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第四章 夏季キャンプ(6)

健人はその日の夕食時間、トレッキングでの体験を守や文俊、雄二と話していた。トレッキングは日程の最後に入れるような行事ではなく、特に健人と守は体力をかなり消耗していた。


「俺がしたのはトレッキングじゃなかった。あれはただの山登りだ」


「僕のところもそうだったよ」


守の不満に文俊が同調する。健人らが通ったコースは穏やかな道が大半を占めていたが、他のグループはかなり過酷だったようである。


「それにだ。俺は健人のせいで酷い目にあったんだぜ?」


「なんだよ?」


話の流れに逆らって、守が唐突に健人を標的にして文句を言い始める。健人に心当たりはなかった。


「遠藤さんだよ。ずっと健人のことを聞いてきやがる。俺に聞くんじゃなくて本人に聞けって話だ」


「なんだそれ?」


健人は守の言っている意味が分からずに笑う。しかし、守は案外本気で面倒事だと感じているようだった。


「あれ?遠藤さんってあの綺麗な子だよね?健人と付き合ってたの?」


「馬鹿か、付き合ってたら聞いたりしないだろ?浮気でも疑われてるのならそうかもしれないが」


文俊が口にした質問を、雄二が吟味して補足を加える。しかし、健人にそんな事実はなかった。


「ないよそんなこと。……まあ色々あったし、今では友人の一人だから無理ないかもな」


健人は山から下りてきた不良の出来事や、テスト期間のことを思い出す。色んな体験をしたが、それでも榛名と出会ってまだ半年と経っていない。榛名が人間関係をさらに発展させようとしていても、おかしい話ではなかった。


しかし、守はそんな悠長な健人の言葉を叩き斬った。


「それがずっと、健人と春奈ちゃんのことについてでもか?」


「春奈ちゃんって、言ってた健人の幼馴染の?」


「そうだ」


「どんな仲か気にしてるってわけか」


健人を除く三人で話が進む。その話を聞いて、健人も違和感を覚え始めた。


「やっぱりあの占い師が言ってたのは遠藤さんだ。……春奈ちゃんとは何もないんだろ?」


「いつも通りだ」


健人は守の言葉を訂正する。守の言葉だと、何かある前提のように聞こえたのだ。しかし、春奈と健人は古い付き合いである以上の関係は何一つない。この事実だけははっきりさせておく必要があった。


「何にしても健人、俺からアドバイスだ。遠藤さんの動向はちゃんと見ておけよ」


「お前、今日おかしいぞ?」


「俺としては真剣なんだよ。何と言っても唯一無二の大親友のことだからな」


「気色悪いって」


健人は無駄に熱くなっている守を拒絶する。しかし、守に健人の言葉は聞こえていなかった。


「じゃあ、どんな質問されたか言ってやろうか?」


「おっ、それは気になる」


文俊が食いつくと、守は数回頷いて腕組みをする。健人も気にならないわけではなかったため、少し聞いてみることにした。


「まず最初。健人って異性の人に人気あるんですか?」


「ど直球だね!」


文俊が楽しそうに感想を加える。ただ、健人も文俊と同じ考えだった。


「で?どう答えたんだ?」


雄二が短く尋ねる。守は待ってましたと言わんばかりの顔で言葉を続けた。


「ない、聞いたことがない。こう言ってやった」


「んー、それはいい判断なのかどうなのか」


守の言葉に文俊が苦笑いを浮かべる。万が一、榛名が健人に興味を持って尋ねてきているのであれば問題なかったが、健人にとっては好まれる内容ではなかったのだ。


「まあ事実だから仕方ない」


ただ、健人は諦めたようにそう口にする。実際のところ、健人が異性からアプローチを受けたことはないのだ。


「それを聞いて遠藤さんはこう言った。そうなんですね、意外です」


「いや、そんなに棒読みじゃないだろ?」


健人は言葉の内容ではなく、守の声真似に文句をつけた。守は榛名の声真似をしようとして、結局棒読みになっていたのだ。


「まあ待てって。遠藤さんの言葉には続きがあってだな」


守はそう言って健人の文句を跳ね除ける。


「でも深瀬さんと仲良いですよね。そう俺に言ってきた」


「で?」


健人は話をためて時間を使う守を急かす。健人としては守がどのような話を榛名としたかよりも、守が変なことを言っていないかだけが心配だった。


「仲は良いけど、お互い古い付き合い程度にしか考えていないと思うよ。長く幼馴染やってて、今の関係が崩せないんだと思う。と言ってやった」


「いきなり具体的になったね。実際そうなの?」


文俊が健人に質問してくる。ただ、健人は意地でもそれに答えるつもりはなかった。守にしては健人と春奈の関係を的確に把握しており、納得できなかったのだ。


「問題はそれに遠藤さんがどう返したのか、だろ?」


雄二が落ち着いた様子で守に続きを求める。健人以外の全員は、人のことだと思って話を楽しんでいた。


「健人は奥手なんですね、参考になりました」


「何の参考にしたんだろうね」


「ただ性格を把握しようとしてるだけだろ?」


健人は馬鹿馬鹿しいと思いそう口にする。しかし、内心で焦っていることは間違いなかった。


健人は占い師のことを最近気にしていなかった。しかし、今になって問題が再燃していると健人は感じた。そもそも、二人の「はるな」がこのキャンプに参加するということ自体がおかしい話なのだ。


「なんだろう。……進展してるようでしてないような。明日までの決着は見込めそうにないね。どうなるか知りたかったけどなぁ」


文俊が残念そうに呟く。明日は最終日で、東宮市に帰ることになっている。そうなると、文俊や雄二とは別れることになるのだ。


「……そういえば、富岡も健人のこと気にしていたぞ?」


「あー、そういえば。……でも、あれってそういうことなの?」


健人が面倒ごとにならないように祈っていた時、雄二が新しい情報を提供する。すると、文俊も思い出したように何度か頷いた。


「何の話だ、それは?」


すぐさま、守が興味津々な様子で食いつく。ただ、このことは健人もある程度把握はしていた。とは言っても、健人が把握したのは今日のトレッキングの時からである。


「遠藤さんとかと同じグループの、俺らと同じ学校のやついるだろ?早織じゃない方。そいつがここに来た直後くらいに、健人のことをやけに楽しそうに話してたんだ。バスの隣が優しい人で良かったとか」


「そうそう。それだけなら僕らもへぇーで済ませていたんだけどね。ちょくちょくキャンプ場で顔を合わすと、健人が何してたのか聞いてきてたから。……富岡は隠すの下手だからなぁ」


雄二と文俊が、今までの富岡の怪しい行動をピックアップする。健人はそれを注意深く聞くだけにとどめる。


「どうした健人、今年はやけにモテるじゃないか。出会って数日の心でさえ掴むなんて」


「いや、富岡さんは絶対に違うだろ」


健人は全ての話を聞いた上でそう判断する。富岡は健人の目から見て、別段変わった人間には見えなかった。つまり、たった数日でそんな感情を抱くはずがない。


「女心と秋の空は変わりやすいって言うだろ?一目惚れって言葉もあるくらいだ」


「いや、それは絶対にない」


健人は根拠のない自信を持ってそう断言する。ただ、他の三人は怪しく思っているようだった。


「じゃあ、確認してみればいい」


すると、文俊がそう提案する。


「……どうやって?」


健人はほとんど聞き入れない形で質問する。本人に何かのアプローチをかけることなど健人にはできない。そのことを踏まえると、適当な方法はないように思われたのだ。


「夕飯を食い終わった後、特にすることはないだろ?じゃあ、富岡たちを誘って肝試しをしてみよう。僕たちが上手くやって富岡と健人を二人にしてやるし、奥手な健人でも安心なプランを立ててやる」


文俊は胸を張ってそう宣言する。


「不安過ぎる」


「今や、俺たちは友達を超えた何かで繋がってる。心配しないでいい」


健人は不安に感じるも、雄二までが安心するよう健人に言葉をかける。しかし、健人としては二人の意気込みなど関係なかった。問題を大きくしないこと。これが重要だったのだ。


「俺も尽力してやる!任せろ!」


しかし、最後に守がそう言って、文俊と雄二の味方になることを宣言する。こうなってしまえば、健人には断るだけの力は残っていなかった。


「じゃあ早速取り掛かろう」


「おう!」


それからの三人の行動は早く、食事を強引にかき込んだ三人は健人を置いて何処かに行ってしまった。

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