたので昔話も楽しかったです、甘味は貴重なのです。
でも生活に困るような状態では無いらしいがこのお店の状態はまずいのではと心配になるのは仕方ない事だと思う。
『大丈夫なのかな、、お店、いつ潰れてもおかしくないよね、、』
そんなことを考えつつ商品並べているお父さんに目を向ける。
ベージュの髪と瞳でこれと言ってハンサムではないがいつも優しく微笑んでいる、体格はムキムキでも無いし、中肉中背、いたって普通の「ルブル」お父さん、ちなみにお店の名前は「ルブル雑貨店」って、そのまんま。
隣で編み物をしている青髪に青い瞳の整った顔立ちの「リナリ」お母さん。
お父さんは28歳、お母さんは秘密らしい、たぶんお父さんと一緒か、んーお母さんのが年上かな、でも両親を見比べると何故お父さんと?などとたまに疑問に思う位の美人である。
「どうしたのファナ?」
視線に気づきお母さんが聞いてくる。
「ん~お客さん来ないよねぇ~」
「ははは、心配する事は無いよ、、ははは」
と、お父さんが少し落ち込んだ様子で商品を並べる。
「そうよーこんなに可愛いファナちゃんがいるんだもの」
えー理由になって無いよ!と頬を膨らませお母さんに抗議の視線を向けると、
「私に似て可愛い!ってご近所でも噂の看板娘なんだからぁ、それに近所の男の子達にも人気あるのよ」
と自分に似て可愛い事を強調する笑顔のお母さん、お父さんは険しい顔をして店の外を見渡している。
「私」は男の子とチャンバラしたり街中を走り回っていた。
男の子と間違われることが多かったし今でも女の子の友達より男の子達と遊んでいるほうが楽しいし落ち着く。
「私」の肩まである髪と瞳の色はお父さんと同じベージュで、容姿は子供の頃のお母さんに似ているらしい、この世界に生まれてきてもうすぐ11歳になる。
さすがに11年近くも経つと最近女の子らしくなってきた?、自分が可愛いとか男の子に人気があるとか考えた事は無かった、理由の一つは「私」が転生者だからだ。
・・・ある日、ある場所・・・
頬を撫でるそよ風と緑の香りで目が覚める。
「う…あ…よく寝た…」
体を起こし伸びをして周りを見渡すと見渡す限りの草原だった。
「はぁ??なぁ…ここはどこだ…。」
誰一人いない。
落ち着け落ち着け…まずは自分の事だ、「俺」の名前は「大橋 隆」。
特に特徴の無いいたって普通の17歳の高校生、うん、間違いない。
しかしここは…つか、裸だし!!。
雲一つない空に緑の地平線、た、太陽すら無いぞ、おいおい、なんだ此処、なんでこんな場所に「俺」は居るんだ…思い出せ、思い出せ…だが何か在ったか?座り込み頭を抱える。
「皆と遊びに行って家に帰って夕飯食って風呂にはいって…ん…ここから記憶がない…」
風呂で寝ちゃったか…でも風呂から草原とかどうなってるんだ…服着てねぇし!…。
夢か?…夢だとしたらやばくないか?露出狂の気があったのか「俺」いやそんなはずは…。
でもこのそよ風や、草の香りはどうだってんだ、お約束で自分の頬をつねると痛かった。
言い知れぬ不安から落ち着かなくなり改めて周りを見渡す。
しかし、誰も居ない…って、あれ…遠くに人影が見える。
豆粒くらいの大きさだがたぶん人だろう、ゆっくり移動しているように見える。
「人が居る?、おーい!おーーい!」
あ、「俺」裸だし…どうしよ…。
しかし、人が居たという安心感に思わず走り出す。
むろん股間は両手で隠す!、猫背になりながらすっごい情けない走り姿だ。
周りに誰もいなくてホントよかった、あれ?
人影とはかなり距離があるようだ、結構走ったがまだ遠い、だが間違いなく人のようだった。
うっすらと見えてきたその姿は絵本の中から出てきたような女魔法使いそのままだった。
よく見るとめっちゃ可愛い、金色の髪が輝いて見える。
色鮮やかな赤色のローブに鍔広の三角帽子、左手には捻じれた木の杖を持っている。
え・・まじ・・近寄っていいのか・・それ・・コスプレ?。
向こうもこちらに気づいたのか振り向くと、その顔が驚愕に染まる。
「い、、いやぁぁあああぁぁ!!、へ、へ、、変態!!!!!だ、誰か、、
たすけてー!!!」
絶叫し「俺」から逃げるように駆け出すコスプレ女。
逃げるコスプレ女にそれを追いかける全裸の青年、絶対通報されるから間違い無いからぁ!
いやっまって!「俺」酷い意味でご近所で有名になるからぁ!!。
…股間を両手で隠し必死の形相で走って来たらそりゃ逃げるよね…。
追いかけること数分、とうとう
《ベシャ》
コスプレ女が足を絡ませ盛大に転んだ。
「フゥフゥ、、やっと追いついた、、はぁはぁ、、だ、大丈夫か?」
コスプレ女はガタガタ震え今にも泣きだしそうな顔をしている。
「うっ、、ううっ、、グス、、。」
転んだコスプレ女の前に、股間を両手で隠した猫背男が立っている。
これは犯罪者にしか見えない。
「ちょっと泣かないで、お願いだから」
こっちが泣きてーこっちが、しかし、これ以上怯えさせるのも先ず説明をしなくては。
「俺の名前は 大橋 隆 」
「気が付いたら裸でこんな所にいて「俺」にも良く解らないんだ、
何か知ってたらお教えてくれないか?」
身振り手振りできない為くねくねしながら必死に語り掛けると。
コスプレ女は「俺」の話を聞いてポンと手を合わせる。
「あなたが 大橋 隆 さんですか?あなたを探してたんです」
と、急に笑顔になりやがった。