後編:記憶の追加
再びおじいちゃんの家へ戻った僕は、目的の場所へと足を速めた。
あの時計に向かって。
前にちゃんと見ていた。大きなものだったから、きっとあの時と同じ位置にあるだろう。
そして――
「・・・あった」
喜びとドキドキが最高潮に達した瞬間だった。
ワニの振り子の裏。周りと同じ色のテープで、封筒が貼り付けられている。
中から、数字の0がたくさん並ぶ小切手が出てきた。
これは全部僕のものなんだ・・・。
少し考えてから、家の中にいる親戚達に問いかけた。
「ねぇみんな、僕の話を最後まで聞いてくれる?」
反応は早かった。
「もちろん!話してごらん」
「これ見て」
僕はみんなの探していたお宝を見せた。
「!!!・・・どこでそれを」
「その前に、これをもらってたこと黙ってたんだ。ごめんなさい」
今度は『ウヨリワサロ』という謎の言葉が書かれた紙を見せた。
「何これ?これが何だって言うの?」
「宝の地図だよ」
にっこりと笑って、続けた。
「この地図にはちょっとした仕掛けがあってね、この言葉がないと解らないようになってた。ほら、あるでしょ?炙り出しとか水につけると浮き上がるみたいな・・・」
冒険ものの漫画やテレビが好きだったので、つい喋りすぎた。
「で、何なんだ!?」
イライラした大人たちに先を促されて、僕は慌ててその言葉を口にした。
「始めは気にしない、それからが肝心」
「え???」
「だから、このカタカナの一画目をそれぞれ消して、別のカタカナを作るんだ。ちなみにおじいちゃんの書き順に沿ってね。僕はそれを知ってる」
すぐに他の紙を持ってきて、鉛筆で一文字ずつゆっくりと書きながら説明する。
「まず『ウ』という文字の、始めの上の縦棒・・・これを消すと『ワ』になる。次は『ヨ』の一画目・・・Lを逆にしたようなところを消すと、これは『二』になる。それで『リ』は『ノ』。『ワ』は『フ』」
ここまで呆然と僕の動作を見ていた周りから、やっと声がかかった。
「な、なるほど・・・じゃあ『サ』は?あの人はどこから書いたの?」
「横棒からだよ。出てくる文字は『リ』」
「じゃあ、『ロ』は『コ』か?」
うなずいて、すぐに縦棒を消した。
これで地図は完成した。
「ワニノフリコ?・・・ワニの振り子かっ!」
「そう。この家で、ワニの目印の振り子がある時計は、あの大時計しかないよ。お金はあそこに隠されていたんだ」
さっき宝を発見した場所を指差して言った。
「・・・最初から全部お前にやるつもりだったんじゃないか?」
「え?」
「だってそんなの俺達は知らなかった!これまでちゃんと接してこなかったから・・・」
伯父さんは後悔した様子だった。
「そうだね、兄さん」
父さんも母さんも、反省したように言う。
「もうちょっと優しくしてあげればよかったんだ」
「そうね、悪いことしたわ・・・」
僕はそれを見ていて、悲しくなった。おじいちゃんを思う気持ちが強くなるには遅かったから。
「このお金、僕以外のみんなに均等にわけたいんだ」
視線が一気に僕に集まる。
「それなら、ケンカしないでしょ?」
今、自分がどんな顔してるのかな。意識しなかったけど、それを見て誰かが涙を流したのは分かった。
「ふぅー」
やっと落ち着いて、大きく息を吐いた。
あの後、みんなはおじいちゃんの家を離れて、それぞれの家へ帰っていった。
そして僕は今、自分の部屋のベッドに横たわっている。
もう窓から光が入らない。
一休みしようと、そのまま目をつぶる。
そういえば、おじいちゃんから一個だけ時計をもらったんだっけ。でもそれは、しばらくして壊れてしまって、今は無い。だから忘れていたんだ。
「それじゃあ、お前にふさわしいこの時計をあげよう」
そう言って僕に差し出したのは、二匹のネコが乗っているだけの小さなものだった。
「まるでコピーしたみたい」
僕がそう言ったのは、二本足で立って遠くを見つめたような格好や、色や形、全てがそっくりだったから。せっかく二匹もいるのに、同じなんてつまらないな。自分が作るんだったら、絶対に変えるのに。そう思って、気になった。
すると、すぐにおじいちゃんは説明してくれた。
「ある童話をもとに、十年前に作られたものだそうだ。だからその話を読めば同じな訳が解るんだが・・・まあ、残念だがここにはその本は無いがね」
「そっか!でもなんでこれが僕に合ってるって?」
「ヒントは漢字。それがお前の名前になるからだ。いつか解る日がくるだろう」
「・・・僕の名前?」
おじいちゃんはそれ以上何も教えてくれなかったし、あれから深く考えることもなかったな。
でもこれも、今となれば簡単な謎だ。
これからも良い思い出としてしまっておこうと思った。今度は忘れないように。
大好きなおじいちゃんと一緒に・・・。
読んで下さった方、ありがとうございます。海上なつ(元:空音)です!
ところで、ここでは登場人物についての情報がほとんど明かされていないんです。短い話だからいいかな?と思ったのですが、解りづらかったらすみません。ですが、主人公の名前は推理することが可能です。年齢も大体推測できるようにしたつもりですので……。
それでは、またの機会に。




