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第六章 秘密(4)

長かったので、適当に切りました。そのため、変なところで終わっています。続きは次の話になっています。

榛名と約束をした次の日、健人は早朝から目を覚ましていた。ただ、すぐに準備に取り掛かることはせず、椅子に座って何もしない時間を過ごす。そして、榛名が言っていたことを思い出した。


榛名は今日のことについて、かなり前から健人に話そうとしていた。それは、一週間前の榛名の言葉を聞いていれば誰でも分かることである。それでもなお、健人には榛名が話そうとする内容が予想できなかった。


榛名が話を遠回しにすることは珍しい。今までも、榛名は自分の想いをはっきりと伝えてきており、健人は榛名のそんなところに惹かれている。しかし、今回に限ってはこのことを先延ばしにして、榛名は日を選んだ。健人にとってこれほど不思議なことはなかった。


榛名のことを全て知っているわけではない。それでも、健人は榛名が転入してきた西高の中では一番榛名のことを知っていると自負している。そうであるがゆえに、健人には心残りがあった。悪い結末さえ考えてしまうくらいである。


ただ、健人がどんなに考えたところで、榛名と話をしてみない限りは何も分からない。健人がそう結論付けて準備を始めたのは、約束の時間の三十分前のことだった。


健人はいつも通りの服装で、いつも通りを振る舞い、榛名の住むマンションの前に向かった。そして、時間的には五分程の余裕をもって、健人は目的地に到着する。


冬が近づいてきていることもあって、足元にはたくさんの落ち葉が集まってくる。どこから流れてきたのかも分からない落ち葉を見て、健人は季節の変化を感じることになった。今まで外を目を向けることが少なかったため、健人はこの感覚を久しく感じた。


しばらく健人が周囲を見渡して時間を潰していると、榛名は時間ちょうどに姿を見せた。ただ、歩いてきた方向はマンションの方角ではない。


「お待たせしました。待たせましたよね?」


「いや、そんなに待ってないけど」


榛名は時間を気にしてみせる。しかし、健人が気になっていることはそのことではなかった。


「じゃあ早速行きましょう」


「行くって……どこに?」


健人はこの日の予定を全く知らされていない。そろそろそれを聞かされてもいい頃合いではあるはずだった。


「駅の東出口前の喫茶店です」


榛名は淡々と説明しながら健人の前を歩き始める。健人はそんな榛名の後ろをついていくしかなかった。


今日の榛名はズボン姿で、上はシャツの上にカーデガンを着ている。健人はそれを見て、いつもに比べると地味な格好かもしれないと感じた。しかし、健人は服装についても疎い方で、今までの榛名と比較するしかない。そのため、結局のところはっきりとは断言できなかった。


しばらく歩いて、二人は駅の東出口付近にやってくる。ただ店に着く直前、突然榛名は立ち止まった。


「健人……私は先に健人に謝らないといけないかもしれません」


「……どうした?」


榛名は振り返って健人と目を合わせる。健人は榛名が突然立ち止まったこと以上に、榛名の表情を見て驚いた。


「やっぱり健人に聞いてからの方が良かったかもしれません。……だけど、怖かったので」


「待て、言ってることが支離滅裂すぎてわけが分からない。今は喫茶店に行けばいいんだろ?」


「……はい。でもごめんなさい。健人に迷惑をかけるかもしれません」


榛名はそう口にしてから、再び健人の前を歩く。そして、言っていた店に到着した。


二人が店に入ると店員が近づいてくる。その店員は榛名の顔を見るとすぐに、店のテーブル席の一つに二人を案内した。店員が案内した先には、すでに誰かが座っている。


健人はその人の後ろ姿を見て、女性であるということだけを理解した。しかし、健人にはその後ろ姿に見覚えはなかった。


榛名は、健人をその女性の前まで誘導していく。健人はそうして、やっとその女性の顔を確認する。ただそれと同時に、健人は唖然とした。


「私の母です。今日は紹介がしたくて」


榛名は声を小さくして女性を紹介する。すると、その女性も健人に軽く会釈をして口を開いた。


遠藤美鈴(えんどうみすず)です。榛名がお世話になっているとか……」


「いや、その……」


健人は驚きを隠せずに呆然とする。榛名が突然自分の母親を紹介したことも、勿論健人にとって驚くべきことである。しかし、本当に健人を驚かせていたのはそのことではなかった。


健人が驚いている理由。それは、目の前にいる女性が、あまりにも健人の母親に似ていたからだった。


「……健人?とにかく座ってください」


榛名が声をかけたことで、健人はようやく現実に戻ってくる。しかし、それでも健人は目の前の状況が腑に落ちなかった。


「どうぞ座って?いろいろお話ししたいことがあるとは思うけど、ずっと立ってる訳にもいかないでしょ?」


美鈴は健人にそう声をかけ笑顔を見せる。健人は美鈴の声を聞いて、ゆっくりと美鈴の対面に座った。榛名はそんな健人の隣に腰をかける。


「ずっと驚いた顔をしてどうしたの?」


「………」


美鈴が健人に話しかけるが、健人は必死に頭の中で記憶を手繰り寄せる。しかしそれでも、唯一母親の写真として見たことがあった顔と酷似しているように見えた。年の経過という変化は確かにあるが、それでも間違えるはずがない。


ただそうは言ってもまだ、健人には少し疑っている面もあった。榛名と自分の母親が同一であるはずがないと、頭のどこかで考えていたのだ。


しかし、美鈴の言葉でそんな可能性は消え去った。


「久しぶりね、健人。覚えてる?小学一年生以来なんだけど」


美鈴は健人の顔を覗き込んで質問する。ただ健人は、どのように対応すればいいのか分からなくなった。健人が困った顔をしていると、美鈴は一人で話を進めた。


「健人が小学生の間は、一応色々と報告をしてもらってたんだけど、最近は全くなくてね。……文隆さんは元気にしてる?」


「あ……は、はい。親父はずっと忙しくしてます。……あまり家に戻ることもないくらい」


「やっぱりねぇ。健人も大変でしょう?」


美鈴は健人からの返答を聞いて、一人で何度か頷く。対する健人は依然混乱状態にある。健人はそんな状態を憂慮して口を開いた。


「……あなたは本当に俺の母親なんですか?」


健人が確認したい内容。それを尋ねると、美鈴は顔をしかめて不快感を示した。


「元母親。今は榛名の母親だから」


美鈴はそう言って榛名の方に視線を向ける。健人はそれを聞いて納得すると同時に、美鈴の立ち位置を不思議に感じた。


「はっし……榛名の母親というのはどういう……?榛名と俺は同学年だ」


「ああ、違う違う。榛名は私が産んだわけじゃないの。私が産んだのは、今までに健人しかいない。……榛名は再婚相手の連れ子。でも榛名はもう私の大切な子供で、実の親子と全く変わらないわ」


「……再婚」


健人は自分の母親のことについてほとんど知らない。知っているのは昔の母親の顔と、ほんの少しの記憶、そして父親と離婚したことくらいである。


両親が離婚した時に、健人が何かしらの問題を抱えることはなかった。多忙な両親の内のどちらかがいなくなったとしても、それは健人には関係のない話であったからである。そのため、仮に美鈴に引き取られていたとしても、健人は気にしていないはずだった。


ただ、母親と言える人がどのような生活を送ってきていたのか全く知らないことが、どれだけ異常なことなのか。健人は今更になって理解することになった。美鈴も健人にとってみれば家族であるはずなのだ。


「じゃ、榛名はこのことを知っていたのか?」


健人はゆっくりと榛名の方に顔を向ける。すると、榛名はそれに対して小さく頷いた。健人はそれを知って黙り込む。


「離婚してから東京に行って、その一年後に私はある人と再婚した。その時に初めて榛名と会ったんだけど、榛名は最初、なかなか私のことを受け入れてくれなかったの。だから、私の過去の話を色々して、健人のことも写真を見せて榛名には教えてた。……榛名は健人のことをずっと昔から知っていたわ」


「………」


美鈴が話す内容を、健人は何度も自分の頭の中で再生して理解しようとする。しかし、あまりにも突然すぎる話は健人にとって現実味を帯びなかった。


「ごめんなさい健人。最初から話すべきでした……」


榛名が健人に対して謝る。ただ、健人はそんな榛名に何も言えなかった。


「榛名のことを責めるのは間違ってるわよ?私がこのことを健人には話さないでって、榛名に言っていたから」


健人が反応しないでいると、美鈴が健人に忠告する。ただ、健人に榛名を責めるつもりなど全くなかった。榛名がどんな人間なのかある程度知っている健人が、そんなことをできるはずもなかったのだ。


しかし、健人には榛名に確認しておきたいことが一つだけあった。


「榛名が転入してきてから色々と俺に接触してきて、……付き合うようになったのもこのことが関係してたりするのか?」


健人は榛名に対して簡単に質問する。すると、榛名は健人の隣で大きく首を横に振った。


「まさか!確かに私は健人のことを昔から知ってた。だけど私が健人と一緒にいるのは健人が好きだから。……信じて」


「いや、疑ってるわけじゃないんだけど。色々混乱してて、分からなくなってる。ごめん」


健人は、榛名を疑うような真似をした自分を責める。健人が本当に知りたいことは、そんなことではないはずだったのだ。


「……それで、今日俺が呼ばれた理由はなんですか?」


健人は一度冷静になって、自分が今ここにいる理由を尋ねてみる。聞きたいことは山のようにある。そんな中で、健人は一つずつ解決していく必要があると考えたのだ。


「んー、それは久しぶりに会う機会があったから。それに、榛名と健人は付き合ってるんでしょ?親として一度話しておきたいじゃない?」


美鈴は軽い様子で答える。ただ、言っている内容は納得できることではあった。


「それで会ってみて、話したいことは話せたんですか?」


「いいえ、まだまだあるわ。十年以上一度も会うことがなかったんだから、聞きたいことはたくさんある。学校でのことは榛名に色々教えてもらったけど、プライベートなことは何も知らないし」


美鈴は指を折りながら何かを数える。健人はそんな美鈴のことを見ても、何か特別な感情が湧いてくることはなかった。


母親である美鈴と再会して、健人は一体どんな顔をすればいいのか。少なくとも喜べる状態にないことは確かだったのだ。


「そういえば、健人は頭が良いらしいじゃない。榛名から聞いたわ。理系科目が得意なんて、やっぱり文隆さんの影響?」


「そうかもしれません。でも全般的に優秀な親父と比べて、俺は大したことはないです」


「そう……大学はどこを目指してるの?」


「……まだ考える時期じゃないのでなんとも。三年生にもなってないですし」


「そっか……私は応援しかできないけど、これからも頑張って」


美鈴は親が子供のことを心配するような顔つきで、健人に色々と言葉をかける。実際、美鈴は健人の産みの親であり、そのこと自体は間違ったことではない。しかし、健人にはやはり違和感があり、美鈴の言葉一つ一つがなかなか受け入れられなかった。


「……そういえばさっきはスルーしたけど、あなたたち付き合ってるんだったよね?」


「お母さん、そのことはずっと前から話してたじゃないですか」


突然美鈴が二人の仲について言及したため、榛名は慌てて言葉を返す。ただ、健人が気になったのは、榛名が美鈴にも綺麗な言葉を使っていることだった。些細なことであるが、健人はそんなことさえ気になってしまう。


「でも、私から見れば二人は兄妹みたいなものだから、悪いことをしてるみたい。禁断の恋……みたいな?」


美鈴は何が面白いのか、自分でそう言いながら声を出して笑う。ただ、その考えは完全に間違っていた。


「違います。健人は私の彼であって、兄じゃないです」


榛名は、分かりきっていることをあえて指摘する。健人は榛名に彼と呼ばれて恥ずかしさを感じた。


「まあ私は何も言わないわ。今の健人のこと、私全然知らないけど、でも信頼して良さそうだから。それに文隆さんと一緒に暮らしていたんだからね」


美鈴は健人のことをじっくりと目に焼き付けた後、健人のことをそのように評価する。健人としては、自分の母親であった人にそのように評価されることが、良いことなのか分からなくなった。ただ、榛名の母親という目で美鈴が言っているのであれば、それは受け入れてもいいと感じた。


健人は美鈴に対して自然ではない笑顔を見せて、それを返事の代わりとする。そして同時に、健人は気になっていたことを一つ尋ねることにした。

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