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「ポーション、わが身を助ける」八巻。9月30日発売です。

「なんだ、お前は」

 カルデノが私を後ろにかばい、前に出る。

 男は顔に黒い布を巻いて人相を隠し、頭からつま先まで全身が黒づくめ。まるで自分から警告を発するような出で立ち。石を返せといった。恐らく私がココルカバンに入れている黒鉱の事だろう。

「他にも……。まあいい、お前達の持っている石は俺のものだ。返せ」

 すっと、男が差し出した手から距離を取るようにカルデノは私を押しながら部屋の中心まで後退。大振りのナイフを抜いた。

「お前は、一体なんだ?」

 カルデノが問うと、男は差し出していた手をゆっくりとした動きで下ろす。

「石を返せと、先に言ったのは俺なんだが」

「どっち道、お前が本当の持ち主かも分からないだろう」

「なるほど。だがこちらも素直に答えるつもりは、ないっ!」

 男は腕を振りかぶった。カルデノはその正体が分からないままほぼ同時にナイフを振り上げ、投げつけられた何かを弾き返す。カンッと硬い音。

 カルデノは私を俵担ぎにして、開けたままだった窓から飛び出した。その時見えたのは、恐らくカルデノが弾き飛ばした黒い石。砕け散り床に散らばっていた。

 それから、内臓が持ち上げられるような浮遊感。

「ひっ……!」

 窓から見た景色を覚えている。ここは確か二階ではなかっただろうかと廻った考えは勘違いでなく、しかしか細い悲鳴を上げるだけに終わる。

 ドスン、と着地の衝撃が俵担ぎにされた腹部に重く響いた。

「すまない大丈夫か!?」

「だ、だいじょ……」

 大丈夫だと言葉で伝える前にカルデノは走り出した。

「とにかくここから離れる。もう少し我慢してくれ」

 遠ざかる宿からあの男が追ってくる気配はない。あの見た目なら確実に見逃すはずがないのに。

「さっき投げつけられた石は、黒鉱なのかな」

「見えたのか」

「一瞬だけ」

カルデノは辺りを警戒しながら、目的地も分からないままとにかく走る。

「黒鉱に似たガラス質の、真っ黒な石だったよね、確か」

「ああ。もしあれが黒鉱なら、あの男は相当厄介な物を持ってるって事になる」

「それに私が持ってる黒鉱を返せって」

 どうも友好的と言うか、大人しく黒鉱を返した所で大人しくはすまさないような雰囲気があった。

「それに、聞いたか」

「聞いた? えっと何を?」

 あの男は何を言っていただろうか。会話は短かった。そこにカルデノが気にかかる言葉の一つでも。

「石を返せ、とか俺のものだとか」

 それくらいしか思い出せない。いいや会話の全てを頭の中で改正しても私にはカルデノが何を気にしているのか分からないのだ。

「聞こえたかって意味だ。あの男私を見て、他にも狼族がいた、と言ったんだ」

「え、他にもって……」

「あの男、ガジルの行方を知ってる可能性がある」

 ガジルさんは自分の足で宿を出たのではなく、あの男に連れ去られたと言うことか。ガジルさんの他にも狼族はいるだろうが、そもそもがとても珍しく、テンハンクでの事を除けばカルデノとガジルさんしか見たことがないほど。

「それに、メロと知り合ったきっかけは人攫いだ。この辺にまだその目的の者が居るとすると、私の警戒も無駄じゃないだろう」

「そうかもだけど……」

「どっち道、黒鉱は返して欲しかったみたいだからな。追いかけてくるだろう」

 カルデノはどうも海岸へ向かって走ってるようだが、逃げる算段は出来ていないだろう。ガジルさんを置いてホルホウから逃げるという選択肢はないが、何故海へ向かうのか。

「海の方に向かってるみたいだけど、街の中のほうが安全じゃないの?」

「人前には迂闊に姿を見せそうにないからか?」

「う、うん。でも海の方は下手したら人もいない場所だってあるだろうし」

 カルデノの足の速さもあって、もう海が近い。ここから見た感じでは人がいるようだが、今は丁度船も漁に出ているのもあってか、やはり街の中に比べると人は少ない。

「それは逆に言えば、人の多い場所にいたんなら何時までもあの男から話が聞けないって事だろう」

「……そうかも」

 そしてとうとう海岸へたどり着いた。サアサアと波が岸に寄り付く音が聞こえるほどに、静か。それでも担がれている私をカルデノはいつまでも降そうとしない。

「カルデノ」

「なんだ」

「降ろして欲しいんだけど……」

「ん……、いや、そうだな。すまない」

 一瞬何を考えたのか言葉に違和感こそありはしたが、カルデノは私を降ろしてくれた。ずっと俵担ぎにされていたため頭が低くなっていたのか、若干のふらつきこそありはしたがそれもすぐに回復した。

 一方カルデノは辺りを警戒している。この辺はちらほら小さな木箱や漁に使う道具などの細々した物がちらほら置かれているくらいで、人が隠れられるような場所はない。見晴らしがいいのだ。

 数分、五分ほどだろうか。カルデノの警戒を見習いキョロキョロと辺りを見回していたが、あの男らしき影も見えず、隣のカルデノを見上げた。

「ねえ、もう追いかけて来ないのかも」

「……まあ、そうじゃないと言い切れないが」

 私達の間で張り詰めていた緊張の糸が緩んだ瞬間。まるでその時を待っていたとばかりに突然、突然だ。あの男が突然目の前に現れた。目にも止まらない速さで繰り出された手をカルデノは寸の所で受け止め、男は後ろへ引いて距離を取った。カルデノは大振りのナイフを抜く。

 男は一点、カルデノからまるで目を離さない。カルデノは私に離れるよう指示を出したためそれに従い、ゆっくりと距離を取る。

「お前、ひょっとして男の狼族を見かけなかったか」

 カルデノが問う。男は考えるまでもなくすぐさま答えた。

「ああ見た。宿に落ちてたもんでな。拾っておいたぞ」

「落ちてた、だと……」

「ああ。何か言いたげだな?」

 全く悪びれる様子のない男に、カルデノの表情が歪む。人がそう簡単に落ちているわけはないし、増してガジルさんが寝ていたのは道端でもなく宿の一室だ。悪意がなければそのような言葉、出てくるはずがない。

「そいつは私達の連れだ。返せ」

「返せとは……、俺の石を返す気は無いのにか?」

 男が鼻で笑うのが聞こえた。カルデノは舌打ちしてそれに苛立った事を表す。

「返す気は今出来た。ただし連れが無事ならだ」

「ああ無事さ。何せ狼族は珍しいからな。売る前に駄目にしたんじゃ勿体ない」

「……奴隷としてか」

「それ以外に何が? にしてもカフカは珍しい種族の宝庫だな。人魚も妖精までいるんだ。お前も狼族なら捕まえておかないとな」

 男は手に何かを持っていた。また何かを投げつけられると、カルデノは警戒してナイフを握り締めた。しかし男は手に持った物をカルデノには投げつけず、それどころか振り上げる素振りすら見せない。

 だがカルデノは、ゆっくりとぎこちない動きで、男を睨んだ。

「動けないだろう。その様子だと正確には動きづらい、か」

「カ、カルデノ……」

 私は思わず名前を呼んだ。カルデノの様子が明らかにおかしい。そして男はその原因を分かり切っているどころか、自在に扱っているようにしか見えない。

 男は私の声に反応してこちらに振り向く。

「ありふれた種族だな。お前は金にならんだろう」

 いつそこへあったのか、カルデノの足元に転がっていた石をパッと拾い、づかづかとこちらへ大股で歩み寄って来る。私は反射的に頭をかばうように両腕を上げ、ギュッと目を瞑った。だが腕にトンと軽く何かが触れたそれだけ。何かあるわけでもない。そっと目を開けて腕を下ろすと、男はすでにこちらへの興味など失せてカルデノの方へ。

 カルデノの様子がおかしくなったのは恐らく、男が手に持っていたあの石が原因だ。私にも同じ事をして動けなくなっていると勘違いしているのか。考えながら男の背中を睨む。やはり私の事には気がついていない。

 このままではカルデノまで連れ去られてしまう。だか今なら、男が私に気がついていない今なら何とか出来るのではないか。一度つばを飲み込み足を踏み出そうとする、でも自分の足が地面と接着でもしてしまったのかと思うほど動かない。怖いのだ。足を踏み出したところで自分に何が出来るのかと言う疑問、動かねばカルデノを助ける事は出来ぬと言う使命感。

 大人しく黒鉱を返した所で男が行動を止めるわけもない。

「…………」

 石。黒鉱だ。私が触ったところでただ眠気を誘うだけの石だが、ガジルさんはあれに触った事で意識を失った。もしこの男にも同様の効果が見られるならきっとこの場で気を失い倒れるだろう。

「よし、中々動きは鈍いようだな」

 男はカルデノの手からナイフを取り上げ、手で何度かクルクルと遊ぶ。

 私は決意してポーチのココルカバンから黒鉱をそっと取り出した。向けられている背中を見ても、肌が見えているのは首だけ。触れるというのが素肌でなければならないなら、狙うのはそこだけ。

 足音を消す波の音に合わせそろりそろりと数歩近づく。すでにそこは男の真後ろ。黒鉱を持った右腕を伸ばせばすぐにでも届く距離だ。カルデノには私が見えているだろうに、こちらへ視線を向ける様子はない。

 今なら行ける。今なら!

「えい!」

「はっ?」

 思わず力が入って声を出してしまい、振り向いた男の頬に黒鉱がグニッとめり込んだ。

「お、まえ何で……」

 ドサリと背中から盛大に倒れた男は、それきりピクリとも動かない。

「う、動かない、よね……」

 十秒ほど男が目を覚まさないのを確認してから、カルデノへ声をかける。

「大丈夫動ける!?」

「いや、厳しい」

 口を開くのも難しそうにカルデノが答える。

「ど、どうしよう」

 脅威はなくなったものの、肝心のカルデノの体が戻らないままだ。グイグイと服を引かれ、ココルカバンから顔を出すカスミを見下ろした。

「どうしたの?」

 カスミは小さな手で懸命に仰向けに倒れた男を指差す。男をと言うよりも、男の手だろうか。

「そうだ、石を持ってて、それでカルデノが動けなくなったんだ……」

 カルデノも無言で肯定する。倒れた男の手を調べるよう指示され、恐る恐るつま先で石が握られている手を突く。ころりと簡単に転がり落ちた石を摘むように拾う。見ればそれは黒くガラス質な見た目から黒鉱かと思われるが、それをどうしたらいいのか、カルデノの目の前に出してみる。

「どうしよう、これ」

「……どうにか出来ないか」

「ど、どうにか……」

 どうにか? どうにかってなんだ。触っても何もない。光に透かして見ても何か分かることも無い。どうやら私が迷う様子を見かねたカルデノが、小さく息を吐いた。

「壊してしまえ」

「ええ!? いや、でもそれはまずいんじゃないの!? だって、あの、壊すのはちょっと……」

「駄目だったならまた別の方法を考えればいい。とにかく試してみない事には始まらないだろう」

「そ、そうだね」

 辺りを見渡し手ごろな岩と両手で持てる重さの石を見つけ、その上に手に持った黒鉱と思しき石。重たい石を持ち上げ振り下ろし、ゴリ、と音を立てて砕け、次いでカルデノの体がふらりと揺らいだ。

「あっ!?」

 慌てて両手を前に突き出すような姿勢を取ってしまったが、カルデノはその場で踏みとどまる。

「……大丈夫そう?」

「ああ、大丈夫。どうやら動けるようだ」

 両手の平をグッと握り締めパッと開く動作を何度か繰り返し、異常はない、と言った。

 どうやら男が持っていた黒鉱と思しき石を壊した事は正解だったらしい。ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、カルデノは倒れた男をつま先で突いた。

「それよりも、こいつだ」

 私もカルデノと同じく男を見下ろす。目を覚ます気配はなく、それこそピクリとも動かない。

「眠られたんではガジルの事が聞き出せないな。どうするか」

 とにかく動かず危険がないとと分かるとパッと奪われた大振りのナイフを取り戻し、鞘へ収める。

「ごめん、カルデノを助ける事しか頭になくて、いっぱいいっぱいで」

 自分で自分の行動に間違えはなかっただろうと思う。ああする以外、私には男の行動をとめる手立てはなかった。しかしカルデノは軽く首を横に振った。

「カエデを責めているわけじゃない。カエデが動かなかったら私はまた奴隷に戻っていただろう。だからありがとう」

「良かった。余計な事をしたんじゃないかって……」

 詰まっていもいない息を大きく吐き出し、改めて男をどうするかについての話に戻す。

「このまま放置、というわけには行かないな」

 時間にしてみれば短かった。カルデノの考えは、万が一目が覚めても逃げられないよう縛ってしまおうと言う事だったらしく、今は体を縄でグルグル巻きにされた男が横たわっている。

「これで簡単には逃げられないだろう」

「そうだね、多分……」

 手についた埃を払うため両手を打ち鳴らし、カルデノは次に私へ目を向ける。

「さて、カエデが持っている黒鉱についてだが」

「うん、なに?」

「先程同様に、壊せば効力が切れると思うんだ」

 言われれば、男が持っていた黒鉱と思しい石を壊したところカルデノは体の自由を取り戻した。どんな理屈かまではしらないがやはり壊した事で効力を失ったと考えるのが自然であり、それが私が持っている黒鉱にも同じ事が言えるのではないか。

 問題は、男が持っていた物と私の持っている物が同じく黒鉱であるかどうか。

「私も持ってる黒鉱って、ただ触った人も魔力を吸収しちゃうって話だったよね? カルデノに使われた石とは別物って可能性があるんじゃ?」

「そうか? とにかく壊してみよう」

 黒鉱を適当な石の上にでも置けと指示され、すぐに聞き入れる事が出来なかった。

「取り返しのつかない事にでもなったら?」

「……と言うと? ガジルの行方は知れない。行方を知っていそうなこの男は意識を失っている。取り返しのつかない事と言うのは、このまま時間だけ過ぎてしまう事なんじゃないか?」

「そ……」

 そうかも知れない。私達で検討もつかなままガジルさんを探したって見つかるか。慎重になるのは構わない、けれど行動が起こせないのは問題で、手の中の黒鉱の感触を確かめるように握り直す。

「わかった、壊そう」

 黒鉱をカルデノに手渡す。カルデノは黒鉱をポイと宙に放り投げ、ナイフを抜いて叩きつけるように切り付けた。

 地面に砕けた黒鉱がパラパラと落ち、次いで縛った男がうめき声を上げて目を覚ました。

「よし、何事もなく目を覚ましたな」

 男を目覚ましたと言う事は、ガジルさんの安全も絶望視したものではない。カルデノは目に見えてホッとしていた。

「おい、起きたな?」

 真逆の難しい表情で男を睨み見下ろす。

 男は警戒して体を硬くするが、縄に縛られ身動きが取れない今あまり意味はない。

「お前が返せと言ったあの石だが、今壊した」

「なっ、くそ貴重な物を……!」

 ひねり出すような細い声は怒りが篭められ、男はカルデノを睨んだ。

「さっき言っていた狼族の男、あれの居場所を教えろというのが目的か?」

「ああ」

「……言えばこの縄を解くんだろうな?」

 私と、それからカルデノを交互に見て自分の身の保身を図る。

「ああ、いいだろう考えておく」

 納得行かないようにも見えたが、それでも男は話し出した。

「……目が覚めたんなら、とっくに逃げ出してるかもな」

「え、どう言う事?」

 逃げ出した? 何故見てもいないでそう言えるのか。そんな疑問が思わず口をついていた。

「もともと気を失ったまま、暴れないのが前提で連れ去るんだ。そんな厳重な折も見張りも必要ない、せいぜいが縄で縛ってるくらい。そんな場所で目を覚ませば簡単に逃げ出すに決まってる、狼族だろあの男もお前も」

 男は何もかも諦めたようにペラペラとガジルさんについて口にするため、逆に信じていいのか躊躇する。カルデノの表情も渋い。

「なるほど、場所は?」

「お前らが使ってた宿の裏に、布を被せた荷車がある。その中だ」

「そうかよし、行こうカエデ」

 カルデノはさっと体の向きを変えて足を踏み出した。だが縛られたままの男がバタバタと体をくねらせ暴れる。

「ちょっと待ておい! この縄を解いてから行け! お前らの仲間の居場所を教えただろうが!」

「だから考えておくって、言っただろう。考えた結果、そのままにする事にした」

「こ、このっ! さては本当に俺の情報を信用してないな!?」

「ああなるほど、お前が嘘を言っている可能性があったか」

 白々しい棒読みでカルデノは言う。

「なら私達が連れと合流できたら縄を解くか考えてやる。それまでそのまま大人しくしてるんだな」

 またも考える、と言う単語が出てきた所が気にかかるが、行こうと再度カルデノに声をかけられたため素直に後ろについて行く。

「お、おい……うそだろ」

 波に掻き消えるほどの小さな声は絶望に満ちていた。

「……本当に逃げられても困るか」

 カルデノはポソリと呟き、今歩き出したばかりの足を止めた。それで自分の状況の改善を期待した男はクルリと振り返ったカルデノに見開いた目を向ける。

「が、だからと言って引きずっていたんじゃ人目も気になる」

 言いたい事はもっともだ、そして私とカルデノが見張りとガジルさん捜索に別れるとするなら、必然的に私がガジルさんを探しに歩く事になる。当然だがもし男が縄から抜け出した時、私には止める手立てがないからだ。

「ねえ、カルデノはここでその人を見張ってて、私がガジルさんを探してくるから」

「本気か?」

 カルデノだってうっすらとは考えていたであろう事を私から提案したのがよほど驚いたのか、目を丸くした。

 一方カルデノは、しかし……。と顎に手を当てて考える。

「おい、目を覚まさないのが前提、と言っていたな」

「あ、ああ」

 突然カルデノに問われ、男は咄嗟に何度も頷いた。

「だから見張りも必要ないとも?」

 男はもう一度問われ、もう一度頷いた。

「よし」

 考えが纏まったらしく、ぽんと私は肩を叩かれる。

「正直、心配なのは変わらないんだが……。それでもここで別れて、ガジルを任せていいか?」

「大丈夫。私が言い出したんだから」

 だから任せて欲しい。そう口にする代わりに口角を上げれば、カルデノも軽く笑って返してくれた。



 男に教えられた通り宿の裏には、その場の出任せではなく本当に布の被せられ、縄で上から固定された荷車があった。数台並んでいるがその内の一つだけ布が乱雑に剥ぎ取られており、ガジルさんが抜け出した跡なのか、と男の言葉に信憑性が増す。

「ガジルさん、ここにいたのかな」

 布が剥ぎ取られた荷車の中を覗こうとすると、カスミがココルカバンの中からヒョイと飛び出し、私の代わりになのか中を見てくれた。

 その結果、カスミは首を横に振る。

「やっぱりいないよねえ」

 ガジルさんは無事逃げ出した、と考えたい。

 すぐにカルデノのもとへ戻り、ガジルさんは居なかったと伝えるべきだろうが、それよりも、もし逃げ出したならどう行動するだろうかに思考が働く。

 仮に私がここから逃げ出す立場なら、ここが宿泊していた宿だと気付けば使ってていた部屋へ向かい、そのまま行き違いになる事を避けるため待機しているだろう。いや、突然気を失った自分の目覚めを待たずどこかへ出た二人を探すだろうか?

「とりあえず近いし、宿の部屋を見てみようか」

 カスミはコクコクと頷きココルカバンへ戻る。駆け足で宿の部屋へ行くも。やはりと言うかガジルさんは居なかった。

「いない……」

 部屋は、私達が窓から逃げ出した時の状態のまま。

「やっぱり、あの人に嘘には嘘を教えられたんじゃないかな」

 あり得る。

 なんとなく窓から外を見る。特にこれと言って変わりない海の見える街並みだけが広がる。ここからカルデノのいる浜は見えない。

 ガジルさんがいないのでは、しょうがない。書き置きを残して一度カルデノの所へ戻る事を決めた。

 そうして布の被せられた荷車の中にも、宿にもガジルさんは居なかった事をカルデノに、男の前で伝える。カルデノは私から話を聞き終わった直後に地面に転がしたままの男を睨みつける。

「な、なんだよだから言っただろ、とっくに逃げ出してるだろうって!」

 カルデノは大きくため息をつく。

「カエデ、ガジルを探そう。ただの迷子なら歩いていれば見つかるかも知れない」

「迷子かは知らないけど、でも宿に書き置きはしておいたよ」

「書き置き? 内容は?」

「この書き置きを見たら、部屋で待ってて下さいって。そもそもどこに行ったんだろう?」

「それをこれから探すんじゃないか。その前に、この男をどうするかだ。今度は見張っていたって意味は無いし、だからって逃がすのは違う」

「警察とかは?」

 何も逃がす必要はない。逮捕してもらえばいいのだ。しかし警察と聞いてカルデノは首を傾げた。

「……聞いた事がない」

「ええと、治安の維持をしている人たちっているよね?」

「街の、……衛兵みたいなものか?」

「た、多分」

 そうとしか言いようがないが、カルデノは理解したらしい。男の襟を掴んで引きずり歩き始めた。

「ぐっ、おい首が、くるしい……!」

 全身拘束状態で襟を引かれれば、それは確かに苦しかろう。

「え、あ。もう行くの?」

「ああ、ちょっとそこまで立ち寄ろう」

 この男を今言っていた衛兵の所へ突き出すのだろう、そう思っていたのだが引きずられる男をちらちら見ながらたどり着いた先は、採掘場だった。

「カルデノ?」

「言われてただろう。人攫いを捕まえてくれって」

 私が質問するより先に、カルデノは私の疑問を察したように答えた。フォニさんにそんなお願いをされていたが、果たして直接こちらに連れて来てくれと言う意味だったのだろうか?

「丁度いい。衛兵にこいつを突き出してもその後色々と時間がかかるだろうし、それなら変わりに誰かに頼むほうがいいだろう?」

 事情聴取のようなものに時間を取られるのだろう。まだガジルさんが見つかっていないため時間がかかるのは避けたい。

 裏口から中に入ると、仕事に勤しんでいた人たちが訝しげな表情でこちらへ歩み寄ってくる。

「あんたら、一体?」

 そう問いかけてきた男性には見覚えがあった。

「昨日、裏口から入れてもらった者だが」

「そりゃあ分かるよ。俺が案内したんだから。そうじゃなくて、その引きずってる男はなんだ? 随分と顔色が悪いようだぞ?」

「捕まえた。フォニに頼まれていた人攫いだ。この男一人かは分からないが、とりあえず」

 そうしてずっと掴んでいた男の襟から、カルデノは手を離した。男は手を出して衝撃に耐える事も出来ず、ぐえっとカエルのように呻いた。

「お、おお? 捕まえたのか……」

 どうやらフォニさんから話を聞いていたらしい。おっかなびっくり、縄でイモムシ状態の男を見下ろす。

「それで頼みがあるんだが、私達の連れも人攫いに遭ってまだ見つかってない。探すために衛兵に突き出す時間が惜しいんだ」

「分かった。あとはこっちでやっておく。フォニにもしっかりと伝えておくよ」

 男性は快く頼みを引き受けてくれて、カルデノは礼を口にした。

「あのところで、フォニさんはメロの事は何か言っていましたか? 気を失ってからどうなったのか気になっていて」

「うーん……?」

 男性は顎に手を当てて斜め上に目を向けると、すぐに思い出したように人差し指を立てた。

「ああ、そういや直接聞いたんじゃないが、メロがまだ目を覚まさないとかを仲間内で話してるのを聞いたよ」

「そう、ですか」

 もしかしたらと期待したのだが、メロはまだ目を覚ましていない。あの場で突然気を失ったのがガジルさんと人魚の女性一人と、そしてメロだった。さっき魔石を一つ壊した事でガジルさんは目が覚めた事だろうと言われたが、他の人はどうなったのか。

「じゃあ頼んだ。行こうカエデ」

「あ、うん分かった!」







ここまで読んでいただきありがとうございます。


活動報告でもお知らせしていますが「ポーション、わが身を助ける」八巻が9月30日発売、予約は9月16日開始となっています。

よろしくお願いします。

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[一言] 石の名前はひょっとしてクリプトナイト⁉
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