前編:記憶の探検
おじいちゃんの家に、親戚がみんな集まっている。
3日前、大好きなおじいちゃんが病気で亡くなったんだ。
そして僕は今、大人たちに問い詰められている。
「何よコレ!冗談じゃないわよっ!!」
「なあ、おじいちゃんに何か言われなかったか?」
遺書に書かれていた内容が、どうやら納得できないらしい。
「ねえ、それ見せて」
母さんから、おじいちゃんの字で書かれた紙を受け取って、一部を読んだ。
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遺産はある場所に隠してある。
最初に手に入れた者に全財産を相続させる。
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「そんな・・・!?」
おじいちゃんらしい、と思った。同時にみんなが苛立っている理由がわかった。
あばあちゃんが亡くなってから、おじいちゃんは自分で「嫌われ者」だと言っていた。
実際、毎日のようにおじいちゃんの家に遊びに行っていたのは、僕くらいだった。
あの日もそうだ。
僕が学校で失敗して、ランドセルを置くのも忘れておじいちゃんに泣きついたことがあった。
「始めはしょうがないさ、気にしなくていい。それからが重要なんだよ。しっかりと覚えておきなさい」
そう言って、何度もなぐさめてくれたっけ。
明日、学校へ行ったらどうしようか。何をすればいい?おじいちゃんに教わったことをしてみた。そしたら上手く解決できたんだ。
だから嬉しくて、母さんに話そうとした。
「今日ね、おじいちゃんにね――」
「また行ったの」
それだけだった。いつも反応は冷たかった。どうして・・・あんなに優しいのに。どうして嫌うの?
「自分勝手で子供っぽい性格、最後までなおらなかったわね」
あの時と同じ母さんの声がして、僕はドキッとした。
ずっと、そういうおじいちゃんの性格が苦手だったのかもしれない。
「まあまあ、今は探すしかないだろ」
父さんは家を見回して言った。
「せめて何かヒントでもあれば・・・」
そういえば、こんなこともあった。
「あ、これいいな」
一緒にテレビを見ていて、たまたま映った新作のゲームソフトの感想を言っただけだったのに、次の日、遊びに行ったらそれと同じものが用意されていた。
「ほしいものがあったら、遠慮しなくていいんだよ」
そう言って、僕に笑いかけたのを覚えている。
でも、あれから一度も「ほしい」と口にしなくなった。また買ってくるだろうと思って。
「こっちにいて、退屈じゃないか?」
寂しそうな顔で急にそう訊かれた時は、ちょっと戸惑った。
「全然そんなことないよ!」
僕は、そう正直に答えた気がする。
おじいちゃんの家は、ちょっとした探検ができるほど広くて、時計集めが趣味らしく、入るとたくさんの時計に囲まれる。それが僕をわくわくさせたから。
「この時計の音、おもしろいね!」
いつも、目についたものを触ったり眺めたりした。楽しかったんだ。
「この時計の振り子、ワニの形してる!かわいいね」
「気に入ったかい?」
「うん、全部好きだよ!あのキツネのデジタル時計とかー、カエルの目覚まし時計も!」
「そうかい、ほしかったら持っていくといい。また買えるからね」
「ありがとう。でもどうしてこんなに集めるの?」
「そうだな・・・木の葉を隠すなら森の中、ってな」
おじいちゃんはその質問について独り言のようにつぶやいただけだったけど、あの時確かにそう聞こえた――。
「あっ!!」
もしかしたら、木の葉って遺産のことなんじゃ・・・。
今思うと、あの時すでに隠していたのかもしれない。
「どうしたの?何か思い出した?」
すぐに母さんが近寄ってきた。
僕は軽くうなずいてから、思ったことをしゃべった。
「この家にあるどれかの時計に隠されてるかもしれないよ」
それを聞いて、母さん達は急いで時計を調べだした。
「そういえばここの時計、百を軽く超えるって・・・」
途中でやめたのは、完全に独り言となっていたから。まあ、よかったかな。
さらに僕は思い出す。
その日の帰り際で、おじいちゃんは紙とペンを取り出すと僕を呼んだ。
「この文字をよく見て・・・」そう言いながら真っ白な紙に意味の解らないカタカナを並べていき、最後に「大事だからとっておきなさい」と、渡されたものがあった。
すぐに自分の家へ向かって走った。
そして自分用の勉強机の引き出しの中を探す。
奥のほうで、くしゃくしゃになった紙切れを見つけた。
「これだ!」
あの時は理解できなかった、おじいちゃんの行動。きっと今なら何か分かるはず。
「えっと・・・『 ウヨリワサロ 』??」
声に出して読んでみたが、さっぱりだ。
そういえば、ひっかかるな。どうして「文字をよく見て」なんて言って、わざわざ僕に書くところを見せたんだ?でも、書く過程で不自然なところなんてなかった。
関係ないのかな?この暗号を解くカギになると思ったんだけどなあ。
こうなると、おじいちゃんの台詞の全てに意味があるような気がしてきた。
過去をもう一度たどる。
そんなに昔のことじゃないんだ。頭に残った記憶を探るだけ。
「始めはしょうがないさ、気にしなくていい。それからが重要なんだよ」
何度も繰り返していたあの言葉。
そして『 ウヨリワサロ 』の文字。
――その瞬間、ひらめいた。
「そうかっ!!」
誰もいない静かな自分の部屋で、僕は叫んでいた。




