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 アンレンを再び出立し、移動中の話の種にしようと、何度も何度も長距離の移動を短期間に繰り返すなんて疲れるし、したくないのが本音だとカルデノに言ってみた。

 するとカルデノも同調するように頷いた。

「だが、だからと言って他にお前たちに何が出来ると言われたら、口を閉ざす他ないな」

「そうだね。魔法の何も知らないんだから子供のお手伝いが精々」

 子供のお手伝い程度……。自分が帰るためだと言うのに言ってて悲しくなる。

「だから、少し不安でもある」

「不安?」

 魔法の事を分からない素人だから騙しやすいとか、そんなところだろうか。

「また何かを頼まれて遠くへ行けと指示されて、それが終わったら次、また次と休む間も与えれないままこき使われるんじゃないかとな」

「うーん。無いとは言い切れない」

 リアルールまで道中おだやかに過ごす事が出来た。

 しかし。到着してからが問題だった。

「大きな街だね」

「そうだな、うん。これじゃあ何を探すにも一苦労だ」

 リアルールはギニシアの王都に負けず劣らず大きな街だった。人は多く、建物も込み合っていて、どこに何があるのかも分からない。当てもなくリアルールの街を歩き出して少し経った後の私たちの感想だった。

 だと言うのにバロウから事前に教えてもらえた情報がほとんどない。たしかこの辺にあった、と説明されたのも感覚的な口頭説明。

 近くに大きなレンガの建物があって、広い道に面したお店だ、と。この街の大きさからして該当するお店なんて山ほどあるだろうし、そもそも的確な説明とは程遠い。これはお店を探すのにかなり時間がかかる事になるだろう。

「宿から探すべきかな。それともお店? 聞き回ってみるもの手っ取り早いし」

「そもそも今日中に戻るなんて無理なんだ。先にゆっくりと宿を探そう。ここまで来たらバロウの事は待たせたって問題ないだろう」

「……それもそうだね」

 私はため息交じりに、ちょっと投げやりだった。バロウがリアルールまでは指定しても、肝心のどのお店にリクフォニア製の紙を置いているのか曖昧な説明しか出来なかったのは、覚えていなかったから。自分は行けないので直接見て思い出すことも出来ない、と言ったのだから面倒この上ない。

 全体を確認することは出来ていないがリアルールは先ほども思った通り広いようなので、探し回るのに都合の良い街の中心に近い場所で宿を利用することにして、一応宿の人にリクフォニア製の紙を売っているお店を知らないか尋ねたが、首を傾げられるだけだった。

 まだ日が高いことだからと宿の周辺を調べ歩いた。幸いと言って差し支えないのかどうなのか、宿の近くに沢山のお店が立ち並び、一軒一軒中を確認して、紙やインクの売っているお店を見つけた。

 残念ながらそのお店にリクフォニア製の紙が売っているわけではなかったが、確か別のお店には置かれていた気がする、とそのお店の女性店員さんが教えてくれた。

「本当ですか? よかったー」

 ほっと私は胸を撫で下ろした。この街に初めて来た事を交え事細かに場所を教えてもらい、今度はそちらへ向かうためお店を出るため扉を引いた。

「おっと」

「あっ」

 扉を開けると運悪く次の来店客と正面からぶつかってしまい後ろによろけ、慌てて謝罪する。

「ご、ごめんなさい」

「おや、偶然だね」

 それに返って来たのは聞き覚えのある女性の声、そして偶然ぶつかってしまった人とは思えない言葉に、パッと相手の顔を確認した。

「あれっ、リタチスタさん?」

 目の前に立っていたのは紛れもなくリタチスタさんだった。橙色の長い髪、影を落とすツバの広い帽子。口元にはうっすらと笑みが見て取れる。

「いかにもリタチスタだよ。偶然、だね」

 強調するかのように二度、偶然と言った。

「そうですね。驚きました……」

 本当に偶然だろうか。リタチスタさんはギニシアに居たかと思ったのに遠く離れたカフカで、しかもこの大きな街リアルールだ。いや、大きな街だからこそ用事があったのかもしれない。

 ここで何をしているのか、ポカンとリタチスタさんの顔を見上げていると片眉が跳ね上がる。

「ここで何をしてるのかって顔だ。気になるかい?」

 まるで心を読まれたかのように間の良い問いにギョッとして、小さく頷く。

「そうか。それなら理由を聞かせてあげるから、いつまでも店の出入り口を塞いでないで、ちょっとどこかへ行こう」

「あっ」

 リタチスタさんの存在に気を取られて、自分が今どこに立っているのかをすっかり失念していた。

 外へ出たリタチスタさんの後についてカルデノと数歩歩き出したのだが、どこに行くかを決めると思っていたその本人がすぐに立ち止まってしまった。

「しまった、私はさっきここに到着したばかり。どこかへ行こうにもあてがないのをすっかり忘れていたよ」

「えっ」

 用事があったからリアルールに立ち寄り、偶然出くわしたのでは? あてが無いとなるとちょっと話が変わってくる。

「……ところで君たち今どこの宿を使ってる?」

 今まで気がつかなかったがリタチスタさんは肩に皮袋の荷物をかけていた。それをちょいと自分で指差す。

「近くの宿、ですけど……」

 リタチスタさんはニコリと笑顔を見せて案内してくれと言い放った。

 本当にリアルールには来たばかりだったようで、そのまま私たちが使う宿に自分も宿泊を決めてしまった。そうしてそのままリタチスタさんが借りた部屋へ招かれ、お邪魔する事に。部屋は私たちの借りた間取りと同じ。そしてベッドも二つあった。

「君たちが宿を知っていて助かったよ。ありがとう」

「いえ、たいした事ではないので……」

 宿なんて探せばこの大きな街に沢山あるはずで、それをリタチスタさんが分からないはずもない。となると、私たちと同じ宿を使いたい理由が何かあるのだろうか。心当りがあるとすると私たちの方が先にカフカへ来ていたため、偶然見つけた私たちはバロウを見つける事が出来たのか確かめるためだろうか。

 リタチスタさんがベッドの片方に腰かけ荷物を降ろしたのを確認して、私とカルデノも部屋にあるテーブルの椅子に座る。

「もしかして、リタチスタさんも結局バロウの所在が気になって、ここまで来てしまったんですか?」

「ん……? ああ、そう。野暮用があって真っ直ぐは向かえなかったけど」

「カフカにいる可能性が低いんじゃないかって言ってたのはリタチスタさんだったから、まさか来るとは思いませんでした」

「君たちが発った後、バロウに関して何も分からなくなってね。どうせならキミたちと同じくカフカにでも行こうかなと、今こうしてここにいるわけだ」

 リタチスタさんに少々疲れが見えた。両腕は力なく膝の上に下ろされ、いつも筋が通ったようにピンと伸びた背筋が丸まっている。

「で、バロウは見つかったかい?」

 まるで期待してない。バロウはどうせ居なかったんだろう、と言葉に含まれているようで、それならきっとリタチスタさんもバロウがアンレンに居たことを喜ぶとはずと口を開く。

「はい、見つかりました! リタチスタさんに教えてもらった場所に、普通に暮らしていましたよ」

「ええ? じゃあどうしてカエデたちはこんな所にいるんだ? 確か、私の目にはバロウを探す君の姿が切羽詰まって見えたけど」

 バロウのいるアンレンから離れたリアルールでのんきに宿まで取ってるのだからリタチスタさんが疑問に思うのも無理は無い。今回だけでなく前回の遠出の疲れも思い出してしまい、頭を押さえた。

「色々あって、ちょっと……」

「へえ?」

 リタチスタさんは煮え切らない私からカルデノに目を移す。するとカルデノが私に代わり答える。

「まあ、使い走りだな。紙を買って来いと頼まれた。わざわざリクフォニア製の紙でないとダメだとまで言われてな」

 おつかいか、とリタチスタさんは呟く。私が自分で出来る事がおつかい程度なのを笑われるのではと、おずおず頷いた。

「他にやる事があるかって言われると微妙なんで、おつかいもこうして受けたわけなんですけど」

「ふうん。にしてもリクフォニア製の紙か」

 ふと悩む素振りを見せてから、納得したように声を漏らす。

「だからさっきもあの店にいたわけだ」

「はい、あのお店にはなかったんですけど別のお店にならあるって教えてもらえて、リタチスタさんにぶつかった時は、丁度そっちのお店に行こうとするところだったんです」

「なら悪いことをしたね。私のせいで予定が大幅に狂ったんじゃないか?」

 言いながらリタチスタさんは外の明るさを確認するためか窓へ目を向けた。日が沈み始めるまで少し時間はあるだろうか、そんな時間帯。

「よし」

 意気込んだ声。それからリタチスタさんは座っていたベッドからスプリングを利用して勢い良くは立ち上がった。

「どうしました?」

 てっきり今日はもう用事なども無いだろうと思い込んでいたばかりに気になった。

「なんなら今からその店に行かないか?」

「え、それで今立ったんですか?」

「当然。言いだしっぺがまずは動くべきだろう? それに暇なんだよね」

 別に今からまた出かける事を面倒には思わないが、もっとバロウはどうしているかとか、そう言った情報を欲しがって根掘り葉掘り次々聞かれるかと思っていただけに、どうも反応があっさりし過ぎているように感じられる。

「今から行けば帰りには日が暮れるぞ。今からである必要はないんじゃないか」

 カルデノが言う。

「明日なら明日でもいいよ、必ず私を誘ってくれよ暇だから」

「そっちが暇でもこっちは暇じゃないんだが」

 ムッとしたように顔をしかめてカルデノが言い返す。リタチスタさんは口だけで悪い悪いと言って、悪びれた様子はない。

「でも君たちはバロウにリクフォニア製の紙を買ってくるよう言われたんだろ? 今日店が閉まる前に買って、明日すぐに街を発てば早いじゃないか」

 やっぱり今行こう、と部屋の扉を開ける様子はいたって落ち着いた大人の女性であるにも関わらず、目の奥には隠しきれないワクワクとした気持ちが輝いていた。

 まだ椅子に座っていた私たちに外出を促す反応があっさりしていると思ったが、リタチスタさんにしてみたら私からどうこう聞くよりも、本人に直接会って話を聞くほうが手っ取り早いだろうし、ならそのためにも一つ一つの行動を早めるべきだろうと、腰掛けていた椅子から立ち上がった。

「本当に今から? ここへ帰ってくるのが遅くなるのに。大きいとは言え知らない街だ。なるべく暗い時間帯は外に出ている事態にならない方がいい」

 カルデノだけがまだ立ち上がらず椅子に座ったままで、真剣な面持ちでじっと私を見て言った。

 そんな私とカルデノの間にリタチスタさんは体を滑り込ませ、腰を折って座ったカルデノと目の高さを合わせる。

「大丈夫だよ。私もカルデノいるじゃないか。余程の巨人に襲われても太刀打ち出来るさ。だろう?」

 ホノゴ山で見せた魔法、決して弱い人ではない。それに自分も居ると言う自負もあってカルデノは椅子から立ち上がった。

「そうだな」

 それから三人で宿の外に出る寸前、一番後ろを歩くカルデノが思い出したように私を呼び止めた。

「カエデ、ちょっといいか」

「どうかした?」

 カルデノへ振り向く。

「ん……」

 どうも様子がおかしい。気にせず出入り口を開けたリタチスタさんを何やら気にしているようで、背中を見ていた。

「あのリタチスタさん、ちょっとすみませんけど、少し待っててもらえますか?」

 一度リタチスタさんを遠ざけるため詳しい事は伝えずただそう言うと、リタチスタさんはにこやかに答えた。

「ああ、構わない。この辺で待ってるよ」

「ありがとうございます」

 パタン。リタチスタさんが外へ出たあと、扉が閉まった。

 カルデノと何を話すにしても、今いる出入り口付近では他の利用客が来た時の邪魔になるだろうからと、少しそれた場所で改めてどうしたのかと聞く。

「何か部屋に忘れ物でもした?」

「いや、そうじゃない。リタチスタは私たちとバロウの所へ行こうとしているな、多分帰りはあの空を飛ぶ荷台があれば一緒に乗せてもくれるだろう」

「うん。すごく助かるけど」

 何せリタチスタさん使う魔法の体現みたいなあの空飛ぶ荷台は移動が速くて、馬車には付き物のガタガタした揺れもない。これで一緒に行こうなんて言われたら私は喜んで乗り込む。

 けれどカルデノは私の返答に、あまりいい顔をしなかった。

「どうするんだ、バロウはリタチスタを誤魔化すための、偽物の魔法? みたいなものを作ってる最中じゃなかったか。リタチスタを連れて行っていいのか」

「え、あっ」

 やたらと今外出するのを拒否していた理由や、空を飛ぶ荷台について気にしていた理由に納得がいくと同時に、サッと血の気が引いた気がした。

「良くないかもだけど。でも私たちが一緒に行かなくてもリタチスタさんだって普通に行くよね……」

「……そうだな」

 つまり、外に待たせているリタチスタさんに何かしら理由を付けて外出が無しになったと伝えたとして、数日間この街から離れられない口実を見つけたとして、じゃあ私も一緒に居てあげようなんてそれに付き合う義理がリタチスタさんには無い。暇だのと言っていたからもし私たちの用事がとうに済んでいたらすぐにリアルールを去っていた事だろう。

 この街に立ち寄ったのも何となく気が乗ったから程度のものだろうし。

 となるとバロウにこの事を伝えたいが、伝える手段がない。

「ど、どうしよう? そう言えばリタチスタさんって私に、バロウの家に何かあれば全部持って帰ってきてくれとか言ってたくらいだし、あと熱心に作ってる魔法もアルベルムさんの研究してる物と違うって言ってたし、顔を合わせたら殴り始めるなんてこと、さすがに無いよね」

「それはさすがに無いだろう。……多分」

 リタチスタさんはバロウの扱う魔法の内容にこだわっていて、私が元の世界に帰るためにリタチスタさんの望んでいない魔法を作っていると知られたら一体どうなるか、想像も出来ない。最悪、阻止されて帰れないなんて事になるったら困る。

 バロウの事をかばいたいわけじゃないが、悔しい事にバロウにしか、私を元の世界に帰す事が出来ない。

「ああ、どうしたらいいのかな、どうしよう。手紙でリタチスタさんの事を伝えるとか」

「手紙より先にリタチスタが到着するかも知れない」

 時間稼ぎがそれほど出来ないのは憶測でも分かるとおり。ここから出した手紙が三日で届いたとしても遅いのだ。

「手紙がだめってなると……」

「何がある? まったく思い浮かばない」

「私も」

 他に、案はなかった。私もカルデノも表情は険しい。

 カルデノの拳がギュッと握り締められる音がした。

「もう、流れに任せるしかない。何もバロウだってそこらへんに陣を書いた紙を撒き散らしてるでもない。どうにでも出来るだろう」

「そうだね、うん。そう願おう」

 私はゆっくり頷いた。

 考えるのを諦めたとか、面倒になったとかじゃなく、私とカルデノにバロウへ現状を伝える手段は結果として思い浮かばなかった。仕方ない。

 怪しまれるほど長話しはしてなかった。外へ出てリタチスタさんを見つけると、同じく私たちが宿から出てきたのを見ていたリタチスタさんがスタスタ歩み寄ってきた。

「用事は済んだね? 行こうか」

「はい。じゃあ貰った地図を出しますね」

 地図を頼りに慣れない街を歩く。

 三人で覗き込んで徒歩で向かい、目的地へ到着した時には空も薄暗くなっていた。

 もしやお店がすでに閉まっているか心配したが、窓から店内の明かりが漏れていて、営業していることを知らせていた。

「よかった、まだ営業中みたいだ」

 立て看板に押さえられて開かれたままの扉をリタチスタさんの後に続いて潜る。中は本や文房具類、雑貨など様々な物が棚に並べられている。

 入り口のすぐ横にあるカウンターの奥から、いらっしゃいませと男性店員の声がしたあとパタパタと小走りで姿を現した。

「こんばんは。この店にリクフォニア製の紙が売っていると聞いて買いに来たんだけれど、あるかな?」

 リタチスタさんはさっそく注文の品について問う。

「え、ああー……。申し訳ないんですけど、今はもう売ってないんですよ」

「売り切れとかでなく、そもそも取り扱ってないって事ですか?」

 ここまで来たのに、と気持ちが前に出てしまったようで、男性店員はすみません、と軽く頭を下げる。

「何年か前なら確か売っていたかと思いますけど」

 男性店員は一応、と広くは無い店内を見回すが、記憶の通り置いていないようだった。

「そうか。なら他に取り扱っている店に心当たりはあるかな?」

「いやー、ちょっと他のお店ってのは分からないですけど、でもですね、リクフォニアにこだわらないなら、ここにも色々と種類はありますよ!」

 他の店に客を流すまいと、あれこれ質の良い紙をカウンターに並べて見せる。

 沢山の種類を見せられても、バロウが頼んで来たのは迷い無くリクフォニアの紙一択。残念だがここで買う事はない。

「リタチスタさ……」

「おお、どれもいいじゃないか。この店で一番質が良いのはどれかな?」

「こちらになります!」

 もうこのお店で購入する気満々だった。

「ならこれを二百枚くれるかな」

「はい!」

 サイズも枚数も指定され準備のため動き始めた男性店員を尻目にリタチスタさんはかすかに笑みの浮かべている。

「えっ、ちょっと待って下さいリタチスタさん! バロウが頼んだのはこれじゃないですよ」

「分かってるよ?」

 私は疑問に首を捻った。

「あ、今買う紙は、リタチスタさんが個人的に必要な物ですか?」

「いやいやバロウに渡す物だけど。まさかカエデは言われた通りの品を用意しようって考えていたの?」

「え、まあ、一応探してみないと、とは……」

 リタチスタさんはまるで笑っている事を隠すように揃えた指先で口を隠した。

「律儀だねえ」

「そう言っても、バロウにはリクフォニア製の紙じゃないといけない理由があるんだって……」

「もし違う物を買って戻って、出直せなんて言われるのも面倒だろう」

 カルデノも私とは少し違う考えだが結果的に私と同じ意見で見つかるまで探すと言うもの。だがリタチスタさんはそう思わなかったようだ。やれやれと言った風に両手に腰に当てる。

「思うにバロウも、紙の違いなんて余程の粗悪品でない限り見分けなんてつかないと思うよ」

 そんなまさか、と否定する反面、そうかも知れないと疑う自分もいる。

 だってカウンターに並べて見せられた紙はどれも繊維も色も厚さも均一。リタチスタさんがこれと指定した物は、ちゃんと良い品だ、と言った。

「それに、ちゃんと店の詳細を伝えなかったバロウが悪いんだから、見つからなかったからこれを使ってくれって言えばいいのさ。むしろ見つからなかった物と同等の代用品を探して購入する事は褒められる行為だよ」

「そうかも知れませんけど……」

 バロウとリタチスタさんは同じアルベルムさんの弟子として魔法について調べていたり研究していたと言うのだから、バロウに何が必要かも理解しているだろう。そんな背景があってのリタチスタさんの意見ならば、問題ないと言えば問題ないだろうこだわりや使い勝手に差があってもバロウがこだわる点についてはクリアしている。

「ちなみにバロウがリクフォニア製だって事にこだわる理由は聞いたり?」

「ええと、確かインクが滲みにくいし劣化にも強いとかなんとか? とにかく妥協は出来ないって」

「なら問題ないね。ここの店の品だってインクは滲まないだろうし劣化にも強い。なにせリクフォニアの紙と質が似ている。個人的なこだわりがあるなら店も指定するべきだったバロウに否がある。律儀にならなくたっていいし気に病む必要もない」

「お待たせしました!」

 男性店員は言葉と共に大量の紙をカウンターにドンと置いて見せた。

「ああ、ありがとう」

 小さな財布で支払いをさっさとリタチスタさんが終えてしまったため、遅いと分かってはいたが慌てて止める。

「お金ならバロウから預かってますよ」

「いいんだ。これでしばらくバロウの家を使わせてもらうための口実が出来たから」

「え、バロウの家ですか」

「そうだよ」

 購入した紙は本と同じような比率だが縦が五十センチほどもあるかなりの大きさ。

 リタチスタさんは折り曲げる事の難しいその束をそれでも半分に曲げるようにして私の袈裟懸けのココルカバンにねじ込んだ。

「よーし、じゃあ宿に戻ろうか。夕飯は私も混ぜて貰えるかな」

「はい、大丈夫です」

「ああよかった。一人じゃ食事も美味しくないんだよねえ」

 私とカルデノはリタチスタさんに背中をグイグイ押されながらお店を出た。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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